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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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星条の英雄の凱旋と、本社(システム)の強制監査


アメリカ合衆国・ニューヨーク。


タイムズスクエアを埋め尽くす何十万という大群衆が、熱狂的な歓声を上げていた。


世界中に生中継されている巨大ビジョンの中央には、日本での「外資系買収提案(TOB)」を完璧に成功させ、堂々たる凱旋帰国を果たした米国S級第1位・リチャード・スタークの姿があった。 


『世界市民の諸君! 我々人類は、ついにダンジョンという理不尽なシステムを克服するフェーズに入った!』


マイクの前に立つリチャードの声は、自信とカリスマに満ちていた。


『日本の優秀な探索者たちも、我々【オリンポス】とのグローバルな業務提携に合意した。私の【限界突破(レベル12,500)】の力と、世界の英知を結集すれば、もはや恐れる敵は存在しない。我々人類が、この地球(市場)の真の支配者となるのだ!』


割れんばかりの拍手と歓声。紙吹雪が舞い、誰もが「人類の輝かしい未来(黒字化)」を疑わなかった。


だが。

その歓声は、突如として鳴り響いた『不快な電子音』によって完全に切り裂かれた。


『――ピガッ……ガガガガッ……!!』


世界中のテレビ画面、スマホ、そしてタイムズスクエアの巨大ビジョンが、一斉に血のような『真っ赤なエラー画面』に切り替わった。


それと同時に、ニューヨークの真っ青な空に、ガラスが割れるような巨大な亀裂ヒビが走る。


「な、なんだ……!?」


群衆がどよめき、リチャードが鋭い視線を上空へ向けた。


ヒビ割れた空から、無機質で、感情の一切存在しない『システムアナウンス』が、地球上の全人類の脳内に直接響き渡った。


『――警告。北米エリアにて、ユーザーの【不正なデータ改ざん(限界突破)】を多数検知』


『――これより、本社アビス監査部による【強制的な立ち入り監査パージ】を実行します』


空の亀裂が完全に砕け散った。


そこから静かに降りてきたのは、巨大なモンスターでも、ドラゴンの群れでもなかった。


実体を持たない、純白の光と幾何学模様だけで構成された『三つの人型のシルエット』。


彼らの頭上にレベル表記はない。ただ赤黒い文字で【ERROR:本社直属・執行役員】とだけ記されている。


「……役員、だと? 構わん、俺が直々に処理する。世界のカメラを俺に向けろ!!」


リチャードは一切の怯みを見せず、葉巻を投げ捨てて空へ向かって跳躍した。


「システムが何の手先を送ってこようが、俺の力はすでに仕様ルールを超えている! 消し飛べ!! 【絶対君主の裁き(グローバル・パニッシュメント)】!!」


リチャードの全魔力が込められた、レベル1万2千の規格外の衝撃波。


日本のS級たちを絶望させた四つ腕の巨人を瞬殺したあの一撃が、真っ直ぐに真ん中の『役員』へと放たれた。

直撃――したかに見えた。


だが。

「……は?」


リチャードの口から、間抜けな声が漏れた。


純白の人型(役員)は、リチャードの全力の衝撃波を『指二本』で摘み、まるで見えないゴミ箱に捨てるようにポイッと空間に放り投げたのだ。


『――ユーザーデータ:リチャード・スターク。正規の仕様を逸脱した【バグ】と認定』


『――アカウントの凍結、および【物理的な削除デリート】を実行します』


役員が、軽く指先を振った。

ただ、それだけだった。


「ガァァァァァァァァッッ!!?」


全世界の生中継カメラの前で。

人類最強の英雄、リチャード・スタークの『両腕』と『両足』が、見えない巨大な力によって無造作に引きちぎられた。


血しぶきがニューヨークの空を舞う。


「あ、あ、あああ……!? 俺の、俺の腕が……!! 力が、抜……」


『限界突破』による最強の防御力など、全く意味を成していなかった。


役員が行ったのは物理的な攻撃ではない。システムを管理する者としての『データの削除』だ。


四肢を失い、ダルマ状態となった人類の希望リチャードは、そのまま見えない杭で空中に『はりつけ』にされた。


『――北米エリアの皆様へ。当該エリアを【不良債権(魔境)】に指定します』


『――これより、本エリアに存在する全ユーザーの【構造改革(大虐殺)】を開始します』


役員たちの背後の空から、何十万、何百万というレベル数千オーバーの異形の怪物の群れが、黒い滝のようにニューヨークの街へ降り注ぎ始めた。


悲鳴、絶叫、血の海。


人類が勝利を確信した日からわずか数十分。

超大国アメリカは、圧倒的な神の暴力により、たった1日で完全な『魔境』へと変貌したのだった。


 ◇ ◇ ◇


同じ頃。太平洋の上空を飛ぶ、プライベートジェットの機内。


「……ひどい。アメリカの防衛線が、一瞬で……」


タブレットで生中継を見ていた秘書のしずくが、顔を青ざめさせて息を呑んだ。


ミレイも、灰原も、あのアメリカのトップが虫ケラのように四肢をもがれた光景に、言葉を失って震えている。

「ふぅん。やっぱりレベルを上げただけの人間じゃ、『権限ルール』を持ってる管理者には勝てないわね」

窓際の席で、CFOのバハムートだけが、つまらなそうにジュースを飲んでいた。


俺は、揺れる機内のソファに深く腰掛け、淹れたてのコーヒーを口に運んだ。


「……リチャードの奴、見せしめとして生かされてるな」


画面の中、空中に磔にされたリチャードは、絶望に顔を歪めながらもまだ息があった。


役員たちは彼をすぐには殺さず、「システムに逆らった者の末路」として世界中に晒し者にしているのだ。


「社長……アメリカはもう完全に機能停止(倒産)しています。今から私たちが向かっても、どうにも……」


しずくが不安げに俺を見る。


「しずく。ビジネスの基本は『逆張り』だ」


俺はコーヒーカップを置き、漆黒のジャケットの襟を正した。


「同業他社が完全に倒産し、株価が紙屑(底値)になった今こそが、最高の『買い時(M&Aのチャンス)』だろうが。それに――」


俺の胸の奥深くで。

地上のバグを消去しようと顕現した『本物の役員』たちの気配に呼応するように、神竜のコア(特異点)がドス黒い怒りと共に激しく脈打っていた。


「俺の愛飲しているコーヒー豆の産地を、不良債権(魔境)扱いした落とし前は、きっちりつけてもらう」


最強の平社員を乗せたジェット機は、神々が支配する絶望の魔境(アメリカ大陸)へと、一直線にカチコミ(出張)に向かうのだった。

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