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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと姫の誓い
24/24

24 ドリムの命がある限り

 結婚式の日が迫ってきました。

 イザベル姫とドリムの結婚式ですが、ドリムはあまり人間に見られたくないため、ドリムの代役として隣の国の王子さまが呼ばれることになっていました。

 明日が結婚式という日の夜、イザベル姫はいつものように姫の胸に潜り込もうとしたドリムに言いました。


「こうして、一緒に寝られるのも今日で最後かのう」

「どうしてです?」


 ドリムはもぞもぞと潜り込んだ姫の胸の肉をかき分けて頭を出しました。


「わらわとドリムは明日結婚する」

「なら、ずっと一緒ですね」


「じゃが、実際はドリムの代役として呼ばれた隣の国の王子が、わらわの結婚相手として国民に示されるじゃろう。そうなれば、わらわはその王子と結婚するしかなくなるのじゃ」

「その王子は、ネズミが嫌いですか?」

「それは聞いてみないと……しかし、今までのように、ドリムと二人でいられなくなるじゃろうな」


 イザベル姫は寝る準備をしていましたが、眠くないのか、ベッドを降りました。

 ベッドを迂回してベランダに出ました。

 風が気持ちよかったので、ドリムはベランダの手すりに降りました。


「ドリム、わらわと初めて会った時のことを覚えておるか?」


 唐突に、イザベル姫は尋ねました。


「もちろんです。ぼくはお城の庭に逃げ込んで、泣いていたのを見つけてくれたのです」

「わらわのこと、どう思った?」

「人間だって思いました」

「こういう時は、誉めるものじゃぞ」

「ええと……姫様のことは好きですよ」


 イザベル姫は笑いました。ドリムは、誉めるということがよくわかりませんでした。人間に対して、特別な感情をもつことはほとんどありませんでした。だから、誰かを『好き』というのは、とても誉めたつもりなのです。


「今もか?」

「今は……もっと好きです」

「そうか……わらわもじゃ」


 イザベル姫はドリムの頭をごりごりと撫でました。


「わらわが買ってやった小さな家を覚えているか?」

「もちろんです。とても具合がよかったです」

「ああ。じゃが、あれがあるとドリムが盗まれてしまうと思って、それからはずっと一緒に寝るようになったな」

「はい。もっと気持ちよくなりました」


 イザベル姫の胸の谷間は、とても気持ちよかったのです。


「わらわがさらわれて、ドリムが助けてくれたこともあった」

「ぼくはかじっただけです」

「それが、わらわを助けたのじゃ」


 イザベル姫はドリムのお腹を撫でました。気持ちが良かったので、ドリムはお腹を見せて仰向けになりました。


「……懐かしいな。ドリムが来てから、この退屈な王宮が、とても楽しいものになった」

「でも、騒がしいですよ」

「明日、結婚式じゃからな。ドリム……結婚式では、互いに裏切らないことを誓い合うのじゃ。その誓いも、わらわは代役としなければならん。いま、一足先に誓っておくか?」


「そんな誓いをしなくても、ぼくはイザベル姫を裏切りませんよ」

「それは解っておる。ただの、儀式じゃ。ドリム、目を瞑れ」

「はい」


 なぜか寝そべっていてはいけない気がして、ドリムはベランダの上に座り直しました。

 目を瞑ると、イザベル姫の臭いが近づいてきました。

 ドリムの鼻と口に、いつものイザベル姫の感触が触れました。

 しばらくふれあい、ゆっくりと離れます。


「いまのが、誓いの儀式ですか?」

「うむ……では、もう寝ようか」


 少しすっきりした顔で、イザベル姫は言いました。ドリムは首を振りました。


「少し、ここで休んでいます」

「珍しいな。わらわと口づけして、ドリムでも興奮したか?」


 イザベル姫は笑いました。


「そうですね」


 イザベル姫の笑顔が大きくなりました。

 ベランダの扉を少しだけ開け、イザベル姫は部屋に戻りました。

 ドリムは、最後にイザベル姫の笑顔が見られてよかったと思いました。

 ドリムは、いつのまにか、イザベル姫のことが大好きになっていました。

 ドリムは、自分の気持ちに気づき、同時に、もう時間がないことに気づいていました。


 ドリムは、イザベル姫とずっといっしょにいることを約束しました。その約束は『ドリムの命がある限り』です。


 その時が、訪れたのを知りました。

 動物は、自分の死ぬ時を、人間よりもずっと正確に知ることができます。


 ――これで、ぼくもフィリップと一緒にイザベル姫を……そうか、ぼくには魂がなかった。


 ドリムはこの日、ベランダで眠りました。


 魂のないドリムは、最後まで約束を守り、二度と、目を覚ますことはありませんでした。


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