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ネズミのドリム  作者: 西玉
ネズミのドリムと姫の誓い
20/24

20 誘拐

 城の人たちが魔法使いを探してくれている間、ドリムはすることがありませんでした。毎日イザベル姫に連れられ、食べ物をもらって夜は眠りました。

 ドリムの家は、イザベル姫の枕元の小さな小さな家でした。

 特別に作られた、ドリム用の夜間着とナイトキャップに着替え、枕を抱えて寝ようとした時でした。

 大変大きな地震が起こりました。ドリムはベッドにしがみ付きました。

 窓と扉がばたばた開閉し、暗くなった外が見えました。


 ドリムは、夜眠ることが多くなりましたが、もともとは夜行性です。夜でもはっきりと見ることができました。外の景色が飛ぶように変わっていきました。

 どうやら、誰かがドリムの部屋を動かしているのだと気がつきました。

 ドリムがしがみ付いているうちに、ドリムはイザベル姫の部屋から出てしまったことに気が付きました。

 ドリムが乗ったまま、小さな家はどんどん運ばれて行きました。

 ドリムが乗った小さな家は、王宮の中をぐるぐると回り、明るい部屋に運ばれました。

 夜だというのに、とてもとても明るい部屋でした。

 夜だというのに明るいということは、お日様が迷い込んでいるのかもしれないとドリムは思いました。

 お日様に近づいたら、燃えてしまうのだと知っていました。


 ドリムは小さな家に隠れました。

 誰かが話していました。


「確かに、姫様が遊ぶにはいささかおかしな道具だな。しかし、この中に小さな精霊が住んでいるなんて、確かなのかい?」

「間違いない。最近姫様は独り言が多いと侍女たちが話していた。夜になると、この家に、何かを大切にしまっているらしい」

「でも、姫様が一人で話しているだけなら、姫様は最近お疲れなのではない?」


 人間は何人もいるようでした。ドリムは見つからないように隠れながら、話を聴いていました。


「いや、それが、姫様一人の声ではなく、返事をしている声を聴いた侍従がいるのだ。もし本当なら、何かが住んでいるのだ」

「姫様が、腹話術を勉強しているというのでもないかぎりね」


 人間が笑いました。『腹話術』というものを知らないドリムでしたが、話の内容はもともとほとんどわからなかったので、気にしませんでした。ドリムはベッドの上で、小さな体をもっと小さくしていました。

 ところが、隠れる場所は突然なくなってしまいました。小さな家の屋根が、すべて持ちあげられてしまったのです。もともと、外れるようにできていたのでしょう。

 ドリムは人間たちに見つかりました。


「ネズミだね」

「ネズミだわ」

「うぅん。もっと不思議なものが出てくるかと思ったけど、ただのネズミかぁ。姫様のペットだろうね」

「そうだね。でも、姫様はこのネズミをどうしたんだろう。誰かからの贈り物かな? ネズミを飼いたいなんてこと、言っているのは聞いたことがないし」


「姫様はちょっと変わっているからな。侍従の誰かに言って、買いに行かせたんだろう。ネズミなんて、高いものじゃない」

「あまり、売っているのは見ないけどね」


 ドリムは隠れている意味がないことはわかりました。突然動くと、逆に襲われそうな気がしました。動物たちなら、動くものに反応するのです。ドリムはこっそり、ベッドの下に隠れようとしました。

 小さなベッドは、下にもぐるにはドリムにとっても小さすぎました。


「近所の子供に小遣いをやって捕まえさせれば、簡単に手に入るさ」

「そうだね。庶民の子供は汚いからね」


 ドリムは嫌な気持ちになりました。『子供』というのが、小さな人間のことを指しているのがわかったからです。ドリムの友達のフィリップが『子供』だったということは、最近わかったのです。


「ちゃんと洗ったほうがいいかな?」

「下手に扱って、逃げられると姫様に怒られるぞ」

「ううむ。しかし、ネズミか。病気を持っていなければいいがなぁ」


 人間の一人が、ドリムに手を伸ばしました。

 ドリムは人間が嫌いだったので、しっしと追い払いました。


「あんたのことが嫌いだって」

「……今の、ネズミの動きか?」


 笑う人間に、険しい顔をする人間に、色々な人間がいました。


「これはネズミだよ。ほかに、なんだっていうのさ」

「大丈夫ですよ。ちゃんと体は洗っていますから」


 早く人間たちの興味から逃れたくて、ドリムはつい口を挟んでしまいました。人間たちの興味を引いてしまうとわかっていました。でも、黙ってはいられなかったのです。


「ネズミがしゃべった」「ネズミがしゃべった」「ネズミがしゃべった」……。たくさんの人間たちが同じことを繰り返して言っていました。ドリムはしまったと思いましたが、もう誤魔化せません。

 人間の手が、ドリムに向かって伸びてきました。

 ドリムは逃げました。

 手が追いかけてきました。


 捕まったら、殺されると思いました。ドリムは死ぬのが怖くありませんでした。でも、約束が果たせなくなります。ドリムは約束を果たすために生きているのです。魔法使いのお使いをする約束と、フィリップとした『生きる』という約束と、イザベル王女とした一緒にいるという約束です。

 ドリムは気が付きました。『一緒にいる』という約束を、果たせていなかったのです。

 向かってきた人間の手をするりとかわし、ドリムは人間の腕をよじ登りました。人間の腕を走り、ますます追ってくる手をかわし、ドリムは高い場所から落ちました。

 とても高い場所でした。人間の使う机ぐらい高い場所です。ドリムは床の上に落ちましたが、体が小さいのでちょっと弾んだだけで済みました。


 人間たちは慌てました。

 ドリムは逃げました。

 廊下に出て、まっすぐに走りました。

 長い廊下を何度も曲がりました。

 人間たちが追いかけてきました。

 目の前に、大きな扉がありました。

 ドリムの前で、大きな扉が開きました。

 ねぼけた様子で、イザベル姫が顔を出しました。


「ぼくです。ドリムです」

「おお、ドリム。そんなに慌ててどうしたのじゃ?」

「戻ってきました。約束を守るために、戻ってきました」

「うん? 何か約束をしたか?」


 イザベル姫は膝をつき、ドリムに手のひらに乗るよう促しました。ドリムは手のひらによじ登りました。


「姫様と一緒にいることを、約束しました。ドリムは約束を破るところでした」

「おお。そうかそうか。やはりドリムは、私といるのが一番だな」

「約束ですから」


 イザベル姫とドリムの話はかみ合いませんでしたが、ドリムは気にしませんでした。姫は寝ぼけていました。


「では、ずっと一緒にいるとしよう」


 いつものように、姫はドリムを胸の谷間に押し込みました。いつもと違い夜間着だったので、いつもより余計に肉が柔らかく感じました。

 ドリムは柔らかい肉に挟まれて、眠ってしまいました。


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