完璧な秘書の財務監査(サポート)
「しずく、お前……前に出るな。相手は神話級の規格外だぞ」
俺が制止しようとするが、しずくの瞳には微塵の揺らぎもなかった。
「お言葉ですが社長。相手の『キャッシュフロー(MPの残量と流れ)』を正確に把握し、社長が攻撃に専念できる環境を整えるのが、秘書である私の仕事です」
しずくは足元の影に向かって声をかけた。
「クロちゃん。展開をお願いします」
『キュルンッ!』
神獣クロが影から飛び出し、一瞬にして広場全体を『概念隠蔽の闇』で覆い尽くした。
バハムートから見て、俺たち全員の姿がフッと空間から消滅する。
「なっ……!? 姿が消えた!? ただの光学迷彩じゃない……私の索敵からも完全にログアウトしたって言うの!?」
上空のバハムートが焦りの声を上げる。
この二週間の間、しずくは俺の病室に顔を出すこともなく、ひたすらにダンジョンへ潜り続けていた。
格上討伐を繰り返し、現在の彼女のレベルは【Lv. 890】。サポート職としては異常極まりない領域に達し、神獣クロのステルス性能も飛躍的に向上していた。
「見えないなら、この辺り一帯を更地に買い占める(吹き飛ばす)までよ!!」
バハムートが焦燥に駆られ、無差別に大規模魔法を放ち始める。
「灰原くん、ルミちゃん! 会社の資産(仲間)を守ってください!」
「は、はいっ! 【ダメージのリボ払い】!!」
「ええーっ、残業代出ますよね!? 【強制配置転換】!!」
しずくの的確なタスク管理(指示)のもと、灰原が前線で魔法の余波を吸収し、ルミが俺たちに向かってくる直撃弾の空間座標を『空の彼方』へと強制的に入れ替えていく。
俺という社長が動かずとも、現場の社員たちが完璧な連携で神話級の猛攻を凌いでいた。
「……見えました」
タブレット型の魔力測定器を見つめていたしずくが、メガネの奥で鋭い光を放った。
「対象の魔力消費の波形を完全に解析(監査)しました。彼女の【事象の買収】は、発動の瞬間に『コンマ0.5秒』だけ、自身の防御に回す魔力(内部留保)が完全にゼロになります」
「なるほど。システムに買収要求を送る一瞬のタイムラグか」
俺は拳を握り直した。
「それに、あれだけ大規模な魔法を乱発した結果、彼女のMP(資金)はすでに底を尽きかけています。……社長、次の彼女の『大技』の直前。そこが、唯一の買収の隙です!」
「よくやった、しずく。完璧な監査だ」
俺は彼女の肩をポンと叩き、クロのステルス空間の最前線へと歩み出た。
「さあ、見せてみろバハムート。お前の全財産をな」




