第二章 ダレスと古の記憶 2-7 けじめ
~前回のあらすじ~
ダレスで出会ったランスという男は、ライラの両親の仇であるデンバーだった。
追い詰められた彼は、ライラの父から奪ったエル・ギガンティアを起動させた。
だが、レインとギルドナイトによりデンバーはあっけなく倒され、拘束された。
デンバーは遂にギルドナイトに拘束された。
確保されたデンバーに、ギルドナイト隊長のヴォルガが近づいていく。
ライラとナナリーはそれを少し遠くから眺めていた。
彼女たちの近くへワーカーが止まり、ドモンが降りて来た。
「二人共、無事か?」
ライラはドモンを見ると元気そうな顔で笑った。
「大丈夫。二人共無事さ」
「銃声がした時は肝が冷えたぞ」
ほっとした顔で言うドモンにナナリーは嬉しそうに答える。
「レインさんが貸してくれたこれが役に立ちました」
ナナリーは例の短剣を手に乗せて二人に見せる。
彼女はこれをレインから渡された時の事を思い出す。
それはイーステンから出発する前日の事だった。
「ナナリー、お前に渡しておく物がある」
そう言って、レインはナナリーに綺麗な装飾の付いた小さな短剣を渡す。
「短剣、ですか?」
それ受け取った瞬間、彼女は何かに気づく。
心を落ち着け短剣に意識を集中する。
すると短剣に赤い文字が浮かび上がった。
「これ、アーティファクトですか!?」
短剣を構えたまま驚くナナリーに対し、レインは少し離れると足元の石ころを拾っ
てナナリーに投げつけた。
飛んできた石に驚いたナナリーだったが、石ころは彼女の目の前で何かに弾かれ
地面に落ちた。
彼女の目の前にガラスの壁の様な物が浮かび上がり、消えていった。
「石が…
これって、防御機能付きのアーティファクトですか?
レインさんもエル・ギガンティアを持っていたなんて!」
「さすが、ギガンティアの事は詳しいな。
確かにそれはエル・ギガンティアのアーティファクトだ。
だが機体は呼び出せない」
「機体が、呼べない?」
「そうだ。
そいつは借り物でな。
持ち主曰く、太古に身分の高い者の為に作られた物で、起動にプロテクトが
掛かっているんだそうだ。
通常の機体の3倍近いエネルギーを送り込まないと機体は呼べないらしい」
「身分の高い…
王様とかの持ち物だったのでしょうか」
「そうかもしれないな。
理論的には適応率が90%位あれば起動できるらしい。
あとは瞬間的に通常の人間の3倍位のエネルギーを発せられる特異体質でも
なければ無理だそうだ。
だが、アーティファクト時の防衛機能は誰でも使える。
銃弾位なら弾き返せる」
「これを…私に?」
「そうだ、いかなる時でも俺がお前を守れるとは限らない。
いざという時はそれで自身や周りの者を守れ。
ただ2、3回が限度だ。
使ってしまえば、また沢山のエナジーを込めておかなければ使えない。
ここぞという時に使って身を守れ」
ナナリーはフリージアを見上げながらレインの言葉に思いを馳せる。
(ありがとうございます。レインさん。
貴方のお陰で私、大切な人の役に立てました)
そんなナナリーとは対照的に、ドモンは短剣を見てため息を漏らす。
「まあ、こんな切り札があったからこそ行かせたけどな…
こっちとしては気が気でなかったぞ」
ライラはそんなドモンを見て、心配をかけた事に少し罪悪感を覚える。
「心配かけてごめん。けど…」
「そうだな。けじめはつけられたか」
「もう一つだけ…な」
そう言うとライラは二人に背を向け、デンバーに近づいて行く。
「ライラさん…」
不安そうにライラを見つめるナナリーの肩に、ドモンはそっと手を置いた。
「大丈夫さ。あいつは」
一方デンバーの傍では、ギルドナイト達が騒動の後始末に追われていた。
ギルドナイトの一人が指輪を回収し、ヴォルガに手渡した。
「隊長、例の指輪です」
ヴォルガは手渡された指輪をつまみ上げて眺めた。
「これがアーティファクトか… とんでもないシロモノだな」
「触るな! それは俺の…」
指輪を取り上げられて騒ぎ散らすデンバーの前にライラが近づいて来た。
それを見たヴォルガは彼女に声を掛ける。
「クリスターさん、貴方の父親の指輪は回収しましたよ」
そう言って指輪を掌に載せ、ライラに見せる。
「調書を作るのでこちらで数日預かる事にはなりますが、先日伝えた通り
過去の事件の記録があるんで時間はかからないはずです。
終わればすぐ、これは貴方にお返し出来ると思います」
ライラはヴォルガを見つめて頷き、にこやかに笑顔を返した。
「ありがとう、隊長さん。
あたしのわがままにも付き合ってくれて。
…ついでにもう一つ迷惑かけちゃうけど、いいかな」
そう言うとライラはデンバーの方に振り向き、右腕を振りかぶった。
そして、デンバーの左の頬を思いっきり殴りつけた。
「ほぶぅっ!」
よくわからない呻き声を上げて倒れるデンバー。
勢いが強かった為、支えていたギルドナイトの手を離れ、彼は地面を転がる。
痛みで悶えるデンバーを見ていたライラは笑顔になると叫んだ。
「あー! スッキリした。終った、終わった」
そう言って彼女は立ち去ろうとする。
転げ回っていたデンバーはライラを睨みつけて叫んだ。
「で…てめえ! ふざけんな…
こいつ、俺を…殴りやがった。
そうだ、こいつは俺を殺そうとしやがったんだ…」
ライラは立ち止まり、振り返ってデンバーを見る。
その眼はまるでその辺の石ころでも見るような興味のない目をしていた。
デンバーはそんなライラに向けて叫ぶ。
「そうだろう、ライラ! 動機は十分だ。
てめえは俺が憎いんだろう。
殺したくて殺したくてしょうがねぇんだろう!
そうさ、てめえの心も真っ黒なんだ。
俺と何も変わりゃあしねえんだ。
すました顔してごまかすんじゃねえ!」
ライラは何も答えない。
だた彼を見るその眼は、興味の無さそうな目つきのままだった。
みっともなく喚くデンバーにヴォルガがゆっくり近づいていく。
ヴォルガはデンバーの襟をつかんで立たせると、いきなりライラと同じように
デンバーの左の頬を思いっきり殴りつけた。
再び地面を転がるデンバー。
ライラはヴォルガの行動に驚いて立ち尽くす。
「あ… あ、いでぇ」
痛さを堪えて呻くデンバーを見下ろしながら、ヴォルガはわざとらしく大きな
声で言った。
「あー、ムカついてつい… またやっちまったよ…」
一瞬の静寂の後、辺りにいたギルドナイト達は一斉に笑い出した。
「まったく、隊長何やってんですか」
「また支部長に始末書書かされますよ」
皆、ヴォルガの行動を咎める事も無く笑う。
するとライラの傍に副官らしいギルドナイトが来てポツリと言った。
「これでは先に殴った人がいたとしても、もう確かめようがありませんね」
ライラはハッとして周囲を見回す。
周りにいるギルドナイト達は皆ライラを見ていた。
にこやかに笑う者、親指を立ててグッドのサインを送る者。
皆、この作戦の前に彼女の事情を聞いて知っていた。
そして皆が彼女の心情を思い図ってくれていたのだ。
ライラはそれを察すると、両手を丁寧に前で組み、ギルドナイトの面々に
対して深々と頭を下げた。
そして顔を上げ嬉しそうに笑うと、ドモンとナナリーの元へ走って行った。
それを見届けたヴォルガは、倒れているデンバーの襟をつかんで立たせる。
「さて、彼女のけじめは終ったな。
だが我々の用はこれからだぞ、デンバー。
行方不明者の情報、何としてでも吐かしてやるからな。覚悟しろ」




