親会社(システム)の権限と、CFOの雇用契約
「ちょこまかと……隠れてないで出てきなさいよ、この貧乏企業!!」
上空で完全に苛立ったバハムートが、ついにその顎に星を砕くほどのエネルギーを収束させ始めた。
「これで終わりよ! 私の全存在(全財産)を賭けた一撃! 【超神話級・終焉の息吹】!!」
赤黒い破滅の光線が、さいたま新都心の空を覆い尽くし、俺たちに向かって放たれる。
同時に、クロのステルスがその圧倒的な出力に耐えきれず解除された。
「……来たわね! その『防御』という事象ごと、全てを消し飛ばしてあげる!!」
バハムートが勝利を確信した笑みを浮かべる。
だが、しずくの監査を信じる俺は、防御の姿勢すら取らなかった。
ただ静かに、右手を天にかざす。
(……コンマ0.5秒のラグ。お前がシステムにリクエストを送った、その瞬間――)
胸の奥の神竜コア(特異点)が、激しく脈打つ。
俺は、バハムートが放った破滅の光線に向かって、静かに、だが絶対的な支配者の声で宣告した。
「――【管理者権限:強制終了】」
ピタッ。
世界から、音が消えた。
「え……?」
バハムートの口から漏れたのは、間抜けな声だった。
彼女が全財産を賭けて放ったはずの『終焉の息吹』が。
俺の右手が放った目に見えない波紋に触れた瞬間、何かの冗談のように『ポリゴンのノイズ』となってパラパラと崩れ落ち、虚空へと消え去ったのだ。
「う、嘘でしょ……!? 私の全マナを注ぎ込んだブレスが、無効化されたんじゃなくて……『システム上から無かったこと』にされた……!?」
バハムートの真紅の瞳が、恐怖と驚愕に大きく見開かれる。
「言ったはずだ。お前のスキルは『莫大な魔力を支払って、システムに買収を要求する』ものだ」
俺はゆっくりと空中に浮かび上がり、MPが空になって落下しそうになっているバハムートの首根っこを、ネコのように掴み上げた。
「だが、俺はこのシステムそのものを書き換える【親会社(管理者)の権限】を持っている。お前がどれだけ資金(MP)を積もうが、銀行の元締めである俺が『その取引は無効だ』と決裁を弾けば、お前の取引は成立しない」
「あ、あんた……人間じゃない……。この理不尽なシステムの大元(特異点)を、その身に宿してるっていうの……!?」
バハムートは震えながら、俺の目を見つめ返した。
「お前は有能だ。だが、一人では資金繰りがいずれ限界を迎える。……俺の会社(朝倉商事)に来い。俺の『神竜の魔力』を、お前の『事象の買収』の資金源として好きに使わせてやる」
俺はニヤリと笑い、彼女の耳元で囁いた。
「俺たちの力で、この世界を『魔境』に変えようとしているクソみたいな本社(神々)を、敵対的買収してやろうぜ」
「…………」
バハムートはしばらく沈黙した後、フッと毒気を抜かれたように笑った。
「……はぁ。全財産賭けて負けたんだから、仕方ないわね。いいわよ、その契約書にサインしてあげる」
彼女は俺の腕の中で、黄金の翼をパタパタと畳んだ。
「あんたみたいな規格外の社長がいれば、私も心置きなく無駄遣い(買収)ができそうだしね! ……よろしく頼むわよ、社長!」
こうして。
圧倒的な格の違いと、完璧な秘書の実務サポートにより、神話級の魔竜姫バハムートは【朝倉商事の最高財務責任者(CFO)】として、正式に雇用契約を結んだのだった。
「ふぅ。さすがは社長です。見事な企業買収でした」
地上に降り立った俺に、しずくが労いのタオルを差し出す。
ミレイ、灰原、ルミも、規格外すぎる新入社員(竜娘)の加入に、ポカンと口を開けながらも歓声を上げていた。
特S級ダンジョンの入り口での初陣は大成功に終わった。
だが、システムの悲鳴を察知した『本社の役員』たちが、いよいよ本格的な「地球(市場)の強制介入」に向けて動き出そうとしていることを、この時の俺たちはまだ知らなかった。




