23 ドリムの結婚
ドリムがイザベル姫のそばで生活するようになってから、ずいぶん長い時間が経ちました。
イザベル姫は少しも変わりません。ドリムは少しずつ変わっていきました。
ネズミと人間では、時間の経ち方が違うのです。
ドリムはハツカネズミです。もともと、あまり長くは生きることができない動物です。
少しずつ弱っていくドリムに、イザベル姫は心配して言いました。
「城の中に住んでいるのが、窮屈ではないのか?」
「ぼくの仲間は、実験用の箱の入っていても平気ですよ」
イザベル姫は安心しました。
別の時に心配して言いました。
「食事が悪いのじゃろうか?」
「毎日、とても美味しく頂いていますよ」
イザベル姫は安心しました。
別の時に心配して言いました。
「わらわと一緒にいるのが、嫌か?」
「どうしてそんなことを言うのです?」
「いや、無理をしてドリムがわらわと一緒にいるのではないかと思ってな」
「とても気持ちがいいですよ」
ドリムはいつもの固定席である、イザベル姫の柔らかい胸を揉みました。
イザベル姫は安心しました。
でも、ドリムは少しずつ弱っていきました。
ある日、イザベル姫はドリムに相談しました。
「父上が、私に結婚しろと言ってきた。相手も決まっている。どうやら、断ることはできそうにない。ドリム、どうしたらいいと思う?」
「『結婚』ですか……確か、以前に姫が教えてくれました。その人と、ずっと一緒にいることですね?」
「……うむ。そうなるな」
「では、ぼくと一緒ですか?」
「ん? そうじゃな。そうじゃった。わらわは、すでに結婚しているではないか」
イザベル姫は嬉しそうでした。ドリムには、どうしてイザベル姫が喜んでいるのかわかりませんでした。
ドリムが見上げていると、イザベル姫はドリムに向かって手を伸ばしました。いつものようにイザベル姫の胸にはさまり、ドリムは王宮を移動します。
イザベル姫は国王の前に来ました。
何度か見たことがありました。
直接口を聞いたことはありませんでした。
ドリムにとっては、イザベル姫以外の人間は、ただ人間でしかありませんでした。
「どうしたイザベル?」
王様は尋ねます。王様は真ん中の大きな椅子に座っていました。左右には、立派な服を着た人間たちが並んでいました。王様のそばに控えていました。
「お父様、わらわはこの結婚はお受けできぬ。わらわはすでに、結婚しておるのじゃ」
「なに!」
大きな声を上げて、人間が立ち上がりました。とても怖そうな人間だと、ドリムは思いました。
「誰とだ?」
「ドリムとじゃ」
「……何をいっておる?」
ドリムは王様と始めて会いましたが、王様はドリムのことを知っているようでした。
ドリムはもぞもぞとイザベル姫の胸の谷間から這いだしました。
「これがドリムです」
「イザベルと結婚したというのはそなたか?」
王様は、ドリムに質問しました。疑っているようでした。ドリムは結婚した覚えはありせんでした。
「していませんよ」
ドリムは王様に言いました。嘘はつけませんでした。
「ドリム、わらわとずっと一緒にいると約束したではないか」
「はい。だから、ずっとぼくは姫様と一緒にいます。それが結婚したということでしたら、そうなんですか?」
ドリムには『結婚』が解りませんでした。だから、聞き直しました。
「うむ。そうじゃ。のう、父上」
「イザベルがそう言うのなら、仕方がない。しかし、王女が結婚式も上げないというのは許されん。結婚式の準備じゃ」
王様の左右に並んでいた人たちが、一斉に返事をして、忙しそうに動きだしました。ずっとただ立っていた人間たちが、急に働きだしました。
「ちょっ、ちょっと待つのじゃ父上、本当に結婚式を開くのか?」
「うむ。当然じゃ」
「わらわの結婚式ということは、国を挙げての行事になるのではないか?」
「解っておるな」
「ド、ドリムをそんな場所に、連れ出すわけにはいかん」
「なら、仕方ないな。代役を立てるとしよう。隣国の王子などはいかがかな?」
イザベル姫は答えず、ドリムの頭を撫でました。ドリムはイザベル姫の指を撫でました。
「戻りましょう」
ドリムは言いました。イザベル姫が、とても落ち込んでいるような気がしたのです。
「ドリムはよくわかっているな。姫のことを頼むぞ」
王様はドリムに大きな声でいいました。イザベル姫は王様に舌を出しましたが、ドリムは王様に手を振りました。




