10 病気の子供
いつの間にか、ドリムは眠ってしまいました。
気が付くと、朝になっていました。
小さな人間はまだ眠っていました。
部屋の扉が開き、大きな人間が入ってきました。
大きな人間は、優しく小さな人間を起こしました。
持っていた食べ物と服を置き、出ていきました。
小さな人間は服を着替え、食事をとりました。
食事をとりながら、小さな人間は泣いていました。
ドリムは不思議に思いました。
「そんなに不味いのなら、食べなければいいじゃないですか」
小さな人間の動きが止まりました。食べるのを止めることにしたのかと思いましたが、少し違いました。小さな人間は、ゆっくりと部屋の中を見回しました。
「……神様? 夢じゃなかったの?」
「『神様』じゃありません。でも、あなたとは昨日も話しましたね。それは夢ではありません」
ドリムは『神様』がなんなのか、よくわかりませんでした。でも、ドリムは神様では無いような気がしました。ドリムが神様ではないと言っても、小さな人間は解っていないようでした。さっきまで泣いていたのに、にっこりと笑いながら残っていた食事を口に運びました。
ドリムはお腹が空いていました。昨日の夜から何も食べていませんでした。
小さな人間が食べているものから、とてもおいしそうな臭いがしていました。
ドリムは、小さな人間のお腹がいっぱいになって、食べ物を残すのではないかと思っていました。
ドリムの期待は外れました。
小さな人間は、朝ごはんをすっかり食べてしまったのです。
小さな人間は服を着替え、ドリムが隠れている人形の山に向かって言いました。
「ぼく入院するから、しばらく帰ってこられないんだ。ひょっとしたら、もう帰ってこないかも。お願いします。また、帰ってこられるようにしてください」
小さな人間は、部屋に向かって祈りました。
ドリムは神様ではありません。でも、ドリムは小さな人間に祈られているのだと感じました。
ドリムは、小さな人間が帰ってこられるようにすることを頼まれたのだと思いました。
やらなければいけないことが、またしても増えてしまいました。
ドリムは、小さな人間がうつむいて祈っている間に、小さな人間の体をよじ登りました。ドリムはとても小さくて軽いので、一生懸命に祈っている小さな人間は気づきませんでした。
ドリムは、小さな人間の病気を追いだし、また部屋に帰ってこられるようにするためには、きっと小さな人間と一緒に行った方がいいと思ったのです。
ドリムが小さな人間の体を上り、服のポケットに忍び込んだとき、戸が開いて大きな人間が顔を出しました。
「準備はできた?」
「……うん」
大きな人間の顔が引っ込みました。小さな人間は、荷物をまとめた小さなバックを担ぎました。
「食べるものはないですか?」
ドリムは聞いてみました。とてもお腹が空いていたのです。小さな人間は固まりました。
「……神様?」
「だから、違いますよ」
「……食べ物をどうすればいいの?」
小さな人間は、ドリムをどうしても神様にしたいようでした。ドリムはあきらめて、訂正することを止めました。
「服のポケットに入れておくといいですよ」
ポケットには、ドリムが入っているからです。小さな人間がポケットに食べ物を入れれば、ドリムが食べることができるからです。
「どこかにお供えしなくてもいいの?」
「ポケットで十分ですよ」
「わかりました」
小さな人間は、机の引き出しから一つまみのお菓子を掴み出し、ポケットに詰め込みました。ポケットの中にはドリムがいましたが、ドリムは器用に人間の手を避けました。人間の手につかまれるのは、気持ちのいい体験ではないことを知っていたのです。
ドリムは薄暗いポケットの中で、紙に積まれたお菓子を広げました。
とてもいい匂いがします。
とても甘い味がします。
小さなドリムには、お腹がいっぱいになるのに十分な量でした。
もう、ドリムは死のうとは思いませんでした。
やることがたくさんあるのです。
小さな人間の病気を追いだすにはどうすればいいのか考えながら、ドリムは温かいポケットのなかで眠りにつきました。




