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第三章 フォルトワースの悪魔  3-4 猫の恩返し

~前回までのあらすじ~

ケアンズ率いる王国軍特務隊の攻撃が始まった。

応戦するレインのフリージア。

レインは相手のキャリアーを標的にする事で混乱を誘う。

そんな中、ライラは自分達のキャリアーを守る為スカーレットセージで出撃する。

ハミルトンの駆るベイラムと対峙するライラ。

彼女は機体の性能を生かし、ハミルトン相手に戦いを有利に進めていた。

ライラがハミルトンと対峙していた頃、レインとケアンズの戦いも続いていた。


ケアンズはキャリアーを狙うフリ-ジアを阻止しようと、ブーストで地上を疾走

し、フリージアとの距離を詰めようとしていた。

ケアンズ機が何とかフリージアの背後に迫った時、フリージアは急に向きを変え

ると凄まじい速度でケアンズ機に斬りかかって来た。


まるで流星の様な突き。

ケアンズはその動きを捕え、何とか盾で受け流した。

上空からのまるで地面に突き刺さる様な突きであったが、フリージアはくるりと

一回転すると、落下して来たとは思えない様子で優雅にふわりと地面に着地する。


「やっとやる気になってくれたか。そうこなくてはな!」


ケアンズはそう叫ぶと、着地したフリージアに斬りかかって行く。

二機の剣が切り結ばれ轟音が辺りに響く。

レインのフリージアは素早い動きでケアンズの剣を払うと、即座に斬り込む。

ケアンズはその剣を冷静に盾と剣で捌いていく。

前回のコロシアム襲撃時では、フリージアはケアンズと戦うことなく飛び去って

いた為、彼らは初めて剣を交える事になった。


そのすぐ先では、未だに戦闘域を脱出できていない王国軍のキャリアー001と002

が速度を上げて必死に離脱を試みていた。

フリージアが飛行して予想以上の速さで接近して来た為、安全な所まで退避する事

が出来ていなかった。

レインとケアンズが斬り合いを始めた事で、やっと距離を取り始める事が出来たと

いう状態だった。

パトナは焦りながら周りに指示を出す。


「離脱急いで!

 002は進路を左へ変えなさい。

 目標を分散させるのよ。我々が足を引っ張ってどうするの!」


指示を受けた002は慌てて舵を切り、001と距離を取り始める。


レインとケアンズの剣戟は続いていた。

レインはフリージアの細身の剣で、ケアンズのベイラムを責め立てる。

時より突きを交えながら、その速い斬撃で相手に攻撃の隙を与えない。

一方のケアンズも、その攻撃に何とか食らいついていた。

落ち着いて相手の剣を盾で受け止め、隙を見て斬撃を返す。

状況はフリージアが押している様に見える。

だが、どちらもまだ相手の出方を窺っている様な戦いだった。


レインの剣を受けながら、ケアンズはその剣筋を分析する。


(速い。そして読みにくい斬撃だ。

 パトナは戦いにくい相手だと言っていたが… 確かに変幻自在だ。

 こいつ、本当にただのサルベージャーなのか)


対するレインもケアンズの剣を見極めようとしていた。


(騎士らしい剣だ。基本に忠実で防御に重きが置かれている。

 変化に対応できる技量もある。

 厄介だが、一対一ならなんとかならない事も無い。

 だが…)


レインは遠くでハミルトンと対峙するライラの機体をちらりと見る。


(ライラは初陣だ。戦いは長引かせない方がいい)


レインは斬撃を突きに主体に変える。

距離を取る様に攻撃を変えて来たレインにケアンズは対応し、機体を後ろに

飛び退かせて距離を取った。

だがケアンズが距離を取った瞬間、フリージアは上空へ飛び立つとキャリアー

001の方向へ飛んでいく。


「こいつ、またキャリアーを… 卑怯な奴め!」


ケアンズは慌ててブーストを吹かし、後を追う。

飛行するフリージアは、左手の甲から光弾を発射する。

光弾がキャリアー001の周囲に着弾し、車体が揺れる。

攻撃を受けたパトナに焦りの表情が浮かぶ。


「ジグザクに走行して! 受けたらひとたまりもないわ」


「無茶言わないで下さい! 小型車じゃないんですよ!」


001の操縦手が悲鳴の様な声を上げる。

キャリアーを執拗に狙われたケアンズは焦り、機体のブーストを最大出力で

吹かし、機体を飛行させる。


「調子に…乗るなぁ!」


彼は盾を構え、機体をフリージアにぶつけるつもりで突撃させる。

だがその瞬間、フリージアはそれを読んでいたかのようにケアンズ機の方に

振り返る。

振り返ったフリージアの構える剣は、エナジーを纏い光を放っていた。

エナジーブレイドだった。

ケアンズが異変に気付いた瞬間、光り輝く斬撃が飛び、ケアンズ機に迫る。

レインの狙いは最初からケアンズだったのだ。

キャリアーへの攻撃を囮に、ケアンズは誘い込まれていたのだ。


「罠か! しまった!」


ケアンズは慌ててブーストを吹かし機体を逸らす。

何とか本体への直撃は避けたが、エナジーブレイドはケアンズ機の右腕に命中し、

肘から下を斬り飛ばした。


「隊長!」


その光景にパトナが悲鳴を上げる。


そんな戦いの行方を、操縦席の入り口で見守る一人の人物がいた。

カトレア・デリーである。

彼女はケアンズ機の斬り飛ばされた腕が地面に落下するのを呆然と眺めていた。

そして、彼女は何か決意を固めた表情をすると控室に走って行った。

控室の奥の扉を開け、ワーカーやギガンティアが収納されているコンテナ部へ

駆け込む。


コンテナ内には整備兵のナイルが居た。

彼はキャリアーの周囲についているカメラから送られて来る映像を見ながら、仲間

の戦いを祈る様に見ていた。

デリーはナイルに近づくと声を掛ける。


「あの、私のワーカーは?」


ナイルはいきなり現れたデリーに驚きながら答える。


「あ、ああ、動かせるが… 

 まさか外に出るつもりか?

 今出たら戦闘に巻き込まれるぞ」


デリーはそのまま自分のワーカーに駆け上ると、操縦席に着きエンジンをかける。

デリーはワーカーを動かし、壁に掛けられたワーカー用のライフルを手に取る。

それを見たナイルは叫ぶ。


「おい馬鹿! 何をするつもりだ。やめろ!」


彼女を何とか静止しようとするナイル。

するとワーカーからデリーの声が響いて来た。


「死にたくなかったらコンテナを開けて下さい!」


「お前、なんて事を…」


ナイルはいきなりコンテナ内で起きた事件に慌てる。

たが、デリーが発した言葉は彼の予想とは違うものだった。


「あの人が… あのギガンティアが本気をだしたら

 この車両なんて一瞬で鉄くずです。

 このままじゃ隊長さんも… だから、私を行かせて下さい。

 皆、死にたくないでしょう!」


「え… ど、どういうことだ?」


ナイルはてっきりデリーが反乱でも起こしたのかと焦っていたが、彼女の言葉は

そんな雰囲気ではなかった。

彼女は隊長を気遣う言葉を発したのだ。

混乱するナイルを他所に、デリーの悲痛な声がコンテナに響く。


「私はあなた達に助けてもらった恩があります。

 でも、あなた達が狙うあの人達にも一宿一飯の恩義があるんです。

 そんな人同士で戦って欲しくない!」


「あんた…」


「私、馬鹿だから、作戦とか都合とか、そういうの分かんないんです!

 ただ、皆に死んで欲しくないんです。

 だから、だから、行かせて下さい…」


ワーカーから流れる涙声にナイルは黙ったままワーカーの中の彼女を見つめる。

そして、振り返ると真後ろあったパネルを操作する。

コンテナの右の壁がスライドして開いていく。


「…お嬢さん、生きていたら、またな」


「ありがとう! また!」


デリーの乗るワーカーがコンテナを飛び出す。

そしてジャンプすると、キャリアー001の操縦席の屋根に飛び乗る。

車体が揺れ、中にいた隊員達が驚く。


「な、なに?」


パトナがそう言った瞬間、銃声が響き、キャリアーの正面の地面に煙が上がる。


「キャリアーを止めて下さい! でないと操縦席を打ち抜きます!」


デリーの大声がワーカーから響く。

彼女はワーカーを操作するとライフルを操縦席へ向ける。


「脅しじゃありませーん! 止まって下さい。

 …回線は1111-Aを開いて!」


慌てたパトナはキャリアーを停止する様に指示を出す。

そして、デリーが叫んだ番号で回線を開かせる。


「あなた、こんな時に何を!」


デリーを怒鳴りつけるパトナ。

だが、通信機からは懇願するような声が響いて来た。


「パトナさん、お願いです。今はおとなしく従って下さい。

 お願いします。 …皆を助ける為に!」


「あなた…」


キャリアー001の操縦席のクルー達が指示を仰ぎ、パトナを見つめる。


「…彼女の指示に従って。動かないで」


パトナは自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。


彼女は賭けに出た。

ケアンズ機もハミルトン機も損傷を受け、キャリアーは敵に捕捉されている。

デリーが出て来なくても間違いなく不利な状況だった。

しかし、デリーはこちらを人質に取りながらも、助けると言った。

パトナは不本意ながらも、自分たちの命運をデリーに託すしかなかった。


フリージアがキャリアー001に接近する。

キャリアーの操縦席の上に居るデリーのワーカーがフリージアに手を振る。

機体からデリーの大声が響く。


「レインさーん、私ですー! カトレア・デリーです。

 撃たないでくださーい!」


レインはデリーのワーカーを確認すると、キャリアー001の傍に着地する。

そして剣をキャリアー001の操縦席に向けた。

機体の右手を失いながらもなんとか追いかけて来たケアンズだったが、その光景を

見て苦い顔をする。

フリージアからレインの声が響く。


「動くな。動けばキャリアーを破壊する」


ケアンズは完全にキャリアーを人質に取られる状態になった。

仲間の命が掛かっているとなれば迂闊に動く事は出来ない。

遠くに居るハミルトンもキャリアーが人質に取られた事を確認し、困惑して叫ぶ。


「隊長! どうなっているんです! 隊長!」


王国軍側にとって、最悪な状態になった。

ただでさえ、ギガンティアは二機とも損傷し不利な状況だった。

その上人質を取られ、このまま相手の言いなりになれば全滅もありうる。

犠牲を覚悟してでも抵抗すべきか否か。

ケアンズは選択に迫られた。


デリーのワーカーへ個別の通信が入る。レインからだった。


「カトレア・デリー、無事か」


デリーはひとまずレインが問答無用でキャリアーを破壊しなかった事に安堵した。


「レインさん、ごめんなさい。私、事情とか知らなくて…

 でもその上でお願いです。

 皆さんを助けて下さい。

 私このキャリアーの皆さんに助けてもらったんです。

 …無理を言っているのは分かってます。

 それでも… お願いします!」


デリー自身も虫のいい話だと分かっている。

王国軍の人達に見つからないように、レインやドモンは行動していたのだろう。

自分はそれを台無しにした。

その上戦闘になった相手を見逃せというのだ。

ダメだと言われても当然の事ではあった。

それでも、彼女は少しでも受けた恩を返したかったのだ。


現実は非情だ。

どう願おうと叶わない事はある。

それでも、自分に優しくしてくれた人達が死ぬ所など見たくはない。

それが彼女を突き動かしていた。


少しの沈黙の後、レインは答えた。


「…わかった。悪いようにはしない」


デリーの目に涙が浮かぶ。

彼女はレインに向けて感謝を込めて叫ぶ。


「ありがとうございます… ありがとうございます!

 貴方ならそう言ってくれるって信じてました…」


感涙にむせぶ彼女と対照的に、レインは淡々と話を続ける。


「デリー、あの赤い機体は見えるな」


フリージアが指す方向に、動きを止めたハミルトン機と対峙したままの

ライラのスカーレットセージの姿が見える。


「はい。…あれ、何ですか?」


「ライラが乗っている。

 あれと一緒にドモンのキャリアーへ合流しろ」


「ライラさんが!?」


「急げ。後は任せろ」


「あ、はい」


そう言うとデリーは銃を放り出すとワーカーを走らせる。

彼女は操縦席の中から、遠ざかって行くキャリアー001とケアンズ機を見つめる。


(皆さん、どうかご無事で…)


デリーの機体がスカーレットセージに近づいて行く。

レインの指示を受けたライラは盾を構えたまま後退し、デリーの機体と合流すると

並走してその場を離れていく。

ハミルトンはただそれを見送る事しか出来なかった。


その光景を苦々しく見つめるケアンズ。

フリージアのカメラアイが不規則に点滅する。

ギガンティア共通の直接通信の合図だった。

ケアンズはパネルを操作して回線を開いた。

パネルからレインの声が響く。


「お前が隊長だな」


「そうだ。…ケアンズだ。

 こちらから戦いを仕掛けておいて、厚かましいとは思うが…

 ここは俺の首だけで済ませてもらえないか。

 部下は見逃してくれ。頼む」


「お前に選択権はない。今から俺の指示に従え」


冷たいレインの言葉。

だが確かに今のケアンズに選択権などない。

彼は半ば諦めの表情を浮かべながら言葉を返す。


「…そうだな。で、どうすればいい」


「退避したもう一台のキャリアーがいたはずだ。

 お前ともう一機は武器を捨てた後、それと合流しろ。

 それまでこのキャリアーは人質とさせてもらう。

 お前らが探知範囲内から抜けたら、このキャリアーも解放しよう」


「俺も見逃すというのか… 随分と甘いな」


「カトレア・デリーに感謝するんだな。

 人道的救助だったのかは知らんが、お前達が彼女助けた事が結果的に

 お前達の命を助ける事になった。

 それだけの事だ」


ケアンズはこの言葉を聞いて、デリーが自分達の命を助けるように交渉した

のだと悟った。


「そうか。

 では彼女に会ったら、俺が感謝していたと伝えてくれ。

 あんたの寛大な心にも感謝する」


「できれば、もう追って来ないで欲しいがな」


「俺たちは軍人だ。そこは察してくれ。

 だがここまで寛大に対応されては、個人的には思う所はあると言っておく」


「最後に一つ、質問に答えろ。

 何故、あの少女を狙う」


戦いの核心を突く質問。

ケアンズは少しの間沈黙した後、答えた。


「普段なら答えられない、と言う所だが…

 詳しい事は知らされていない。

 上司も知らなかった様だ。

 上からはただ、遺跡から見つかった少女がいれば保護しろ、と指示された」


「…消すのが目的ではないと」


「そうなるな。

 今の所は、という言葉が付くがな」


「わかった。では行け」


「ああ、あんたの気持ちが変わらない内にそうさせてもらう」


ケアンズはハミルトンに指示を出す。

それを聞くとハミルトンは剣を投げ捨て、唇を噛みながらギガンティアを

走らせる。

ケアンズの傍まで来ると、二機はブーストを吹かし北方向へ消えていく。

その姿が見えなくなると、レインは剣を収めた。


「お前達の隊長は約束を守った。行け」


キャリアー001の窓からフリージアの動向を見ていたパトナは深々と頭を下げる。


「あなたの慈悲に感謝を。では」


パトナはキャリアーに発進命令を出す。

キャリアーが北へ向かって小さくなるのを見届けると、レインはナナリー達と合流

するためにフリージアを発進させる。

反対方向の空へフリージアは消えて行った。



カトレア・デリーの不注意から起こったとも言える戦い。

だが、彼女のお陰で一人の戦死者も出ずに終わったのもまた事実であった。

王国軍の者達は彼女のお陰で助かったのかもしれない。

だが、再び作戦失敗と言う苦渋を舐める事にもなったのである。

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