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第一章 旅立ちのイーステン  1-1 わたしはだあれ?

~第一章~

大災害で荒れ果てた南の大陸。

古代文明の残滓を利用しながら必死に生きる人々。

長い時間をかけ、人々の暮らしは安定し始めていた。

とある遺跡の中で物語は始まる。

わずかな光を感じた。

彼女はゆっくりと瞼を開く。


頭がはっきりとせず、夢なのか現実なのかもわからない。

水の中に浮かんでいるように体が揺れているのをかすかに感じる。

何かゴボゴボと耳元で音が聞こえ始めた。

それが実際の音なのか幻聴なのかもわからない。

やがて温かい風が体を包んだ。

そもそれは天然の風ではなく彼女を乾かす温風である事に彼女は気づかなかった。


靄のかかったような感覚のあった頭の中が段々とハッキリとして来て、彼女は

自分が目を覚ましているのだと実感した。


彼女はぎこちなく頭を動かし、ゆっくりと周りを見回す。

辺りは暗い。

枕元の照明がついているが、部屋全体を照らすほどではない。

どうやらカプセルのようなベットに寝かされているらしい。

ゆっくり上半身を起こす。

まるで動き方を忘れているように体が硬い。


体はもう濡れてはいない。

良く見るとシャツの様なもの一枚しか身に着けていない。

それは体に合っておらずぶかぶかで、まるでワンピースのような長けだった。

若干の羞恥心を感つつ彼女はベットから起き上がった。

少しふらつきながらも立ち上がり、辺りを見回す。

辺りは薄暗く、ベットの傍にはよくわからない装置が色々と設置されている。

彼女はまだ少しぼんやりしている頭で自分が何をしていたか思い出そうとした。


(???)


記憶を辿っても何も思い出せなかった。

まるで頭がカラッポのように何も出てこない。


ここは何処なのか。

何をしていたのか。

そして、自分は誰なのか。

名前すら出てこない。


何もわからない、

その状況が彼女を急に不安にさせた。

今までどこか夢見心地であった心が不安へ塗りつぶされて行く。

慌てて周りを見回す。

すると薄暗い部屋の隅に扉の様な物があるのが見えた。

彼女はベットから飛び降りると扉に駆け寄り、取っ手と思われる物に手を

掛けようとした。


その瞬間、ドン、という大きな音と振動が響いた。

部屋が揺れ、外から何かが潰されていくような音が響いて来た。


彼女は思わず漏れそうなった悲鳴を飲みこみ、扉から離れた。

細かい揺れと音はまだ続いている。

この音や振動が何なのか、恐怖はあった。

だが、何もわからない状態でこの薄暗い部屋に閉じ込められているこの

状況もまた恐怖を増長していく。


恐怖と好奇心が混ざった感情が彼女の背中を押し、扉の取っ手に手を掛け

ガチャガチャと動かす。

鍵が掛かっているのか、取っ手はわずかにしか動かなかったが、上部にある

ランプの様なものが光るとガチャリと音がして扉は開いた。

予想よりも分厚い扉をゆっくりと押し開けると、光が差し込んで来た。

だがそれはやさしい陽光ではなく、強烈なライトの光だった。


彼女が扉から身を乗り出した瞬間、辺りに轟音が響く。

強烈な振動と衝撃。

風が吹きつけ、埃が周囲を舞う。


「キャアッ!」


彼女は思わず叫び声を上げ、顔を背けて開きかけのドアにしがみ付く。

ゆっくりと目を開け、音の響いて来た方向を見る。


彼女の目に映る巨大な物体。

鈍く光を反射する、黒い鋼鉄の人形。

彼女は勿論一瞬でそれの全体の形を把握したわけではない。

それでも彼女はこれが何なのかが分かってしまった。


「ギガンティア…」


こぼれるように声がでた。

古代文明が作り出した、人型の巨大兵器ギガンティア。

人の気力を吸収して動く無敵の兵器。

まるで記憶の底から湧き出るように、目の前にある物が何なのかを

理解する。


知っている。

この得体のしれない物を。

…なぜ? 自分の自身の事も良くわからないのに。


そんな思考が駆け巡ったのも一瞬の出来事。

目の前に倒れこんでいた巨人も止まっていたわけではない。

まるで生き物のように素早くスムーズに体を起こす。

そして、その頭部がこちらを向いた。

それはいかに機械製品の様な無機質な顔をしていて、生物の様な目が

付いていたわけではない。

それでも彼女は「目があった」と感じた。


その瞬間、轟音と共に閃光が走る。

爆発だった。

巨人の肩に光の様な物がぶつかり、爆発した。

彼女は再び悲鳴を上げ顔を背ける。


砲撃だ。

彼女は瞬間的にそれを理解した。

巨大な光る弾丸が傍にいるギガンティアへ散発的に放たれていた。

彼女は慌てて頭を抱えうずくまった。

砲撃と爆発音はその後も聞こえていたが、何回か後にふとその音が

変わった事に気づく。

爆発音が遠くなり、何かに金属にはじかれる様な音に変わった。

彼女は恐る恐る顔を上げる。

すると、目の前には巨大な壁が出来ていた。

良く見ると、壁と思ったものはギガンティアが持っていた盾だった。

ギガンティアは彼女を覆うように屈み、守ってくれていたのだ。


「…れ」


何か声の様な物が響いた気がした。

無論、周りには人はいない。

彼女は目の前のギガンティアを見上げる。


「乗れ!」


今度ははっきり聞こえた。

その声はキガンティアから放たれていた。

巨大な機械の手のひらが彼女の前に近づいてくる。

彼女は反射的にそれに飛び乗った。

彼女を乗せた手はするりとギガンティアの胸の前へ移動し、胸の装甲が開く。

中にある操縦席にはシートに座る若い男がいた。


「こっちだ。 飛び込め! 早く!」


彼女は促されるまま、転げ落ちるように操縦席の中へ入り込んだ。

瞬時に装甲が閉じると、さっきまで扉だった所に周りの景色が映し出される。

まるでガラス張りの部屋ように外の景色が見えるようになった。

まるで小さな部屋が空を飛んでいる様だと彼女は思った。


「そこは邪魔だ。シートの後ろに移動しろ」


男が叫ぶ。

彼女は慌てて座席の後ろへ這って移動する。

座席の後ろにはには小さな台と手すりが付いていた。

彼女はとりあえずその台に腰かけ、手すりを掴む。

するとギガンティアは盾を構えたま起き上がり、移動を始めた。

周りの景色がするりと流れ始める。

その素早い移動とは裏腹に操縦席はほとんど揺れない。

動く際のGも衝撃も、操縦席の内部では緩和してしまう様だ。


彼女は辺りの操縦席周りに映っている映像を見回す。

正面にはギガンティアが構えている歪んだ盾が映っていた。

これは、盾が歪むほどの砲撃を防いでくれていたという事だ。

この人はそんな危険を冒して自分を庇ってくれていたのだ。


「あ、あの…」


「後にしろ」


彼女は男に声を掛けたが遮られてしまった。

彼女は横からシートを覗き込み、男の横顔を見上げる。


短い黒髪で整った顔立ち。

自分よりはかなり背は高いようだ。

彼はこちらに目もくれず正面を見つけている。

自分を助けてくれたのだから悪い人ではないだろう。

彼が何者かはわからない。

そして、一体何と戦っているのか。

彼女も彼の視線の先を見つめる。


視線の先に巨大な機械が蠢いているのが見えた。

蜘蛛の様な形をしていて生き物のように滑らかに動き、こちらへ

ゆっくりと近づいてくる。

先ほどから放たれている砲撃はあの機械から放たれているようだ。


(ガーディアン…)


彼女はまたもや、画面に映る得体のしれないその機械が何なのか理解

出来てしまった。


ガーディアン、それは完全な機械制御で動く無人の警備兵。

ギガンティアと同じく古代文明が作った施設を守る番人。

ギガンティアを見た時と同じく、彼女の記憶の底から知識が溢れてくる

様な感覚がした。


ガーディアンはリヴァースエナジーに似た特性を持つ「アンバー」という

結晶体をエネルギーとして使い、動作している。

そのエネルギーを使用する事で、通常兵器を無効化するギガンティアにも

ダメージを与えることが出来る希少な存在でもある。

その力はギガンティアには遠く及ばないが、決して油断は出来ない相手だ。

人が乗る前提でないからなのか、蟲や動物の様な形をしているものが多い。

古代文明がはるか昔に作った物であり、多くはエネルギーが尽きるか故障して

動かなくなっている場合が多いが、待機状態で生き残っている個体もいる。


彼女は今のこの状況が段々と理解出来てきた。

ガーディアンがいるという事は、ここは古代文明の残した施設、つまり遺跡の

中という事だ。

恐らくこの人はこの遺跡の調査にやって来て、あのガーディアンと遭遇して

しまったのだろう。

目の前にいるガーディアンはかなり大きい。

周りの朽ちかけた建築物を超えるようなサイズだ。

もしかしたら何か重要な物を守る為の特別製なのかもしれないと彼女は思った。


ガーディアンは相変わらず散発的にエネルギー弾を発射してくる。

彼の操るギガンティアはそれを避けつつ後退していた。

外れた弾が周囲の建物を破壊していく。

倉庫なのか研究施設なのか良くわからなかったが、彼女が出て来た建物も砲弾が

直撃して吹き飛んでいた。


滅茶苦茶だ、

あのガーティアンは施設の防衛用であったのなら、周りに被害を出し過ぎだ。

敵の排除を優先するように出来ているのか、もしくは故障しているのかもしれない

と彼女は感じた。

彼の操るギガンティアはガーディアンから距離を取り、岩山の様な物に身を隠す。

ガーディアンはそれを見ると、砲撃を止めこちらへ向かって移動を始めた。

エネルギー弾とて無限に打てるわけではないのだろう。

への字型に曲がる足をガシガシと揺らし、巨体に似合わない速度で接近してくる。


それに合わせるかのように彼は機体を操作して飛び出していった。

盾を構えたまま機体の脚のスラスターから粒子を噴射し、瞬時に距離を詰める。

ガーディアンは迎撃しようと前足を振り上げる。

それに合わせて彼は引き金を引く。

ギガンティアの肩から光弾が連続で打ち出される。

それはガーディアンが打ってきたものに比べれば小さな弾だったが、的確に相手の

頭部であろう箇所へ命中した。

ガーディアンの本体の正面にあるカメラの様な物が集約されている場所。

それに光弾がいくつも命中し、部品の幾つかが弾け飛ぶ。


ガーディアンはひるむこともなく上げた前足を振り下ろす。

彼の操るギガンティアはスラスターを吹かしたまま加速し、それを難なく躱すと

ガーディアンとすれ違う形で後ろに回り込む。

ガーディアンもすかさずこちらに向き直ったが、先ほどのように正確にこちらを

捕らえられていないようだった。

明らかに動きにためらいの様な物を感じる。

カメラを破壊された事で探知能力が低下したのだろう。

キガンティアを操る彼はそれをちゃんと認識しているようだった。


彼は歪んだ盾をガーディアンに向かって投げつける。

それと共にガーディアンに真っすぐはなく斜め方向へ向かってダッシュする。

ガーディアンは飛んできた盾を前足で的確に貫き、地面に叩きつける。

足が振り下ろされた動きに合わせるように、男は光弾を再度ガーディアンの頭部へ

打ち込む。

壊れかけていた頭部の部品がさらにいくつかが弾け飛ぶ。

すると、ガーディアン動きは明らかにおかしくなった。

的確にこちらを追っていた前足が何かに迷うようにフラフラし始める。

センサーを破壊され、ガーディアンは完全にこちらを見失っているようだ。


彼はガーディアンに向かって機体を突進させる。

ギガンティアの右手には小振りの剣が握られている。

その剣がエネルギーを帯び、刀身が光を発する。

ぎこちなく動くガーディアンの前足を潜り抜けると、半壊した頭部の前に滑り込み

剣を素早くガーディアンの頭部に突き立てる。

金属で出来ているはずのガーディアンの装甲を、その剣は易々と貫く。

ガーディアンは機体を操作しているコントロールユニットを破壊され、まるで電池

が切れたおもちゃの様に動かなくなった。


彼はスラスターを吹かし、倒れこむガーディアンと距離を取る。

何やら操作パネルを弄り目の前に画面を表示させ、何かを確認する。

しばらく画面をのぞき込んでいた彼は安堵したようにため息を付いた。


戦っていた彼の緊張が解けたのを彼女はなんとなく感じ取った。

後ろからシートを覗き込むと彼に声を掛ける。


「あの、ありがとうございます。助けてくれて…」


男は後ろを振り返ると話しかけて来た少女を見つめる。

小柄な少女。

年齢は15、6といった所だろうか。

綺麗な長い藍色の髪をしている。

髪の先には不自然につけられた髪飾り、手には質素な指がはめられていた。

だが、素足で下着が見えそうなシャツ一枚しか身に着けていない。


やがて、彼は懐から何かを取り出すと彼女に向けた。

彼女は驚いて目の前のそれを見つめる。

たが、それが何なのか理解するまで数秒かかった。


(…銃?!)


彼女は銃口を向けられていた。

同時にそれが人をも殺す武器、という事も理解する。


「えっ… ええ! ちょ、ちょっと…」


突然の事態に理解が及ばず彼女はあたふたする。

彼が口を開く。


「あそこで何をしていた」


「…」


その問いに彼女は沈黙してしまった。

なぜなら、彼女にもわからなかったからだ。


「名前は? 目的はなんだ。盗掘者か?」


「えっと…」


名前、そう聞かれて彼女は名前を言おうとした。


名前。

なまえって なんだっけ???


出てこない。

焦っているからなのか。

それとも… 

とにかく思い出せない。


「…わかりません…」


彼女はポツリと返す。

それを見た彼は表情一つ変えずに答える。


「隠し事はな、隠す価値がある物だけにするんだ。長生きしたければな」


彼はシートからゆっくりと立ち上がる。


「自分の命が掛かっている状況で何もかも隠そうとするな」


なんというか、機械的な心がこもっていない言葉だった。

彼女はその言葉に震えた。

目をつぶり、必死に名前を思い出そうとする。


(えっと… 名前、なまえ…)


彼女の頭の中にふと、数字が浮かぶ。


「7…」


彼女はポツリと呟く。


「ナナ?」


彼は怪訝そうに聞き返す。


「…番目…」


彼女はそう続けた。

これは名前じゃない。だったら何の番号だろう?

でもそれしか浮かばない。

「名前」はいくら考えても出てこなかった。


沈黙が辺りを包む。

彼女は泣きそうになりながら答える。


「あの、こめんなさい。

 7番ってこれ名前じゃないですよね。

 でも、本当に思い出せないんです…」


彼女はゆっくりと目を開けて男を見る。

彼の表情に少し変化が見られた。

明らかに困惑を隠せないという表情だった。


「7番って、何だ? 7人兄弟の末っ子か。 それとも人造人間7号か何かか?」


彼の声は相変わらず冷たかったが、それは冗談を言っている様にも聞こえた。

明らかに彼の敵意は緩んだように感じられた。


「本当になにも思い出せなくて… 

 で、でも、人造人間って何ですか?

 酷いです… 私普通の人間ですから!」


彼女はそう言って自分の体を腕を確認するように見回す。


「…人間、ですよね…?」


彼女は同意を求めるように彼に視線を向ける。

少し泣きそうな彼女を見て、彼は呆れた顔をして銃を降ろした。


「まあ、普通に見て人間だ。安心しろ。

 お前、本当に何もわからないのか」


「…はい」


「嘘じゃないんだな」


彼女はしょぼくれた様子でこくりと頷く。


「そうか、悪かった。盗掘者は何をするかわからんからな。

 脅しをかけさせてもらった。だが…」


男は彼女の姿を眺めると言った。


「考えてみれば、シャツ一枚で忍び込む馬鹿もいないか…」


彼は警戒を解いたのか、視線を解いて操縦席へ座りなおす。

彼女は自分の姿を確認する。

ぶかぶかのシャツ一枚しか着ていない。下着の様な物はつけているが

靴すら履いていない。

一体どういった状態だったのか、自分でもまだわからない。


「とりあえず仲間の所へ連れて行こうと思うが、それで構わないか」


シートの向こうから男が声を掛けてくる。

彼から敵意が消えたのを感じ取り、彼女は少し安心した。


「はい。お願いします」


男は彼女に再びシート裏の台に座るよう促すと機体を移動させ始める。

薄暗い施設の中を静かに移動していく。


「名前以外になにか覚えている事はあるか?

 何でもいいから覚えていることを聞かせてくれ」


彼が事務的に質問をしてきた。

彼女は一生懸命記憶を辿る。


「ええと、自分が何をしていたのかはさっぱり…

 気が付いたら小さい建物の中に居ました。

 大きな音がしたので外に出たら貴方のギガンティアと…」


「ギガンティアは知っているんだな」


「はい。古代文明の作った兵器… で合ってますよね?」


「じゃあ、戦っていたアレの事はわかるか?」


「アレ… ガーディアンの事ですか?」


「物知りだな。自分の名前も知らないのにな」


彼は皮肉っぽく言う。


「そうですね。なぜかそれらはすぐわかったんです。

 どうしてかな…」


彼女は物悲しそうにポツリと言った。

沈黙が辺りを包む。

彼女はシート越しに男を覗き込む。

この人は自分がここに居るを知らなかった。

私を見つけたり捕まえたりする事が目的ではないのだろう。

でもこの人は、自分にいち早く気づいて守ってくれた。

危険を冒してまでも自分を操縦席に入れて守ってくれたのだ。


その人に対し、自分はまともに素性も明かせていない。

傍から見れば恩人に対して黙秘ばかりしている失礼な人間にしか見えない。

申し訳ないと彼女は思ったが、ふとこの恩人の事も何も知らない事に気いた。


「あの、そういえば貴方の名前も聞いていませんでした」


「レイン・アシュランドだ。レインでいい」


レインと名乗った男はぶっきらぼうに答える。


「では、レインさん、改めてありがとうございます。助けてくれて」


「成り行きだ。気にするな。

 こんな所に人がいるとは思わなくて焦ったがな」


「こんな所… ここは遺跡の中ですか?」


「そうだ」


「貴方は、騎士なんですか」


「サルベージャーだ」


「サルベージャー?」


「知らないか?」


「…はい」


「サルベージャーは遺跡の遺物を回収してる連中のことだ。

 遺物の回収業… 簡単に言うと遺跡泥棒だな。

 まあ、ギガンティア乗りの事を一般的に騎士と言うから、騎士と言うのも

 間違っていないがな」


「遺跡泥棒…ですか?」


「古代遺跡には色々な物がある。

 レアメタルで出来たジャンクパーツ、アンバーの様なエネルギー鉱石、

 上手く行けばギガンティアが見つかる事もある」


「なるほど、それらを回収する仕事をしているんですね」


「そうだ。

 昔は本当に泥棒と変わらなかったらしいがな。

 今はサルベージャーギルドなんてものが出来て管理されている」


「へえ…」


「遺跡にはガーディアンなんてものもいるし、回収に機械が必要になるから

 ギガンティアを持っている奴が勝手に始めた事だったんだ。

 そして、その数が増えると争いが起きて問題になったんだ」


「争いですか…」


「ギガンティア同士の戦闘なんてとんでもないからな。

 遺跡内ならともかく、帰還した町中で戦闘した馬鹿もいてな。

 それを管理統括するために、サルベージャーギルドが設立されたんだ

 今はサルベージャーはギルドに登録して活動と報告が義務付けられている。

 ギルドに無許可で遺跡に侵入する奴は盗掘者として取り締まられるわけだ」


「なるほど、だから私を盗掘者だと思ったんですね」


「そうだ。俺たちは新しく見つかったこの遺跡の調査に来ている。

 そこにお前がいれば不審に思うのは普通だろう」


「そうですね。 でも私、どうしてここにいるかもわからないんです…」


「まあ、それは思い出せたらでいいが…

 そもそもこの俺たちが今いるこの階層は、どうも変でな」


「変?」


「入り口がなかったんだ。

 調査中に上層の床が崩落して、俺はこの階層に落ちて来たんだ。

 それが無ければこの階層は見つからなかったかもしれない。

 隠蔽されていた可能性が高いんだ」


レインは思った。

そう、明らかに入り口は隠蔽されていた。

わざわざ隠すという事は見つけて欲しくない何かがあるという事だ。

一体何が?

結構な広さがあるこの空間には何かとてつもない物がある可能性もある。

調査が進めば何かが分かるかもしれない。

レインは後ろにちらりと目をやる。

シートに手を置き、周りを見ていた彼女と目が合った。


その時だった。

モニターに映される光に照らされて、彼女の目が一瞬、綺麗な緑色に光る。

宝石の様な美しい緑色の光。

レインの脳裏にとある会話が蘇る。


- 探し物は女だ 

  ただ、すでに探し出されている可能性が無いわけではない

  それも含めて調べろ

  把握している特徴は一つだけ… 緑色に光る目だ -


驚いた顔で見つめるレインを彼女が不思議そうに覗き込む。


「レインさん? どうしたんですか?」


その言葉にレインは我に返り慌てて目を逸らし、

何事もなかったように機体の進行方向を見つめる。


「あ… ああ、何でもない」


そういいながら彼女をちらりと見る。

彼女の目はもう緑色には見えない。

光が当たった時に反射的に光ってそう見えるのかもしれない。

しばらく眺めていると、モニター越しに辺りを見回す彼女の目にライトが

反射して再びきらりと緑色に輝いた。


「おまえ… 綺麗な目をしているんだな」


思わず出てしまった言葉だった。


彼にとってその発言は、口説き落とすとか彼女の容姿を褒めたいとか

そういう意味ではない。

思わず口をついて出てしまった。

彼は場違いな言葉を発してしまった事に戸惑い沈黙してしまう。

だが、彼女はその言葉を特に気にもしない様子で返した。


「私の目…ですか?」

 

彼女は不思議そうに聞き返す。

少し上を向いて考えた後、彼女はこう答えた。


「う~ん、良くわからないですね。私の目ってどんなだろ」


レインは下手に警戒感を持たれなかったことに安堵したが、それと共に

ふと違和感を覚えた。


そう、その発言はまるで、

自分の目を見たことがない。

そう言っているようにも聞こえたからだ。


その時だった。

操縦席のパネルに何かのサインが表示される。

レインは素早くパネルの何かを操作する。

するとぶつ切りの音声がパネル側から聞こえてきた。

その音は段々と鮮明になっていく。


「…んな、旦那! 聞こえたら返事してくれ」


男の声だった。レインはその声に答える。


「ドモンか。聞こえるか?」


「おお、やっと通信が繋がった。無事か?」


「大丈夫だ。問題ない」


「なら奴は始末したんだな。さすがだな」


「そっちはまだ上か?」


「ああ、あんたが落ちた床を確認していた。

 ガーディアンはあんたに任せれば大丈夫だと思ったからな。

 崩落した先にガーディアンとかシャレにならねえ。

 引き付けてくれて助かったぜ。

 崩落した床は下階層へ行くリフトだったらしい。

 でも何というか、埋められていたというか隠されていたっぽいな。

 そいつが落ちたんだ」


(やはり意図的に下の空間を隠していたのか…)


レインはドモンの言葉を聞いて自分の仮説が間違っていない事を

再確認する。


「可動部は落っこちちまったが、周りの床の強度は問題なさそうだ。

 ジャンプで戻ってこれるか?

 獲物を抱えてはやっぱりキツイか」


「天井の穴は見えた。行けそうだ。

 獲物は置いてきたから問題ない」


「え? 置いて来たのか」


「かなりの大物でな。見たこともない型だった。

 回収は手伝ってもらわないと無理だ。

 それに下層は動力が生きている。

 他にも動き出すやつがいるかもしれないから出直した方がいい」


「確かに、おかわりがきたらマズいか… わかった。

 とりあえず一旦引き上げよう。回収は出直しだな」


会話が終わるころ、レイン達は話に出た崩落で開いたという穴の下に

到着していた。

荒削りの岩の壁面の一部に機械が昇降するためのレールの様な物がある。

そして下には落下したと思われるリフトの残骸が見えた。

レインはその前で機体を停止させ壁面の上部を見上げる。

レールの先にある金属製の天井にぽっかりと四角い穴が開いている。

カメラをズームすると穴の奥に点滅する光が見える。

天井の向こうからドモンが照らしている誘導灯だろう。

レインはその光を確認して報告をする。


「穴の下へ到着した。誘導灯も確認した」


「了解。移動するから灯を頼りに追ってきてくれ」


「待ってくれ、その前に報告しておく事がある。

 一つ回収したものがあってな」


「お、何だ? お宝か?」


「女だ」


「へ?」


「戦闘中に女性を一人保護した。そちらに連れて行く」


「え? ちょっと待ってくれ。こんな所でか?

 未調査の遺跡だぞ。何者だ?」


「わからん。確認は合流してからだ。

 ケガはなさそうだが、身につけているものがほとんどない。

 保護してやってくれ」


彼女はレインとドモンの会話をシートの後ろから覗き込んで聞いていたが、

自分の事を話していると分かるとシートの後ろから操作パネルに向かって

少し大きな声で話しかけた。


「あ、あの!」


「うおっ、女の声… マジなんだな」


「あの、危ない所をレインさんに助けてもらいました。

 私、まだ何もわからなくて… すみませんがよろしくお願いします」


パネルには相手の顔も映っていない。

相手に伝わるはずもないが、彼女はパネルに向かってお辞儀をした。

彼女の言葉を聞いていたドモンは丁寧な言葉に警戒を解いたようだった。


「ははは、行儀のいい姉ちゃんだな。

 わかった。歓迎するぜ。

 戻ったら暖かい飲み物くらいは用意してやるよ」


陽気なドモンの返答に彼女はほほ笑んだ。


「ありがとうございます!」


「旦那、とりあえず一度キャリアーまで戻るぞ。

 上層は電波障害が少ないから通信が届くはずだ。

 撤退の準備をするよう伝えておく。行くぞ」


天井の穴の暗がりで点滅していたライトが消える。

それに合わせてレインはギガンティアをジャンプさせた。

機体のスラスターから金色の粒子が噴出して機体を宙へ押し上げる。

機体は天井の穴を通過し、上層へと潜り抜ける。


たどり着いた上層は暗かった。

下層ではあちこちライトが点いていたがこっちは真っ暗だ。

暗がりの先を誘導灯をつけた機体が移動している。

レインはそれに追って機体を走らせる。

やがて巨大な扉の前に到着する。


ゲート。

この遺跡と外を繋ぐ扉だ。

その前に先ほどの誘導灯をつけた小さめの機体ともう一機、銀色の機体が

待っていた。


「なんだ、手ぶらじゃないか。

 ガーディアンは倒したんじゃないのか」


銀色の機体から通信が入る。

その通信にドモンが茶々を入れる。


「アモイの旦那。助けもしなかったのにその言い方はないぜ」


「うるさいな。

 俺の任務はお前らの監視。ガーディアンを狩る事じゃない」


不機嫌そうにそう答える男。

トリトマ・アモイはレイン達の調査に同行したギルドナイトだった。


ギルドナイトとはサルベージャー達が登録を義務づけられている組織、

サルベージャーギルドに所属するギガンティア乗りの通称だ。

サルベージャー業の監視や治安維持の為、初回の遺跡調査には同行する事

が決められていた。


アモイはこの遺跡に近い町「イーステン」に派遣されているギルドナイトだ。

腕はともかくドモン達サルベージャーに対してそれほど協力的ではない。

そんなアモイに対してレインは冷静に答える。


「下層階は動力が生きている。

 大型のギガンティアはアンタも見たはずだ。

 もう少し頭数をそろえてから再調査した方がいい」


その声を聴いてさらに不機嫌そうになったアモイの声が聞こえる。


「わかってるよ。

 マサキ・ドモン、支部に上げる報告書、書いておけよ」


「いや、あんたも見たんだから。そのままギルドに報告すれば良いだろ。

 わざわざ書類書くのか?」


「調査してるのはお前ら。俺は監視役。

 報告は調査隊の仕事だ。文句あるか」


「…へいへい。わかりやした。後で書いておきますよ」


ドモンは愚痴っぽく答えると作業を始める。


「ではゲートを開けるぞ。追っ手はないな?」


「近距離に別の動体反応はなし。熱源もない。大丈夫だ」


「よし、開放!」


ドモンの機体が扉の脇のレバーの様な物を操作する。

分厚い扉がゆっくりと開き、外からの光が差し込む。


レインの後ろで彼女はその光景を見る。

モニター越しに流れ込むまぶしい陽光が辺りを包む。

彼女にとってその光はとても新鮮に思えた。


そう、

まるで初めて体験するかのような。

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