↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/33

序章 メセタセントラルの戦い 中編

~前回のあらすじ~

本編でナナリーが旅立つ10年も前の事。

北の大陸では王国と帝国の戦い「メセタセントラルの戦い」が勃発した。

その中で王国の第二遊撃部隊は敵の奇襲を受ける事になるが…

メセタセントラルでの帝国討伐作戦が開始され、王国の部隊が進撃を始めた。


王国の第二遊撃隊は平原の北側の開けた地を進んでいた。

隊はギガンティア3機を一編成としたの2つの小隊、計6機で構成されていた。

部隊長のサイラスが率いる第一小隊と副隊長のセーラムが率いる第二小隊。

それぞれの機体も剣と盾と言う標準的な装備をしている。

余り離れず、互いをフォローしながら多数対一に持ち込む王国の標準的な

戦法を取る為に組まれた小隊編成であった。


この侵攻ルートに帝国の部隊が向かったという情報は今の所ない。

それでも隊長のサイラスは慎重に進軍を行った。

部下のカイドウを斥候に出し、通信のつながる範囲で先行させた。


この世界では電波などによる遠距離通信が難しい。

それは過去の大災害で降り注いだ浮遊大陸の破片に含まれる物質が、通信

電波を阻害する為だと言われている

その為ギガンティア同士の通信も電子機器による索敵も短距離に限られ、

奇襲や潜伏を事前に発見するを難しくしていた。

進軍が進む中、少し風が強くなる。

平原の荒地の砂塵が巻き上がり、視界が悪くなる。


その時だった。

先行するカイドウからサイラスへ通信が入った。


「隊長、報告です。前方の岩山の傍に不審な人物を発見しました」


「人だと? こんな所にか」


「はい、放置しても問題はなさそうですが… どうしますか?」


この平原では電磁コンパスも狂いやすく、強風が吹けば砂嵐となる。

故に一般人は危険が伴うこの平原を迂回する事が多い。

ましてや王国と帝国が衝突が噂されている今、二国間の中間にあるこの危険

地帯にわざわざ足を踏み込れる者は少ないはずだ。

たとえ敵兵であったとしてもギガンティアと人では戦いにならず、偵察要員

だったとしても、連絡もままならないこの地では何が出来るわけでもない。

しかし、カイドウの報告はなんというか歯切れが悪い。

その人物に対し何か不信感の様な物を抱いているのかもしれない。


「どうした、何かあるなら正確に報告しろ」


「いえ、何かしている様子は… ですが、それがむしろおかしいというか。

 こちらのギガンティアが見えているはずですが恐れる様子もありません。

 どうも民間人ではなさそうです。捕らえますか?」


そんなやり取りをしている間にサイラスの率いる部隊は停止しているカイドウ

機の近くまで追いついてしまった。

サイラスは報告のあった岩山の映像をズームする。

確かに何者かが立っている。

サイラスは操縦席のパネルに表示されている情報を確認する。

周囲には大きな熱源も動体反応もない。

どこかにギガンティアが伏せているという事もないようだ。

となると、あの人物はここで何をしているのか。


「カイドウ、念のため近づいて警告を与えろ。何もなさそうなら放置でいい」


「了解。接近します」


カイドウの機体がゆっくりとその人物に近づいていく。

立派な体格の男。

彼は近づいてくるカイドウの機体を不敵に見つめている。

カイドウが外部音声で警告を発しようとしたその時だった。


「顕・現・せよ!」


男が大声で叫ぶ。

地面から光が巻き上がり、巨大な物体が一瞬にして現れる。


巨大な人影。

真っ黒で赤い色のラインの入った禍々しくも美しい装甲。

ドレスと見間違うような美しい腰アーマー。

右肩に担ぎ上げられた巨大な刀剣。


ギガンティアだった。


一瞬でその場に巨大な機体が姿を現した。

先ほどの男はその機体の手のひらに乗っている。

男はその巨大な手のひらを蹴って背後の開いた胸の操縦席へ吸い込まれるように

消えていった。


予想外の出来事に王国の部隊の誰もが反応が遅れた。

目の前にいたカイドウですらそれが「敵」である事を認識するのが遅れた。


「エル・ギガンティアか!」


サイラスは目の前に現れた機体を見て叫ぶ。


エル・ギガンティアとは、古代文明が作ったギガンティアの一種である。

過去の王族や要人の為に作られた特別製とも言われ、通常のギガンティアと強さ

そのものに大差があるわけではないが、異質な点が一つあった。

それは「携帯可能」であるという点だ。

現代では解析できていない空間技術操作技術が用いられていて、アーティファクト

と呼ばれる装身具を用い、亜空間に格納されている機体をいつでもどこでも呼び

出せるという代物だった。


エル・ギガンティアは希少であり、現存する物も少ない。

その殆どは権力の象徴や宝物として、王族や位の高い貴族が所持している。

故に通常の戦場で目にする事などまずなかった。

王国の騎士達は目の前にいきなりギガンティアが現れるという事態を全く想定

していなかった。


出現した黒いギガンティアは、まるで突風のように切り込んできた。

大地を蹴り、恐ろしい程のスピードでカイドウ機との間合いを詰める。

そして右腰に下げている小剣を素早く抜くと、すれ違いざまにカイドウ機の胴体

を切り裂いた。

カイドウは咄嗟に身を庇おうと反応したが間に合わない。

爆薬でも傷一つつかないギガンティアの装甲が、まるで紙のように切り裂かれる。

剣先はカイドウの座る操縦席に届き、壁面にあるクリスタル製のモニターは砕け、

カイドウへと降り注ぐ。

カイドウ機は構えかけた盾と一緒に胴体半分を切り裂かれ倒れていった。


「カ、カイドウ!」


一瞬で切り裂かれた部下を目の前にしてサイラスが叫ぶ。

黒い機体は倒れていくカイドウの機体に目もくれずさらに加速をする。

脚部のスラスターから粒子を噴射し、凄まじい速度でサイラスの機体に接近する。

カイドウを切り裂いた剣がサイラスを襲う。


サイラスは面食らいながらもその突撃に咄嗟に反応した。

盾を構えてスラスターを吹かし、突撃を避けるため全力でその場から飛び退いた。

一瞬の判断が功を奏し、黒騎士の剣はサイラスの機体に届くことはなく、盾の

上部を斬り裂いただけで済んだ。

それでも剣撃を受けた盾の上部分は簡単に切断され、宙を舞った。


「なんて斬撃だっ!」


サイラスは慌てて機体の姿勢を立て直す。

そして思い出す。

帝国の侵攻部隊を率いる黒いギガンティアがいるという話を。


「こいつが… 帝国の黒騎士かっ!」


サイラスは追撃に備え構えを取る。

だが、黒騎士はサイラスと彼の左後方に控えていたハミルトンの機体にも目も

くれず全速力でスラスターを吹かし通り過ぎていく。

その先にはセーラム副隊長の率いる第二小隊がいた。


サイラスは黒騎士の意図に気づく。

敵は単独だ。

本来なら数で勝る自分達が圧倒的に有利なのは明らかで、包囲されればいかに

強い騎士であったとしても不利は免れない。

それが分かっているからこそ、黒騎士は立ち止まらない。

不意を突いた有利な状況を活かし、隊列を整えさせず乱戦に持ち込む。

それが黒騎士の狙い。

実際、黒騎士はこの奇襲と速度により、完全に戦いの主導権を握っている。


サイラス達よりも後ろにいた第二小隊の隊長であるセーラム。

彼女は、サイラス達を突破して突っ込んで来たる黒騎士に驚きながらも

冷静に剣を構える。


「敵襲! オースティン! ダラス! 散開して敵を…」


彼女の部下のオースティンとダラス。

セーラムの後ろに控えていた彼らも黒騎士の出現を確認して抜刀し、迎撃の

態勢は取ってはいた。

だが、セーラムの指示よりも早く、黒騎士は彼女の眼前に迫っていた。

黒騎士は全体のスラスターを全開にし、ロケットの様に突っ込んで来る。


「何て無謀な!」


黒騎士は弾丸の様に飛び、すれ違い様にセーラムの機体を薙ぎ払う。

速度を重視した一撃。

セーラムは咄嗟に構えた盾でその一撃を受け流す。

黒騎士の切り込みはすさまじい速度ではあったが、すれ違い様の直線的な

攻撃だった為、彼女も何とかその動きを見極めることは出来た。


だが予想以上の速度で間合いを詰められ、防御する事で精一杯だった。

反撃を出来ない彼女を横目に黒騎士はそのまま通り過ぎていく。

黒騎士はセーラムの右後方へいるオースティンの機体へ突っ込んで行く。

オースティンは次々と標的を切り替えて突っ込んでくる黒騎士驚いたが、

それでも十分落ち着いて迎撃を取れる位置にいた。


「なめるなよ。 そんな地に足が付いていない一撃で!」


オースティンは黒騎士に向かって突撃する。

黒騎士はまだ空中だ。

ギガンティアはスラスターからエネルギーを粒子化して放出することで

飛行する事が可能だ。

だがそれはあくまで機体を高くジャンプさせたり姿勢を制御する為のもので、

鳥のように自在に飛び回るのとは少し異なる。

ロケットの様な直線的な推進になり、空中では足さばきによる回避も出来ない。

機体を人体の様に動かすギガンティアの戦いでは、体を使った打ち込みや回避

といった動作が戦いの基本となる。

足を使えない空中を飛びながらの突撃など、騎士なら普通は行わない愚策。

黒騎士は切り込み速度やかく乱を重視しためこのような奇策に出ている。

そう分析したオースティンはその隙を見逃さず、相手を仕留めに行った。


しかし、その常識が彼の判断を鈍らせた。

黒騎士は飛び込むさ中、右肩に担いでいた大剣を片手で抜き払っていた。

体を捩じり、遠心力を乗せて体を回転させる。

遠心力が乗って速度を上げた巨大刀剣がすさまじい速度で振り回され、宙を

斬り裂く。

オースティンがその動きに気づいた時にはすでに遅かった。

黒騎士に向かって突撃していた彼はそれを避けることが出来なかった。

巨大な質量と速度の乗った剣が彼の機体を直撃し、一瞬で真っ二つに切り裂く。


「な、な…」


オースティンと共にセーラムのバックについていたダラスは驚愕の声を上げた。

彼もまた、弾丸のように突撃していった黒騎士が無茶な突撃をしているように

しか見えていなかったからだ。

オースティンが黒騎士の飛び込みを捌けば、奴を囲む体勢を取れると思っていた。

だが、黒騎士は竜巻のようにオースティンの機体を真っ二つにしてしまった。

巨大刀剣を振り回しながら飛び込んで来る、そんな戦法を彼は見た事がなかった。


目の前の光景に衝撃を受けるけたダラス。

だが、その一瞬の反応の遅れが彼にとって致命的だった。

崩れ行くオースティンの機体を貫いて、何かが物凄い速度で飛んできたのだ。

それは黒騎士の持っていた巨大刀剣だった。

黒騎士はオースティンを切り裂いた巨大刀剣をダラスに向けて投擲していた。

それはまるで計算尽くされたかのように的確だった。

遠心力が乗った巨大刀剣は恐ろしい速度でダラスの機体の胴体を貫いた。

半身になっていたオースティンの機体と胴体に大剣が突き刺さったダラスの機体が

それぞれ崩れるように大地に倒れていく。


「ダラス! オースティン!」


セーラムは目の前の光景が信じられず叫ぶ。


一瞬だ。

自分が敵の攻撃を躱したたったそれだけの間に、二人共切り伏せられてしまった。

呆然とした彼女に湧き上がる怒り。

部下を失ったセーラムは逆上して黒騎士へ突撃した。


「おのれぇぇ!」


彼女は盾を捨てると両手で突きの構えを取り、全速力で黒騎士へ突っ込んでいく。

黒騎士は着地して振り返ると突っ込んでくるセーラムに視線を向ける。


セーラムの突きは早かった。

相手の着地に合わせて放った突き。

だが、届くかと思えたその突きも、黒騎士は体をねじるだけで躱してしまった。

セーラム自身も受け止める事すらせず躱されるとは思ってもいなかった。

まるでマタドールのようにセーラムは突撃を躱され、黒騎士に背後を取られる形に

なってしまった。


突きを躱され、素早く振り返りったセーラムの機体を黒騎士の小剣が襲う。

的確に急所を突く素早い突き。

頭部のカメラアイ、右肩の関節、左足の付け根。

視界が乱れ、剣を持つ手は下がり、軸足が乱れて機体の体勢が崩れる。

操縦席内での操作パネルにはダメージの警告が次々と表示され、メインカメラが

潰されことで正面のモニターが一時的にダウンする。

すぐに補助システムに切り替わり何とか視界は確保されたが、彼女が直後に見た

ものは目の前に迫る黒騎士の小剣であった。

力を込めた強烈な突きがセーラムの機体の胸を貫く。

操縦席のモニターが砕け散り、突き出された巨大な剣がセーラムを切り裂く。

糸が切れた操り人形のように、彼女の機体は力なく倒れ沈黙した。


サイラスは呆然とその光景を見ていた。

たった数分間の出来事だった。

黒騎士はまるで竜巻が木々をなぎ倒すように王国の騎士達を刈り取ってしまった。

皆見知った顔だ。その強さも知っている。

平和になった王国であっても、王国を守る騎士として、ギガンティアという力を

託された身として互いに研鑽を積んで来た同士だった。

鍛錬は積んで来たのだ。それがこうもあっさりと。

散っていく仲間達を目の前に、サイラスは動きを止めてしまっていた。


「うぉぉっ!」

叫び声を上げ、サイラスの脇に居たハミルトンが黒騎士に突っ込んでいく。

その叫び声にサイラスは我に返る。

呆けている場合ではなかった。

もう、こちらは自分とハミルトンの二人しか残っていないのだ。

サイラスは急いでパネルを操作して叫んだ。


「待て! ハミルトン! 迂闊に切り込むな!」


ハミルトンは機体のスラスターを吹かし全力で突撃する。

ハミルトンも何も考えずに突撃していたわけではなかった。

全速で接近する事で、セーラムと対峙していた黒騎士の背中を取る形になった。

無謀に見えたハミルトンの突撃は冷静に状況を見たものだったのだ。


「覚悟っ!」


突進したハミルトンが黒騎士の背中へ剣を振り下ろす。

その剣は黒騎士を捉えたかのように見えた。


だが黒騎士は振り返る事もせず、スラスターを吹かしハミルトンの方へ

向かって飛んだのだ。

空中で回転しながら肩からハミルトンの胴体へ体当たりする。

ハミルトンはその剣が黒騎士に届く直前で体当たり食らう形になった。

予期せぬ反撃にハミルトンの機体は吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。


「馬鹿な! 背中に目でもあるのかっ」


機体を立て直そうとしたハミルトンの目の前に仁王立ちする黒騎士が映る。

無謀な体当たりかと思われたが、黒騎士は姿勢を崩す事すらしていない。


「な、なんだこいつは…」


ハミルトンは思わずその姿に恐怖を覚えた。

だがその時、その姿を遮るようにモニターに白い機体の背中が映る。

サイラスの機体だった。

ハミルトン機を庇うようにサイラスが黒騎士の前に立ちふさがっていた。

黒騎士は構えを取るサイラスの機へ視線を送っていたが、ゆっくりと歩き

出すと倒れているダラス機に近づいていく。

そして突き刺さっていた巨大刀剣を引き抜くと再び右肩に担いだ。


そして先ほどまでと違い、ゆっくりと黒騎士はサイラスに近づいてくる。

白と黒、二体の機体はにらみ合ったまま対峙する。


「…ハミルトン、立てるかハミルトン」


サイラスはハミルトンへ通信を送る。

ハミルトンはそれを受けて慌てて機体を立ち上がらせる。


「はい、大丈夫です。機体のダメージはほぼありません」


ハミルトンは剣を構え、黒騎士を見据えながらゆっくりとサイラスの右側に

移動する。


(セーラム… 皆… すまん。)


サイラスは操縦席の中で己の無能さを悔いていた。

この黒騎士と邂逅してからものの数分しか経っていない。

にも関わらず、味方の大半を失うという愚行。

遊撃隊を任されながら、自分は何もできなかった。

奇襲に対処できず部下を死なせてしまった。


噂には聞いていた。

帝国の侵攻の中心となっている黒いギガンティアの話を。

並々ならぬ力で諸国を蹂躙しているという黒騎士の噂を。

しかし、えてして噂とは誇張されるものだ。

どれほど強くてもそうそう数の劣勢を覆せるものではない。それが普通だ。

だが、その数の油断がこちらにはあった。

数の差があれば相手も慎重にならざるを得ない。

陣形をきちんと組んで戦えば損耗も少なく相手を退けられるであろうと。

被害を抑えて勝とうという甘い考えがあったのは事実だ。


それに比べ、相手が見せたのは決死の突撃だった。

エル・ギガンティアを使った、生身をさらして敵の油断を誘うという奇策。

しかし、結果を見ればそれすら必要だったのかと疑うような圧倒的な技量と

力による蹂躙。

操縦者もギガンティアも一流だからこそできる芸当だ。


あの黒騎士は強い。

おそらく王国のどの騎士よりも。

だからこそ、こいつを野放しには出来ない。

今頃、王国の本隊も帝国の主力部隊と戦っているはずだ。

もし奴がここを突破し、本隊の背後から奇襲を掛けるような事態になったら。


伝えなければならない。

この黒騎士の事を、そして第二遊撃隊が壊滅した事を伝えなければならない。

相手がいかに恐ろしい相手だとしても、知っていれば対処も変わって来る。


作戦は失敗した。

頭を切り替えなければならない。これからは撤退戦だ。

王国の本隊が帝国の迎撃隊を突破しているなら状況は問題ない。

この黒騎士だけがイレギュラーだったという事になる。

だが、拮抗もしくは押されている状態にあったとしたら。

それは我々の認識の甘さを意味する。

数の力に胡坐をかき平和ボケしていた我々は認識を改めないといけない。

平和ボケした貴族や騎士達の覚まさせなければ、この戦いは勝てない。


デューダは深呼吸を自分自身を落ち着かせると、ハミルトンへ指示を出す。


「ハミルトン、よく聞け。今すぐ撤退しろ。本隊へ合流するんだ」


ハミルトンはサイラスの意外な言葉に驚く。


「何を… 仲間の仇も撃たず、撤退しろと?」


トーンを抑えたハミルトンの声がパネルから響く。

彼の憤りが伝わってくるかのようだった。

サイラスはそれでも落ち着いて言葉を返す。


「見ただろう、奴の強さを。

 本隊へ戻って伝えるんだ。その眼で見たお前が報告するんだ。

 …そして、戦況が悪ければ撤退を進言しろ」


「撤退!? そんな、あのボケ王子が聞く耳持つとでも!」


「不敬は聞かなかったことにしてやる。

 万が一の話だ。

 本隊が苦戦しているようなら、それは騎士のレベルが違うという事だ。

 あの黒騎士を見ただろう。

 あれほどではないにしろ、帝国の騎士は強いかもしれん。残念だが…」


「…」


「無駄に損害を増やせば、王国が傾く事態になるぞ。

 もしもの時は、手遅れになる前に本隊を後退させて戦力を再編させる事を

 進言するんだ。殿下を何としても説得しろ」


「しかし…」


「これは命令だ! 行け!」


ハミルトンは即答しなかった。

一瞬の間の後にポツリと呟くような返答があった。


「…ご武運を」


ハミルトンの機体が煙幕弾を発射する。

それと同時に彼の機体はスラスターを吹かし急速にその場を離れていく。

サイラスの後方には煙幕が広がり視界が遮られた。


その光景を見て、今まで動かなかった黒い騎士がゆっくりと構えを解く。

そして機体から外部へ音声が発せられた。

意外にも敵である黒騎士がサイラスへ声を掛けて来たのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。