神話級の面接(デスマッチ)と、事象の買収
「いくわよ、スーツの男! 私の【事象の買収】、どこまで耐えられるかしら!」
さいたま新都心の上空。
神話級の魔竜姫バハムートが、真紅の瞳を輝かせて両手を広げる。
その瞬間、彼女の周囲に何千という光の槍(最上級の攻撃魔法)が展開された。
「雨霰の如く降り注げ! 『流星群』!!」
ズババババババッッ!!
「……派手なプレゼンだな。だが、少し大雑把だ」
俺は飛来する光の槍の豪雨に対し、回避行動すら取らずに真っ直ぐ歩を進めた。
着弾の爆発が周囲のビル群を粉砕していくが、俺の『漆黒のオーダースーツ』は神話級の魔法すらも「経費外」として完全に弾き返す。
「な、なんなのよそのスーツ! 私の魔法がかすりもしないじゃない! ……なら、これでどう!?」
バハムートが指先を鳴らす。
突如、俺の足元の空間が歪み、巨大な重力場が『俺の体を上空へとカチ上げようと』した。
「――【事象の買収】! あんたの『地面に立っている』という事象を買い取って、強制的に空へ浮かせてやるわ!」
「おっと」
確かに足元がふわりと浮いた。俺の行動の所有権が、彼女のスキルによって強制的に書き換えられようとしている。
だが、俺は即座に右腕に特異点(神竜)の魔力を集中させ、空気を殴りつけた。
ドゴォォォォンッ!!
空気を殴った反発力で、俺は強引に地面へと着地する。
「チッ、力技で私の買収(M&A)をキャンセルするなんて……野蛮な男ね!」
「お前のスキルの本質が見えてきたぞ、バハムート」
俺はネクタイを少し緩め、空中の竜娘を見上げた。
「敵の攻撃や行動という『事象』を買い取るには、それに見合った『莫大な対価(MP)』を支払わなきゃならない。だがお前は今、フリーランスだ。バックアップ(魔力供給源)がない状態で、いつまでその自転車操業がもつかな?」
「……っ! 減らず口を! なら、あんたのそのスーツごと、あんたの『存在』を買収してやるわ!!」
バハムートの全身から、先ほどまでとは桁違いの、世界を滅ぼすほどの圧倒的な魔力が膨れ上がり始めた。
「まずい……っ。あれは本気のブレス(資金洗浄)の構えだ! まともに食らえば、このエリア一帯が吹き飛ぶぞ!」
背後で灰原が悲鳴を上げる。
俺のスーツなら耐えられるが、後ろにいる社員が巻き込まれればタダでは済まない。
俺が迎撃のために踏み込もうとした、その時だった。
「――社長。ここは私の『実務』にお任せください」
凛とした声と共に、一人の少女が俺の前に進み出た。
黒いスーツに身を包んだ完璧な社長秘書、雨宮しずくだ。




