第三章 フォルトワースの悪魔 3-1 迷い猫
~二章までのあらすじ~
遺跡内で保護された、記憶を失った少女ナナリー。
彼女が覚えていた「帝国の魔女」の名前。
彼女を保護したレインは、彼女を帝国へ送り届ける事を約束する。
だがナナリーは理由もわからないまま王国軍にその身柄を狙われ、レインは
彼女から託されたエル・ギガンティアを使い、彼女を狙う者達を退ける。
ナナリーはレインの他、ドモンとその養女ライラと共に帝国に向け旅立つ。
途中立ち寄ったダレスの町で、ライラは両親の仇であるデンバーを捕え、父の形見
であるエル・ギガンティアを取り戻す事になった。
図らずも彼女達は、エル・ギガンティアを二機も所有しその力を増して行く。
帝国はまだ遥か彼方。彼女達の旅は続く。
ナナリー達がダレスの町を発とうとしていたその頃。
ダレスから少し離れた荒野を進む二台のキャリアーがあった。
ナナリー達が乗るキャリアーよりもさらに大きい、無骨な車体。
これらは王国騎士団のケアンズの率いる特務隊であった。
001、002とひねりも無く名付けられた二台のキャリアーはこの特務隊の足であり
基地でもあった。
彼らはあのコロシアムの決闘の襲撃に失敗し、作戦対象であるナナリーを確保する
事が出来なかった。
彼らは作戦失敗の汚名を晴らす為、王国の特務艦を離れ追跡任務に就いていた。
追跡に当たって、彼らはまずイーステンに潜入し情報を集めた。
彼らには内通で得たわずかな情報しかなかったからである。
ナナリーを確保する作戦は決闘開催に合わせて強行された為、事前の情報収集は
殆どされておらず、彼女の容姿以外の情報がほぼ無かったのである。
ケアンズ達は追跡する相手をきちんと知る所から始める必要があったのだ。
だが情報を集めてみると、対象の少女は既に町を出発している事が判明した。
彼らは早くも作戦対象を見失う事になったのである。
周囲の人間の素性については、サルベージャーのマサキ・ドモンと傭兵レイン・
アシュランドであると調べはついたが、帝国へ大きめのキャリアーで出発したと
いう以外手掛かりはなかった。
彼らは手掛かりの無いままイーステンから出発し、追跡を開始。
二手に分かれて情報を探りながら進む事になった。
だが、イーステンからの通常経路では全く目撃情報が得られなかった。
ケアンズは、自分達の追撃を予見しわざと通常経路を迂回して進んでいるのでは
という仮説を立てた。
彼はこの直感を信じ、迂回する経路を情報を集めながら進んでいた。
軍用の範囲の広いセンサーを駆使して、疑わしいキャリアーを探す地道な作業。
当ても無い旅路。
それでも追跡を続ける彼らを支える物は、汚名返上という意地であった。
そして現在に至る。
二台のキャリアーは索敵を行いながら荒野を進んでいた。
「隊長! 前方にワーカーを三機確認しました」
キャリアー001で索敵を担当するチュニスがケアンズに報告を入れる。
指揮シートにつまらなそうに座っていたケアンズはぶっきらぼうに答える。
「キャリアーはいないのか。なら放っておけ」
「どうも一機は追われているようです。
オープンチャンネルで通信が来ています」
ケアンズは少し悩んだが、万が一に情報が得られる事もあるかもしれないと、
相手の素性を確認しようと指示を出した。
「…チャンネルを開いてみろ」
チャンネルを開いた途端、悲鳴の様な声が響き渡る。
「あー! すみません助けて下さい。人さらいに追われてますー!
お願いです助けてくださーい!」
回線からは泣きそうなけたたましい女の声が聞こえて来た。
ケアンズは少しうんざりした顔をすると、座っているシートの脇にある通信機の
スイッチを入れた。
「キャリアーベース002、聞こえるか」
「はい。こちら002」
「接近するワーカーが三機いる。そちらで確認しているか」
「はい。捉えています」
「ハミルトンを出して、追われているワーカーを救出しろ。
追っ手は潰すか警告して追い払え。
警告を無視するようなら始末して構わないと伝えろ」
「御意。ハミルトン卿を向かわせます」
二機のキャリアーはワーカーに向けて進路を取る。
キャリアー002のコンテナが開き、ハミルトンの乗る機体が姿を現した。
ベイラム-12号機。
ベイラムシリーズは再生品であり、動力炉であるリヴァースエンジン以外は王国の
共通規格で組み立てられたギガンティアである。
ギガンティアの部品は大半は新しく生産される物で無く、ジャンク品からかき集め
られた物であるが、規格を作り部品を厳選する事で一定水準以上の性能を持つ機体
として組み上げられているのである。
キャリアーからギガンティアが現れると、追っ手の二台はそれを見て慌てて向きを
変えて逃走を始めた。
ハミルトン機はブーストを吹かすとワーカーに肉薄し、肩から光弾を発射する。
光弾が逃走するワーカーの足を吹き飛ばし、ワーカーは擱座して動かなくなった。
ハミルトンから001へ通信が入る。
「動きは止めました。始末しますか?」
「下手に事を大きくする事はない。放っておけ。帰還していいぞ。
救助したご婦人はこちらにお連れしろ」
「了解。彼女を保護して帰還します」
こうして逃走していたワーカーは救助され、乗っていた女性はケアンズの元へ連れ
て来られた。
「いやぁ、助かりました。何とお礼を言ったらいいか…
私、カトレア・デリーと申します」
彼女は頭を下げながらも親し気に挨拶をする。
ケアンズはシートを降りると右手を差し出し、握手を求めた。
「貴方に怪我がなくて良かった。ケアンズだ。よろしく」
「よろしくお願いします!
しかし、随分立派なキャリアーですね~」
彼女はケアンズの手を握りしめながら操縦席を見回す。
「少し特殊な仕事をしていてね」
「貴方達はギルドナイトですか? ギガンティアも持っていましたし」
「まあ、似たような仕事だと思ってくれればいい。
所で、少し聞きたい事があるんだが、良いかな」
「はい、何なりと!」
「この辺で大型のキャリアーを見なかったかい。
ギガンティアが積める様なサイズの奴だ」
「う~ん、イーステンの方では見ましたけど、この辺ではあなた方以外は
見ていないですね…」
「そうか。
では、マサキ・ドモンと言う方を知っているかな」
「はい、知ってますよ。
イーステンではお世話になったんですよ。
パーティに呼ばれちゃって。楽しかったです」
ケアンズの眉がピクリと動く。
「私はちょっとした知り合いでね。行先を探しているんだ。
何か知らないか」
「あ~それならシ… あっ!」
デリーは慌てて両手で口を塞ぐ。
「どうかしたかい」
「あの… ごめんなさい。
行先は話すなって言われてました。はい」
「彼に用があってね。出来れば教えてもらいたいのだが」
ケアンズは貴重な手がかりだと認識して、相手を刺激しないように会話を続ける。
だが、彼女は少し困惑した表情を浮かべて答える。
「…ごめんなさい。約束したので…」
軽薄そうな彼女だが、頑なに話してはくれない。
どうも律儀な性格の様だ。
ケアンズは強く押すのは逆効果だと考え、その話題を打ち切る。
「…そうか。いきなり色々聞いてすまなかった。
狭いが奥の部屋でゆっくりしてくれ」
ケアンズはデリーに優しく対応する。
「…力になれなくて、申し訳ないです」
デリーは本当に申し訳なさそうにケアンズの顔を見つめる。
「お気になさらずに。
このまま近くの町まで送らせてもらうがいいかな。
今日はキャリアーに泊る事になるが我慢してくれ。
簡単な物になるが、食事も出そう」
「わあ、何から何まで助かります。この御恩はきっと!」
嬉しそうに答えるデリーにケアンズは手を振る。
彼女ははケアンズと周りの人達にペコリと頭を下げると奥の部屋に駆けていく。
彼女が奥の部屋へ去ると、ハミルトンはケアンズに尋ねた。
「いいんですか。尋問しなくて」
「いや、いいんだ、十分だ。
行先を言うなと釘を差したという事は、元々真っ直ぐ帝国に向かう予定では
なかったという事だろう。
それが分かっただけでも収穫はあった。
人助けもしてみるもんだな」
「そうですか。で、彼女はどうします?」
「ここから近い町は何処だ」
ケアンズは計器を眺めているチュニスに尋ねる。
話を振られたチュニスはパネルを操作して辺りの地図を表示する。
「えっと… ダレスかナッシュですかね。
どちらも小さな町ですが、ダレスは少し引き返す感じになります」
「ならナッシュへ向かおう。
彼女はそこで降りてもらえばいい」
「わかりました。彼女にもそう伝えておきます」
「頼む」
その後、001に保護されたデリーは、その気さくな性格からか周囲の人物に物怖じ
せずに話しかけ、あっと言う間にその場に馴染んでいく。
食事時には自分の失敗談などを交えて話し、同席した001のクルー達は大いに盛り
上がる事になった。
まさか先日の襲撃事件の際、同じ戦場にいた敵同士だったとはそこに居る全員が
知る由もなかった。
彼女達を乗せたキャリアーはゆっくりと荒野を進んでいく。




