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不器用な魔術師と、行き場のない弟子 〜失われた魔法を追いかけて〜  作者: 些細


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19/20

第19話 目覚めの朝

ノアが目を覚ましたのは、術式決行から丸一日が過ぎた頃だった。

「……ここ」

「宿の部屋だ。魔力切れで、丸一日眠ってた」

 アルヴィンは、ベッドの脇に置いた椅子から、静かに答えた。ずっと、そこに座り続けていたことが、その言い方から伝わってきた。

「アルヴィンさん、ずっといたんですか」

「……当然だろう」

 ぶっきらぼうな返事に、ノアは小さく微笑んだ。身体を起こそうとして、まだ力の入らない腕に苦笑する。

「無茶させて、すみませんでした」

「謝るのは、俺の方だ」

 アルヴィンは、静かに首を振った。

「お前の限界を、正しく見極められなかった。判断が甘かった」

「アルヴィンさんは、ちゃんと止めてくれました」

 ノアは、はっきりとそう言い切った。

「あのまま続けていたら、わたし、危なかったんですよね」

「……ああ」

「なら、正しい判断です」

 あっさりとした肯定に、アルヴィンは何も言い返せなかった。ただ、彼女の言葉の真っ直ぐさに、これまで何度も救われてきたことを、改めて感じていた。


            ※


  その日の午後、エリスが見舞いにやってきた。

「よかった、顔色戻ってますね」

「ご心配おかけしました」

「本当ですよ。二人とも戻ってこなかったらどうしようかと」

 エリスは冗談めかしてそう言いながらも、その声には本物の安堵が滲んでいた。

「それで……フィリアさんとは、会えたんですか」

 その問いに、アルヴィンはしばらく沈黙した後、静かに答えた。

「完全に、というわけじゃない。姿を見ることもできなかった」

「でも」

 ノアが、横から言葉を継いだ。

「声は、聞こえましたよね。最後に」

「……ああ」

 アルヴィンは、あの瞬間を思い返した。『ありがとう』――たった一言だったが、その声は、確かにフィリアのものだった。

「まだ、完全な形じゃない。だが、道の途中に、確かな手応えはあった」

「じゃあ、続けるんですか。この研究」

 エリスの問いに、アルヴィンは、少し考えてから頷いた。

「ああ。ただし――」

 彼は、ちらりとノアを見た。

「今度は、もっと慎重に。無理のない範囲で」

「わたしも、賛成です」

 ノアが、力強く頷く。

「せっかく手応えを掴んだんです。今度は、ちゃんと安全に、最後まで辿り着きたいです」

 その言葉に、アルヴィンは小さく微笑んだ。自分でも、久しぶりに浮かべた表情だと気づいた。


            ※


  数日後、ノアはすっかり元気を取り戻し、二人は再び日常の中に戻っていた。窓辺の水色の魔力灯が、変わらず穏やかな光を灯している。

「アルヴィンさん、これからどうします? まだこの町にいますか」

「……しばらくは、な。理論の見直しに時間がかかる」

「じゃあ、まだ一緒にいられますね」

 嬉しそうなノアの言葉に、アルヴィンは頷いた。

「……ああ」

 あの日、遺跡で聞いた『ありがとう』という声が、まだ耳の奥に残っている。それは終わりの言葉ではなく、まるで、これから進む道を、そっと後押ししてくれているようだった。

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