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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと人の禍
9/24

9 小さな人間

 人間にみつかると面倒くさいのだと思ったドリムは、人間があまり通らない場所を選んで旅を続けました。

 そのおかげで、すっかり時間はかかりましたが、人間に見つかることはありませんでした。

 お腹が空いても、食べ物はあちこちに落ちていました。ネズミのドリムは小さいので、草むらの太いミミズを食べればお腹はいっぱいになるのです。


 地図の見方もわからず、ドリムはすっかり道に迷ってしまいました。

 夜になっても、目的地がどこなのかもわかりませんでした・

 穴を掘って寝る場所を作ろうかと思いましたが、目の前に大きな建物があったので、潜り込むことにしました。


 入口を見つけようとしましたが、二階の窓が開いているのに気付きました。

 ドリムは靴を脱ぎ、荷物入れにしまうと、手がかりも何もない壁をするすると登りました。人間にとってはとても平らな壁でも、ネズミのドリムから見れば、凸凹だらけなのです。


 二階の窓からドリムが入ると、中は温かく、居心地のいい家でした。

 人間によく似たものがたくさんありましたが、ずっと小さく、動きませんでした。人形というのだとは、ドリムは知りませんでした。


 窓のすぐ下にはベッドがあり、ベッドには小さな人間が横になっていました。

 小さな人間を子供というのだとは、ドリムは知りませんでした。

 子供はベッドに横になったまま両手を組み合わせ、口を動かし続けていました。何か言っているようでしたが、ドリムは興味がありませんでした。

 ごつごつした小さな人間の置物より、もう少し柔らかい綿の塊もありました。ヌイグルミというのだとは、ドリムは知りませんでした。

 ドリムは疲れていました。

旅をして、一日中歩いて、ロバに乗って、人間につかまれて、また歩いたのです。


 ドリムはとても疲れていました。

 ドリムはふわふわとしたヌイグルミをベッドの代わりにして、横になりました。


 小さな人間は、ベッドに横になりながら、口を動かしていました。

 小さく、声も聞こえました。

 ドリムは休んでいました。

 少しぐらいの雑音が聞こえても、ぐっすり眠れるぐらい疲れていました。

 ドリムは寝ようとしました。

 小さな人間の声が、少しだけ気になりました。

 ドリムは眠りにつくまでのほんの少しの間、小さな人間の小さな声に、耳を傾けてみました。

「助けてください。助けてください。ぼくを殺さないで。なんでもします。だから、ぼくを助けてください……」

 ドリムは寝ようとしていました。このぶつぶつつぶやく小さな人間も、早く寝てくれたらいいのにと思っていました。そうすれば、ドリムもぐっすり眠れるのにと思いました。

「助けてください。助けてください……」

 人間のつぶやきが、気になりました。

「何から助けてほしいんですか?」

 聞いてみました。知りたかったわけではありません。繰り返し聞いているうちに、少しだけ気になったのです。

 ところが、小さな人間は答える代わりに驚いて起き上りました。

「誰? 神様?」

「いいえ。もっとずっと小さなものですよ」

 ドリムは『神様』を知りませんでした。『神様』の大きさを知りませんでした。たぶんドリムは『神様』ではないのだろうと思いましたし、『神様』はなんとなく大きな感じがしたのです。

「……どこにいるの?」

 小さな人間は、すっかり目が覚めたようでした。ぐるぐると首を回していました。ドリムは小さな人間の動きが面白いので眺めていました。

「ここですよ」

 小さな人間がシーツをめくり、ヌイグルミを動かして声を出した相手を探し始めたので、ドリムはもう一度声をかけてみました。

 小さな人間はますます驚いたようでしたが、ドリムを探すのはやめてしまいました。

 動かなくなった代わりに、ベッドの上で祈り始めました。

「ぼくの部屋にいる小さな神様、ぼくの中にいる病気を追い払ってください……」

 小さな人間は祈り続けていました。

 ドリムは小さな人間を見つめました。『ぼくの部屋にいる小さな神様』というのは、ドリムのことに間違いありません。

 ドリムは神様ではありません。

 でも、小さな人間の中にいる『病気を追い払う』ことを頼まれました。


 病気になった人間は、死んでしまうのでしょうか。ドリムには解りませんでした。

 人間が死ぬとどうなるのでしょうか。ドリムには解りませんでした。

 人間は死にたくないのでしょうか。ドリムには解りませんでした。


 ドリムは聞いてみました。

 小さな人間は聞いていませんでした。

 ドリムを神様と勘違いしてお願いしたことで、満足してしまったようです。

 小さな人間はベッドの上で眠っていました。

 ドリムはなかなか眠れませんでした。

 小さな人間から『病気を追い払う』ように頼まれてしまったのです。

 ドリムはどうすれば小さな人間から『病気を追い払う』ことができるか、考えていました。


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