3
目を覚ますと、ベランダから雀の鳴き声が聞こえた。掃き出し窓の向こうに三脚のテーブルが置かれていて、雀たちが小皿に群がっている。
緋毬はベッドの上であぐらをかき、髪に手を入れた。寝惚け気味の冴えない頭で昨夜の記憶を辿った。
昨晩、ファミリーレストランから琥太郎が住むマンションまで移動した。バイクを押して歩く彼の横顔を何度も盗み見ているうちに、緋毬は次第に緊張してきて、コンビニエンスストアに寄ることを提案した。早々にペットボトルのお茶の購入を済ませ、店の外で琥太郎が出てくるのを待った。彼に一人で会計をさせるためだった。
ところが琥太郎は何も買わずに店を後にしたので緋毬は絶望的な気持ちから「冗談やろ」と独り言ちたが、いや、これだけの色男が常備していないわけないか、とすぐに気を取り直した。
天王寺区内にある七階建てのマンションに到着したのは、夜八時過ぎだった。間取りは2LDKで、優雅な暮らしやな、と緋毬がぼやくと、「女に出ていかれただけや」と琥太郎は笑いながら答えた。
つまみを作ると言ってキッチンに立った琥太郎の背中をぼんやりと眺めるだけの時間がしばらく流れた。緋毬はそわそわする心を抑えられず、ベッドの下や引き出しの中を勝手に漁った。例の物はどこにも見当たらなかった。
――うせやん。堪忍してや。
しばらくしてキッチンに呼びつけられ、野菜炒めと冷ややっこをリビングルームに運ぶのを手伝わされた。
その際、冷蔵庫のドアを開けて振り返った琥太郎から「ばっちし常備してあんねん。緋毬はジュースでええか?」と訊かれた。冷蔵庫の中には二十本近い缶ビールが並んでいた。そっちちゃうわ、と怒鳴り返しそうになったが、歯を食い縛って言葉を喉元に留めた。
それから晩酌が始まり、琥太郎は立て続けに缶ビールを空にしていった。他愛のない会話をしていたのは一時間ほどだったろうか。朝から動き回り、拉致までされて精神的にも消耗しきっていた緋毬は強い眠気を覚えたが、初めての経験が記憶に残らないというのもある種の醜態だと思い、何度も頬を張った。
が、そうしているうちに寝てしまったようだ。気づけばベッドの上にいた。
「覚えてへんだけってこともあり得るな」
緋毬は毛布をめくり、ベッドのシーツに手を這わせた。ない、ない。やっぱりどこも汚れていない。そして大きく首をひねった。
「……何もなかったんか?」
なんでや、と一言洩らしたところで、無性に腹が立ってきた。ベッドから足を下ろし、部屋を出た。リビングルームに移動すると、ソファの上で琥太郎が気持ちよさそうに寝息を立てていたので、彼の額に平手を食らわせた。「私の覚悟を返せや!」
渋面して目を開けた琥太郎はむくりと起き上がり、きょろきょろした後で緋毬に視線を留めた。
「おう、緋毬やったな。しっかり覚えとるで」
「痛いっ、何すんねんくらい言えや」
「夢かと思ったらほんまに叩かれとったんか。痛いわ」
「遅いねん!」
「朝から機嫌が悪いの」
緋毬はカーペットの上であぐらをかいた。左の太ももに肘をつき、上半身を傾けて凄んで見せた。
「なんで手を出さんかった」
「あ?」
「二度言わすな!」
「緋毬、痴女か?」
「ちゃうわ、ボケ!」
「何もせんのに泊めてくれてありがとうやろ、普通」
「……ありがと」
「おうおう、素直やな。可愛いところもあるやんけ」
頭を撫でられたので、緋毬は琥太郎の手を打ち払った。
「答えろや。どうして抱かんかった」
「抱いて欲しかったんか」
「質問に質問を返すな!」
「声がでかいの。怒りっぽい女はモテへんで」
「お? 喧嘩を売っとるんか」
琥太郎はかかかと笑い、ソファから立った。ガラステーブルの上から煙草の箱を取り、煙草を一本抜いて口に咥えた。ジッポを擦り火をつけ、一吸いして煙を吐いた。
煙たさに緋毬は顔をしかめて、
「臭いねん。吸うなら外で吸えや」
「ここはオレの家や」
ぐうの音も出ない返しに緋毬は閉口し、無言で掃き出し窓を開けた。
「せっかく冷房を利かせとんのに」
「これで手打ちや」
「やくざか」
「うるさいねん。ええから質問に答えろ」
琥太郎は煙草を指に挟み、首を後ろに折って天井を見上げた。何も言おうとしない。焦れた緋毬が口を開きかけたとき、
「その質問に答えてやるかわりに、緋毬、お前、オレの女になれ」
「はあ?」
「そしたら教えたる」
「なんで私がお前の女にならなあかんねん」
「高校生やけど、もう十八なんやろ? 見た目は二十歳過ぎやし、ちょうど女とも別れたばかりやし。オレと付き合えや」
「だから、なんで私が!」
「なんでって、ええ女やと思ったからやろ。おもろいし。あと、エロい体しとるし」
「だったら抱かんかい!」
緋毬は髪をかきむしった。一晩好きにしていいと緋毬が宣言したにもかかわらず、一切手を出さず、挙句の果てに彼女になれだ。まったくもって訳がわからない。
「彼女は嫌や。この心は惚れた男にしかくれてやらん」
「体はええんか」
「私の勝手や!」
「せやったら惚れさせたる」
「え?」
「行くところがないんやろ? 洗濯、掃除――料理は下手そうやからオレがやる。家事をしてくれたら家賃はいらん。一部屋余っとるしな」
「……ここに住んでええんか」
琥太郎は煙草を咥えたまま、にっと笑った。「ええで」
胸の内で渦巻いていた怒りが一瞬で凪いだことで緋毬は若干の放心を強いられ、瞬きを繰り返した。ありがたい話だが、急展開にも程がある。
緋毬は人差し指を立てた手を琥太郎の顔の前に突き出した。
「一回な!」
「なにがや」
「恩返しの分や。居候する言うてもセフレは御免や」
「せやから、そういうのはええって。それより午後からカラオケに行こうや」
「は? なんなん、突然」
「緋毬の歌、聴こう思ってな。って、何も覚えてへんのか。アイドルの卵やったって言っとったやろ」
「私、そんなことまで話したっけ」
「酒も飲まんと記憶が飛ぶって、いったいどういう理屈やねん」
「眠すぎて……」
琥太郎は腰を上げ、リビングルームから出ていった。どうやら脱衣所に入ったようだった。
すぐに戻ってくると、緋毬に服を投げつけた。
「洗濯しといた。荷物がないってことは服もそれ一着やろ。ドラム式洗濯機で乾燥させたから服が傷んでても怒んなや」
「あ、ああ。気にせん。助かる」
気が利くやつだなと感心した緋毬の腕には、英字がプリントされた白のカットソーと膝丈のタイトスカートが収まっている。
「……ん?」
服の隙間からブラジャーが覗いていた。はっとして胸に手を当てる。ノーブラだった。いつの間にか、だぼだぼのTシャツを着させられている。「いつ着替えさせた!」
「緋毬が寝落ちした後に決まっとるやろ。さすがに下はそのままにしといたで。綺麗な乳首しとるな」
「殴るぞ! やっぱり一回はなしや」
「それでええって何度言わすねん。飯、作るわ」
げんなりと息を吐く緋毬を置いて、琥太郎はキッチンで料理を始めた。
昼食は袋入りのインスタントラーメンだったが、炒めたキャベツと人参、そして舞茸が入っていた。朝になれば勝手に腹ぺこになる緋毬なので上機嫌で麺をすすっていると、
「で、話の続きは?」
突拍子のない琥太郎の質問に対し、緋毬は首を傾げて返した。
「アイドルを辞めた理由や。昨日、それを話そうとしたところで気絶したように寝たの、緋毬やろ」
「ぜんぜん記憶にない」
「内緒にしときたかったら言わんでもええで」
「いや……別に言えないことじゃない」
緋毬は一年と九ヵ月前に東京で起こった出来事を琥太郎に語った。実際にもったいつけるような話でもなかった。
一昨年の暮れ、ElSlashというバンドの打ち上げに参加したときのことだ。ElSlashとはインディーズ界隈でそれなりに知名度を誇るロックバンドで、緋毬の兄、緋智がかつて所属していた。
緋智は現在、ジアスターというスリーピースバンドでギターを弾いている。彼がElSlashを脱退して新たなメンバーとバンドを組んだのも、緋毬がアイドルを辞する決断に至ったのも、いずれも元凶はElSlashのメンバーの一人、リーダーの和希という男だった。
興味本位で打ち上げに行きたいと兄にわがままを言ったことを、緋毬は今でも後悔している。
己の願望を満たすなら手段を選ばない男――一言で済ますなら和希はそういう男だ。欲しい女は抱かなければ気が済まない性質らしく、執拗なまでに口説き、断られようものなら弱みを探り、脅しをかけ、それでもなびかなければ無理やり自分の物にする。緋毬自身も目をつけられた。これらの情報は、後に緋毬がインターネットで噂を拾い、組み立てた人物像だが、大きく外れてはいないだろう。長年の間、緋智を飼い殺しにしていたことも、情けないことに大阪に来てから知った。
打ち上げ会場は居酒屋で行われた。緋智の隣を離れなかった緋毬だが、しばらくすると和希のスマートフォンが鳴り、電話に出た和希が「ライブハウスでトラブルがあったってよ。悪いけど、ヒイカ、行ってくれるか」と緋智に告げた。
緋智が席を外すと和希は緋毬の隣に移り、緋智のことを褒め称えた。あいつのおかげでElSlashは売れた。ヒイカの作曲能力はインディーズ界隈随一だ。あんな兄貴がいて誇らしいだろ。緋毬は上機嫌になり、不覚にも和希のことを良いやつと誤解した。
――ちょっと甘ったるいけど、このジュース最高だから飲んでみ。
勧められるがまま、手渡されたコップを傾けた。たしかに甘く、少し苦かった。まさか酒かと首をひねった緋毬だったが、兄のことをこれだけ認め、そして兄が信頼する人間が悪いことをするはずがないだろうという考えから大して気にすることなく、飲み干した。
ふわっと体が浮く感覚が全身を包み、緋毬の気分はさらに高揚した。立て続けに同じものを飲まされ、緋智が戻ってくる頃には酔っ払っていた。すぐに緋智によって居酒屋から連れ出され、タクシーに乗せられて帰宅したのだが、すてに魔の手は緋毬の腰に巻きついていた。
緋毬が飲酒する様を、和希は仲間に命じて動画に収めさせていたのだ。
なぜ、そんなことをしたのか。理由は一つだ。ヒイカ、つまり兄の緋智をElSlashから逃がさないためだ。ElSlashはヒイカの作曲能力とカリスマ性で人気を保っていた。身勝手で卑劣極まりない和希に愛想を尽かして脱退されては敵わない。そう思ったのだろう。だから和希はヒイカを脅迫するネタを欲した。
その頃、大手レコード会社が秘蔵していたアイドルグループに所属していた緋毬にとって未成年者飲酒のスキャンダルは命取り以外の何物でもなく、緋毬と、妹のことを大切に想うヒイカを脅すには格好の材料だった。しかも、それだけでは飽き足らず、打ち上げから数日後、和希は緋毬に電話をかけた。単刀直入に緋毬をホテルに誘った。怒りと、背筋を撫でるおぞましさから緋毬は通話を切り、電源を落とした。
――やばい、どうしよう。兄ちゃん、本当にごめん。
一週間ほど経ってもおろおろするばかりだった緋毬に緋智は笑いかけ、大丈夫だから気にするなと優しい言葉をかけた。そんな兄の左腕には、それまでなかったはずのタトゥーがあった。
――なんで……なにそれ。
緋智の左腕に掘られていた文字は『ElSlash』だった。その瞬間、下劣で醜悪な和希の笑みが脳裏に浮かび、緋毬は二の腕を抱えた。緋智は緋毬のため、ElSlashに骨を埋める覚悟を固めたのだ。
声を上げて泣き出した緋毬に、緋智は黙ったまま胸を貸した。
やがて緋毬は気づいた。兄はElSlashを抜けたがっている。きっと兄が身を置く現状は不本意なものなのだ。もしかしたら脱退の機を狙っていたかもしれない。それを私が台無しにした――考えると、涙は止まらなくなった。
一時間近く泣き通した後で、鼻をぐずぐずさせながら緋毬は宣言した。
――私、アイドルを辞める。東京からも出ていく。
すべては緋智の足を引っ張らないためだった。動画を破棄するかわりに体を許せと脅迫を受けた緋毬は恐怖し、何もかもを投げ出して行方をくらませた。そういう筋書きにし、緋智ともしばらく連絡を取らないことを決めた。楽屋にスマートフォンを置きっぱなしにすることだってあるだろう。緋毬からの着信を、ふとした瞬間に和希が目にしてしまうことだって考えられた。電話帳の登録名を変えればいいだけの話だが、それをしてしまえば兄妹の縁まで切らされたようでどうにも許容し難かった。
緋智は、そこまですることはない、アイドルになるのが夢だったんだろう、と緋毬を止めたが、緋毬が頑として譲らなかった。
その後、緋毬は遠い親戚を頼りに大阪へ移り住み、アルバイトをしながらボイストレーニングとダンスのレッスンに通った。
緋毬が東京を経った四ヵ月後の春先、緋智はElSlashを脱け、ジアスターに加入した。引き抜きの声がかかったらしかった。ジアスターは三條ファンドコンサルティングという会社を後ろ盾に自主レーベルを立ち上げていて、顧問弁護士を通じて正式にヒイカを脱退させた。
終わりよければすべてよしとは言うものの、緋毬の負い目は軽くならなかった。緋智とは週に一度は必ずメッセージのやり取りをしているが、電話は半年に一度するかしないかだ。次に顔を合わせるならそれなりの成果を引っ提げていなければ――兄に甘えることは、緋毬の矜持が許さなかった。
「――というわけや。油断した私が大馬鹿者やったってだけの話やな。笑うなら笑ってええで」
話し終えた緋毬はおどけて見せたが、琥太郎は無言で顎を撫でて一言、
「その男、オレが半殺しにしたろか?」
「ははっ……ええって別に」
「なんでや」
「兄ちゃん、もう新しいバンドを組んで楽しくやっとるみたいやし」
「ほんならその親戚の家に殴りこむか?」
「そんなことしなくていい」
琥太郎は一方の眉を不可解そうに曲げた。「大阪弁を話したり、標準語だったり、定まらんの」
「ほっとけ。大阪弁はむずいねん」
それから緋毬は、あー、と声を間延びさせた。あることを思い出し、苛立ちがこみ上げた。
「あのババア、私に家賃を要求してたくせに、兄ちゃんにも金を振り込ませてたんよな。ほんま腹立つで」
親戚の家には五十代後半の夫婦と三十路手前の息子が住んでいるのだが、緋毬にとって強いストレスになっていたのは主に妻と息子だった。二人とも親子らしく揃って守銭奴な性格をしていて、口を開けば金、金、金と繰り返した。息子に至っては金にがめついだけでなく、素行が卑猥で、偶然を装って風呂を覗かれたことや、いつの間にか下着が紛失していたことが何度もあった。
数日前、居間に入ろうとすると妻と息子の話し声が聞こえた。緋毬は廊下で足を止め、会話を盗み聞きした。今月分、まだやんか。ほんまか、なら電話しとくわ。そんなやり取りだった。何のことかと首を傾げていると、息子の口から「バンドマンって、そんな儲かるんか」とぼやきが洩れ、それで緋毬は事態を察した。二人に詰め寄り、その場で問い質した。
――はあ? 何が二重取りやねん。お前が払っとるのが家賃で、お前の兄が払っとるのが礼金や。文句があるなら家から出ていき。
緋毬の忍耐が臨界点に達した理由がまさにそれだった。むかむかする日々を過ごし、昨日の朝にとうとう怒りを爆発させた。
「カラオケ行こや」
バイクのキーを指先で回し、にかっと笑う琥太郎を緋毬はげんなりとした気持ちで見返した。
「悩みなんて一つもなさそうで羨ましいわ」
「ないことはないけど、んなもん、持ってたって邪魔なだけやろ。緋毬はおっぱいでっかいくせに――」
「胸のことはええ!」
部屋を出て、マンションの一階にある駐車場へ下りた。琥太郎は黒の中型自動二輪車にまたがり、緋毬にヘルメットを放った。
緋毬は琥太郎の後ろにつきながら、
「かっこええバイクやな」
「せやろ。SR400や。どっかで事故って廃車寸前だったのを知り合いが直して、くれたんや」
「いわくつきかい!」
琥太郎は肩を揺らして笑い、行くで、と宣言してバイクを発進させた。
カラオケボックスには五分ほどで到着した。駐車場に到着した緋毬が周囲を見回していると、「物珍しいんか? カラオケ、初めてか?」と琥太郎から声をかけられた。
「ちゃうわ。お巡りがおらんかと思って」
「なんや、緋毬。捕まるようなことでもしたんか」
「お前の心配や。警察署で事情聴取を受けたときに女の警察官から散々訊かれたで。指名手配でもされとるんとちゃうやろな」
「女の警察官? 三十手前の、髪は短くて化粧が濃い美人やったか?」
「……せやな。たしかに美人さんやった」
すると琥太郎は指で側頭部をかきながら、
「ほんま、しつこいねん」
「何がや」
「海遊館に連れてけって」
「あ? どういうこと?」
と、尋ねた返した緋毬だが間もなく気づきに至り、
「モテとっただけかい、どあほう!」
琥太郎はかかかと笑い、「警察官となんて付き合えるかい。気が休まらんわ」と言って、カラオケボックスに入っていった。
受付を済ませ、案内された個室は十五人程度を収容できる大部屋だった。広いわ、とツッコミを口にした緋毬の前に琥太郎はタッチパネル式の端末を押しやった。
「何を歌うんや」
「んー、兄ちゃんの影響で古い曲を多く知っとるけど、最近のならゼイニィかな」
「アイドルソングちゃうんか」
「性に合わんねん」
ゼイニィというのはアーティスト名で、顔出しをせずに音楽活動をする若手女性シンガソングライタ―のことだ。世間からは史上最高の歌姫と称され、化け物じみた歌唱力を誇っている。
緋毬が選んだのは、ダンスの振り付けがある『ブラックソルト』という曲だった。アップテンポで、ロックサウンド寄りのナンバーだ。
イントロが流れると緋毬はソファから腰を上げ、画面の近くに立った。演奏が激しくなるタイミングで「ふうっ!」と甲高く喉を鳴らし、本家のダンスを完璧に模倣した。長い髪を揺らし、言葉が詰まったAメロを歌い上げ、サビでは腹から声を発した。
間奏に琥太郎の顔を一瞥すると、眉をひそめていた。
――なんやねん。手拍子くらいしろや。
内心文句を垂れつつ、一曲を歌い終えた緋毬が充足感から息を吐いていると、背後から腕を掴まれた。
「お、おい。どこに行くんや」
緋毬は琥太郎に手を引かれて個室を出た。




