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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと魔法使い
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1 ドリムの誕生と死

 ネズミのドリムは狭い箱の中で目を覚ましました。

 狭いと言ってもドリムにとっては十分な広さで、壁も天井も透明だったので、息苦しさは感じませんでした。

 ドリムは、目覚める前のことをあまり覚えていませんでした。

 ドリムはネズミだったので、過ぎたことをあまり覚えていないのは自然なことです。

 いまはなぜか、覚えていないことが不満でした。

 ドリムはネズミでした。

 いまでもネズミです。

 ネズミではないような気はしていません。

 でも、なにかが違うと思いました。

 両手で、顔を触ってみます。

 毛深い顔、長い鼻、長く伸びた前歯、ぴんと張ったひげ、どこをとっても立派なネズミです。

 でも、ネズミにあるのは前足で、手ではありません。

 ドリムは顔を触るのを止めて、自分の手を見下ろしました。

 小さくて、よく動いて、どこにでも登っていける、いつもの前足です。

 指が長くてよく動くので、手としても使えます。

 いままでは、手としては使っていませんでした。

 ドリムが床を見回すと、ひまわりの種が落ちていました。

 鼻先を近づけ、臭いをかぎます。

 ひまわりの種でした。

 手でつかみ、口に運びました。

 ――なんて便利なんだろう。

 ネズミのドリムは手を見ました。

 いつもの小さな前足です。

 いまは手です。


 ドリムは座っていました。

 お尻を床につけ、大きな後ろ足で体を支えていました。

 ドリムは立ってみました。

 足が短いので、あまり変わりませんでした。

 ドリムは座りました。

 体を縦にして、両手は胸の前にありました。

 することがありませんでした。


 ドリムは狭いケースの中にいました。

 ドリムにとっては、十分広い部屋でした。

 もっと広い世界があることを、ドリムは知りませんでした。

 壁が透明だったので、外の世界があることは知っていました。

 壁の向こうは、色々なものがある部屋でした。すべてのものがドリムより大きく、まるで巨人の世界でした。

 ドリムは透明の箱の中にいました。

 することがありませんでした。


 ドリムはネズミです。

 長くて硬い、立派な前歯があります。

 退屈だったドリムは、自分の前歯を触りました。

 長くて硬い、立派な前歯でした。

 ドリムはあまりにも退屈だったので、前歯を壁にぶつけて折ってみました。

 口からは血が流れ出ましたが、ドリムは手の中に納まる立派な武器を手に入れました。


 ドリムはすることがありませんでした。

 ドリムは死にました。

 手に入れたばかりの小さな武器を、自分の首に突き刺しました。

 死にたかったのではありません。

 生きる理由がなかったのです。 


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