2 ドリムの理由
ネズミのドリムは狭い箱の中で目を覚ましました。
狭いといってもドリムにとっては十分な広さで、壁も天井も透明だったので、息苦しさは感じませんでした。
ドリムは目を覚ます前のことを、しっかりと覚えていました。
ドリムは自殺したのです。
ドリムは目覚めていました。
ドリムは生きていました。
手の中にあったはずの、小さな武器がありませんでした。
口の中が少し痛みましたが、折れたはずの立派な前歯は、すっかり生え変わっていました。
ドリムは死んだはずでした。
ドリムは生きていました。
「おお、ドリムや、目を覚ましたのかい?」
箱の外、ドリムの部屋の外から、大きな声が降ってきました。
ドリムが見上げると、お月様よりも大きな、しわくちゃの丸い顔がドリムの部屋を見下ろしていました。
ドリムは大きな顔を恐れましたが、透明な箱の中にいるため安全だと思いました。
「あなたはお月様ではありませんね?」
こんなに大きくてしわくちゃの月はないだろうと思い、ドリムは聞いてみました。大きくてしわくちゃでしたが、とにかく丸かったのです。
「もちろんだとも。私はお月様ではないよ」
「では、どうしてそんなに丸いのですか?」
ドリムが尋ねると、お月様のように丸い顔は、楽しそうに笑いました。
「お月様でなければ、丸くてはいけないというわけではないだろう?」
なるほど、お月様以外にも丸いものはあるかもしれない。
ドリムは反省しました。
「ぼくは眠っていたのですか?」
ドリムは尋ねました。人間の言葉でした。どうして、人間の言葉を知っているのか、人間の言葉を発音できるのか、わかりませんでした。ですが、正しく伝わっていることは疑いませんでした。
「いいや、ドリムよ、きみは死んでいたのだよ」
「死んだ者は目を覚まさない。そうでしょう?」
「もちろんだとも」
お月様のような顔はにっこりと笑いました。
「どうしてぼくは目覚めたのです? 死んだのに」
「それを教えてほしいなら、先に私に教えておくれ。ドリムはどうして死んだのかね?」
ドリムは首を傾けました。
死んだことは覚えていました。
死のうとしたことは覚えていました。
『どうして』と尋ねられるとは思いませんでした。
ドリムは逆に尋ねました。
「どうして死んだのかを知りたいなら、先に教えてくれなければいけません。どうして、それを知りたいのですか?」
「それなら簡単だ。せっかく生き返ったのに、ドリムは自分で死んでしまったからなのだよ」
ドリムはますますわからなくなりました。
ドリムはもう一度尋ねてみました。
「ぼくは前にも死んだことがあるのですか?」
お月様のような顔は、こっくりとうなずきます。
「もちろんだとも。ドリムは少し前まで、ごくあたり前のハツカネズミだったのだよ。私が魔法で知恵と声を与えたのだが、体の変化に耐えきれなくて死んでしまったのだ。だからドリムや。私はお前を生き返らせなくてはならなかったのだ。そうしないと、私の魔法が上手くいったのかどうかわからないからね」
「では、ぼくは当たり前のハツカネズミで、人間の言葉がわからなかったし、話すこともできなかったのですね」
「ほんの少し前まではそうだった」
「ぼくはあなたの魔法で死んだ」
「そうだね」
「あなたの魔法は成功したのですか?」
お月様のような顔は、嬉しそうに両手を上げました。
「もちろんだよ、ドリム。きみはこうして二度も生き返ったし、ちゃんと人間の言葉を理解して話しているからね。大成功さ」
「おめでとうございます」
お月様のような顔はにっこりしてから遠ざかりました。
とても満足したようでした。
ドリムは一人になりました。
ドリムは死にました。




