3-12 襲い来る闇
~前回までのあらすじ~
ナナリー達は遂に遺跡内に突入した。
真っ暗な闇の中、ナナリーとシャルルは言葉を交わし、ナナリーは自分の居場所を
守るために気を張るシャルルを気に掛ける。
一方、順調に進む一行は遺跡の奥にゲートを見つける。
彼らは探索を進める為、ゲートを開放しさらに奥へと進んで行く。
遺跡の奥のゲートが開放された。
ナナリー達はゲートを潜り、その先のエリアに足を踏み入れた。
相変わらず先は暗闇だったが、遥か遠くにぼんやりと灯が見えた。
「前方に明かりだ。動力が生きているかもしれない」
レインから通信が入る。
皆明かりの方を見る。
街灯の様な物が立っている様だが、遠くて良く分からない。
だが、ぼんやりとだが明らかに今までの岩壁と違う建造物の様な物が見えた。
「建物の様な物があるな。かなり大きいぞ」
「とりあず進んでみましょう。
皆さん、周囲の警戒をして下さい」
皆は陣形を保ったままゆっくり進んでいく。
先ほどまでのエリアに比べ、ゲートの先のエリアはかなり広い。
天井も先ほどのエリアに比べるとかなり高かった。
レインはセンサーのデータからもこのエリアが今までと違う事を感じ取っていた。
「外気温がかなり上がっている。
生き物だと熱センサーで感知しにくいレベルだ。
地熱の影響か、もしくはエアコンが動いている可能性がある」
レインの通信を受けてドモンが改めて周囲のデータを確認する。
「このレベルで温度が高いのか…
エアコンが動いているのだとしたら、ずっと動いていたんじゃなくて最近誰かが
動かしたんじゃないか」
それを聞いたシャルルが答える。
「ですが、ここは未調査区域です。誰かが勝手に侵入する筈は…」
シャルルの言葉を遮る様にレインが言う。
「可能性は排除するな。敵が出る事も想定して移動するぞ。
ライラ、いつでもシールドを展開できるようにしておけ」
「わかった」
対応が速いレイン達を見てシャルルは頼もしくも思ったが、同時に別の不安
を感じた。
テンプルナイトの警備は厳重だ。
この遺跡がどこかで外部にでも繋がっていない限り、未調査区域に誰かかが
侵入する事なんてありえないはずだ。
こんな地の底の様な場所に別の入り口があるとも思えない。
もし侵入者がいるというなら、その者達は何処から来たのか。
引き返すべきなのだろうか、とシャルルは迷う。
だがまだ何も起こったわけではない。
ここで引き返したら、怖いので帰ってきましたという程度の報告しか出来ない。
異常があるというなら、せめてそれが何なのか情報を得なければならない。
シャルルは葛藤しつつも前に進むしかなかった。
薄暗い周囲を警戒しながら一団はゆっくりと建物に向かって進んでいく。
建物が近づいて来た。
建物の敷地は広く、目の前には堀とそれに架けられている橋があった。
どちらも人ではなくギガンティア等を想定したサイズだ。
堀の中は真っ暗で底が見えない。
ライトで照らされた範囲には水は見えず、切り立った崖になっていた。
ドモンは堀を覗き込むとゾッとしたような表情を浮かべた。
「人が作った堀ならそう深くはないはずだが…
底がどうなっているかわからん。皆落ちるなよ」
フリージアを先頭に一団はゆっくりと橋を渡る。
橋の先に広がるスペースの奥にある朽ちかけた巨大な建造物。
だが、建物の前の広場に気になる物があった。
並べられている巨大な像の様な物。
それは広場に規則正しく並べられている様だった。
「何だ…あれ」
ドモンがライトでオブジェを照らそうとする。
その時、レインが言った。
「あれは… ガーディアンだ」
皆に緊張が走る。
皆、センサーに目をやるが近くに動体反応はない。
温度が上がっている機体もない様だ。
「朽ちたガーディアンの群れか…」
ドモンは動かないガーディアンに近づいてライトで照らす。
それを見ていたナナリーはふと何かに気づく。
「これ、皆同じ方向を向いています。
並べられて置かれているという事じゃないでしょうか。
使われずに放置された…とか」
その言葉を聞いたデリーもガーディアンに近づき、細部を確認する。
「力尽きたのではなく、未使用品ってことですか…
これって結構なお宝じゃないですかね」
皆、それぞれガーディアンに近づいて確認を進める。
皆埃を被っているが、確かに壊れて停止したと言う感じではなかった。
「もしかして、ガーディアンの生産工場だったとか…」
ライラが広場を見回しながら言う。
「新品同様のパーツが手に入れば確かにお宝だが…
動き出す奴はいないだろうな。
さすがにこの数は相手したくないぞ」
そう言ってドモンは周囲を警戒する。
ナナリーは念のためと思い、遠くの範囲もセンサーで確認していた。
「建物の内部の方に熱の高い箇所があります。
建物の地下と屋上の二箇所です。
…動力炉とかでしょうか?」
「二か所?」
レインはその言葉に違和感を感じた。
同じ建物内に動力炉が二か所も三か所もあるだろうか。
彼は暗視カメラに切り替えて建物の屋上を確認する。
その時、何かが動いた気がした。
レインはすかさず全員に向かって叫ぶ。
「全員、ライトを切れ! 暗視に切り替えろ。
ライラ、ワーカーを守るんだ。射撃が来るかもしれない」
ドモン達は慌ててライトを切り、暗視装置に切り替える。
レインはフリージアの手甲の発射口から光弾を建物の屋上へ向けて放つ。
いきなり建物に攻撃を開始したレインにシャルルは慌てる。
「待って下さい! まだ調査もしていないのに!」
ライラは左右のシールドを展開し、シャルルのワーカーの前に出る。
ドモンとデリーも即座にスカーレットセージの後ろに移動した。
その瞬間だった。
スカーレットセージの盾に弾丸が撃ち込まれる。
盾は弾丸を弾き、甲高い音が響き渡る。
「射撃!? そんな…」
シャルルはその音に驚く。
レインの判断は的確だった事になる。
遠距離からこそこそ隠れて狙撃してくるガーディアンなど聞いた事がない。
ならばこれを放ったのは恐らくワーカーかギガンティアという事になる。
つまり、人がいるという事だ
「旦那、狙撃だ! 明らかにこっちを狙ってきた!」
ライラは叫びながら盾を構えて建物の方を確認する。
「ライラはワーカーを守りつつ後退しろ。敵は一機とは限らないぞ」
レインはそう叫ぶと、再び建物の屋上へ向けて光弾を打ち込む。
お返しとばかりに敵の弾丸がフィリージアの足元に着弾する。
間違いなく狙撃だ。
だが、精度は先ほどより落ちている様に思える。
こちらの攻撃により上手く狙撃が出来ていないのだろう。
「間違いない。敵はギガンティアだ。ガーディアンじゃない。
皆、周囲を警戒しつつ後退。急げ!」
レインは再度皆に撤退を指示する。
シャルルは想定外の出来事に困惑しながらもワーカーを急いで後退させる。
サブシートに乗っていたナナリーも緊迫した空気に緊張しながらも自分の役割
を果たそうとセンサーを確認する。
すると、先ほど確認した放置されたガーディアンの方に新しい熱源が二機出て
来たのを見つける。
「皆さん、新しい熱源が二つ現れました! 広場の奥からです!」
広場の奥の方にあった大き目のガーディアンの影から、二機のギガンティアが
飛び出して来た。
二機は左右から挟み撃ちする様に接近して来る。
遺跡内で敵のギガンティアと遭遇する事自体が想定外であるのに、既に三機を
確認している。
レインは冷静に現状を分析する。
(こんな視界の悪い状態で乱戦になったら… まずいな)
暗闇で乱戦になったらとても仲間を守り切れない。
そう思ったレインは賭けに出た。
「ドモン、照明弾を!」
「天井が低いから長くは持たないぞ。
しかも相手から丸見えになるぞ。いいのか」
「構わん。ライラも敵が見えている方が守りやすいはずだ。
ライラ、右から来る奴を抑えろ。
左は俺に任せろ」
「わかった! 任せろ!」
「皆話は聞いてたな。暗視にしてる奴はすぐ元に戻せ!
照明弾、行くぞ!」
ドモンがワーカーから照明弾を打ち上げる。
何とか天井にぶつからないように斜めに打ち上げる。
弾頭が炸裂し、強力な照明が空中に光る。
浮かび上がる襲撃者のギガンティアの姿。
黒くいかにも偽装された装甲を纏っている。
相手は照明弾を打ち上げてくると思わなかったのか、一瞬動きに戸惑いが出た。
「ワーカーは全力後退!」
ドモンが叫ぶ。
それと同時にライラは右前方からせまるギガンティアに突っ込んでいく。
「おらぁっ!」
ライラは右腕のシールドをナックル型に変化させ、黒いギガンティアに向かって
殴りかかる。
相手もいきなりの反転攻勢は想定外だったのか、慌ててシールドを構えて防ぐ。
左から接近していた黒いギガンティアはまっすぐシャルル機へ向かってきた。
黒い機体の肩からから光弾が発射される。
シャルルは冷静に左右にジグザグに走行し、それを避ける。
シャルル機の近くを走行していたデリーは慌てて進行方向を変えるが、彼女の
機体には目もくれず、黒いギガンティアはシャルル機を追っていく。
(…こっちを、狙ってこない??)
黒いギガンティアの動きを不審に思ったデリーは叫ぶ。
「敵はシャルルさんを狙ってるかもしれません! レインさーん!」
「分かっている。任せろ」
フリージアは翼を広げて飛び上がり、シャルル機へ迫るギガンティアを追う。
黒いギガンティアの操縦者はかなりの速度で迫ってくる相手をセンサーで感知し、
慌てて振り返る。
だが、背後には何もいなかった。
フリージアはまるで計算したかの様に空中を蹴り、振り返る相手の死角に入る。
物理法則を無視した様な直角ターンを見せ、相手の背後に着地する。
黒いギガンティアの操縦者は視界から消えていなくなるフリージアに混乱する。
センサーで背後に居る事を知り、慌てて機体を振り向かせたが既に遅かった。
構えた盾を避ける様にフリージアは体勢を低くして敵の機体の足を切り裂く。
「余裕はない。悪く思うな」
バランスを崩した黒いギガンティアの腹をフリージアの剣が貫く。
そのまま肩で体当たりをすると、フリージアは剣を相手から引き抜く。
黒いギガンティアはそのまま倒れ、動かなくなった。
レインが黒いギガンティアと戦っていた頃、ライラともう一機の機体の戦いは
続いていた。
黒いギガンティアは剣を抜き、スカーレットセージに斬りかかる。
その斬撃は思ったよりも鋭く、鍛え上げられた剣撃だった。
思ったより手強い相手に、ライラは防戦を強いられた。
(こいつ、思ったより早い。 拳を返す隙が…)
それでも何とか鉄壁のシールドで斬撃を凌いでいた。
防戦一方のライラを遠くから見ていたデリーは、彼女の劣勢を見て慌てていた。
(ライラさんが… で、でも、今は逃げないと…)
そう思って周囲を見回した時だった。
そこにはシャルル機から通信が切り離され、放置されたセミキャリアーがあった。
セミキャリアーは誘導者を失い、そのまま浮遊しながら待機していた。
デリーはそのセミキャリアーの後ろに取り付く。
動きを止めたデリー機を見てドモンが叫ぶ。
「デリーさん! 何やってる」
「構わず先に行って下さい!」
デリーはそう叫ぶとワーカーのスラスターを吹かし、キャリアーを押す。
「どっせぇーい!」
セミキャリアーがゆっくりと動き始める。
「デリーさん、何を… !」
動き始めたセミキャリアーを見て、ドモンは彼女の意図を理解する。
急いでデリー機の元へ駆けつけると一緒にキャリアーを押し始めた。
「ドモンさん?」
「いいから、タイミングを合わせろ!」
「は、はいっ!」
二機はスラスターを全開にしてセミキャリアーを押す。
セミキャリアーは二機の推進力を得て勢いよく地表を滑り出す。
彼らはセミキャリアーを押したまま、ライラと戦っている黒いギガンティアへ
突撃していく。
ライラと戦っていた黒いギガンティアの操縦者は、スカーレットセージの鉄壁の
防御力に手を焼いていた。
何とか防御を突き崩そうと剣を繰り出していたが、目の前の敵に集中する余り、
迫り来るセミキャリアーに気づくのが遅れた。
突然目前に迫って来た巨大な物体に驚き、戸惑いを見せた。
相手が視線を逸らしたその一瞬をライラは見逃さなかった。
彼女はスラスターを全開にしてシールドごと黒いギガンティアに体当たりする。
手ごたえを感じた直後、大地を蹴ってすかさず飛び退いた。
突き飛ばされた黒いギガンティアにセミキャリアーが勢い良く激突する。
ギガンティアの装甲はエナジーで強化されていて、いかに巨大物体が衝突しよう
ともそれが通常の物体であるならダメージを受ける事はほぼない。
だが、機体の損傷と衝撃は別物だ。
機体よりはるかに大きい巨体が衝突すればそれ相応の衝撃を受ける事になる。
黒い機体は、まるで車に跳ねられた人の様に吹き飛ばされ地面を転がる。
その衝撃は中まで伝わり、操縦者はシートから転げ落ちそうな衝撃を受ける。
操縦者は慌てて機体を立て直そうと立ち上がらせた。
だがその瞬間、機体の頭部にスカーレットセージの鋭い蹴りが決まる。
エナジーが込められたつま先は黒いギガンティアの頭部をひしゃげさせる。
ライラは左のシールドもナックル型に変化させ、黒いギガンティアに猛ラッシュ
を浴びせた。
黒いギガンティアの頭部は半壊し、拳が命中した胴体の装甲も歪んでいた。
辛くも反撃しようとした黒いギガンティアに反応し、ライラは後ろに飛びのくと
肩から光弾を発射して相手に打ち込む。
光弾は黒いギガンティアの胴体に直撃し、歪んだ装甲とフレームが損傷して破片
が飛び散る。
黒いギガンティアは剣を落とし片膝を付いた。
「助かったよ。おやじ、デリーさん!」
ライラは満面の笑みを浮かべながら頼もしい援軍に感謝の言葉を送る。
ドモンは操縦席の中からスカーレットセージに向けて親指を立てて答える。
「おうよ。
デリーさん、とっとと逃げるぞ。
戻ったら、お礼にとっておきのボトルを開けてやる」
「わあ! ならなおさら無事に戻らないとですね。
逃げますよ。 私、超逃げます!」
そんな会話を交わしながら二人のワーカーは全力で後退していく。
一方、黒いギガンティアの損傷は甚大だった。
操縦席のモニターパネルには大きなひびが入り、重大な損傷が出ていた。
そのシートに乗る操縦者は目の前の赤いギガンティアに不覚をとり、憤っていた。
だが、それでも彼が見据えていた物は目の前の敵ではなかった。
彼らの標的である、カリン・シャルルの機体。
それが後退しながら橋の上に掛かっていたのを彼は見逃さなかった。
不敵な笑みを浮かべると、胸元から取り出したスイッチを押した。
その瞬間、橋が爆発を起こし爆炎が上がる。
その上に居たシャルル機は爆発に巻き込まれ、大量の瓦礫と共に堀の中の暗い闇へ
吸い込まれる様にへ落ちて行く。
それと同時に辺りを照らしていた照明弾が燃え尽き、地面に落ちる。
辺りはまた暗闇に包まれていった。




