限界突破(ブラック化)と、伝説のフリーランス召喚
ドゴォォォォォォォンッッ!!
さいたま新都心の上空に、巨大な魔法陣が展開され、雷鳴が轟く。
その魔法陣から舞い降りたのは――豪奢な漆黒のドレスに身を包み、背中に黄金の竜の翼を生やした、絶世の美貌を持つ『少女』だった。
透き通るような白い肌に、すべてを見透かすような真紅の瞳。
彼女の頭上には、レベルの代わりにこう記されていた。
【神話級・怠惰の魔竜姫:バハムート】。
システムが創り出したモンスターではなく、システムのさらに外側から召喚された「伝説のバグ」そのものだった。
「……ふぁぁ。全く、気持ちよく寝てたのに。どこのバカよ、私をこんな安っぽい契約で呼び出したのは」
魔竜姫バハムートは、可愛らしいあくびをしながら周囲を見渡した。
「ハハハッ! や、やったぞ……! 伝説級の召喚だ!!」
瀕死の九条が血を吐きながら叫ぶ。
「おい、そこの女! 俺がお前の雇い主(社長)だ! さっさとあの監査官のバケモノを殺せ!!」
だが、バハムートは冷ややかな目で九条を見下ろした。
「は? あんたみたいな死にかけの貧乏人が、私に命令? ……寝言は寝て言いなさいよ。あんたが担保にした経験値と寿命(資金)じゃ、私を『この世界に具現化させる』だけで全額使い切ってるわよ」
「な、なんだと……!? ふざけるな、俺の命令が聞けねぇのか!!」
「私は『フリーランス』なの。資金のないクライアントの仕事は受けない主義よ」
バハムートが指先を軽く振ると、見えざる重圧が九条を押し潰し、彼は白目を剥いて完全に気絶(沈黙)した。
『――未知のエラー存在を検知。排除します』
そこへ、九条を無視してレベル9500の監査官がバハムートへと襲いかかる。
「あー、うるさいわね。少し静かにしてて」
バハムートが面倒くさそうに手をかざした、その瞬間。
ピタッ、と。
監査官の動きが、空間ごと『静止』した。
「固有スキル――【事象の買収】」
バハムートがそう呟いた瞬間、監査官が放とうとしていた超高熱のプラズマエネルギーが、瞬時に『バハムートの手の中』へと移動(所有権が移転)した。
そして、そのエネルギーはそのまま監査官の頭部へと叩き込まれ、レベル9500の圧倒的強者が、一瞬にして自らの力で消し飛ばされてしまった。
「……【事象の買収】か。敵の『攻撃』や『行動』というイベントそのものを、対価を払って強制的に買い取り、自分のものにするスキル。……なるほど、とんでもないチート(不正会計)だな」
「え……?」
バハムートが振り返る。
そこには、いつの間にか『漆黒のオーダースーツ』を纏い、ポケットに手を突っ込んだまま立つ男――朝倉健人がいた。
背後には、しずく、ミレイ、灰原、ルミの【朝倉商事】の面々が揃っている。
「なんだ、あんたたちは。……ふぅん?」
バハムートの真紅の瞳が、健人の胸の奥――『神竜のコア(特異点)』を捉え、妖しく細められた。
「……驚いた。あんた、ただの人間じゃないわね。私を呼び出したあの貧乏人とは比べ物にならない、とんでもない莫大な『資産(マナの源泉)』を隠し持ってる」
バハムートがペロリと唇を舐める。
「いいわ。少し運動してあげる。あんたのその莫大な資産、私のスキルで全部『買収』してあげるわ!」
バハムートが翼を広げ、健人に向かって飛翔する。
その速度は、音速を遥かに超えていた。彼女の拳が健人の顔面に迫る。
「危ない、社長!!」
しずくが叫ぶ。だが、健人は避けない。
ガキィィィィンッッ!!
バハムートの神話級の一撃を、健人は『素手(オーダースーツの袖)』でガッチリと受け止めていた。
「……ほう。俺のスーツの防御を抜いて、腕に振動を伝えてくるとはな。大したスペックだ」
健人は平然と笑う。
「なっ……私の全力パンチを、素手で……!?」
バハムートが驚愕に目を見開く。
「お前、フリーランスなんだろう?」
健人はバハムートの拳を掴んだまま、不敵な笑みを浮かべた。
「なら、俺の会社(朝倉商事)に来い。お前のその燃費の悪いチートスキル、俺の『無限の経費(神竜の魔力)』と組み合わせれば、この狂ったシステム(本社)を倒産させる最強の【CFO(最高財務責任者)】になれるぞ」
「……ふふっ。面白いこと言うじゃない、スーツの男」
バハムートは健人の拘束を力ずくで振り解き、空中に距離を取った。
「いいわ! あんたが私を雇う(飼い慣らす)だけの『器』があるか、この私【神話級のフリーランス】が直々に面接してあげる!!」
インフレを極めた特S級ダンジョンの入り口で。
システムを破壊する平社員(特異点)と、すべてを買収する伝説の魔竜による、次元を超えた『最強の採用面接(トップ会談)』が幕を開けた。




