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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと人の禍
8/24

8 人間の街で


 ネズミのドリムはロバの背でのんびりとしていました。

 気持ちよく揺られているうちに、ひょろひょろの生き物がずいぶん多いことに気が付きました。

 しかも、ひょろひょろの生き物はどんどん増えていきました。

 すべて人間なのだと、ドリムは尋ねなくてもわかりました。

「あなたの仲間は、ずいぶんたくさんいるんですね」

 ロバを曳いてきた人間が、休憩のために木に手綱を縛り付けようとしたとき、ドリムは聞いてみました。

「そうかい? でも、おれの仲間じゃないよ」

「でも、人間というのでしょう?」

 人間はおかしなことを言うものだと、ドリムは不思議に思いました。同じ姿をして同じ場所に住んでいるのに、仲間ではないということはあり得ないように思えました。

「人間なのは違いないな。おれはヒロだ」

「ぼくはドリムです」

「ただのネズミじゃないんだな」

 ヒロと名乗った人間は、指先をドリムに近づけました。ドリムは黙って指先を眺めました。ごつごつした指紋が痛そうだと思いました。

「握手を知らないのか?」

 ヒロは不満そうに言いましたが、ドリムは握手を知りませんでした。

「それは何なのですか?」

「意外と常識を知らないんだな。プログラムした奴が忘れたのかな?」

 ドリムのことをおもちゃだと思っているヒロは、不平気味に独り言を言うと、自分の右手で左手を、左手で右手をしっかりと握りました。

「こんな具合にやるんだ」

「こうですか?」

 ドリムも真似をして、右前脚で左前脚を、左前脚で右前脚を掴みました。

「そうじゃない。一人でやるものじゃないんだ。誰か、親しくなりたい奴の手を握る。そうしたら、信頼関係が生まれる」

「どうして、握手をすると信頼関係が生まれるんですか?」

「さあな。そういうものだからだろう」

 そういうものなのかもしれません。人間は不思議なことをするものだと思いました。

「でも、ぼくはヒロと親しくなりたくないので、握手はしません」

 ドリムが言うと、ヒロはとても驚いた顔をしました。

「おれのことが嫌いなのかい?」

「いいえ。別に嫌いではありませんよ」

「じゃあ、握手ぐらいしてもいいだろう」

「ヒロのことは嫌いではありませんが、人間は不思議なことだらけなので、もっと人間のことを知ってからにしたいのです」

 ドリムは率直に意見を言いました。ヒロは少し考えてから、またロバの手綱を曳いて歩きだしました。

 相変わらず人間ばかりが歩いている小さな町で、ドリムは地図を取り出しました。ロバを曳いているヒロは気づきませんでしたが、ロバの背中で地図を眺めているネズミのドリムは、通りすぎる人たちの注目を浴び始めました。

「何をしているの?」

 たまたま近くを通り過ぎようとしていた人間が、ドリムの手元を見て尋ねてきました。ヒロとは少し違うようです。たぶん、性別が違うのだとドリムは思いました。

「お月様に渡された地図を見ているのです。下手でわかりにくいので、困っているところです」

 人間は笑いました。突然、ドリムは大きな温かいものに包まれました。ヒロにつかまれたのだと、すぐに解りました。

 体が浮き上がりました。ヒロに持ち上げられたのだと、すぐに解りました。

 温かくて真っ暗な場所に移されました。ヒロのポケットの中に入れられたのだと、すぐに解りました。

 全身を包んでいたヒロの手が離れたので、ドリムはポケットから顔を出してみました。

 さっき話しかけてきた人間に向かって、ヒロが何か話をしているところでした。

 ドリムは話の内容には興味がなかったので、地図を荷物の中にいれると、ポケットから飛び出しました。

 地面に降りましたが、ヒロは気づきませんでした。

 ドリムは旅を続けることにしました。

 見送るロバさんに手を振りながら、ドリムは行きかう人間の足を避けて歩きました。

 途中で、ヒロの声が聞こえたような気がしましたが、ドリムは立ち止まりませんでした。


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