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序章 メセタセントラルの戦い 前編

~序章~

本編でナナリーが旅立つ10年も前の事。

北の大陸には長い歴史を持つ王国と新興国の帝国があった。

これは両国間で起こった「メセタセントラルの戦い」についての記述である。

時は王国歴83年。


北の大陸の中央に位置するメセタセントラル平原。

砂塵の舞うこの荒野で、二体の巨人が激突していた。


白い装甲を纏い、細身の剣と盾を持つ王国の騎士。

対するは巨大な刀剣と小振りな剣の二刀流の帝国の騎士。


だが、双方とも生身の騎士ではなかった。

10メートルをも超える巨躯。

そう、それらは「ギガンティア」と呼ばれる巨大な人型兵器であった。


ギガンティア。

それは古代文明が生み出した超兵器。

人の能力の拡張を目指して作り出されたその兵器は、人の精神力を変換して

生まれる「リヴァースエナジー」というエネルギーを動力源とした。


エナジーを帯びることで熱線や衝撃をものともしない特殊金属の装甲。

電磁モーターなど比べ物にならない力を発揮する駆動機構。

まるで生き物のように人の操作に答える反応速度。


それらを備えたギガンティアは、搭乗者した人間を無敵の巨人に変える兵器

であった。


その防御力は圧倒的で、火薬などの従来の兵器ではエナジーで強化されている

装甲に傷一つ付ける事が出来なかった。

それを破壊するには同じエネルギーを纏った武器を用いるしか手段がなかった。

つまり、ギガンティアを倒すにはギガンティア使うしかなかったのである。

ギガンティアは戦いの中で重要度を増し、戦争で必須の兵器となっていった。

ギガンティア同士の戦いが戦争の中核を成す様になり、そしてその勝敗が戦争の

勝敗に直結するようになっていったのである。


やがて大災害が起こり、古代文明の知識や根幹的技術は失われた。

だが文明の遺構としてギガンティアは残り、未だに戦争の勝敗の要として君臨し

続けていた。


ここで対峙している二体の機体もそうだ。

帝国と王国の戦い、その勝敗を担う一幕であったのだ。

この戦いの始まりは、北の大陸を統治していた統一王朝グランメセタ内において

突然帝国を名乗る独立国家が誕生した事に起因する。

それはわずか半年前の事。

西の辺境伯領で起こったとある事件が発端だった。


北の大陸の西方にある王国の辺境領、マグニフィカ領。

王国の中央からかなり離れたこの都市で、ある時大規模な火災が発生した。

どこからともなく現れた黒いギガンティアが貴族街を焼いたのだ。

この都市は貴族と平民の階級差別が強く、都市の中も貴族の住む中心部である

貴族街と平民が住む外周部の平民街に分かれていた。

黒いギガンティアは突如貴族街に出現し都市を攻撃し始めた。


突然の事態に対し、マグニフィカ領主は騎士団と共に自らギガンティアに乗込み

これを迎撃した。

だが、騎士団はあっけなく打ち取られ、マグニフィカ領主も戦死してしまう。

領主を失い混乱した城は、黒いギガンティアとその仲間達により簡単に制圧され、

マグニフィカ領は一日とかからず侵略者の手に落ちる事になった。


彼らのリーダーであるヴァイス・ハイデルベルグは、王国の圧政からの解放を掲げ

自らを皇帝と名乗り、ハイデルベルグ帝国の建国を宣言した。

突然の占領と独立宣言。

領民達の間に混乱が無かったわけではないが皇帝による統治は意外と問題なく

進んでいった。

領民の多くはこの皇帝を好意的に受け入れたのだ。


理由はこの地の政治状態にあった。

建国時から年月が経ち、為政者の代替わりが進むと王政は腐敗を始めた。

王国中央の堕落が進み地方への目が緩くなると、地方の政治の腐敗も始まる。

ここマグニフィカ領も例外ではなく、領主の暴政が行われていたのが原因だった。

それらの改革を掲げた皇帝は、領民達から期待の目を向けられていたのである。


実際、ヴァイス皇帝はかなり真っ当な人物であると言えた。

領地を簒奪した身でありながらも圧政を強いる事もなく、重税を止め、私利私欲に

走る役人達を一掃して新しい政治体制を整えた。

まるで革命の手本となるかの様に、大した混乱が起こる事もなくマグニフィカ領は

ハイデルベルグ帝国へと変貌を遂げ、領民たちは新しい支配者を歓迎し帝国臣民と

なる事を受け入れていった。


帝国は領内の改革を進めると共に、圧政からの解放を掲げ周辺の領地へ侵攻した。

帝国の恐ろしい所は、その軍事力にあった。

今の戦いはギガンティアが中心である為、機体所持数がそのまま国の戦力となる。


帝国はマグニフィカ領に侵攻した時点から既に10数機の機体を所持しており、

領地を所持しない集団が保有している機体数としては考えられない数であった。

この数がどこから出てきたのかは不明であったが、これに接収したマグニフィカ

の機体が加わる事で辺境としてはかなりの戦力を保持する事になった。


いきなり出現した軍事大国は周辺の王国領から見れば脅威であった。

加えて帝国の騎士=ギガンティア乗りは練度が高く、他の領地の騎士たちを圧倒。

抵抗むなしく敗れる者、戦わずして降参する者等、勢いのある帝国の侵攻を止め

られる者はいなかった。

それどころか、王国中央の王政にに反感を持っていた一部の領主達は進んで帝国

の傘下に下る者まで現れ始めた。

そして、侵攻を受けた領土の領民達の多くが帝国を歓迎した。

圧政を標的とした帝国の侵攻は、苦しむ領民にとって解放そのものだったからだ。

こうして帝国の領土は瞬く間に3倍以上に拡大した。

それでも王国に比べればまだまだ小さいが、その拡大速度は驚異的であった。


領土の簒奪という王国建国以来の衝撃的な事件であったにも関わらず、王国中央

政府の反応はとても鈍かった。

帝国が巨大化し始めて、漸く中央政府は重い腰を上げた。


当時の王国の王、ヴァレリアンはお世辞にも賢王とは言えなかった。

平和な時代に生まれた彼は、贅沢や欲を満たす事ばかりに興味を示し地方の政治

への関心がまるでなかった。

彼の腹心達も王の機嫌を取る事に終始し、王国の腐敗を加速させていた。

帝国の建国についても辺境の領地の反乱と後回しにされ、討伐軍が編成された

のは事件が起きてから半年も過ぎてからという有様だった。


それでも帝国の討伐が決定されると、王国はその権力を持って各地から戦力を

集め、多数のギガンティアによる討伐隊を編成し進軍を開始した。

そしてそれを一早く察知した帝国も迎撃部隊を大陸中央に向けて進軍させた。

やがて両国の中間辺りにあるメセタセントラル平原で両軍は激突する事になる。

王国始まって以来最大となる戦い、「メセタセントラルの戦い」が始まった。



こうして勃発した王国と帝国の戦い。

帝国は新興国だ。

辺境の領地に見合わない戦力を保持していたが、王国全体から見ればその数は

まだ圧倒的に劣る。

王国側は数の優位で帝国を圧倒しようと考え、一つの策を講じた。

部隊を複数に分け、手薄な個所を突破し帝国領土を制圧する作戦である。

帝国の迎撃部隊が待ち伏せしていると情報があった平原南へ侵攻する討伐部隊

本隊と、平原の北を迂回して進む遊撃部隊第二隊に別れて進軍を開始した。


そして、物語は冒頭の一幕へと戻る。


帝国と王国の本隊が激突した頃、王国の遊撃部隊も帝国軍と遭遇していた。

平原で対峙する二機。


王国遊撃隊、第二隊隊長のサイラスの乗る白い機体。

迎え撃つ帝国の黒騎士アルダーの駆る黒い機体。


二機のにらみ合いが続くこの状況は、一見拮抗しているかに見える。

だが、実際は違っていた。

彼らの周辺には既に無数のギガンティアの残骸が転がっていた。

ある物は的確に胸を貫かれ、ある物は胴体を真っ二つに切り裂かれて、

白く美しい装甲は見るも無残に泥にまみれていた。

そう、これは全て王国軍の機体だったのだ。


この状況は王国軍側にとって予想外の事であった。

そもそも王国が複数に分かれて進軍したのは、迂回してくる王国の別動隊

に対し帝国が割ける戦力はそれほど多くないという見立てがあったからだ。

事実、この迂回ルートで待ち受けていたギガンティアはたった1機。

本来であれば、多数の機体からなる遊撃隊を抑える事は難しい。

作戦的には間違っていなかったのだ。


だが誤算はあった。

それは、実際に機体を操る騎士そのものの強さの違いである。

王国の第二隊に一体何があったのか?

時間は10分ほど前に遡る。

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