3-15 事件の裏側
~前回までのあらすじ~
様々な想いから、ナナリーの胸の中で泣いてしまったシャルル。
泣き止んだ彼女はナナリーに友達になって欲しいと告げる。
二人は友情の証に互いの髪飾りを交換し、名で呼び合う事を決める。
だが、突如ガーディアンが現れ二人に危機が迫る。
そんな二人を救ったのは、上層から駆け付けて来たレインのフリージアだった。
レインは彼女達を連れ、仲間達の待つ上層へと向かう。
暗闇を飛ぶフリージア。
僅かな光を頼りに天井の穴を抜け、仲間たちの居る上層へと戻って来た。
フリージアをゆっくりと降下させながら、レイン達は辺りを見回す。
暗闇の中、建物の広場にある街灯の辺りだけがわずかに明るい。
そこにはスカーレットセージと前がひしゃげたセミキャリアーが止められていた。
ライトで照らされたセミキャリアーの荷台では、ドモンとデリーがフリージアに
向かって手を振っているのが見える。
そして、その傍には拘束されて座り込んでいる三人の人物の姿もあった。
「ナナリー、無事か!」
開かれていた共通通信チャンネルからでライラの声が響く。
心配するライラの声にナナリーは落ち着いた声で通信を返す。
「大丈夫です。カリンちゃんが守ってくれたので」
「カリンちゃん?」
ライラはいきなり出てきた名前に戸惑う。
「えっと、あのですね…」
カリンはライラに説明しようとしたが、恥ずかしくなって言葉に詰まる。
ナナリーはカリンの姿を可笑しそうに笑いながら代わりに答えた。
「私達、友達になったんです。
なので下の名前で呼び合う事にしたんですよ」
嬉しそうに応えるナナリー。
ライラはそれを聞いてナナリーがシャルルの名前を呼んでいる事を理解する。
「なるほど…
それで、下で一体何があったんだ? カリンちゃん」
ライラは仲良くなった二人の事情を探る様に茶々を入れる。
「…茶化さないで下さい」
カリンは恥ずかしくなって不機嫌そうに答える。
ライラはおかしそうに笑うと言った。
「はは、ごめんよ。
ナナリーと仲良くしてくれるなら、あたしも嬉しいさ。
でも、ナナリーと友達になったのなら自動的にあたしとも友達だ。
これからはカリンって呼ばぜてもらうからな」
有無も言わせず友達宣言して来るライラ。
カリンは彼女の強引さに少し驚いたが、それでも嬉しく感じた。
「ええ。よろしくお願いします。ライラさん」
「これからはもっと頼ってくれていいぜ。
友達なんだからな」
温かい言葉。
たった一人友達が出来ただけで、色々な人との距離が縮まって行く。
カリンは自分の生きる道筋が少しずつ変わり始めているのを感じた。
だが、目の前の問題が解決したわけではない。
そんな彼女の心を見透かしたようにライラは話題を変える。
「それでな、カリン、真面目な話に戻るぞ。
今の状況はどれだけ分かってる?」
ライラの言葉を聞いて、カリンは浮ついた心を静め頭を切り替える。
「襲撃者は既に拘束されたとレインさんから聞いています。
セミキャリアーの様子も見えますので、下の状況も大体わかります」
「そうか。
残った狙撃型に乗ってた奴は投降して来て、戦い自体は終わってる。
それでな、奴らのリーダーがアンタと話がしたいと言ってる。
とりあえずキャリアーの上まで来てくれないか」
「わかりました」
「旦那、聞こえてたろ。
念の為カリン達と一緒に行ってくれ。
あたしは念の為、機体に乗ったまま警戒を続けるよ」
「わかった。
二人共聞いてたな。着陸するぞ」
レインはフリージアをセミキャリアーの傍に着差させると、ナナリー達の乗る
ワーカーをそっと地面に降ろした。
ナナリーとカリンはワーカーを降り、セミキャリアーの荷台に上って行く。
レインも機体から降りるとそれに続いた。
荷台の上には捕らえられている三人とドモン、デリーが待っていた。
ドモンは銃を持っていたが、襲撃者達は大人しく緊迫している様子はなかった。
二人はナナリーとカリンを見つけると駆け寄って来た。
「お二人共無事でよかったです! どうなる事かと…」
デリーは二人の無事な姿を見て喜ぶ。
ドモンはカリンに近づくと優しく肩に手を置いた。
「無事で良かったよ。
ナナリーを守ってくれてありがとな。シャルルさん」
「はい。
それと、呼びにくいのでカリンと呼んで下さい。
多分、もう形式ばった呼び合いをする必要も無くなると思うので…」
カリンの言葉を聞いて、ドモンは少し難しい顔をした。
「…やっぱり狙われたのはアンタなんだな」
「ええ。恐らくは。
彼らと話してみれはぞれもわかるでしょう。
状況によっては、皆さんも危険なのかもしれません。
確かめる必要があります」
カリンは拘束されている三人を見る。
荷台に居る皆は拘束されている三人に近づいていった。
彼らは荷台の手すりに繋がれ、落ち着いていて抵抗する様子も無い。
俯いていた男の一人がカリンの顔を見上げる。
カリンは彼の顔をじっと見つめた。
少し歳のいった男性であまり身だしなみの整っていない、粗暴そうな風貌を
している。
カリンにはこの男に見覚えがあった。
そいて後ろの二人にも。
この男と関わりがある人物だったはずだ。
彼女は記憶の奥から彼らの情報を思い出す。
「貴方は… 確か、クロッカス・ジャスパー、でしたよね」
ジャスパーと呼ばれた男はニヤリと笑う。
「さすがは姫様。
こんな俺の名前まで憶えているなんてな」
「その呼び方は止めて下さい。
陰で私を呼ぶ蔑称だってことは知ってます」
「そうか。悪かったな」
ジャスパーは悪びれず鼻で笑う。
クロッカス・ジャスパーはガーディフの部下だ。
ギガンティアの操縦の腕を買われて雇われた、元々は外部の人間だ。
彼はテンプルナイトの指南役として長年教団に所属している。
カリンは別の人物に指南を受けていたので直接の関わりはなく、顔を見た事がある
程度の間柄だった。
後ろの二人はジャスパーと共に雇われた人物だ。
カーディフの部下と言うより、ジャスパーの仲間という認識だ。
ガタイの良い方がラパス、やせ型の方がスクレ。
彼女は何とか彼らの名前を思い出す。
二人はジャスパーに全てを任せているのか、目を逸らしたまま何も喋らない。
「しかし、あまり驚かないんだな。
同じ教団に所属している者に襲われたってのに」
ジャスパーは挑発的な笑みを浮かべながらも核心を突いた話をカリンに振る。
カリンそれに動じずに冷静に答えた。
「状況を考えればわかります。
私の抹殺をガーディフ様に依頼されたのでしょう?」
ジャスパーは全て見透かした様に話すカリンに感心したような視線を向ける。
「ほう…
あんたが優秀だっていう話は本当だったんだな。
状況をよく理解しているようで。
こりゃ、子供だと侮っていたカーディフの負けだな」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
二人の会話を聞いていたデリーが話に割って入る。
「私、未だに状況が分かってないんですが…
つまり、貴方達は教団の人で…
仲間なのに、シャルルさんを殺そうとしたっていう事なんですか?」
「そうだよ、お嬢さん。
ちゃんと分かっているじゃないか。
狙いはアンタ達じゃないんだ。運が悪く巻き込まれただけなんだよ」
デリーはジャスパーの話を聞いて、ようやく状況が飲み込めた。
彼女は自分だけ知らなかったのかと思い、周囲を見回して尋ねた。
「そんな…
ドモンさんやレインさんはこの事、分かっていたんですか?」
レインとドモンはデリーに視線を送る。
ドモンは小さなため息を付くと答えた。
「全部分かってたわけじゃないけどな。
ただ、教団が管理してる遺跡の中で野盗や王国の追っ手は出て来ない筈さ。
そうなると… まあ、そう考えざるをえないわな」
レインもドモンの話に頷く。
「状況的に考えるとそうなる。
教団がわざわざ俺達を狙う理由がない。
もしナナリーが狙いならもっと他にやり方もあるはずだ。
そうなると、カリン・シャルルが標的だと考えるのが自然だ」
「お二人共さすがですねえ…」
デリーは感心したような声を上げる。
カリンはそのやり取りに続いて説明を付け加えた。
「ナナリーさんには話したのですが、私は教団の次期教主候補の筆頭なんです。
狙われる理由は多分そこにあります」
カリンはデリーにも分かる様に自分の素性を話す。
レインとドモンも勿論その事は初耳だった。
二人はカリンの話を聞いて納得したような表情を浮かべた。
「なるほど。
教主候補になっているライバルを消しに来たってわけだ。
…でもそうなると、どうも解せないな」
ドモンはジャスパーを見つめて言った。
「だとすれば、アンタはちょっと口が軽すぎるな。諦めも良すぎる。
暗殺なんて秘密裏の任務なら、内容は墓まで持って行くもんじゃないのか」
ドモンはジャスパーに皮肉を込めて質問を投げかける。
それに対し、ジャスパーは目を閉じると言った。
「もっともな疑問だな。
だがそれは、実行者が依頼主に恩義や忠誠がある場合の話さ。
元々外部から来た俺達には、奴に対する忠誠はそこまではないさ。
それにな…」
ジャスパーは小さくため息を付くと吐き捨てる様に言った。
「どのみち俺達は消されるだろうからな」
消される。
その言葉に周囲の一同は一瞬言葉を失う。
暗がりの中、襲撃者の口から少しずつ事件の背景が明かされて行く。




