17 旅の再開
ネズミのドリムには魂がありません。
甦らせられた、死んだネズミです。
魂がないドリムは、死ぬことが怖くありませんでした。
生きていることに意味がなくなれば、いつでも死ぬつもりでした。
ドリムには、生きる意味が必要です。
ドリムはお月様のような魔法使いと約束をしました。
約束を果たすという目的ができるまで、生きる意味がありました。
ドリムは、病気のフィリップにお願いをされました。
お願いを果たすまで、死ぬことはできません。
ドリムはフィリップの棺桶に穴を開け、土を掘り、地上に出ました。
白い体がすっかり汚れてしまいましたが、ネズミのドリムは気にしませんでした。
外に出た時は、あたりは暗くなっていました。どうやら夜のようです。
夜の墓地を、ドリムはとぼとぼと歩きました。
夜の墓地で、赤く光る小さな点を見つけました。
ふらふらと動く小さな明かりに嫌な感じがしたので、ドリムは墓石の一つに隠れました。
ドリムが隠れていると、目の前を、よだれを滴らせた四本足の毛だまりが、牙を剥きだしにして歩いていきました。
犬でした。
墓地を縄張りにしているのかもしれません。
ドリムは怖くなりました。
人間よりは小さな生き物に見えました。
人間より獰猛に見えました。
人間はドリムと話ができますが、ドリムは犬とは話せません。
犬は言葉がわからないのです。
ドリムは墓地を見回しました。
墓地の周りは森に囲まれていました。
墓地は、普段は人の目に見えないように、森で覆われていました。
犬に、あるいは犬たちに、見つかることを恐れたドリムは、森に飛び込みました。
ドリムは、死ぬわけにはいかなかったのです。
ドリムは森のなかをとぼとぼと歩きました。
ドリムの視界の先に、小さな動くものがいました。
ドリムと同じ、ネズミの仲間でした。
ドリムはネズミを見ても、仲間だと思えなくなっていました。
ネズミはネズミです。ドリムはドリムです。
大きな動物よりは安心です。
ドリムは近づこうとしました。
ドリムの目の前で、小さなネズミが鋭い爪に摘ままれました。
大きなフクロウが、ネズミを爪でつかみ、静かに舞い上がっていきました。
食べるために違いありません。
ドリムは怖くなりました。
ドリムは木を登ることにしました。
木に登っていれば、フクロウに見つかっても逃げられそうな気がしたのです。
ドリムは、死ぬわけにはいかなかったのです。
ドリムは、木の枝の上をとぼとぼと歩きました。
ドリムが歩いていた木の枝が、突然強く揺れ出しました。
ドリムが木の枝にしがみつきながら後ろを見ると、木の枝に、光る眼をした動物が座っているのがわかりました。
その動物はあたりを見回していました。ドリムには気づいていないようでした。
目の光る動物が枝を蹴り、地面に降りました。
地面には、小さなネズミがいました。ネズミは慌てて逃げようとしましたが、光る眼をした動物は簡単に前足でネズミを捕まえ、食べてしまいました。
目が光る動物は、チンパンジーだとドリムは気づきました。
ドリムは恐ろしくなりました。
ドリムは急いで小さな森から逃げだすことにしました。
ドリムは死ぬわけにはいかなかったのです。
ドリムは、道端をとぼとぼと歩きました。
人間に見つかるのは嫌だったので、人間に見つからないように気をつけました。
裏道を歩き、ゴミ箱をあさっていた毛玉に出くわしました。
ドリムは、ネコだと気が付きました。
ネコはドリムに気が付きました。
ネコはドリムに顔を近づけました。
ネコは牙を剥きました。
ドリムは、今まで出会った動物に比べれば、ネコはなんて小さいのだろうと思いました。大きく開いた口に、ドリムは落ちていた空きビンを詰めました。
ネコは苦しそうに暴れ出しました。
ドリムは歩き続けました。
ドリムは死ぬわけにはいかなかったのです。




