3 繰り返される日常
ドリムはとても小さな部屋で目を覚ましました。
小さなドリムにぴったりの小さな家具がそろった小さな部屋で、ドリムが寝るのにちょうどいい大きさのベッドの上で、ドリムは目覚めました。
小さな部屋に小さな机、小さな椅子の向こうには、小さな窓と小さな扉がありました。
小さな窓からドリムが顔を出すと、まん丸いお月様が見えました。
お月様だと思ったのは、丸い顔でした。
「窓から見えるのは、なんだか見たことがある景色ですね。透明のケースの中で見たような気がします」
「そうだろうとも。ここは私の研究室だよ。ドリムはただのハツカネズミだったころから、ずっとこの部屋にいたのだ。見たことがあって当然だ」
ドリムはお月様のように丸い顔を見つめた。ドリムを実験で殺し、その成果を確認するため、無理やり生き返らせた、丸い顔だ。
「お月様でなければ、あなたは何者なのですか?」
「おや、まだ知らなかったのかい? ドリムや、私は魔法使いだよ。しかも偉大な魔法使いさ。ハツカネズミに知恵を与え、死んだネズミを生き返らせることができるぐらいの偉大な魔法使いさ」
ドリムは不思議に思いました。
「ハツカネズミに知恵を与え、死んだネズミを生き返らせることができる魔法使いは、どうして偉大なのです? ハツカネズミは知恵を欲しがっていませんし、死んだネズミを生き返らせても、誰も喜ばないでしょう?」
魔法使いは不服そうに首を振りました。
「ドリムや、知恵があっても愚かなのだね。ネズミに知恵を与えられるということは、ほかのもっと大きくて丈夫な生き物にも知恵を与えられるかもしれないということさ。死んだネズミを生き返らせることができるということは、もっと価値のある生き物も、生き返らせることができるかもしれないということさ。確かに、今は偉大とはいえないかもしれない。でも、すぐに偉大なことになるのさ」
ドリムは不思議に思いました。
「ハツカネズミに知恵を与えることができる偉大な魔法使いが、どうして何度もネズミを生き返らせるのです?」
丸い顔をした魔法使いは、渋い顔でうなずきました。
「ドリムや、何度も生き返らせるのは、ドリムが何度も死ぬからだよ。ドリムが死ぬ理由がはっきりしないと、実験が成功したとは言えないのだよ」
ドリムはますます不思議に思いました。
「死ぬのに理由がいりますか?」
丸い顔の魔法使いはとても驚いた顔をしました。
「すべての生き物には、生きる理由があるのだよ。ドリムにも、生きる理由があるだろう?」
「四角い箱の中で、切り刻まれることですか?」
「それは実際の経験だけだよ。生き物に、生きる理由がなくて生きているものなどいないのだよ」
「誰かがそれを決めたのですか?」
「この世界を作ったお方が決めたのさ。生きる理由がない生き物などいないのだよ。だから、理由もなく死ぬ生き物などいないのだよ」
「ぼくが死んだのは、死ぬように自分で傷つけたからです」
「そうだろうとも。死体を見てそれはわかったよ。どうしてそんなことをするのだね?」
ドリムは顔をなでました。小さな手で長い顔をなでました。どうして自分で死んだのか、思いだそうとしました。
「この世のすべての生き物には、生きる理由があるのかもしれませんが、ぼくにはありません」
「そんなことはないだろう?」
「生きる理由がないので、死んだのです」
「生きる理由なら、これから探せばいいだろう? ドリムや、周りをよく見てごらん」
ドリムは周りを見てみました。まるで人間の部屋を小さくしたような、立派な家具があります。ベッドはふかふかで気持ちいいものでした。ソファーもありました。花瓶も、机や椅子もありました。
「素敵な部屋ですね」
丸い魔法使いは、にっこりしました。
「知恵のある人間のような部屋でゆっくり考えれば、ドリムも死にたいとは思わないだろう。ドリム、この部屋で生きる理由を探してごらん」
丸い顔の魔法使いは遠くに行きました。
小さくて精巧な部屋には、色々なものがありました。
小さな鏡台の前に、髭剃りまでありました。
ドリムはひげを剃るつもりはありませんでした。
ドリムはきれいな髭剃りを使って、自分の喉を切りました。
ドリムは死にました。




