第三章 フォルトワースの悪魔 3-2 無垢な罪
~前回のあらすじ~
王国軍のケアンズ達は特務隊を結成し、イーステンを出発したナナリー達の
キャリアーを少ない情報で必死に追跡していた。
そんな中、彼らは野盗に追われている一台のワーカーを救助する。
その機体には、ナナリー達と知り合いのカトレア・デリーが乗っていた。
ダレスから数キロ離れた荒野。
日が落ち始め段々と辺りは薄暗くなりつつあった。
そんな砂埃の舞うこの地で、二機のギガンティアが戦いを繰り広げていた。
「体の返しが遅い。それでは背後を取られるぞ」
「わかってる! けど、あんたが早すぎるんだよ!」
機体間で飛び交う声。
攻防を繰り広げる二機の美しい機体。
一方は蒼い翼をもつ機体、レインのフリージア。
対するは燃えるような紅と黒の装甲を持つ、ライラのスカーレットセージ。
人が寄り付かないこの地で、彼らは模擬戦をしていたのだ。
ライラはワーカーの操縦は出来るが、戦いに関しては素人だ。
そしてギガンティアは操縦桿による操作だけではなく、細かな動きは機体との
シンクロが必要になる。
操縦桿により基本的な動作を伝えるが、細かな動きは思考により伝わる。
エナジーを通して機体との一体感を高める事で、ギガンティアは機体の細部を
自由自在に操る事が出来るのだ。
ギガンティアの操縦がこの様な複雑な形になっている理由は、古代文明人は人間の
能力を拡張する為にギガンティアを作ったからだと言われている。
あくまで乗る人間の体の延長である為、ギガンティアは人の形をしているのだ。
そして体は人の意志に従って動かなければならない。
故に意識を介して細部を動作する形になったのだと。
剣術や体術を鍛錬した者がギガンティアに乗っても強さを発揮出来る理由は、
こういったギガンティアの設計思想によるものだ。
拡張された人の力。それがギガンティアなのである。
だがその強さを発揮するには、自分と機体との一体感を掴む必要がある。
機体との一体感を得るには、機体に乗って感覚を掴んで行くしかないのだ。
その為にライラはレインに指南を頼み、模擬戦を行っていたのだ。
いずれナナリーとレインは帝国へ向かい、ライラ達とは別れる事になる。
そうなった時に自分達を守る為にはこの機体の力が必要になる。
ライラは来るべき時の為に機体を乗りこなす訓練をしていたのだ。
そして彼女にとって、この機体は戦うだけが目的ではない。
彼女がこの機体を使いこなせれば、ドモンのサルベージャー業の助けにもなる。
しかも防御に特化したスカーレットセージは、ガーディアンから仲間を守るに
は最適だ。
今まで主に事務仕事をこなして来た彼女だったが、これから遺跡の探索や大型
の物品の運搬まで幅広くこなす事が出来る。
機体を使いこなせれば親孝行も出来る。
それが指輪を手に入れたライラの出した答えであった。
彼女はたしなむ程度だが護身術も学んでいる。
故に体を動かす事には自信はあった。
だが、実際の戦闘となると勝手が違う。
その上まだ機体との一体感は完全とは言えない。
模擬戦ではレインに翻弄されっぱなしだった。
ライラはレインとの戦いで、剣を打ち合うのに集中する余り足元が疎かになり、
フリージアから足払いをくらって機体は転倒。
あっさりと胸元に剣を突きつけられてしまった。
倒れた機体から大きなため息が聞こえる。
「あー 全然かなわねえー!」
鬱憤を晴らすかのように大声で叫ぶライラに対し、レインは冷静に今回の戦いの
分析を彼女に伝える。
「前回に比べると格段に動きが良くなって来た。
相手の剣もかなり見切れるようになっている。
呑み込みが早いな」
「褒めてるんだろうけどさ、旦那が強すぎて実感がまるでないんだよ…」
フリージアがスカーレットセージの手を掴んで起き上がらせる。
それを少し離れた所から眺める、ナナリーとドモンの姿があった。
ナナリーは大きな声で叫ぶ。
「お二人さーん、ごはんが出来ましたよー」
レインはモニターでナナリーの姿を捕えると言った。
「今日はここまでにしよう」
「ああ、ありがとな。また稽古頼むよ」
二人は機体を降り、機体を収納する。
そして、ナナリーとドモンの元へ戻って来た。
ドモンは光の中に消えていく二機を見て感心したような声を上げる。
「いつ見ても不思議な光景だな。機体が光の中へスッと消えちまうんだからな」
「確かに凄い光景ですよね」
「しかし、俺もいつかはギガンティアを手に入れて… と思ってたが、娘の方が
早いとはなあ」
ドモンは複雑な表情を浮かべる。
ナナリーはドモンの表情の意味を何となく理解する。
「…心配ですか?」
素直にライラを心配していると察して質問を投げて来たナナリーを、ドモンは
優しい目でに見つめながら言った。
「そうだな。
サルベージャー業なら問題ないだろうがな…
前の襲撃の様な事があれば、あいつを矢面に立たせる事になるかもしれない。
荒事に慣れている旦那の手だけで済めばいいんだが… ん?」
ドモンは何かに気づいたようにキャリアーの操縦席へ戻る。
ドモンの態度に気づいた三人も急いでキャリアーへ駆け寄る。
「何があった」
レインの問いに、ドモンは窓から身を乗り出して答える。
「大型のキャリアーが二台、近づいて来てる。
このサイズは…ギガンティアを運べるクラスだぞ…」
それを聞いた三人もキャリアーの操縦席へ駆けこむ。
ライラは探知機のパネルを眺めながら言う。
「こんな辺境に? 怪しくないか?」
「ギルドナイトか同業ならいいが…
旦那、準備していてくれ」
レインは頷くとキャリアーのコンテナへ入って行く。
「あたしも行くよ!」
ライラは決意したように言う。
それを見たドモンは、彼女の肩を叩いてひとまず制する。
「敵の数次第だ。二機以上出てきたらキャリアーを守ってくれ」
「わかった」
ドモンは操縦席に、ナナリーはサブシートに座り、計器を見張る。
「少しずつ離れよう。
旦那、コンテナの上部を開けるから、壊さないようにフリージアを出してくれ」
「了解した」
ドモンはキャリアーを発進させる。
予定のコースを外れ迂回していくが、正体不明の二機のキャリアーはそれに動きを
合わせて接近しつつあった。
「大きいのに足が早いな。
間違いない。ありゃあ軍用の奴だ」
「まさか、例の王国軍か?
あたしらをどうやって見つけたんだ」
「軍の装備は探知機能が高い。
さっきの模擬戦の光でも捕らえたのかもしれないな」
「戦うしか…ないんでしょうか」
ナナリーが不安そうにドモンを見る。
「相手の出方次第だな。
そうなったら旦那に頑張ってもらうしかなさそうだ」
二機のキャリアーが強めのライトを点灯させる。
あちらは、ナナリー達の乗るキャリアーより更に大きいサイズだ。
素っ気ないグレーの色で塗られている。
ドモンの目の前にあるパネルのランプが光る。
無差別のオーブンチャンネルで通信を受けたサインだった。
ドモンは回線を開く。
「…先を進むキャリアーに告ぐ。停止せよ。繰り返す。停止せよ」
事務的な言葉が通信機から流れて来た。
ドモンは同じオープンチャンネルを開き、通信を返す。
「盗賊に止まれと言われて、止まる馬鹿がいるか!」
「…我々は盗賊ではない。そちらに確認したいことがある。
こちらは一旦停止する。抵抗の意志がないならそちらも停止してくれ。
直接通信のチャンネル0022-Aを開いてくれ」
その通信の後、二機のキャリアーが停止するのが見えた。
ドモンは少し進むとキャリアーを停止させ、指定されたチャンネルを開く。
「最低限の礼儀だ。言葉は交わそう。
だが得体の知れない奴に話す事はないぞ」
「返答感謝する。
マサキ・ドモンという男を探している。心当たりはないだろうか?」
「知っていたとして、答える義理があるのか」
その時だった。
通信に交じって女の声が聞こえて来た。
「あれ、その声、ドモンさんじゃないですか?」
ドモンにとっても聞き覚えのある声だった。
ナナリー達に通信を送って来たのは、ケアンズ達の乗るキャリアー001だった。
軍用のこのキャリアーは操縦席も大きめだ。
その操縦席の後ろから、カトレア・デリーは通信の様子を覗いていたのだ。
その様子に驚いたパトナが彼女を制しようとしたが、ケアンズはそれを止める。
それどころか興味津々の彼女を手招きし、操縦席へ向かい入れる。
001の広い操縦席には、上部に大きめの通信用モニターが設置されている。
今は映像は映っていなかったが、この大型の通信装置を使ってケアンズはナナリー
達のキャリアーと交信をしていた。
そこから聞こえて来たドモンの声に彼女は反応して出て来たのだ。
聞き覚えのある声にドモンは戸惑う。
「あんた… デリーさんかい?」
「そうですよ! 覚えていてくれて嬉しいです。お久しぶりです」
彼女は音声機能のみと表示されているモニターから聞こえる声に嬉しそうに
返事をする。
通信機から流れる明るい声にドモンは苦い顔をする。
それは、つい声に反応してしまった自分への後悔でもあった。
彼は相手の状況を察すると、申し訳なさそうに言った。
「すまんが… あんたを助けてやる余裕は無さそうだ。
恨まないでくれよ」
そう言うと通信は切れた。
「え…」
デリーは不思議そうな顔をする。
ケアンズが通信を切り替えて叫ぶ。
「大当たりだ。出るぞ! 002、そちらもハミルトンを出せ!
パトナ、後は任せるぞ」
「了解。ご武運を」
パトナはケアンズにエールを送る。
ケアンズはシートを飛び降りると、ギガンティアのあるコンテナへ走って行く。
慌ただしくなった車内の状況を見て、デリーは周囲を見回す。
そして、ようやく状況が飲み込めた彼女の顔が青ざめる。
「もしかして私、やっちゃったんですか…」
デリーの肩にパトナが優しく手を置いて言う。
「ご協力ありがとうございます。
戦闘中は控室で休んでいて下さい」
デリーは唖然としてその場を動けなかった。
ナナリー達の乗るキャリアーが全速力で発進する。
キャリアーの操縦桿を握りながらドモンが叫ぶ。
「敵が来るぞ! 旦那、頼む!
ライラ、お前も念のため準備してくれ」
「わかった!」
一気に緊迫する車内。
王国軍による攻撃が、再び始まろうとしていた。




