第二章 ダレスと古の記憶 2-6 妖花は地に伏す
~前回のあらすじ~
ランスを問い詰めるライラ。
ランスと名乗った男は、ライラの両親を殺害した仇、デンバーだった。
追い詰められた彼は、ライラの父から奪ったエル・ギガンティアを起動させる。
デンバーは左手に力を込める。
彼に流れる気の力を吸収し、指輪の上に赤い文字が浮かび上がる。
「目覚めろ! そしてその力を見せろ!
スカーレットセージ!」
その瞬間、小屋が吹き飛び地面から光の柱が立ち上る。
その光の中から、赤い色に染まった巨体が浮かび上がってくる。
闇の様な色の四肢に真紅の装甲。
前腕部には十字型をしたプレートの様な物が付いていた。
傍に居るギルドナイトの機体とは違う、威圧感のある姿。
古代よりその姿を保つ紅き美しき巨人。
その掌の上に腕を組んで立っていたデンバーは胸の操縦席へ飛び込んだ。
「あれが、エル・ギガンティアなのか…」
いきなり目の前に出現した巨体に驚き、包囲をしていたギルドナイト達に
動揺が広がる。
ヴォルガはすかさず周囲に指示を出す。
「全員退避! 巻き込まれるぞ。
カレリアは奴を抑えろ。 町の防壁から奴を引き剥がせ!」
じりじりと後退していくギルドナイトやワーカー達。
デンバーはモニター越しにそれを見て高笑いをする。
「ははは! 見ろ、これがエル・ギガンティアだ!
薄汚いガラクタ共は道を開けろ!」
デンバーがそう叫んだ時だった。
味方が下がったのを見て、ギルドナイトのカレリアのギガンティアが抜刀し、
スカーレットセージに斬りかかって行く。
デンバーは慌てて機体を後ろに飛びのかせ、距離を取った。
カレリアの乗るギガンティアは、白を基調とした色で塗られている。
武装も剣と盾を主軸にしたオーソドックスな機体だった。
その平凡的な姿を見て、デンバーは馬鹿にしたように笑う。
「再生品如きが… エル・ギガンティアに盾突くんじゃあない!
シールド展開!」
デンバーは操縦桿を握りしめて叫ぶ。
すると、機体の左腕についていた十字のプレートが変形し、左手の拳を覆う。
そしてそこから大量の粒子が吹き出し、ガラスの様な半透明の盾を形成していく。
カレリアは再び距離を詰めて斬りかかるが、そのガラスの様な盾は難なく剣撃を
受け止めた。
「ははは! 無駄だ!
このスカーレットセージのシールドは、通常の盾の数十倍の強度を誇るのだ。
貴様の剣ごときでは傷一つつけられん!」
高笑いをしていたデンバーはセンサーに新たな反応があるのに気づく。
対峙しているカレリア機のいる反対側から、別のギガンティアが突進して来た。
薄い青に塗られた機体。
この町のギルドナイト、アストラハンの乗る機体だった。
彼の機体は長い槍を装備していた。
素早い足さばきで距離を詰めて来た。
デンバーは慌てて右腕のシールドも起動する。
左と同じ様に半透明の盾が瞬時に形成され、槍の一撃を防いだ。
アストラハンはそのまま距離を詰め、槍の柄でシールドを押し返そうとする。
「無駄だ! 無駄だあ! 雑魚が何人来ようとも…」
機体の鉄壁の防御に酔いしれていたデンバーだが、ふと異変に気付く。
左右からの攻撃は確かにシールドで受け止めている。
突破される様子も無い。
だが左右から押し込まれ、スカーレットセージは全く身動きが取れない。
シールドをずらして均衡を崩そうにも、左右のギルドナイトが絶妙な力加減と
位置取りでそれを許さない。
無理やりどちらかを捌いてしまえば体勢を崩し、切りかかるスキを与えてしまう、
そんな状態に陥っていたのだ。
押すも引くも出来ない状態になり、デンバーは焦る。
「何だ… この雑魚、ザコザコザコ共! いい加減に…」
その時だった。センサーに新たな反応が現れた。
「また敵か? 上…空中からだと。 何処だ!」
デンバーは空を見回すが相手を見つけられない。
彼の遥か後方の上空から急降下しながら接近する物体があった。
蒼く美しい翼を広げた機体。
レインのフリージアだった。
フリージアは物凄い速度でスカーレットセージに迫る。
デンバーも接近する機体をやっと捕捉する。
だが、それが分かっていても彼は機体を振り向かせる事が出来ない。
ギルドナイトの武器とそれを抑えるシールドの拮抗が崩せないのだ。
対処に迷い、焦るデンバー。
その瞬間、ギルドナイトの機体が二機とも同時に後ろに飛び退く。
武器を押し返していた力の均衡が崩れ、スカーレットセージは体勢を崩す。
デンバーはそれを制御する事が出来なかった。
体勢を崩したスカーレットセージの背中にフリージアの飛び蹴りが炸裂する。
機体は吹き飛ばされ、物凄い勢いで地面を転がる。
その衝撃はデンバーのいる操縦席にも伝わる。
機体の衝撃緩和制御が効いているにも関わらず、デンバーはシートから転げ
落ちそうな衝撃を受けた。
「くそっ、何だ今のは! あれもギガンティアなのか…」
デンバーが顔上げた瞬間、操縦席のモニターには巨大な剣先が映っていた。
フリージアの剣だった。
フリージアはスカーレットセージの腹を踏みつけ、胸の操縦席に剣を突き
付けていた。
その直後、機体にまた軽い衝撃が加わる。
左右には、カレリアとアストラハンの機体が駆け付け、それぞれがスカー
レットセージの左右の腕を踏みつけ、抑え込んでいた。
同時に彼らの槍と剣がデンバーのいる操縦席に向けられる。
三機に組み伏せられ、一瞬でデンバーは絶体絶命の状態になっていた。
フリージアからレインの声が響く。
「機体を降りろ。そして指輪を外して地面に置け。今すぐにだ」
デンバーはモニターを見回す。
三方向から武器を突き付けられ、もはや逃れる術はない。
決着は既に着いていた。
ここから挽回する方法など、ありはしなかった。
「嘘だ、こんなの…
こんな雑魚共に、エル・ギガンティアが負けるなど…」
デンバーはこの状況を受け入れられない。
彼にとって、エル・ギガンティアは至宝だ。
古代文明の力の象徴。
それがこんなにあっさりと制圧されるなど、彼にとってあってはならない
事だった。
やがて彼はショックからか、錯乱気味に喚き散らす。
「貴様ら! 貴様ら!
騎士のくせに多数で寄ってたかって… 恥ずかしくないのか!」
デンバーはこの期に及んで騎士道を持ち出す。
無論、ギルドナイト達がそんな言葉に耳を貸すはずも無かった。
「黙れ悪党が! 貴様に正々堂々向ける剣などあるか!」
「お前の選択肢は、死ぬか投降するかのどちらかだ。それ以外にない」
カレリアとアストラハンが冷徹に言葉を浴びせる。
そしてレインも再び口を開く。
「俺は貴様を始末するのに何のためらいもない。
その機体も、持ち主からは破壊しても構わないと言われている。
お前がこれ以上抵抗するなら、即座に機体ごとお前を始末する」
デンバーは自分の命よりも機体を破壊するという言葉に大きく反応する。
「破壊しても構わないだと…
やめろ、壊すな! 壊すんじゃない。これは大事な…」
「もう一度だけ言う。すぐに降りて指輪を外せ。
応じなければ機体を破壊して終わらせる。
…次の警告はない」
デンバーはようやく状況を飲み込んだのか、力なく答える。
「わ、分かった…」
デンバーは機体のハッチを開け外に出た。
そして、言われるままに指輪を外して地面に置いた。
まるで地面に飲み込まれるように、スカーレットセージは地面から発せられる
光の中に消えていく。
その直後、複数のワーカーが駆け付け、降りて来たギルドナイトがデンバーに
駆け寄りその身柄を拘束した。
レインはデンバーが確保されるのを見て一息つく。
すると、ギルドナイトのギガンティアから通信が届いた。
「見事な手際でした。アシュランドさん。
ご協力ありがとうございます。
…正直、上空から強襲すると言われた時は正気かと思いましたけど」
「全くだ。
だが、結果を見れば納得だな。
しかし、エル・ギガンティアなど見た事も無かったのだが。
敵と味方で同時に見る事になるとはな」
カレリアもアストラハンもフリージアに興味があるようだった。
レインは二機に対し回線を開き、言葉を返す。
「そちらこそ見事な連携だった。
あそこまで完璧に敵を抑え込むとはな。
お陰で容易に奴を制圧出来た」
「光栄です。
我々が強くなければ町は守れませんからね。
日々鍛錬していますよ。
ともかく、被害が小屋一つで済んだのは幸いでした。
我々の出番はここまでですね」
カレリアは、両手を拘束されて立たされるデンバーをモニター越しに眺めながら
嬉しそうに笑った。
こうしてダレスの西門前で起こったギガンティアの戦いはあっけなく幕を閉じた。
町には大した被害も無く、町の多くの人達はこの大捕り物を目にする事すら無く
事件は幕を閉じた。




