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第二章 ダレスと古の記憶  2-4 わたしのたいせつなもの

~前回のあらすじ~

ダレスの町でランスと名乗る男に出会ったライラとナナリー。

ランスを気に掛けるライラに興味を寄せるナナリーだったが、

ライラの抱く思いが敵意である事に気づく。


いつも通りに見えるライラに感じる違和感。

それは間違いなく敵意だった。


ナナリーはそれに気づいてしまった。

恋模様かと思っていた自分の妄想が的外れである事にも気づく。


あの人を知っている。ライラはそう言った。

彼女がランスを知っていると言ったのは、感覚的な物とかではなく恐らく

言葉の意味そのままなのだろう。

だが、今はライラに事情を聞ける状況にはない。


(この人は…敵なの? どういう事なんですか…)


ナナリーはランスに悟られないように彼を観察し始める。


優しい笑顔と口調。

若くはないが老けてもいない。

身の回りは整えられていて、一見すると優しいおじさまと言った感じだ。

彼を見ていると警備を担当する善良な市民そのものにしか見えない。


だが観察している内に彼女は、その善良な見た目を作り物みたいだと感じた。

まるでわざとそう見えるように整えている、そんな風に感じたのだ。

その瞬間、彼の全てに違和感の様な物を感じ始める。

一旦気が付いてしまえば感じ取れる感覚。

彼の態度、笑い方、その所作そのものが作り物っぽく感じられた。

顔は笑っていても目は笑っていない。そんな印象を受けた。


(違う… この人は優しい人なんかじゃない。

 なんていうか… これは、獲物を見る目だ)


そして、ナナリーはランスが何度かちらちらと自分を見ている事にも気づいた。

普通に考えれば、二人で来たのに会話に混ざれない友人に気を使って視線を送っ

ていると感じられるかもしれない。

だが、獲物として自分も見られているのだとしたら。


ナナリーは一刻も早く事の真相を知る必要があると感じた。

とりあえずこの場を去り、ライラの本心を聞かなければならないと思った。

ナナリーはライラに申し訳なさそうに声を掛ける。


「あの… ライラさん、そろそろ…」


ナナリーの声に気づいたライラは部屋の時計を見る。


「ああ、もうこんな時間か。そろそろ戻らないとな」


ナナリーはその言葉に頷く。

ランスはナナリーとライラを交互に見て申し訳なさそうに言う。


「すまない。つい時間を忘れてしまったな。

 君らとの会話が楽し手くてね」


ランスの言葉は相変わらず優しい。

だが、それは単なる常套句で心が籠ってはいない様にも感じられる。

ナナリーはもはや彼の行動全てが嘘くさく感じられる様になってしまっていた。

そんな彼女を知ってか知らずか、ライラは照れたように言う。


「長居して悪いね。

 それでなんだけど… また来てもいいかな」


「もちろん。歓迎するよ。

 でも今日の様に待たせると悪いから、日付を決めてくれると助かるかな。

 二日後の夕方頃はどうかな。

 夕食も御馳走するよ」


「ありがとう。二日後の夕方だね。また来るよ」


「待ってるよ」


ライラとナナリーは席を立つ。

ナナリーはペコリとお辞儀をすると二人で詰め所を出た。

ランスは小屋の入り口で手を振る。

その姿が小さくなるまで、ライラもナナリーも一言も言葉を発しなかった。



辺りは日が傾き始め、町がオレンジ色に染まりつつあった。

小屋を出てからライラはずっと何か思いつめたような表情をしている。


「ライラさん…」


少し後ろを歩いていたナナリーは、控えめにライラの名を呼び、立ち止まる。

呼ばれたライラは不思議そうにナナリーを振り返る。


「どうした、ナナリー」


「どうした、はこっちのセリフです。

 …あの人は誰なんですか」


「…」


いつもと違い、語気の強いナナリーの言葉。

ライラは少し驚いた表情を見せたが、視線を落とし俯くと何も答えなかった。


「あんな目をしたライラさん、始めて見ました」


ライラは自分を見透かすようなナナリーの言葉に再び驚く。

そして照れくさそうに言った。


「…なんだよ。

 お前にも分かるくらい態度に出てたか?」


「あの人は誰ですか。隠さないで下さい」


「…」


ライラは何も答えない。

ナナリーはライラに駆け寄ると抱き着き、彼女の目をまっすぐ見つめた。


「私は、貴方の事を家族だと思っています。

 一緒にいるレインさんもドモンさんもそうです。

 貴方達は何もわからない私に、こんなに親切にしてくれています。

 私は感謝しているんです。

 今の何もない私にとっては、貴方達はとても大切な宝物なんです」


「だから、私はそれを大切にしたい。

 私も大切な人達の力になりたい。

 たとえ役に立たなくても、それでも寄り添いたいんです。

 私は、貴方の力になりたいんです!」


「ナナリー…」


「お願いです…

 一人で… 悩まないで下さい」


目を潤ませて訴えるナナリー。

ライラはその姿をじっと見つめていたが、やがて優しい顔でほほ笑むとナナリーの

頭をゆっくりと撫でた。


「…なあ、ナナリー」


「はい」


「協力、してくれるかな」


「はい!」


ナナリーは力強く答える。

その姿にライラは一瞬戸惑うような表情を見せたが、吹き出しそうになりながら

笑い出した。

その笑顔はいつものライラだった。


「何だよ、まだ何するかも言ってねえだろ。

 そんな自信満々に答えていいのかよ」


「いいんです!

 言ったじゃないですか。貴方の力になりたいって」


そう言うとナナリーは満面の笑みを浮かべる。


ナナリーは嬉しかったのだ。


ライラは何度も自分を助けてくれた。

そんな彼女の助けになれるかもしれない。

それがたまらなく嬉しかったのだ。

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