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第一章 旅立ちのイーステン  1-4 悪意と決意と

~前回のあらすじ~

サルベージャーのレインは遺跡の中で一人の少女を助ける。

彼女は殆どの記憶を失っていて、ナナリーという仮名を付けられる。

彼女が唯一覚えていたやらなければならない事。

それは、帝国の魔女と呼ばれる人物に会いに行く事だった。

レインはナナリーを帝国へ送り届ける役を買って出る。

ナナリーは対価として彼に銀色の指輪を渡すのだった。

イーステンの街のはずれにある巨大倉庫。

ここはドモンの率いるサルベージャーチームの拠点である。

ドモンは数年前にここを借り受けて住み着いていた。

ひと際大きく作られた倉庫は住居兼、整備工場となっている。

ここでワーカーやそれを輸送するキャリアーを整備しているのだ。


ドモンはギガンティアを持っていない。

ドモンが持っている機体はワーカーと呼ばれる、いわば簡易版のギガンティア

である。

遺跡の発掘作業においてギガンティアは便利であったが、希少である為皆が

所持できるわけではなかった。

その代替を求めて作られたのがワーカーである。

とあるサルベージャーがガーディアンを参考に開発したと言われ、最初の一台は

ガーディアンとギガンティアのジャンクパーツから組み上げられたらしい。

あくまで作業機械を目的にして作られたものなので、戦闘能力はギガンティアに

及ぶべくもなく、疑似的な人型でサイズはギガンティアよりも大分小さい。

それでも、様々な作業をこなせる機械としてワーカーはとても優秀であり、近年

広く普及している。


今倉庫内では前回調査した遺跡に再突入すべく準備に追われていた。

整備士達はガーディアンとの遭遇に備えてワーカーの装備の調整に追われていた。

ワーカーはギガンティアの様な堅牢な装甲はない為、ガーティアンと戦闘になれば

まさに命がけである。

基本的には戦闘はギガンティアに任せるしかないが、戦いの援護をしたり、不意の

遭遇で撃破されないように色々な装備を付けておくのだ。


前回の調査は、足場の崩壊やガーディアンの出現で途中で打ち切られている。

ドモン達は何も回収せず撤収する事になってしまったのだ。

遺物を回収して生計を立てるサルベージャーにとってこれは死活問題だ。

遺跡の調査も重要だが、前回レインが倒したガーティアンが残されているため、

それを回収するのが今の最優先事項であった。


ガーディアンはサルベージャーにとって宝の山だ。

機体に使われている希少金属やパーツはそのままワーカーの部品となる他、

駆動エネルギーとして使われているアンバーという結晶体は、都市の発電システム

のエネルギーなどにも使われている。

どれも高値で取引される物だ。

つまり、彼らにとってはお宝を置いたまま引き揚げてきたようなものだ。

ギルドから求められた報告書と共に、再突入の申請書はギルドに送っている。

彼らは再突入に向けて急ピッチで作業を進めていた。


レインも倉庫の隅で自分の機体の調整をしていた。

レインは現在ドモンと一緒に仕事をしているが、本来はフリーの傭兵だ。

サルベージャーの護衛をするのを主な仕事にしていて、護衛や運搬を行う代わりに

自身もサルベージャーの一人として、報酬や分け前を貰うという立場だった。

一人であってもサルベージャーギルドに登録と報告をきちんとしていれば、遺跡を

探索する事も可能ではある。

ギガンティアがあればガーディアンと遭遇しても一人で対処は可能だ。

だが、サルベージャーとして物品の回収を行うには人手がいる。

特に倒したガーディアンの巨体を運搬したり、回収した物品を保管したり売却する

のにも場所や手間はかかる。

どうしても個人ではサルベージャーとして活動するには限界があるのだ。

レインもそれは理解していて、今はドモンと契約をし、彼の所有する建物の隅に

間借りしている状態だった。

ドモンの方もお堅いギルドナイト達に手を借りるよりも、レインのような個人の

ギガンティア乗りの方が何かと融通が利き、都合がいいのだ。


レインは操縦席内で操作パネルを覗き込み、機体の各部の動作確認を行っていた。

センサーの反応を見る。

ギガンティアのセンサーの動体反応は良好だ。

周囲の状況を確認すると、倉庫の表に数台の車が停車したのが確認出来た。

この倉庫には物品の取引やギルドからの使者など、車が来るのは珍しくもない。

レインは特に気も止めずに作業を続けていた。

しばらくすると機体の傍から声が響いて来た。


「アシュランド殿ー! アシュランド殿! おられますか」


レインが操縦席から顔を出すと、機体の足元でブライアー・エレバンがこちらに

向かって手を振っていた。

ドモンの部下で優秀な整備士であると共にワーカー乗りでもある。


「大変です。ギルドナイトが乗り込んで来たみたいです」


「ギルドが?」


レインは素早くギガンティアのハッチについている昇降ワイヤーを使って降りる。

それを見たエレバンが駆け寄って来た。


「何があった?」


「この間のアモイ殿と数名の職員が事務所に入って行きました。

 なんか物々しい雰囲気があったので、貴方にも知らせておこうかと。

 おやっさんは事務所で彼らと話しています。

 ライラ嬢は出かけてますが、ナナリー嬢は事務所にいるはずです」


「わかった、確認してくる」


レインは嫌な予感を感じて事務所へ急いだ。

事務所に入り口には二人のギルド職員がいる。

ライフルを肩に掛けている。明らかに連絡で来た様相ではない。

事務所の入口へ駆け寄ってきたレインをギルド職員が静止する。


「待て。今は入るな」


レインは表情を変えず答える。


「ここの関係者だ。通せ」


「今は誰も入れるなと…」


ギルド職員がそう言いかけた時、ガチャりと音がして事務所の扉が開く。

中からギルド職員二人に挟まれてナナリーが出て来た。


「レインさん…」


ナナリーは目の前にいるレインを見て不安そうに呟く。

レインが声を掛けようとした瞬間、後ろからアモイが姿を現した。


「いたかアシュランド。お前も一緒に来い」


命令口調のアモイ。

彼の態度は何故かいつも尊大だ。


「何の話だ。説明してもらおうか」


その問いに答えたのはアモイの後ろから出て来たドモンだった。


「提出した調書じゃ分らん事があるから出頭しろ、だとさ。

 オレと旦那と嬢ちゃんの三人が呼ばれてるそうだ。

 こっちは作業を邪魔されて大迷惑なんだけどな」


ドモンは少し困ったような、迷惑そうな顔をしている。

不満そうなドモンをアモイは一瞥すると話を続けた。


「別の支部から確保と確認の要請が来ているんだよ。

 文句を言いたけりゃすぐにでもサンディの支部に問い合わせな。

 まあどんな返事が来ようが、それまではこっちは予定通りやらせて

 もらうがな」

 

ドモンは呆れ顔でアモイを見た後、レインへ話を振る。


「この有様さ。旦那、悪いけど付き合ってくれ」


「…わかった」


特に抵抗する様子もないレインを見て、アモイは不敵に笑う。

すると倉庫の方から様子を伺っていたエレバンがこちらに走って来た。


「おやっさーん! どうなってます?」


息を切らして駆け寄ってきたエレバンに対し、ドモンは笑いながら肩を叩く。


「ちょっと聴取に行ってくる。大丈夫だ。

 すぐ戻れると思うが、留守を頼む。

 ライラが戻ったら心配しないように伝えてくれ」


「わかりました。任せて下さい」


アモイはそのやり取りを見届けた後、倉庫の前に止まっている輸送車を指さす。


「さて、とっとと行くぞ。二人はそっちの車だ。

 お前はこっちな」


アモイは傍でやり取りを見ていたナナリーの手をいきなり掴んだ。


「きゃあっ」


急に手をつかまれ、ナナリーは驚き声を上げる。

怯えた表情を浮かべる彼女に対し、アモイは少し不満そうな顔で言い放つ。


「疑いが掛かっているのはお前なんだ。大人しくしとけ」


その様子を見てドモンが駆け寄る。


「アモイさんよ、手荒な真似は止してくれ」


そう言って近づいて来たドモンの声は、いつもの様な明るい口調と少し違った。

一方のレインは何も言わなかったが、アモイをじっと見ている。

いつもの通り不愛想だ。

だが、アモイは二人の雰囲気が明らかに変わったのを感じ取った。


「わかってるよ。

 おいおいアシュランド、そんな怖い顔するな。

 何も取って食おうってわけじゃねえよ」


アモイは冷静を装いながらレインを皮肉り、ナナリーから手を離した。


「いいから、手荒に扱われたくないなら早く乗れ」


アモイに促され、ナナリーはアモイと共に支部の車に、後の二人は傍にある

輸送車に一緒に来ていたギルド職員と共に乗り込んだ。

二台の車はイーステンのギルドナイト支部へ向けて移動を始める。


輸送車の中にはレインとドモン、そして二人のギルド職員が乗っている。

レインは腕組みをして目を閉じて黙り込んでいる。

つまらなそうに足を組んでいたドモンはそんなレインを見ると声を掛ける。


「旦那、嬢ちゃんの事が心配か?」


レインは目を開けてドモンをちらりと見る。


「…やり方が、少し強引だと思ってな」


「そうだな。

 特に被害も出てないのに無断侵入で拘束か。意味がわからんな。

 何か他の目的があるんじゃないか…

 なあ、アンタらはどう思う?


ドモンは同乗しているギルド員に話を振る。

ドモンの隣に座る若いギルド員は複雑な表情をした。


「へ、変な憶測を立てるな。馬鹿にしてるのか!」


ドモンもギルドに出入りする手前、このギルド職員の顔は覚えていた。

少し困惑して話すこの若い男はラサ。

もう一人の方はカイフォンという名前だと思い出した。


「これでもあっしらは協力するために同行してるんですがね。

 そんな言い方はねえんじゃないかい?」


「貴様っ…」


煽るような態度を取るドモンにラサが苛ついたような声を上げる。

それを見たカイフォンがラサを窘める。


「そこまでにしとけ。

 そうやって高圧的に接するから、俺達の評判は落ちるんだぞ」


それに対しラサは不満そうな顔で答える。


「ですが、先輩…」


血気盛んなラサに対しカイフォンは諭すように話を続ける。


「サルベージャーギルドなんてな、今でこそ公的機関になってるが、

 元は私兵団みたいなもんだ。

 市民から協力得たければ偉ぶるんじゃない」


「…わかりました」


どうやら先輩には頭が上がらないようだ。

納得いかなそうなラサを見てドモンは笑う。


「ははは、今の言葉、アモイの旦那に聞かせてやりてえな」


カイフォンは苦笑いをしながらドモンを見る。 


「お恥ずかしい。ギガンティア乗りは特にそういうのが多くて。

 ただ、さっきの話ですが…」


「なんだい?」


「別の目的、と言うのはあながち外れてはいないかもしれません。

 そうでなきゃ外部からの横やりだとかそんな理由で、あの娘を無理やり

 連れて行こうとする意味が分かりませんからね」


カイフォンの言葉を聞いて、黙り込んでいたレインは目を開け彼の方へ向いた。


「ギルドはあの娘が何者か知っているのか?」


カイフォンはレインを見て首を横に振る。


「さあ… 少なくとも我々は何も。

 でもサンディ市の方から指示が出たという事は、あっちは何か知っている

 のかもしれませんね」


饒舌に話すカイフォンをラサが不安そうに口を挟む。


「先輩、しゃべりすぎじゃないですか? まずいんじゃ…」


カイフォンはラサを見ると真面目な顔をして話を続けた。


「難癖つけて少女を連れ去っているのは事実だろ。

 お前はおかしいと思わないか」


「そりゃあ… まあ、そうですけど」


言い淀むラサを見て、ドモンはガハハと笑う。


「色々聞かせてくれてありがとよ。あんちゃん。

 まともな奴がいてほっとしたよ。なあ」


「そうだな。

 少なくとも組織ぐるみで人攫いしている訳ではなさそうだ」

 

皮肉交じりに答えるレインにカイフォンは困惑した表情を浮かべた。


「止して下さいよ。そんなわけないじゃないですか。

 ただ、最近はギルド内の派閥争いに王国や帝国の手が伸びてるって話も

 ありますからね。

 何かを知っている所からの圧力かもしれません」


その言葉にレインは思考を巡らせる。


(帝国の要人に会いたい少女…

 王国が何かを知っているなら接触してくる事もありえるか)


輸送車のスピードが落ちる。

カイフォンは窓から外を覗く。


「到着したようです。

 …先ほどの話は、どうか聞かなかった事に」


カイフォンはドモンに向かって軽く会釈をする。

ドモンはカイフォンに向かって頷く。


「何か世間話をしてた奴がいたみたいだけど、何の話だかすっかり

 忘れちまったよ。なあ」


ドモンはレインに目配せする。

レインはそれをちらりと見ると、また腕を組んで目を閉じる。


「ああ、そうだな」


カイフォンは二人のやり取りを見て安心した顔をして立ち上がる。


「助かります。さあ、どうぞ」


カイフォンに促され、二人は輸送車を降りた。

目の前にはギルドナイトイーステン支部の建物があった。

レイン達はカイフォン達に連れられ、その建物に入っていく。

ナナリーは既にアモイに連れられて別室へ向かったらしい。


その後、三人はギルド支部内で別々に聴取を受けた。

レインとドモンの聴取は簡単な物だった。

そもそも提出した調書以外に大した事実もなかったので、簡単な確認だけで

すぐ終わってしまった。

日が傾く頃には解放された二人だったが…



「どういうことだ!」


ドモンは支部の受付で怒鳴り散らしていた。

ナナリーを待っていた二人だが、いつまでたっても彼女は戻ってこない。

しびれを切らしたドモンは受付に乗り込んで問い正していたのだ。


「ですから、あの娘はまだ嫌疑が晴れていないので帰す事は出来ません」


受付のギルド職員が事務的な対応で答える。


「嫌疑って何だ!? 何も被害は出ていないだろ!」


「答えられません」


相変わらず受付のギルド職員は顔色変えずに事務的に言葉を返す。

その態度にドモンはいら立ちを覚える。


「埒があかん。支部長に会わせてくれ」


「できません」


「何だと?」


「取り次ぐな、と言われています。今日の所はお引き取りを」


「じゃあ、明日来たら嬢ちゃんは返してもらえるのか」


「お答えできません。お引き取りを」


ドモンは怒りを抑えながらもギルド職員を睨みつける。

ギルド職員も負けじとドモンの目をまっすぐ見ながら冷静に対応する。


「…わかった。旦那、引き揚げよう」


ドモンは後ろで様子を見ていたレインに声を掛けると二人で支部を出て行く。

ドモンは建物の外に出ると支部の建物を見上げる。


「けっ、一体何を考えてやがる。

 どうしてそこまでして嬢ちゃんを拘束したいんだ?」


「ギルドだけの事情じゃないんだろう。

 話にあったように、王国辺りが絡んでいるのかもしれない」


「王国かあ。

 嬢ちゃんが帝国の人間ならそういう事もあるかもしれねえが…

 もしかして本当に魔女の隠し子って事もありえるのかもな。

 それなら王国が身柄を確保したいってのも理解できるが…

 だとするとだ、何であんな所で見つかったんだ。

 未調査の遺跡だぞ。あんな場所に隠れ住んでいたってことか?」


「それはないな。

 助けた時の服装は、明らかに生活感が無かった。

 暮らしていたという感じではなかったな。

 それに、わざわざ王国に近い東方へ来て隠れ住む意味はないだろう」


そう、まるで遺跡の遺物の様に「見つけた」という感覚だった、と

レインは続けたかったが、その言葉を飲み込む。


「確かにわざわざ遠い所にいる意味はわからんな。

 帝国から狙われていたから… って線もないか。

 嬢ちゃんは帝国に行きたいと言ってたしな」


レインは足を止める。

ドモンは急に立ち止まったレインを不思議そうに眺める。


「どうした? 旦那」


「…ドモン、悪いが、今度の遺跡調査の同行契約をキャンセルしてくれ」


突然の話にドモンは慌てて返す。


「おいおい、いきなりだな。どういうことだ」


レインは沈黙して答えない。


「旦那、まさか…」


レインは何も答えない。

ドモンもしばらくレインを見つめていたが、彼の意図を理解した。


「いや。待て待て。短気は良くねえ」


ドモンは諫めるがレインは沈黙したまま何も答えない。


「本気か?」


再度尋ねるドモンにレインはポツリと答えた。


「…契約だからな。俺はあいつを帝国に届けてやらないといけない」


ドモンは呆れた顔をしてレインを見つめる。


「旦那、入れ込み過ぎだぞ。惚れたか」


「そういう事じゃない」


「まあ、旦那もお年頃だからな。

 でも嫁にするには2~3年は待ってやったほうがいいんじゃないか」


ドモンは茶化したがレインは特に表情を変えず黙ったままだった。

そんなレインの様子を見て、ドモンはやれやれとため息を付く。


「わかった。調査の同行契約はキャンセルにする。

 前金はガーディアンを回収させてもらうから返さなくていいぜ」


「助かる」


レインはあいかわらずぶっきらぼうに答える。

夕日が沈み始め、辺りが暗くなっていく。

ドモンはレインから視線を逸らし、夕日を眺めながら言った。


「信念か欲望か。それに従うのもいいだろうよ。けどな、旦那…」


ドモンはレインの方へ向き直り、ニヤリと笑った。


「お姫様を助けたいなら、人手がいるだろう?」

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