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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと姫の誓い
22/24

22 ドリムの戦い

 ドリムはイザベル姫とずっと一緒にいることになりました。

それまでもずっと一緒にいたのですが、魔法使いへのお使いという仕事をやり終えたドリムは、イザベル姫の傍にいる以外にすることがなかったため、片時も離れないように気をつけていました。

 イザベル姫がそれを嫌がることもなく、相変わらずドリムを胸の間に押し込んで歩いていました。


「ドリムが退屈するといかん」


 と言いながら、イザベル姫はよく外出をしました。

 お姫様が街に出ることはあまりなかったらしく、街の人々は畏まってイザベル姫に挨拶をしました。

 イザベル姫はたくさんのお客さんが出入りするような食堂に平気で入り、食事をしました。

 お店の人はネズミを見たがらないという理由で、ドリムはテーブルの下にこっそり隠され、隠れてご飯を頂きました。


「最近、よく外に出ますね」


 お腹がいっぱいになったドリムは、膨らんだお腹をさすりながら尋ねました。小さな声で、イザベル姫以外には聞かれないように気をつけました。

 イザベル姫は、器に山盛りになっていた肉料理にかぶりつきながら言いました。


「うむ。実は、宮中にいるのは面倒くさいのだ。しきたりが厳しく、何より貴族の子女どもが顔を売るために用もなく話しかけてくる。こういう衆生の世界を見る機会もない」

「それは窮屈ですね」


 良く意味が解らないまま、大変そうだなとドリムは思いました。


「話がわかるな。いま言ったことは秘密じゃぞ」

「ぼくは、姫様以外の人間とは話しませんよ」

「それでよい」


 イザベル姫は上機嫌で肉に噛みつきました。

 最近では、珍しいことではなくなってきました。

 宮中に戻れば、年老いた人間たちが姫に小言を言うために集まってきますが、イザベル姫は少しも気にしませんでした。






 その日も、いつものようにドリムはイザベル姫の胸に収まって街を見学していました。お姫様の胸を見ようとする人間がいなかったので、ドリムが人間に見つかることはありませんでした。


「なんじゃお前たちは?」


 イザベル姫が鋭い声を出しました。

 周りを、顔を隠した人間たちが囲んでいました。


「一緒に来てもらいますよ。お姫様」

「それは聞けぬな」

「そうはいかない」


 顔を隠した人間たちは、イザベル姫に金属の塊をつきつけました。

 ドリムの目の前に、鋭い先端がありました。これで突かれたら、体に穴が空きそうでした。


「……しかたがないのう」


 お姫様はつかまりました。

 ドリムも一緒です。






 イザベル姫は、崩れそうな廃墟に閉じ込められました。

 ドリムはイザベル姫の胸からもぞもぞと出てきました。


「ここはどこですか?」

「わらわにもわからんのじゃ」

「帰りませんか? お腹が空きませんか?」

「私も帰りたいのじゃが、動けないのじゃ」


 イザベル姫は縛られていました。手足がローブで縛られていたので、動けないのです。


「なるほど、これでは動けませんね」


 ドリムはちょろちょろとイザベル姫の体の上を移動し、手足を拘束しているローブを噛み千切りました。ドリムはネズミです。少しずつかじれば、かじれないものはほとんどないのです。


「おおっ! さすがはドリムじゃ」

「では、帰りましょう」

「そうじゃな」


 イザベル姫は廃墟の汚れを払いながら立ち上がりました。

 廃墟の部屋は狭く、扉も一つしかありませんでした。

 部屋から出ようとしてイザベル姫は扉をがたがたと試しました。

 扉は開きませんでしたが、イザベル姫が腕を組んで考え出したとき、外側から扉が勢いよく開かれました。


「うるせぇ! 殺されたくなければ、大人しく……どうやって、ロープをほどいた!」

「噛み千切ったのじゃ」


 イザベル姫は後ろにドリムを隠しました。ドリムは、イザベル姫が目の前の人間が嫌いなのだとわかりました。


「何を隠した!」

「何も隠してなどおらん」


 イザベル姫は、扉を開けた男に手を見せました。イザベル姫の手に乗っていたドリムは、姫の背中を駆けあがってイザベル姫の首の後ろに隠れました。


「どうでもいい! 部屋に戻れ!」


 イザベル姫は部屋から出ていませんでしたが、扉の前にいたため、男は奥に戻るように言いました。


「ドリム、準備はよいな?」


 イザベル姫は男の言うことを聞かず、ドリムに声をかけました。


「どうぞ」

「な、なんだ? いまのは、何の声だ?」

「なんでもない」


 イザベル姫は言いながら、足を蹴り上げました。男の体の中心の、股間に吸い込まれました。男の顔が青く変わりました。

 ドリムはイザベル姫の頭から、髪飾りを抜きとっていました。イザベル姫の頭からジャンプし、男の胸に髪留めをつきさしました。

 男は苦しそうに体を丸めました。イザベル姫がさらに蹴りつけると、動かなくなりました。


「どうした?」


 部屋は二階のようです。一階から、大きな声が聞こえてきました。


「まだ、沢山いるようじゃな」

「困りましたねぇ」

「うむ、あんな階段など、なければいいのじゃが」


 イザベル姫は、一階と二階をつないでいる階段を指で示しました。


「そうですね」


 ドリムは階段に駆け寄りました。

 階段を支えている木は、とても脆くなっているようでした。ドリムは長い前歯を立てました。


「大丈夫か?」


 下から、また尋ねる声が聞こえました。

 イザベル姫は、階段の上に仁王立ちしました。


「うむ。問題ない」


 堂々と言いました。


「お前! どうやって逃げだした」

「逃げてなどおらぬ。どうどうと正面から出たのじゃ」

「そこを動くな!」


 階段の下に、人間たちが集まってきました。ドリムは階段をかじり続けました。


「どうじゃ?」


 少しだけ心配そうに、イザベル姫が尋ねました。


「もう少しです」

「うむ。なんとかしよう」


 一階から、人間たちが大勢登ってきました。


「動くなよ」

「嫌じゃ」


 人間たちが階段を揺らして登ってきます。イザベル姫は小さく飛びました。ドリムはかじり続けました。

 イザベル姫が床に落ちるのと、人間たちが階段を上るのはほぼ同時でした。

 大きな衝撃が廃墟を揺らし、もともと朽ちかけていた階段が崩れ、人間たちが一階に落ちていきました。

 その衝撃を合図とでも思ったかのように、廃墟に武器を持った兵隊が雪崩れ込んできました。


「姫! ご無事ですか!」

「うむ。ごくろうじゃった」


 イザベル姫は上機嫌で兵隊に言葉を返し、高い位置から見降ろしました。


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