3-14 はじめてのともだち
~前回までのあらすじ~
遺跡の中で謎の襲撃者と遭遇したナナリー達。
突然の爆発で、ナナリーとシャルルの乗るワーカーは下層へと落下してしまう。
シャルルは襲撃者の正体が自身を暗殺に来た教団の刺客である事に気づく。
彼女は今まで抑えて来た様々な感情が溢れ、泣き出してしまう。
ナナリーはそんな彼女を優しく抱き留めるのだった。
「あの… すみません。取り乱してしまって」
しばらくナナリーの胸の中で泣いていたシャルルだったが、落ち着くと照れくさそ
うに彼女に謝った。
「いいえ。私なんかで助けになれたのなら良かったです」
ナナリーはそんな彼女に笑顔を向ける。
シャルルは彼女の笑顔を見ると下を向いてためらいがちに言った。
「あ、あの… もし良かったらなんですが…」
シャルルは顔を上げるとナナリーの手を取り、彼女の目を真っすぐ見つめた。
「地上に戻れたら… 私と友達になって下さい!」
シャルルのいきなりの発言にナナリーは驚く。
だが、シャルルにとってはいきなりでも何でもない。
ずっと心の隅に眠らせていた願いの一つだったのだ。
彼女はこの6年間、教団の期待に応える事を何よりも優先して来た。
自分の想いは内に秘め、居場所を与えてくれた教団に報いる為に努めて来た。
そう望まれているならと教主候補として教育を受け、自分を磨いて来た。
それを補佐してくれる人間も居たが、それはあくまで仕事上の付き合いだ。
大人ばかりの教団内で、イレギュラーであり特別な立場である彼女に対して
個人的に親しく接してくれる人物は居なかった。
彼女はずっと孤独だったのだ。
それでも自分の責務を果たして来たシャルルだったが、それの行き着く先は
秘密裏に始末されそうになるという結果であった。
さすがに教団へ恩義も居場所への執着も、涙と共に流れて消えてしまった。
だがそんな彼女だからこそ今、手を伸ばしたいのだ。
昔からずっと欲しかった、友達という存在。
独りぼっちな自分に寄り添ってくれた少女。
辛いときに優しく抱き留めてくれた優しい人。
そんな彼女と友達になりたい。
自分の心と向き合い直せた今だからこそ湧き出る純粋な気持ちだった。
シャルルの勢いに少し驚いたナナリーだったが笑顔で答えた。
「はい! 私で良ければ喜んで」
シャルルの想いに快く答えるナナリー。
彼女はほほ笑み、言葉を続ける。
「でも、戻ったらなんて言わないで下さい。
今この瞬間から私達は友達です!」
ナナリーはシャルルの手を強く握り返した。
シャルルは握り返された手にぬくもりを感じる。
初めて出来た友達。
今まで大人の社会で揉まれるしかなかった彼女にとって、身近で対等な関係の
人物は初めてだった。
だが、対等ならば寄り添ってくれた彼女に対し自分が何が出来るのか…
初めてのシャルルには何もわからず、嬉しさと困惑で胸が一杯になった。
「ありがとう! 嬉しいです。
でも、私、友達って初めてで…」
「私もですよ」
ナナリーが返した言葉にシャルルは意外そうな顔をする。
「…そうなんですか?」
シャルルは思わずキョトンとした顔で聞き返してしまう。
僅かな間だったが、シャルルもナナリーと一緒に居る仲間達の人柄は見ている。
彼らとナナリー関係を詳しくは知らないが、友人と呼べる人達ではなかったのかと
意外に思った。
「ええ。歳の近い友達は初めてです。
ライラさんとかも正しくは友人なのかもしれませんが…
皆大人だし、友達というよりも家族って感じてます」
そう答えた彼女の言葉に、シャルルは納得した。
彼らが親しい人達である事は間違いないのだろう。
だが、彼らは自立している大人達なのだ。
ナナリーはそんな彼らに対し何か引け目の様な物を感じているのだろう。
だから友ではなく、家族と呼んだのだ。
「そうですか…
じゃあ、互いに初めての友達なんですね」
「そうなりますね」
二人はそう言って笑い合った。
「そうだ!」
ナナリーは何か思いたのか、自分の頭に手を伸ばすと髪を束ねている髪飾り
を外し、それを自分の掌に乗せてシャルルへ差し出した。
「これをあなたに。受け取って下さい」
明るい日の光の様な宝石の付いた髪飾り。
高価な物なのかそうではないのかも一見良く分からない代物だった。
友達になった記念、という事だろうか。
いきなり贈り物を差し出されたシャルルは少し驚いたが、ナナリーと同じ様に自分
の髪飾りを外すと、同じ様に彼女に差し出した。
「では、お返しにこれを。
友情の証として交換しましょう。
後ろを向いて下さい。私が髪を留めてあげます」
シャルルはそう言うと、後ろを向いたナナリーの髪を纏めて髪飾りを着けた。
それが終わるとナナリーもシャルルの髪に髪飾りを着けた。
シャルルの髪飾りは、教団へ来る前から持っている唯一の品だった。
物心ついた時から持っていた物で、親の形見なのかもよく覚えていなかったが、
教団以外から与えられた唯一の持ち物だった。
そんな大事な物だからこそ、シャルルはナナリーにこれを送りたいと思ったのだ。
互いの贈り物を交換し合った二人は満足そうに微笑みあった。
「似合ってますよ。シャルルさん」
「ありがとうございます。
あと、私の事は名前で… カリンと呼んで下さい。
シャルルって姓は呼びにくいでしょうし」
「では、カリンちゃんと呼びますね!
私もナナリーと呼び捨てにしてくれて良いですよ」
「ナナリー… さん」
カリンはナナリーの名を呼んだが、照れくさくて敬称をつけてしまう。
「ふふ、要らないっていってるのに」
「えっと… 慣れなくてつい。
今はまだこのままで… いいかなって」
恥ずかしそうに答えるカリン。
そして顔を見合わせると、二人はまた楽しそうに笑った。
彼らはその後、自分の簡単な身の上話をした。
ナナリーは昔の記憶が無い事、皆に助けられながら旅をしている事。
カリンは孤児であり、教主に見いだされて教主候補になっている事。
互いの事を話し合った。
真っ暗な闇の中で生まれた友情。
周囲の状況や立場を忘れて笑い合ったわずかな時間。
だがその平和な時に水を差す様に、操縦席の計器から警告音が鳴った。
カリンは慌てて振り向き、パネルを確認する。
ナナリーもサブシートに座り直し、計器を確認する。
前方から熱源が接近して来ていた。
三つの大型の物体がこちらに真っすぐ進んで来ていた。
「敵でしょうか…」
「ええ、多分。ライトを消します」
カリンはライトを消し、暗視モードへ切り替える。
そしてワーカーを移動させようとした所、機体はガクンと異常な動作を見せた。
(そうか、脚部に損傷が…)
カリンは少し焦りながらパネルを確認する。
移動速度や熱源の大きさから、相手はギガンティアではなさそうだ。
ガーディアンならこのワーカーでも何とか戦えなくはない。
だが、それは損傷が無ければの話しだ。
その上、機体の武装は爆発の衝撃と瓦礫が衝突したせいで正常に動くかどうかも
わからない。
(どうする… 何としてもナナリーだけは守らないと)
彼女は暗視用のモニターに映る敵を確認する。
蜘蛛の様な形をしている中型くらいの大きさのガーディアンの様だ。
彼女にはそれに見覚えがあった。
資料で何度か見た事がある、良く目撃されるタイプのガーディアンだ。
だが、この機体の状態ではまともに戦えるかどうかも怪しい。
「ナナリーさん、最悪の場合は機体から脱出して下さい。
私が囮になります」
意を決して放ったカリンの言葉にナナリーは即答する。
「嫌です。友達を置いて逃げるなんて出来ません」
頑固な言葉。
それでもカリンはその言葉を嬉しいと思ってしまった。
でもだからこそ、大切な友達をなんとか無事に逃がしたい、そう思った。
だが、ここは遺跡の中。地の底だ。
脱出したとしても周囲が安全である保障などない。
何か手立てはないか。
選択肢の少なさにカリンは焦る。
説得してでも何とか彼女を逃がすしかない、そう思った時だった。
ナナリーが何かに気づいたように、真っ暗な空を見上げる。
そして落ち着いた声で言った。
「…大丈夫です。
あの人が来てくれました」
その言葉と同時に、ワーカーの計器に上空から高速で接近する物体が映る。
空中を高速で移動する高熱源体。
カリンにもそれが何なのか見当がついた。
緊張していた彼女の肩から力が抜け、安堵のため息を漏らす。
「良かった…
ならばライトを付けましょう。彼ならすぐ見つけてくれるはずです」
カリンはガーディアンの的になるのを覚悟で機内の明かりをつける。
そして、目立つように前面のライトを上空に向けた。
今までゆっくり歩いていたガーディアンだが、ライトを確認すると獲物を見つけた
かのようにこちらへ急速に近づいて来た。
への字型の足をガシガシ揺らしながら近づいて来るガーディアン達。
ワーカーからそれを眺める二人に緊迫した空気が流れる。
先頭を走るガーディアンに突然、空から放たれた光弾が直撃する。
数発の光弾のうちの一つが頭部を吹き飛ばし、残った胴体は力なく倒れる。
残りの二台のガーディアン達は動きを止め、空中を警戒し始める。
それらに向かって真っ暗な闇から巨大な物体が急降下して来た。
ナナリー達のワーカーのライトがその機体を照らし出す。
白い機体に蒼い翼。
フリージアだった。
フリージアは地面スレスレを飛び、二機のガーディアンに突撃していく。
すれ違い様に剣でガーディアンの足を切り裂き動きを封じる。
そして再び急上昇すると、動きを止めたガーディアンの頭部へ光弾を打ち込む。
ガーディアンの頭部が吹き飛び、二台共力が抜けたように動かなくなった。
的確な攻撃によりガーディアン達はなすすべもなく一瞬で無力化されてしまった。
フリージアはゆっくりと降下し、ふわりとナナリー達のワーカーの前に着地する。
「ナナリー、シャルル、無事か」
通信機からレインの声が響く。
聞きなれた声にナナリーは嬉しそうな表情を浮かべる。
「レインさん… 来てくれるって、信じてました」
ナナリーは安心した声で通信に答えた。
カリンもほっと胸を撫でおろし、レインに言葉を送る。
「ありがとうございます、レインさん。
同行してくれたのが貴方達で本当に良かったです…」
危険な状況から抜け出した事もあり、感極まる二人だったが、レインはいつも通り
淡々と言葉を返す。
「積る話もあるだろうが、ともかく上へ戻るぞ。
襲撃者は皆制圧した。
だが、シャルル、恐らくあいつらは…」
含みのあるレインの言葉。
その不穏な発言を遮る様に、カリンは落ち着いた様子で答えた。
「大丈夫です。予想はついています。
その事で皆さんとも話をしませんとね」
「…そうか。察しはついているのだな。
早く戻って皆にも説明する必要があるだろう。
捕まっていろ。少し揺れるぞ」
レインはそう言うと、フリージアの両手でカリンのワーカーを抱き上げた。
そしてそのまま上空へと飛び立った。
はるか先の天井には、落ちて来た堀の穴からわずかに漏れる光が見える。
それを頼りにフリージアは上層を目指し真っ暗な闇の中を飛んで行く。
友達が出来、そして立場を捨てる決心をしたカリン。
だが彼女が本当に自由になる為にはまだ越えなければならない壁があった。
それは人々の思惑、そして古の闇。
待ち受けている闇の正体を彼女はまだ知らなかった。




