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60点だった俺のカンスト人生〜底辺レベル1のアラサー社畜、超難関ゲートに落ちて神竜を簒奪(オーバーライト)したら世界最強になっていた〜  作者: kiro


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外資系の買収提案(TOB)と、星条の英雄(トップランカー)



さいたま新都心の特S級ダンジョンにおける「バハムート採用面接」から数日。


【朝倉商事】のオフィスは、一時の平穏を取り戻していた。


「……ふむ。今日のコーヒーは少し香りが薄いな」

俺はマイマグカップを片手に、眉をひそめた。

「申し訳ありません、社長」


デスクの向かいでノートPCを叩いていた秘書のしずくが、顔を上げる。


「現在、世界中で『同時多発ダンジョンブレイク(連鎖倒産)』が発生しており、国際的な物流サプライチェーンが完全に麻痺しています。社長が愛飲されている南米産の最高級コーヒー豆も輸入の目処が立たず、今は国内産の代用品で我慢していただいている状況です」


「なんだと? それは俺の有給の質(QOL)に関わる重大なインシデントだぞ」


「あー、社長ぉ。コーヒーくらいで怒んないでくださいよ。ほら、私のポテチあげますから」


ソファでは空間ハッカーのルミが気怠げにポテチを差し出し、新任CFO(最高財務責任者)である神話級の竜娘・バハムートは、人間の少女の姿のまま大量の高級スイーツを『経費』で食い荒らしている。


相変わらず騒がしい社内だが、俺の視線はオフィスの壁掛けテレビに釘付けになっていた。


そこには、物々しい警戒態勢が敷かれた羽田空港の生中継映像が映し出されている。


『――たった今、特別機が到着しました! アメリカ合衆国が誇るS級第1位、世界最大のギルド【オリンポス】のCEOにして、人類最強の男……リチャード・スターク氏の来日です!』


テレビ画面の中、タラップを降りてきたのは、隙のない洗練されたスーツを着こなす金髪碧眼の男だった。


彼は傲慢に振る舞うことはなく、出迎えた日本政府の高官たちと静かに、だが絶対的なカリスマ性を漂わせて握手を交わしている。


『日本の諸君。メインサーバーを失い、インフレするダンジョンに苦慮していることと思う。だが安心してほしい。我々【オリンポス】が、君たちのギルドと「グローバルな業務提携(事実上の吸収合併)」を結び、この危機を共に乗り越える体制を構築する』


知的で、合理的。リチャードの言葉は、パニックに陥る日本の世論を瞬時に惹きつけるだけの圧倒的な説得力を持っていた。


 ◇ ◇ ◇


その数時間後。


ギルド本部の周囲は、突如として鳴り響いた緊急アラートによってパニックに陥っていた。

「クソッ! なんで東京のど真ん中に、レベル5000オーバーの変異種が湧いて出やがるんだ!!」


ギルド本部の前広場。S級第4位の【崩剣】竜崎が、血だらけになりながら大剣を構えていた。

彼の目の前には、第2形態のダンジョンから溢れ出した『四つ腕の巨人(レベル5200)』が、咆哮を上げながら周囲のビルをなぎ倒している。


竜崎たち既存のS級が束になっても、致命傷を与えることができない。


日本の防衛線が崩壊しかけた、まさにその時だった。


「――ローカル(日本支部)の防衛網は、少々リソース不足のようだな」


静かな声と共に、リチャードが悠然と歩み出てきた。


彼は巨人を前にしても顔色一つ変えず、ただ右腕をスッと前に出した。


「システムが変異したなら、我々も『世界基準グローバル・スタンダード』をアップデートするまでだ」


ドゴォォォォォォォンッッ!!


リチャードの拳から放たれた目に見えない高密度の衝撃波が、四つ腕の巨人の上半身を、空間ごと綺麗に『消滅』させた。


「なっ……!?」


竜崎が、そして周囲の探索者たちが絶句する。

彼らが命懸けで戦っていたレベル5000のバケモノが、文字通り「一瞬の業務処理」のように片付けられたのだ。


リチャードの頭上には、彼が世界最強と呼ばれる所以――システムの上限を完全に破壊した【Lv. 12,500】という異常な数値が静かに輝いていた。


「負傷者は直ちに治療ケアへ。事後処理は我々のチームが引き継ぐ。……素晴らしい奮闘だった、日本の戦士たちよ」


リチャードは竜崎に手を差し伸べ、完璧な笑みを向けた。


圧倒的な力と、完璧な統率力。


日本のS級たちは、その「格の違い」を前に、彼が率いる組織の傘下に入るのが人類の最適解であると、無言のうちに理解させられていた。


 ◇ ◇ ◇


「……へぇ。レベル1万2千。地上の人間にしては、なかなか洗練されたマナの練り方をしてるじゃない」


テレビ中継を見ていたバハムートが、少しだけ感心したようにエクレアを呑み込んだ。


「しずく。アメリカの『市場動向』はどうなっている」


俺はテレビから目を離し、秘書に問いかけた。


「……はい」


しずくのタイピングする指先が、カタカタと高速で動く。


「先ほどから、異常なデータが観測されています。リチャード氏が日本で【限界突破】の力を公使したのとリンクするように……アメリカ本土のメインサーバー上空で、過去に類を見ない超高密度の『空間バグ(特異点)』が複数、形成されつつあります」


「やはりな」


俺は静かに立ち上がり、窓の外――西の空を見つめた。


リチャードは間違いなく優秀だ。既存のシステムの中で、限界まで自分を磨き上げた完璧なプレイヤー(最高幹部)だろう。


だが、彼は目立ちすぎた。


ダンジョンシステムを管理する『遥か高次元の存在(本社の役員)』からすれば、レベル1万を超える人間など、システムの根幹を揺るがす「絶対に許容できない重大なエラー」に他ならない。


(……理不尽な本社の『大掛かりな監査(強制排除)』が来るぞ。それも、アメリカという国そのものを道連れにする規模のな)


俺は、漆黒のオーダースーツのジャケットを羽織った。


「しずく。ルミ。海外出張の準備パッキングをしておけ。行き先はアメリカだ」


「えっ? アメリカですか?」


しずくが目を丸くする。


「ああ。俺のコーヒー豆の輸入ルート(サプライチェーン)が、このままじゃ完全に崩壊する。あの理不尽なシステムどもに、市場を荒らされる前に……少しばかり裏から『介入』させてもらう」


最強の平社員が率いる異端の企業【朝倉商事】は、表舞台で歓声に包まれる星条の英雄の裏で、来るべき『世界の崩壊(システム監査)』を見据え、静かに暗躍を始めていた。

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