3-10 嬉しかったから
~前回までのあらすじ~
遺跡探索の前日にギガンティアの使用不可を告げられたシャルル。
仕方なく命令には従った彼女だが、上司からのあてつけに心を痛める。
教主の命で孤児から教主候補に抜擢された彼女は周囲から疎まれていたのだ。
それでも彼女は必死に役目をこなそうともがいていた。
そして探索当日を迎えた。
ナナリー達はキャリアーの傍でカリン・シャルルの到着を待つ。
遺跡は町の中心部にある為、そこまではキャリアーで向かう事になっていた。
しばらくするとガレージに車が到着し、助手席からシャルルが降りて来た。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
相変わらず丁寧に挨拶をする彼女。
ドモンが前に出て彼女を迎える。
「こちらこそ。
準備は整っているんで、いつでも出発できますよ」
「では、キャリアーの移動をお願いします。
我々が車で西門まで先導致しますので」
そう言うとシャルルはガレージの入口で待機している車へ戻って行く。
ナナリー達はキャリアーに乗り込み、その後を追った。
町の外周を回り、西側の長い通路を抜け中心部の城壁に近づいて行く。
やがて城壁にある大きな門、西門前に到着する。
シャルルが合図を送ると扉は開かれ、ナナリー達はフォルトワースの中心部へ
入っていった。
外部の人間はあまり目にする事はない、町の中心部。
古くて綺麗な街並みだが、あくまで教団幹部の人間達が使っている為か質素で
商売っ気は無い感じに見えた。
中央には大きな城。
そしてその西側には小高い丘の様な物があった。
先導するテンプルナイトの車はそこへ向かっている様だった。
ドモンも街並みを見回しながらもキャリアーでそれに付いて行く。
道中、何台かのキャリアーとすれ違う。
恐らくアンバー結晶を運搬しているのだろう。
それらは東門の方へ向かって行く。
それらが頻繁に出入りしている一つ目の入り口を過ぎ、その先のゲート前で車は
停車した。
ドモンはゲート前の広場へキャリアーを停止させるように指示を受ける。
そこには何人かの人員と武装されたワーカー、そしてキャリアーの土台部分だけを
取り外した様な荷台の様な物が置かれていた。
シャルルはそれらの荷物が置かれている場所へ歩いて行く。
ワーカーの前に居るテンプルナイトがシャルルに話しかける。
「お疲れ様です。シャルル様。
ワーカーと運搬用のキャリアーの用意はこちらになります。
今回の担当はシャルル様だけになるそうです。
よろしくお願いします」
(人員すら回してもらえないのか…)
シャルルは思わずため息を付きそうになったが、顔色も変えずに微笑み返す。
「ありがとうございます。後はこちらで引き受けます」
「ご帰還の連絡があり次第、お迎えに上がります。
では、失礼いたします」
テンプルナイト達は礼をすると、シャルルが乗って来た車へ乗り込むとどこかへ
去って行く。
ナナリー達はその様子をキャリアーを降りて遠くから眺めていた。
シャルルはそちらへ振り返ると小走りで近づいて来た。
「お待たせしました。
これよりゲート内へ向かいます。
私がワーカーで先導しますので、皆さんも乗り換えて下さい。
エル・ギガンティアはゲート内に入ってからでも大丈夫です。
地下に降りるまでの経路の安全は確保されていますので」
ドモンが不思議そうに尋ねる。
「あんたはワーカーで参加するのかい?
ギガンティアの護衛が付くという話だったが」
シャルルの顔が少し曇る。
「申し訳ありません。
他にも探索している箇所がいくつかありまして、ギガンティアはそちらに…
貴方達の戦力なら問題ないだろうという上の判断ですので」
シャルルは申し訳なさそうに話しを続ける。
「代わりと言っては何ですが、運搬用のセミキャリアーは手配しました。
キャリアーと同じく浮遊推進で、ワーカーからの通信操作が可能です。
これを私のワーカーで操作して、物品の運搬をサポートします」
セミキャリアーという巨大な荷台を見て、デリーが目を輝かす。
「おお! これならガーディアンでも回収できますよ!」
素直に喜ぶデリーを見て、シャルルは少し安心した表情を浮かべる。
シャルルは、リーズからギガンティアを回せないという話をされてから、方々に
頼み込んでこのセミキャリアーを一台回してもらったのだ。
戦力的なサポートが出来ないのであれば、せめて運搬の補助をして彼らの収入の
補助ができればと言う考えからだった。
「貴方達の戦力なら、ガーディアンが出ても問題はないでしょう。
無事倒せたら、持ち帰って是非報酬の足しにして下さい」
「いや、これは助かります。
大きな物だと、ワーカー2台だけでは運搬は厳しいですからな」
ドモンもシャルルの気遣いに喜び、セミキャリアーを見上げる。
彼の印象も良かった事で、シャルルは少し胸を撫でおろした。
シャルルはレインとライラの方に向き直る。
「お二方には負担をかけてしまう事になりますが、ご容赦下さい」
シャルルはペコリと頭を下げる。
「大丈夫、ワーカーの護衛はあたしに任せておきな。
ガーディアンは旦那がいれば安心さ。な、旦那?」
「ああ、任せてくれ」
ギガンティアに乗る二人は、援護がない事を特に気に留めていないようだった。
騎士団を頼ろうとも思っていないレイン達をシャルルは少し頼もしく思った。
「ありがとうございます。
それではゲートに向かいましょう」
シャルル、ドモン、デリーの三人はワーカーに乗り込み、それ以外の三人はセミ
キャリアーの荷台の上に乗った。
シャルルのワーカーが動き出すと、セミキャリアーは自動的に走行を開始し、
ワーカーに追従する。
「凄いですね。本当に自動で走ってますよ」
荷台の手すりにつかまりながらナナリーが嬉しそうに辺りを見回す。
隣に座っていたライラがナナリーを見ながら声を掛ける。
「ところでナナリー、お前はどっちのワーカーに乗るんだ?」
今回の探索において、ナナリーだけ機体を持っていない。
必然的にドモンかデリーのワーカーのサブシートに乗って、索敵の補助をすること
になる。
正直な所、居なくてもどうにでもなるポジションでもある。
当初はナナリーは留守番という事もありえたが、彼女は一緒に行きたいと主張し、
どちらかのワーカーに同乗する事になっていた。
いっその事、レインと一緒にギガンティアに乗ってしまえば安全だが、そうなると
本当に彼女は同乗しているだけでやる事はない。
彼女は少しでも手伝えることがあればと、ワーカーのサブシートへ乗りたいと主張
していたのだ。
ナナリーはそっとライラに耳打ちする。
ライラはそれを聞くと意外そうな表情をした。
「それって… 許可が降りるかな」
そうこうしている内に、ナナリー達はゲートの前に到着する。
ゲート前のワーカーにシャルルが指示を出すと、ゲートがゆっくり開かれて行く。
彼らは巨大な門を通り、遺跡の最上層部へ侵入した。
そこは照明に照らされ明るく、岩肌がむき出しの天井や壁面を除けば巨大な倉庫
の様な作りだった。
奥にいくつか巨大なリフトがあり、ぞれぞれが別のエリアに繋がっている様だ。
左の一番奥のリフトまでまで行くと、シャルルはワーカーを停止させる。
そこにはリフトを操作する為にテンプルナイトのワーカーが一台待機していて、
リフトの昇降を制御している様だった。
ナナリー達は一度機体を降り、集まって最終確認を行う。
「それではこれから、遺跡のC区域へ降ります。
降りた先のC-1区域は探索済みですが、その先は未探査のエリアになります。
先のエリアの広さや重要な施設などが残されていないかを確認します。
実質の活動時間は4~5時間程度を想定しています。
また、危険と判断した場合は速やかに撤収しますので必ず従って下さい。
通信は指定した回線を常に開いておいて下さい。
何か確認しておく事はありますか」
行動内容を説明するシャルルに向かってレインが手を上げて発言する。
「こちらで安全面を考えたフォーメーションを用意してある。
それに従ってもらう形で構わないか。
そちらもワーカーでは最前面に出るわけには行かないだろう」
「…そうですね。
フロントはギガンティアに任せた方が安全ですね。
では、後に確認させて下さい。
他にないですか」
その他は特に意見は無さそうだった。
「それでは皆さん、機体に搭乗して下さい」
シャルルがそう言うと、皆は機体の準備を始める。
ナナリーはシャルルに駆け寄ると声を掛けた。
「あの、わたしを貴方の機体に乗せて頂けませんか」
「はい?」
突然のナナリーの言葉にシャルルは思わず、変な声を出してしまう。
戸惑うシャルルにナナリーは話を続ける。
「今回、担当が貴方だけならワーカーのサブシートは空いている筈です。
私をそこに乗せて欲しいんです」
ナナリーの言葉に聞いていた周囲の者も驚く。
慌ててドモンが駆け寄ろうとするが、ライラがそれを制する。
ライラはセミキャリアーに居る時にナナリーからこの事を聞いていたからだった。
ドモンは何か考えがあるのかと様子を見守る。
レインは少し離れた所で振り返り、経緯を見つめていた。
シャルルはナナリーを見つめる。
ナナリーの表情は別にふざけている訳でもなさそうだった。
「…どうして、私の機体に乗りたいのですか」
「貴方の仕事ぶりを近くで見たいからです。
勿論、共通仕様であるなら索敵のセンサーの見方も知っていますので
手伝うことは出来ると思います」
ナナリーの話は、単なる興味本位と変わらない内容だった。
残念だが、素人のセンサー確認程度なら居なくてもさほど問題ない。
彼女は断ろうと返事をした。
「いいですよ」
つい口からこぼれた正反対の言葉。
「ありがとうございます! 頑張りますね!」
ナナリーは嬉しそうにほほ笑む。
拒否しようと思っていたシャルルは、つい出てしまった自分の言葉に理解が
追いつかず、少し混乱する。
何も返せずにいたシャルルに対し、レインは彼女の名前を呼ぶ。
「カリン・シャルル」
口数の余り多くない傭兵からフルネームを呼ばれたシャルルは、少し驚いて
レインを見つめる。
何を言われるのかと緊張した彼女だったが、レインから発せられた言葉は想像
とは違う物だった。
「…ナナリーを頼む」
それは信頼の言葉だった。
彼の言葉がシャルルの心を落ち着かせる。
「はい、お任せ下さい」
そう言ってほほ笑むと、シャルルはナナリーの手を取ってワーカーへ向かう。
今更撤回も出来ないし、あちらが望むなら同乗させるのも問題ない。
彼女は心を決めてナナリーを自分のワーカーへ連れて行く。
ライラはその姿を見て、何故か少し嬉しくなった。
ドモンやデリーも二人の姿を微笑ましく見つめていた。
彼らは何となく、シャルルが何か無理をしている事を感じ取っていたのだ。
そんな彼女に対し、歳の一番近いであろうナナリーが彼女に寄り添う事で
何かが少し変わるんじゃないか、そんな気がしたのだ。
皆は二人を見送るとそれぞれの機体へ乗り込む。
ナナリーとシャルルもワーカーへ乗り込む。
サブシートに座ったナナリーは改めて礼を言う。
「ありがとうございます。私を一緒に乗せてくれて」
「いえ。でも、特別見て参考になる事なんてないと思いますよ」
シャルルは少し照れながら答える。
今考えても何故許可したのかわからない。
ワーカーには特別な機密があるわけではないので乗せる事自体は問題はない。
だからと言って、わざわざ乗せる理由もないのだ。
強いて理由を挙げるなら…
嬉しかった、からなのかもしれない。
彼女は、自分の仕事ぶりを見たいと言ってくれた。
誰からも注目などされていない自分にそう言ってくれた年の近い少女。
もし友達という物が出来るなら、こういう人がいいな。
カリン・シャルルはそう思ったのだ。




