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ネズミのドリム  作者: 西玉
フィリップとの約束
12/24

12 人間のお医者

 ドリムが目を覚ましても、フィリップは目を覚ましませんでした。ドリムは約束通り、部屋から出ずに散歩をしました。部屋はフィリップだけのものでした。とても広く、何もない部屋でした。

 しばらくすると、部屋の扉が開きました。ドリムはとりあえず、ゴミ箱の影に隠れました。部屋には何もありませんでしたが、それは人間からみれば何もないように見えるだけで、ドリムにとって隠れるのはとても簡単でした。


 開いた扉からは、大勢の人間が入ってきました。全員、白い服を着ていました。あれがお医者さんだと、ドリムはなんとなく想像しました。フィリップの病気を追いだす方法を知っているのに、追いだしてくれないのでしょうか。お医者さんがすぐに追いだしてくれるなら、フィリップがドリムにお願いするはずがありません。

 一番前にいた人間が、周りの人間に話しかけました。フィリップの名前を確認しているようでした。

 フィリップの寝ている間に、フィリップの上にあったシーツをめくり、服をめくりました。耳から伸びた線を、フィリップのむき出しになったお腹に当てました。


 お医者さんらしい人間は、難しい言葉で隣のお医者さんらしい人間に話しかけました。話しかけられた人間は、持っていた板を尖った棒で撫でていました。

 フィリップの中から、病気を追いだす方法を話しているのでしょうか。

 ドリムは一生懸命に聞いていましたが、とても難しい言葉だったので、何を言っているのかわかりませんでした。理解できたのは、『一週間後』と『手術』という言葉だけでした。その言葉も、どんな意味なのか、ドリムにははっきりとは解りませんでした。


 ドリムはお医者さんに、直接話を聞いてみたいと思いました。

 フィリップには、他の人間に見つからないように注意されています。ドリムはもともと人間があまり好きではなかったので、見つからないようにしようと思いました。

 お医者さんと思われる人間たちは、みんなフィリップを見ていました。

 ドリムは静かに近づきました。普通に歩いていれば、ドリムの足音はとても静かです。

 ドリムはとても軽いので、人間の服を登っても気づかれませんでした。人間たちの真ん中にいたお医者さんのポケットに、ドリムは潜り込むことができました。






 お医者さんのポケットの中で、どうすれば人間に見つからないでフィリップの病気を追いだす方法を聞きだせるのか、一生懸命に考えました。

 いい考えは浮かばなかったので、人間が少なくなるまで待つことにしました。いつまでも待つのかはわかりませんでした。

 ドリムはいつまでも待つつもりでした。


 しっかりと待つつもりのドリムは、いつの間にか寝てしまいました。人間のポケットの中は、とても温かいのです。

 目が覚めると、ドリムは物音が聞こえないことに気づきました。周りには誰もいないかもしれません。ずっと聞こえていた、お医者さんの心臓の音も聞こえませんでした。

 ドリムはポケットから顔を出しました。

 知らない部屋でした。


 広い、色々なものが置いてある部屋でした。

 ドリムが入ったポケットのある白衣は、壁にかけられていました。

 人間はいないようです。

 ドリムは床に飛び降りました。


 窓際に大きくて立派な机と、机の正面に重そうな扉があるのがわかりました。ドリムは大きくて立派な机に上ってみました。机の上から、おいしそうな臭いがしていたのです。

 机の上には、お皿に乗ったお菓子がありました。

 ドリムはネズミの小さな手で、お菓子の包み紙を剥くと、甘いお菓子を取り出しました。前歯でかじりました。口の中に貯めました。

 お腹がいっぱいになるまでお菓子を食べました。


 扉が開きました。ドリムは、人間には見つからない方がいいと言われたのを思いだしました。

 扉が開いて、人間が入ってくるまでの間は、ドリムにはとても長い時間のように思えました。ドリムは机から窓に向かって、つまり机とは反対方向に、飛び降りました。

 ドリムが床に落ちた時、重い、大きな足音が部屋に入ってきました。

 ドリムは、机の影に隠れました。小さなドリムは、机の影にすっぽりと隠れることができました。

 人間は机までまっすぐに進み、回り込んで椅子に座りました。大きな人間がどっしりと座ったので、椅子がきしみました。


 ドリムは、椅子に座ったのがお医者さんだとわかりました。白衣は着ていませんでしたが、ドリムが入りこんで眠ったポケットの中と、同じ匂いがしました。

 ドリムは、お医者さんに聞かなければいけないことがあることを、忘れていませんでした。ドリムは隠れたまま、しばらく小さくなっていました。人間に見つかりたくなかったのです。フィリップが、見つからないように言ったのです。ドリムも、あまり人間が好きではなかったのです。


 ドリムはしばらく待ちましたが、お医者さんが一人だけで、そのほかは誰も入ってきませんでした。

 ドリムはお医者さんに聞いてみたいことがありました。見つからずに聞くにはどうすればいいのか、考えました。

 ドリムは、お医者さんに見つからない場所から聞いてみることにしました。

 ドリムは机から椅子の後ろに移動し、お医者さんの背中を上りました。

 ドリムはずっと上りました。

 ずっとずっと上りました。






 一番高い場所に上って、ドリムは尋ねました。


「フィリップの中から、病気を追いだすにはどうすればいいんですか?」

「誰だ?」


 お医者さんはドリムの質問には答えませんでした。答えずに、逆に聞き返しました。ドリムは見つかりたくありませんでした。質問には答えないことにしました。


「フィリップを知っていますか? 小さな人間です」

「……うちの病院に、最近入院した患者だな」


 お医者さんは答えました。ドリムは上手くいったと思いました。


「どうすれば、フィリップの中から病気を追いだせるんですか?」

「誰か知らんが……あの子の病気は深刻だ。もともと心臓の動きが悪い。手術して、心臓が動きやすくするしかない。産れつきの体質だ。体の中から、追いだせるものじゃない」


 ドリムには、お医者さんが言っていることがよくわかりませんでした。でも、説明してくれたのは確かです。少し考えた後、聞き直しました。


「よくわかりました。フィリップは、どうすれば自分の部屋に帰れるんですか?」

「手術して、成功すれば、経過次第だろう」

「成功しなかったら、どうなります?」


「二度と自分の部屋には戻れない。あくまでも、可能性だ」

「成功しますか?」

「何ともいえない。可能性は五分五分だな」


 お医者さんは言いながら、部屋の中をぐるぐると見回していました。話しているのが誰なのか、確かめようとしているようでした。ドリムはじっとしていました。お医者さんには、決して見つからない場所のはずでした。

 お医者さんの動きが止まりました。一か所を、じっと見ていました。


 ドリムも同じ方向を見ました。

 ドリムが見返しました。

 ドリムが乗っていた、お医者さんが見返しました。

 鏡というものを、ドリムは知っていました。お医者さんと一緒に、お医者さんの頭に乗ったドリムがはっきりと映っていました。

 ドリムは、お医者さんの頭の上に乗っていたのです。

 お医者さんは、ゆっくりと机の上に置いてあった厚い本を持ち上げました。

 ドリムは最後の質問になることがわかっていました。少し早口で言いました。


「フィリップの中から病気を追いだす方法を、知っている人はいませんか?」

「神様でもない限り、無理だな」

「そうですか」


 ドリムの上に、分厚い本が振り下ろされました。

 ドリムはお医者さんの頭を蹴りました。鏡と反対側に、お医者さんの後頭部を駆け下りる形で飛び降りました。

 分厚い本が、お医者さんの頭に落ちました。

 中かが倒れる重い音を聞きながら、ドリムは扉にむかって走りました。

 扉が開きました。


「どうしました? 医院長先生」

「そいつを逃がすな!」


 扉を開けたのは人間でした。お医者さんは、ドリムを逃がさないように言いました。ドリムは、やっぱりフィリップの言ったことは正しかったと思いました。ドリムのことをお医者さんは好きではないのです。見つかってはいけないのです。

 とても久しぶりに、ドリムは手を前足として使って床を走りました。

 人間の足元を走り抜けました。


「誰のことですか?」

「そいつだ!」

「えっ?」


 慌てるお医者さんと人間の声を聴きながら、ドリムは清掃のために開けられたままになっていた、通風孔の穴の中に飛び込みました。


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