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序章 メセタセントラルの戦い 後編2

~前回のあらすじ~

本編でナナリーが旅立つ10年も前の事。

北の大陸では王国と帝国の戦い「メセタセントラルの戦い」が勃発した。

その中で王国の第二遊撃部隊はたった一機の敵により壊滅的な打撃を受ける。

帝国の黒騎士と何とか渡り合うサイラス。

その戦いの決着が着こうとしていた。

先ほどまで強かった風が急に治まって来た。

視界が良好になり、太陽の光が差し始める。

二機のギガンティアの戦いも終わりを迎えようとしていた。


「終わりにさせてもらおう… 参る!」


黒騎士は前傾姿勢を取ると、全力でサイラスに向かっていく。

両手に持った小剣、巨大刀剣共に構えを取っていない。

だらりと下がった剣からは黒騎士の攻撃が読めない。


サイラスは盾を構え、待ち受ける。

狙うは黒騎士が巨大刀剣を振り下ろす一瞬の隙。

だが黒騎士が小剣を使った攻撃でけん制してくれば、それに対応せざるを得ない。

黒騎士のこの姿勢は、相手に攻撃の形を見極めさせない物なのだろう。

だが剣が下がっている分斬撃が届くまでに一瞬の猶予はある。

動き出しさえ見極めれば十分躱せるはずだ。

サイラスは黒騎士の一挙一動の見極めに全神経を集中する。

まるで時間が遅くなったように感じた。

その中で黒騎士にわずかな動きの変化があった。

黒騎士の右手が動き、巨大刀剣が全力で振り上げられる。


(右かっ!)


動き察知したサイラスは地面を蹴り全力でスラスターを吹かす。

振り上げられる巨大刀剣とすれ違うように斜め後ろへ飛び退く。

巨大刀剣はサイラスの機体を掠めて上方へ通り過ぎていく。

黒騎士の一撃を回避したサイラスはすかさず背中のスラスターを全開にする。

後退してた機体の動きは急反転し、今度は黒騎士へ向かって突撃する。


目の前には巨大な刀剣を全力で振り上げた反動で回転しつつある黒騎士がいる。

いくらギガンティアであっても巨大な質量の物体を振り回したの反動を簡単に

抑えることは出来ない。

黒騎士の機体はそのまま体を捩じりながらサイラスへ背中を向ける。


「取った!!」


サイラスはその瞬間を見逃さない。

全力で突きを繰り出そうとしたその瞬間、モニターの隅には予想外の物が

映っていた。


機体の左方向から迫る剣先。

黒騎士が左手に持っていた小剣だった。

だが、サイラスは黒騎士の背後を取っている。

剣撃が来るわけがない。


それでもサイラスはその攻撃に咄嗟に反応し、体を捩じり盾を引き上げる。

既にボロボロの盾が何とか剣先を受け流す。

サイラスは衝撃を受け止めるために両手で盾を支える姿勢をなり、攻撃どころでは

なくなってしまう。

姿勢を変えたことで起動はずれ、黒騎士と交差して通り抜けるような形になった。

すれ違い様、サイラスは黒騎士の姿勢を見て状況を理解する。


黒騎士の小剣はいつの間にか逆手に持ち替えられていた。

体の回転を利用した逆手突きだった。

間違いなく、こちらの動きを読んで攻撃を重ねて来ていたのだ。


「こいつ! わざと隙を晒して…」


サイラスは恐怖を感じながらも思考を切り替える。

機体を着地させるとすれ違った黒騎士の方へ振り向く。

黒騎士は巨大刀剣を地面に擦り、機体の回転を殺してこちらに向き直ると、間髪

入れずにスラスターを吹かしてサイラスへ向かって突撃してきた。

息もつかせぬ連続攻撃。

黒騎士はすぐさま地面を蹴ると大きく飛び上がり、巨大刀剣を大きく振りかぶる。

質量を乗せた全力の一撃。

盾で受け流せるものではないが、これはチャンスだった。

ギリギリで左右どちらかに躱して間合いに入れば隙をつける。


だが、先ほどの小剣の片手突きがサイラスの脳裏をよぎる。

サイラスはスラスターを吹かし全力で後退する。

カウンターではなく、相手の間合いから出ることを選択してしまったのだ。

あの一撃が、「何か仕込みがあるのでは」という疑念を抱かせる。

サイラスは戦いの主導権を完全に黒騎士に掌握されてしまっていた。


黒騎士の巨大刀剣による一撃が地面を割る。

サイラスは全力で間合いを取ったため、それを躱すことは出来た。

前に叩きつけられた巨大刀剣が地面を割り、巨大な土煙を上げる。


(今しかないっ…)


サイラスは背中のスラスターを全開にする。

機体の急停止に合わせて大地を蹴り、黒騎士に向かって突撃する。

彼にとって黒騎士の一撃の隙を突くのが最善であることに変わりはない。

あのカウンター潰しには驚いたが、それでもあらゆる隙を消すなど不可能な筈だ。

振り下ろした巨大刀剣は少なくとも今は使えない。

あの飛び込みにカウンターが仕込まれていたとしても不発だったはず。

黒騎士が姿勢を整える前ならこちらが主導権を握れる。

防戦一方の戦況を変えるため、サイラスは攻めに出る。


だが、黒騎士の攻勢は終ってはいなかった。

突然土煙の中から黒騎士が飛び出し、サイラスの頭上に迫る。

黒騎士の予想以上の反応の速さにサイラスは驚く。

目の前に広がった煙は、巨大刀剣の一撃だけのものではなく着地と同時に吹かした

スラスターが作り出した物だったのだ。

黒騎士にとって、今の一撃は当てるつもりなど無く次手に繋げる物だったのだ。


意表を突かれる方になったサイラスだが、頭上に迫る黒騎士を冷静に分析する。

右手に巨大刀剣が握られていない。

恐らく素早くジャンプするために離したのだ。

サイラスにとってこれは千載一遇のチャンスだった。

相手は空中で回避は取りにくい。

間合いに苦慮する巨大刀剣も持っていない。

反撃するなら今しかなかった。

だが、黒騎士の動きを目で追うサイラスが相手の意図に気づいたのはその直後

だった。


西日の太陽がサイラス機のモニターを白く染める。

黒騎士があえて飛んだのは、太陽を背にするためだったのだ。

すぐさま操縦席内のモニターには映像補正が入り、サイラスの視力もそれほど

ダメージを受けはしなかった。

サイラスが怯んだのは一瞬。

だが、その一瞬が命運を分けた。


サイラスが一瞬だけ目を離した隙に黒騎士の姿が変わっていた。

小剣を振り下ろしている。

その斬撃痕はエナジーを伴い三日月の様に輝いていた。

だが、黒騎士の位置からこちらに剣は届く間合いではない。

なのに黒騎士は剣を振り下していた。

それが何を意味するのか、サイラス気が付いた時には既に手遅れだった。


「!! エナジーブレイド!」


黒騎士の剣の軌跡に見えていた物は、剣から放たれた粒子の刃だった。

光り輝く刃がすさまじい速度でサイラスの機体を切り裂き、右腕と右足が

吹き飛ぶ。

サイラスの機体はバランスを失い、地面へ崩れ落ちた。


エナジーブレイド。

それは機体が纏うリバースエナジーを武器に集中し、飛ばす剣技。

熟練の騎士のみが使える技であるが、防御に使うエナジーをも武器に回す為

危険が伴う。

相手を切り裂く程の高威力で打ち出すにはリスクが高い技だ。

だが、黒騎士は圧倒的な攻勢に出ることで守りを捨て、この技を当てる瞬間を

狙っていたのだ。


サイラスは慌てて機体を立て直そうとする。

だが、利き腕と片足を失った機体はもはや戦える状態ではなかった。

サイラスは何とか機体の上半身を起こす。

その瞬間、眼前に黒騎士の小剣が突きつけられる。

もはや抗う術もない。

勝負は着いたのだ。


「終わりだ。投降するなら捕虜として扱おう」


サイラスは黒騎士を見上げ、唇をかむ。


完敗だ。

今までの黒騎士との戦いが脳裏を過る。

だが、黒騎士の戦い方はなんだ?

奇計奇策をからなる剣技を使う者はとても騎士と呼べるものではない。

粗暴だ。品性の欠片もない。

その様なものに対し、自分が磨いて来た剣技が全く通用しなかったのは騎士

として屈辱でしかなかった。


だが、突きつけられた剣先を見て、サイラスはふと思う。


…言い訳だ。

品性がどうのなど、言い訳に過ぎない。

部隊を壊滅させたことも、剣技で完敗したことも、彼と交わした政治云々の話も。

全てから目を背けたい言い訳だ。

名誉ある騎士として剣技で負けたことも、自分の信じる王国が歪んでいることも。

全て認めたくなかっただけだ。

自分は事実に目を背け、こいつを倒してうやむやにしたかったのだ。


サイラスは恥じた。

全てに目を背けて来た自分を。


「これ以上… 生き恥は晒せぬ!」


サイラスは盾の裏に仕込んであったナイフを残った左手で掴み、スラスターを

吹かして黒騎士に突撃しようとした。

その瞬間、黒騎士の小剣がサイラス機の胸を貫く。

剣は操縦席を貫き、サイラスもその剣に切り裂かれる。

胸を貫かれた機体は力なく動きを止め、ナイフは地面へと落ちた。


「散り際は見事。

 名は覚えておこう。サイラス殿」


黒騎士は動かなくなったサイラス機から剣を引き抜くと腰の鞘に納めた。


辺りには静寂が戻っていた。

無数のギガンティアの残骸が転がり、動くものは見当たらない。

戦いは終わったのだ。


「一機逃したが… まあ、敵が一機増えた所で魔女殿なら問題は無かろう。

 王国を滅ぼすことが本意ではないと陛下はおっしゃっていた。

 ならば、おとなしく拠点に戻り指示を待つとしようか」


黒騎士はスラスターを吹かすと平原の彼方へ消えていく。



こうして王国の第二遊撃隊による奇襲作戦は失敗に終わった。


生き残ったハミルトンは本体に合流を果たし、部隊壊滅の報を告げた。

報告を受けた討伐隊本隊の隊長である第一王子、アスターは激高し、自ら

エル・ギガンティアで前線に打って出た。

政治はからっきしであったが武勇は王国一とも呼ばれたアスターは帝国の

迎撃隊に多数の損害を出すことに成功したが、その戦いの中で戦死。

結果、王国の討伐隊も大被害を出して撤退することになった。

こうして王国による第一次帝国征伐は完全に失敗に終わった。


王国の討伐隊は計20機以上という大部隊であったが、帰還したのは半数にも

満たず、王国の戦力に多大な損害を与えることになった。

王国内では帝国の反撃を恐れ、国中に動揺が広がる事になった。

たが、帝国側の損失も決して少なかったわけではない。

王国内部には戦争続行を求める一派もいた。

だが、王国のヴァレリアン王は長子であるアスターの戦死に意気消沈し、

帝国から講和の使者が来ると、あっさりと講和条約を結んでしまった。


こうして戦争は終結した。

だがそれは帝国という国を認める事でもあった。


貴族からも民衆からも不満の声があがり、ヴァレリアン王へ批判が集まった。

批判の中、王は退位し、第二王子であるカリクスが王位を継いだ。

実はこれはクーデターであったとも言われ、目障りだったアスターがいなく

なったことでカリクスが無理やりに王に退位を迫ったとも言われている。


カリクスは政治的手腕は優れていたようで、利用しようと寄って来た貴族達を

上手く取り込み、その影響力を大きく高めていった。

乱れていた政治にもメスを入れ始め、税を下げ、治安回復をおこなった事から

民衆からも支持を得ていった。

乱れていた王政は、皮肉にも帝国という敵を得たことで再生の道へ進み始める

事になったのであった。


カリクス王は結ばれた講和条約を守り、帝国への再度の征伐は行わなかった。

国力の回復と政治の安定を優先させたからだ。

それは帝国も同じであり、圧政を行う地方貴族へ対処を行う事を条件に周辺領土

への侵攻を停止し、内政の充実に舵を切る事になった。


政治は再び安定を取り戻し始め、平和な時が流れていく。


そんな時代の変革点となったメセタセントラルの戦いから10年。

王国と帝国のある北の大陸から海を挟みはるか南。

過去に古代帝国アシュガルドが存在し、大災害で壊滅した南の大陸。


王国にも帝国にも属さないこの地で、物語は始まる。

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