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ネズミのドリム  作者: 西玉
フィリップとの約束
14/24

14 フィリップ

 ネズミのドリムはフィリップから枕をもらい、ベッドの下に住処を作りました。他の人間に見つかると、殺されそうになることはもう経験したからです。見つからないようにしようと思いました。

病院のベッドは、下が鉄パイプになっていました。枕を歯でちぎって、ハンモックのような住処を作れば、人間がベッドの下に潜り込まなければみつかることはありません。掃除の人も、ベッドの下に潜り込んで掃除することはありません。


 フィリップは、ドリムの住処ができてから、少しずつご飯を残すようになりました。お菓子を残すようになりました。誰もいなくってから、こっそり床に落としました。ドリムが美味しくいただきました。

 ドリムがいるだけでフィリップは嬉しそうでした。ドリムもフィリップとの約束を守りながら、のんびりと過ごしました。






 フィリップが手術を受ける日が来ました。フィリップが眠れなかったので、ドリムは一晩中フィリップと話をしていました。ドリムは、フィリップが小さな人間とは思えないほど、色々なことを知っているのに驚きました。

 フィリップは、ネズミを食べるネコのことを知っていました。ネコが怖がる犬のことを知っていました。ドリムは知らないことでした。世の中にどれほど多くの人間がいるのか、人間の多くが生きる目的を明確に持っていないことを、フィリップは知っていました。生きる目的を明確に持っていない人間が、どうして死なないのか、ドリムにはわかりませんでした。ドリムは作られた生き物です。魂がありません。魂を持った生物のことは理解できませんでした。


 フィリップが眠れないまま、ドリムと話し続け、朝が来ようとしていた時、ドリムはフィリップに尋ねました。


「やっぱり、手術はやめた方がいいんじゃないですか?」


 ドリムは、フィリップの様子が変だと思いました。どこが変なのかはわかりませんでしたが、今まで夜はぐっすり眠っていたのです。ドリムと話して、とても楽しそうだったのです。ドリムと一晩中話して、泣きそうな顔はしていなかったのです。


「ううん。やる。でも……ちょっと待って。ドリム、字は読める?」

「簡単なものなら」


 ドリムは人間が使う字というものがあることを知っていました。少しなら読むこともできました。でも、ほんの少しです。


「大丈夫。ぼくも難しいのは解らないから。ぼくの手術が終わったら、ぼくに返して」


 フィリップは紙の切れ端に、ペンで何かを書きました。ドリムに持てるように、小さくたたみました。ドリムに字が読めるか聞いたので、何か字を書いたのだろうと思いました。


「中を見てもいいですか?」

「もし、ぼくに返せなかったらね」

「そんなことがあるんですか?」


 フィリップは小さく首を振りました。たぶん、そんなことは起こらないというつもりなのだと、ドリムは考えました。どうして口に出して言わなかったのか、ドリムには解りませんでした。

 ドリムの小さな手の中に、小さく折りたたんだ紙はすっぽりと収まりました。フィリップの手術は今日なので、今日中に返せるはずでした。ドリムはずっと手に持っていることにしました。


「手術が終わって病気を追いだせたら、フィリップの願いが一つ叶いますね」

「……うん。そうだね」


「病気を追いだせれば、もう一つの、部屋に戻るお願いも叶いますか?」

「うん……たぶん」

「では、三つ目のお願いは、いつまでですか?」


 フィリップは、ドリムに頼みました。ずっと一緒にいてほしいと頼んだのです。だから、ドリムはずっとフィリップのそばに居ることにしたのです。神様に会いに行くこともせず、フィリップのそばにいることにしたのです。


「嫌なの?」

「いいえ。楽しいですよ」

「なら……ずっと……」

「ええ。いいですよ」


 断る理由もありませんでした。お月様の魔法使いと約束したような気もしていましたが、フィリップのお願いが終わってからでいいだろうと思いました。

 フィリップのお願いがずっと終わらなければ、ずっと後でいいだろうと思いました。


「手術の時も、一緒にいてくれる?」

「もちろんです、約束ですからね」

「ありがとう。少し寝るよ。ドリムも寝て」


「ええ。フィリップは寝られそうですか?」

「うん。大丈夫」

「では」


 ドリムはベッドから、ベッドの下の住処に戻りました。前足の一つに折りたたんだ紙を握っていたので、手の代わりに歯でベッドのシーツを伝い、住処に戻りました。一晩中フィリップの相手をしていたので、すっかり眠くなっていました。ドリムは眠りました。

 ドリムは寝入ってしまいました。


 起きた時には、すっかり明るくなっていました。

 ベッドにフィリップはいませんでした。

 ドリムは、フィリップはもう手術に行ったのかもしれないと思いました。

 一緒にいると約束したのに、起こしてくれなかったのだと思いました。

 ほかの人間がたくさんいて、ドリムを起こせなかったのかもしれないと思いました。

 ドリムは部屋でフィリップを待つことにしました。


 ドリムは待ちました。

 太陽が傾き、影が長く伸びるようになりました。

 ドリムはフィリップを待ちました。

 フィリップは、帰ってきませんでした。


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