魔境(ニューヨーク)への上陸と、底値のM&A
アメリカ合衆国、ニューヨーク。
かつて世界の経済と文化の中心だったそのメガロポリスは、わずか半日の間に、炎と血の匂いが充満する完全な『魔境(不良債権エリア)』へと成り果てていた。
崩壊したエンパイア・ステート・ビルの頂上。
そこに突き刺された巨大な光の十字架には、四肢を引きちぎられ、瀕死の重傷を負った【星条の英雄】リチャード・スタークが磔にされている。
「ハハハッ! 見ろよ、この地球の自称・最強を! 1万2千ぽっちの限界突破などと粋がっても、我々『本社幹部』の足元にも及ばないゴミデータだ!」
十字架の周囲を飛び回りながら嘲笑うのは、役員が引き連れてきた3体の『本社幹部』たち。
いずれも**【レベル50,000】**という、既存のシステムの概念を完全に破壊した異常なステータスを持つ、異形の天使たちだった。彼らは眼下のNY市街で繰り広げられる大虐殺を見下ろし、シャンパングラスを傾けるように人間の血を啜っていた。
「……くそ、っ……」
リチャードは薄れゆく意識の中、血の涙を流した。
(レベル5万が……3体だと……? 俺が人生を懸けて到達した1万2千という数字すら、奴らから見ればただの誤差(端数)に過ぎなかったのか……俺が、アメリカを滅ぼしてしまった……)
絶望が彼の心を完全にへし折ろうとした、まさにその時だった。
『――おい。他人のシマ(市場)で随分と派手に散らかしてくれたな。清掃費用(クリーニング代)は全額そっちに請求させてもらうぞ』
上空の分厚い暗雲を物理的に『蹴り破って』、一人の男が舞い降りた。
一切の汚れもシワもない、漆黒のスリーピース・スーツ。
手には、どこかの免税店で買ったと思われる「高級コーヒー豆」の紙袋が握られている。
「な、なんだ貴様は!? レベル5万の我々が張った結界を、素手で破って入ってきただと……!?」
幹部の一人が驚愕の声を上げる。
「朝倉、健人……!? なぜ、日本のお前が……ここに……!」
磔にされたリチャードが、信じられないものを見るように目を見開いた。
「出張だ、リチャード」
俺は空中にふわりと着地し、首の骨をポキポキと鳴らした。
「アメリカが倒産したせいで、俺の愛用してるコーヒー豆のサプライチェーンが崩壊しかけてるんだよ。有給の質を下げる奴は、レベル5万だろうが役員だろうが、全員『懲戒解雇』してやる」
「な……狂っているのか? 奴らは、俺の限界突破すら赤子扱いする本物のバケモノだぞ! お前一人で敵うはずが……!」
リチャードが血を吐きながら叫ぶ。
「一人じゃない。俺は『社長』だからな。……優秀な社員を連れてきている」
俺が指を鳴らした瞬間。
俺の背後の空間が『強制的に入れ替わり』、4人の男女と1匹の黒い獣が姿を現した。
「社長! NY上空の空間座標、全て当社の管理下に置きました! 【強制配置転換】、いつでもいけます!」
「魔力の残量ヨシ! 私の【事象の買収】の資金も満タンよ! さあ、派手に買い叩いてあげるわ!」
「皆さん、まずはリチャード氏の『負債』の処理からです。灰原くん、お願いします!」
ルミ、バハムート、そして秘書のしずくが、それぞれの業務を展開する。
【朝倉商事】による、アメリカ市場の強引な『企業再生(敵対的買収)』が始まった。




