3-13 涙
~前回までのあらすじ~
遺跡を探索するナナリー達はゲートを開き、更に暗闇の中へと進んで行く。
奥にあった遺構らしき物を調査中、彼らを黒いギガンティアが襲撃する。
暗闇での戦いになる中、レイン達は機転を効かし相手を制圧するが、突然の爆発が
起こり、ナナリーとシャルルの乗るワーカーは下層へと落下してしまう。
時間は橋が爆破される少し前に戻る。
レインの指示で照明弾が打ち上げられた。
周囲は明るくなり、敵の姿もはっきりと視認できた。
シャルルは仲間二人の戦いを遠くに見ながら後退する。
サブシートに座るナナリーも身を乗り出して仲間の戦いを不安げに見つめていた。
レインが照明弾を上げた判断は間違っていなかったのだろう。
レインは鮮やかな動きで黒いギガンティアを一機仕留める。
空中を自在に動き回る機体をシャルルは驚きを持って見つめた。
一方のライラもドモン達が手を貸すことで形勢を逆転していた。
相手が膝を着く姿を見て、ナナリーは安堵の表情を浮かべる。
シャルルも彼女の安心した顔を見てほほ笑む。
それと共に改めて彼らの戦いぶりに感心した。
本来ならば自分も何かしら手を貸すべきだったのだろう。
だがワーカーでは力不足であり、同乗しているナナリーもいる。
彼女の無事をレインから託された以上、自分のすべき事は彼女を守り無事に生還
する事だ。
その為には第一に安全を確保するべきで、その判断も間違っていなかったはずだ。
結果を見れば、彼らの戦いぶりは見事で形勢は有利に傾いた。
遺跡内で敵のギガンティアと遭遇するという異常事態ではあったが、恐らくもう
大丈夫だろう。
確認できたのは3機だが、これ以上潜んでいる事も考えにくい。
これ以上は後退しなくても大丈夫かと彼女が判断したその時だった。
突然の爆発。
爆音と衝撃にナナリーが悲鳴を上げる。
シャルルも思わず口から洩れそうになったが、何とか悲鳴を飲み込む。
爆発は操縦席まで届く様なものではなかったが、シャルルも突然の出来事に咄嗟
に対処する事は出来なかった。
橋が崩れ、瓦礫と共に機体が落下する。
まるで地の底が抜けたかの様に落ちて行き、明るかった天井が遠のいて行く。
同時に照明弾の明かりが消え、辺りが真っ黒に染まって行く。
周囲の瓦礫に押されれ機体がミシミシと悲鳴を上げる。
状況が分からない。
いきなり陥った最悪の状況に焦り、周囲を確認するシャルル。
後ろにはシートにしがみ付いて怯えるナナリーの姿があった。
(守らなきゃ、この人を!)
危機に怯えるナナリーの姿がシャルルの頭を一気に冷静にし、彼女は周囲の状況を
的確に把握して行く。
謎の爆発で機体は瓦礫と共に落ちている。
未だに地面に激突しないという事は、この堀は底なしだ。
恐らく下の階層まで通じているのだ。
とにかく落下を止めないとこのままでは二人共助からない。
上は駄目だ。大量に降って来ている瓦礫とぶつかる事になる。
まずは横に飛行し、瓦礫を押しのけて軟着陸するしかない。
シャルルは瞬時に判断を下すと、ワーカーの左腕の小さな盾を操縦席の前に出し、
スラスターを吹かして水平移動する。
機体が瓦礫を押しのけ、何とか破片の雨から抜け出す。
彼女は前方のライトに照らされる破片が見えなくなるのを確認すると、スラスター
を下に吹かしながらゆっくりと降下していく。
かなりの距離を落下して来たはずだが、まだ機体は地面につかない。
そして辺りは真っ暗だ。
正直このまま上昇して上まで戻れれば良いのだが、そうもいかない。
ワーカーのスラスターもギガンティアと同じ機構だ。
エナジーを粒子化して噴射して飛ぶ。
だが、人の気力をリヴァースエナジーに変えるギガンティアとは違う。
アンバー結晶という物質をエナジーに変えて動くワーカーでは、機体を延々と上昇
させるような噴射をすれば、あっという間にエネルギーが尽きてしまう。
降りるしかないのだ。
正直、下層に落ちた事は幸いでもあり、絶望でもあった。
即座に地面に激突しなかった事は幸いだった。
だが、落下距離が長すぎて飛んで戻る事は不可能だ。
シャルルは下方向へライトを向ける。
下の方へぼんやりと朽ちた建物の様な物が見えてくる。
やっと下層の地面が見えて来たのだ。
シャルルはエナジーの噴射を調整しながら機体の落下速度を調整する。
地面に落下する寸前に噴射を最大にして軟着陸した。
その瞬間、ワーカーがガクっと斜めに傾く、
爆発と瓦礫の衝突により、機体は脚部にダメージを受けている様だった。
シャルルは安堵のため息を付くと立ち上がり、後ろのシートを覗き込む。
「怪我はないですか、ナナリーさん」
心配そうに覗き込むシャルルにナナリーは涙目で答えた。
「大丈夫です。ごめんなさい、叫んでしまって」
ケガも無さそうなナナリーを見て、シャルルは胸を撫でおろす。
だが…
辺りは真っ暗だ。
明かりは彼女らが乗っているワーカーが照らしている部分だけだ。
ゾッとするような闇に二人だけ。
それでも一人きりよりはましだ。
もし、ナナリーが自分と一緒に乗ると言ってくれなかったら。
シャルルはこの闇の中に独りぼっちだったかもしれなかった。
改めて彼女が同乗してくれた事に心の中で感謝をした。
そんな事を考えほほ笑みながら見つめるシャルルに対し、ナナリーは申し訳なさ
そうな表情をすると視線を逸らした。
「…ごめんなさい。巻き込んでしまって」
いきなり謝り出すナナリーにシャルルは不思議そうな顔を向ける。
「なぜ謝るんですか? 貴方のせいでは…」
「いいえ、多分私のせいなんです…」
ナナリーは躊躇いがちに、今までの旅の経緯を話し始めた。
自分の記憶が無い事。
理由も良く分からずに追われている事。
それを皆が助けてくれている事…
「多分、貴方は巻き込まれたんです。ごめんなさい…」
その話を聞いて、シャルルは即座に首を横に振った。
「それは違います。
貴方を追っている人達の事を知っているわけではありませんが…
テンプルナイトの警備は厳重です。
外部の人間がこの町の中心地にある遺跡の中に潜める筈がありません。
誰かが手引するにしても、外部の人間が簡単に活動出来る場所じゃないのです。
だからあれは…」
シャルルは言い淀む。
襲撃された時に、頭では理解していた。
襲撃者が誰なのかを。
この遺跡にギガンティアを持ち込み待ち伏せするなど、教団の関係者しかいない。
それがわざわざ遺跡の探索に来た外部の人間を狙うなんて考えにくい。
導き出せる答えは一つしかなかった。
それを言葉にしようとした時に、シャルルの胸が痛む。
心の底で誰かが叫ぶ。
その先は言うなと。
言ってしまうと、はっきりと認識してしまうのだ。
考えないようにしていた、最悪の事実を。
それでも不安そうに見つめるナナリーを見て、シャルルは躊躇わずその言葉を
口にした。
「あれは… 私を殺しに来たんです。
…教主候補である私を、人目に触れない遺跡の中で消す為に」
言ってしまった。
言葉にしてしまった。
自分が他人から殺意を向けられる人間なのだと、認めてしまった。
その瞬間、シャルルの心の奥にあった、何かが崩れた。
分かっていた。
あてつけや嫌がらせはさんざん繰り返されていたのだ。
自分は周りからは好かれていない。
そんな事は分かっている。
それでも他人を憎まないよう、気分を害しないよう努めて来たつもりだった。
立場上自分を邪魔に思う人がいるのは確かだ。
それでも…
それでも自分は、消しても心一つ痛まないような存在なのだろうか。
ナナリーを見つめるシャルルの目からボロボロと涙があふれる。
それを見たナナリーは慌てる。
「シャルルさん…」
そう言われて初めて、シャルルは自分が泣き出している事に気づく。
彼女は俯むくと急いで目を擦った。
「え… あれっ おかしいな…」
シャルルは必死にごまかそうとする。
でももう駄目だった。
頑張って来たつもりだった。
自分の為とは言え、それでも他人から認めてもらいたい、他人の役に立ちたい、
そう思って今まで精一杯やって来たのだ。
その結果がこれだ。
やるせない気持ちと、いままで押さえつけて来た感情が胸の奥から溢れ、彼女の
目から涙を溢れさせる。
そんなシャルル見てて、ナナリーは彼女の気持ちを何となく察した。
ゆっくりと彼女を抱きしめると優しく囁く。
「…今ここにいるのは私だけです。
いいんですよ。我慢しなくても」
彼女の言葉が、シャルルの心の箍を外す。
今まで大丈夫と言い聞かせて来た自分の心がぐちゃぐちゃになって行く。
いつも厳しく律して来た感情が乱れ、どこかへ消えて行く。
心の奥底から抑えきれない感情が洪水の様に溢れ出した。
「う…うう… うわぁぁぁあああああっ」
シャルルは泣いた。
数年間、押さえつけて来た感情を発散するように泣いた。
やるせなくて、悔しくて…
そして、
その気持ちを受け止めてくれる人が今、目の前に居る。
それが嬉しくて涙が止まらなかった。




