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第二章 ダレスと古の記憶  2-2 腐れ縁

~前回までのあらすじ~

ナナリーを帝国に送り届ける旅。

レイン達はまず、工業都市シャールを目指し進んでいた。

彼らは盗賊の襲撃を受けるが撃退し、捕らえた盗賊を引き渡す為に

ダレスの町へ向かう事になった。

ナナリー達がダレスへ向かっていた頃、イーステンのサルベージャーギルドでは、

襲撃事件の後始末が漸く終わりつつあった。

イーステンの戦力の被害は大きく、トゥール支部長は人員と戦力を補充する為に

本部へ戦力補充の要請を出していた。

その補充戦力が本日やっと到着したのだ。


支部長室では、二人の男が対面していた。

一人は支部長であるリード・トゥール。

そしてもう一人は、本部から来たギルドナイト、ハルト・カイドウである。

カイドウはギルド本部直轄でありながら、各地の町を補佐する役目を負っている

便利屋的存在である。

ある時は戦力として、ある時は運び屋として、各地を回る生活をしている。

そんな彼は、トゥールの古くからの友人でもあった。


「久しぶりだな、カイドウ。よく来てくれた」


「直接会うのは2年振りか。

 辺境に行ったきり音沙汰もないから、とっくにくたばったかと思ってたよ」


「相変わらず口が悪い」


二人はがっちりと握手を交わすとそれぞれソファーに座った。


「まあ積もる話もあるが、まずは仕事の話だ。

 とりあえず本部は襲撃事件を重大認識してくれて、戦力を回してはくれたよ。

 ギガンティア2機とギルドナイト2名が新しくイーステンに着任となる。

 アモイを含めた3機体制なら当面問題はないだろう。

 代わりに壊れた機体と回収した敵の2機は本部へ引き取らせてもらう。

 あと、負傷したレックスは休養に合わせて別の町に配置転換になる」


「そうか、レックスは異動か。あいつは今まで良く働いてくれた。

 今回の襲撃も2機相手によく奮戦してくれたしな。

 労ってやりたい所だが…」


「大丈夫だ。奴の評価が落ちたわけじゃない。

 野盗ならともかく、王国の正規軍が相手じゃ仕方ないだろう。

 あとワーカーの補充は4台だ。

 足りなければそちらでなんとかしてくれ」


「4台か。

 まあ、ギガンティアが増えただけでも良しとするか」


不満そうに言うトゥールをカイドウが窘める。


「壊し過ぎなんだよ。

 これでも方々手配して調達してやったんだ。

 ありがたく思いな」


「そうか。恩に着るとしよう」


尊大な態度を取るトゥールに呆れながらも、カイドウは真面目な顔に戻ると

話題を変えた。


「しかし…今回の報告は驚いたぞ。

 王国の襲撃にエル・ギガンティア。本当なのか?」


「ちゃんと報告書にまとめたはずだが」


「だから聞いている。

 出来事がイレギュラーばかりだぞ。

 しかもエル・ギガンティアの所持者は二年前に活動を始めた新人ときた。

 素性は良く分からないんだろう?

 遺跡で偶然アーティファクトを拾っただなんて本当か?」


「関係者達は皆そう口を揃えていたよ。

 …だが、多分嘘だな」


「となると、例の保護された少女が関係している、か」


「だろうな。彼女が所持していたと考えるのが妥当だ。

 それなら王国が彼女を狙ったのも納得が行く」


「なら何故取り調べをせず鵜呑みにする。

 嘘をついているなら取り調べればわかるだろう」


「あのレインという男は、決闘までして少女を守ろうとしたんだぞ。

 そして彼女の解放を正式に勝ち取ったのだ。

 イーステンはもう手出し出来んよ」


「若者の心意気を汲んでやるのか。お前らしくもない」


「いやいや。私はいつもそうして来たさ。

 それに、決闘のおかげで町も支部も結構潤った。

 気を使ってやるのが義理というものだ」


「この狸が。結局金じゃねえか。

 そこまで分かってて報告書に嘘書いたのか」


「嘘は書いておらんよ。

 当人達の言葉をそのまま報告しただけだ」


「…呆れて物が言えんよ」


「そうは言うがな。

 仮に彼女が問題の中心だとして、寄ってたかって少女一人を追い回して

 ブツの出所を問い詰めたりするつもりか?

 私はそういうのは好かんな。

 それでは襲撃して来た王国の連中と大差あるまい」


「似非人格者め。よく言うよ。

 ところで、その少女やエル・ギガンティア持ちは何処にいる?」


「彼らはもう町にはおらんよ」


「外へ行かせたのか?」


「拘束したりしているわけではないんだ。問題なかろう。

 それに、彼らなりの配慮でもあるんだ。

 律儀に出発前には挨拶に来たよ」


「…町が狙われないよう、彼女を連れて出たとういう事か」


「あの少女を連れている彼らは善良だよ。

 例のギガンティア乗りも人柄は信用できると私は思っている」


「そうだといいがな…

 ただ、本部からそいつを調べて来いと言われててな。

 まさか町を出ていたとは。面倒な事になったな」


「彼らの目的地はシャールだ。

 どうしても会いたければ追っていけばいい」


「気安く言いやがって、長旅じゃねえか…

 まあ、行くしかねえか…

 ともかく、荷は確かに渡したぜ。

 あとアマギがこっちにいるはずだ。引き取らせてもらう」


「アマギか。

 彼女のお陰で事務の新人の手際が随分良くなったよ。

 研修に来てくれて助かった。

 …ところで相談なんだが」


「あいつはやらんぞ」


「そうか、彼女は優秀だったからな。惜しいな。

 まあ、嫁は渡せんわな」


「変な事言うな。嫁じゃねえよ」


「そう言わず、早く一緒になったらどうだ。

 付き合いももう長いのだろう。

 見た目はともかく、歳もそう違うまい」


「並ぶと親子みたいに見られるんだよ。

 あいつは見た目が変わらなすぎるんだ」


「まあ、そう言うな。長い縁は大切にしろ」


「言われなくてもわかってるよ。

 とにかく彼女は連れて帰るからな」


「彼女が抜けるのは惜しいが仕方あるまい。

 お前が来るの聞いて、引継ぎ等は済ませるように伝えてある。

 終わっているなら連れ帰ってくれて構わない」


「何だよ。手際よく進めてくれてるじゃねえか。

 返さねえとゴネられなくて良かったよ。

 とにかく、早くにここを発たないといけなくなったからな」


「どうしてだ。ゆっくりしていけばいいだろう」


「さっき言っただろ。

 例のレインとかいう男の監視をしないといかんからな。

 あんたの言葉を信用しない訳じゃないが、

 一度も会いもせずに問題ないと報告は出来んからな」


「相変わらず真面目だな」


「お前みたいに適当に仕事は出来ん」


「無駄を省き、的確にこなしている、と言って欲しいな」


「相変わらず口の減らない奴め」


「まあ、それでも今日飲み交わす時間位あるだろう。一杯付き合え」


「お前の奢りか?」


「今日は、そうしよう」


「珍しく気前が良いじゃないか」


「無理を聞いてもらったからな。やはり、持つべきものは友だ」


満足そうな笑みを浮かべるトゥールを見て、カイドウはため息を付く。


「無茶振りされた方の身にもなってくれ。

 あちこち手配するの大変だったんだぞ…

 とりあえずアマギに話を通して来る。

 じゃあ、また夜にな」


「ああ、待っているぞ」


カイドウはソファーから立ち上がると、手を上げて挨拶をする。

トゥール支部長も何も言わず手を上げてそれに答える。

カイドウはそれを見てほほ笑むと振り返りもせずに部屋を出て行った。


しばらくして、カイドウは支部の事務方の控室に来ていた。

扉をノックして控室へと入る。

そこには休憩中のアマギが椅子に座っていた。


「アマギ、ここに居たか」


「カイドウ様。お久しぶりです」


声を掛けられたアマギは立ち上がり、丁寧にお辞儀をする。


ここイーステンで働いていたシズカ・アマギは元々カイドウの部下である。

昔、偶然トラブルから助けてくれたカイドウに誘われ、サルベージャーギルドで

働くようになったという経緯がある。

事務能力に優れ、ワーカーの運転もこなす彼女はカイドウに重宝され、長年一緒に

仕事をこなして来た。

ここ半年は支部長のトゥールからの依頼で、事務方の研修の為にイーステンで働

いていたのだった。

アマギはいつものようにすました顔でカイドウを出迎える。


「相変わらず堅苦しいな。お前は」


「仕事場ですから。礼儀は必要です」


「支部長から話は聞いてるな。引継ぎは終ったか」


「はい。滞りなく」


「さすがだな。申し訳ないが、次の仕事がある。

 俺と一緒に来てもらうぞ」


「承知しました。ですが、休みも無しにですか?」


「休みたいのか? 無休で働かされていた訳ではないだろう」


「私とて、ストレスはあるのです。

 それに、しばらく働いたこの町との別れも惜しみたいのです」


「そうか」


「あの通りのスイーツは定時後だといつも売り切れで…

 メイン通りにあるジャンボパンケーキもまだ食べていないのです」


「そ、そうか…

 2日あれば足りるか…?

 その位なら上からも何も言われないだろう」


「ありがとうございます。感激です。

 思う存分羽を伸ばしてきます」


「わかった。まずは十二分に休みを堪能してくれ。

 それが終わってから出発する」


「して、今度はどちらへ向かうのですか」


「シャールだ。

 レイン・アシュランドという男とナナリーとかいう少女の監視だ」


「彼らの…」


記憶を辿る様に少し俯いた彼女に対し、カイドウは質問を投げかける。


「お前から見て、彼らはどうだ」


「どちらも私は直接会う機会は少なかったのですが…

 話を聞くだけならアシュランド様は優秀な傭兵ですね。

 腕は立ち、素っ気ないですが礼儀正しく優しい方の様です。

 エル・ギガンティアを手にしたのが彼で良かったのではないでしょうか」


「ベタ褒めだな」


「ええ。ですが… それが不自然とも言えます」


「どういうことだ」


「彼は二年ほど前にサルベージャー登録をした傭兵です。

 今二十歳との事ですが、登録時にはギガンティアを個人所有しており、先日の

 決闘でギルドナイトに勝ち、襲撃時には王国の騎士も倒しています。

 年齢から考えると腕前も所有している物も規格外です」


「確かにそうだな。

 歳の割には経歴が豪華すぎる感じはするな」


「南の大陸に新しく来るような方は、何かしら人に言えない過去を持っている人

 もいますので。

 下手をすると北の騎士団からギガンティアを盗んで逃亡して来た騎士、なんて

 事もあるかもしれません。

 あるいは… 帝国の間者とか」


「それだと随分と装備の良い間者になるな」


「そうですね。

 ただ、とても重要な何かを探す、なんて指令を受けていればそれなりの装備は

 与えられるかもしれません」


「…少女の方はどうだ」


アマギは少し考え込んだ後答える。


「可愛らしい少女、という意外に答えがありませんね。

 年齢からすると言動は少し幼い感じでしょうか」


「こっちはシンプルな感想だな」


「はい。彼女自身はそうです」


「含みのある言い方をするな」


「ええ。彼女自身は特筆する所は無いように見えます。

 ですが、明らかに何かに標的とされていると感じます。

 王国は彼女が何者か知っているのではないかと」


「彼女が何者かは、王国の間者をとっ捕まえて吐かせた方が早いかもな」


「ええ。それはもうやりました」


「やったのかよ! 初耳だぞ」


「襲撃事件の時に王国軍の兵士を何人か捕らえています。

 その方達に丁寧に尋ねましたが…」


「丁寧… 何の隠語なんだ…」


「誰も本当の事を知らされていないようでした。

 ギガンティア乗りですらそうでしたから。

 上層部の極秘にされているのではないかと」


カイドウはその少女よりも後ろで蠢く謎について一抹の不安を覚える。


「…そのナナリーとかいう少女、放置して大丈夫なのか」


「真相がわからない事にはなんとも。

 ただ一つ言える事は、アシュランド様にしてもナナリー様にしても

 町に危害を加えるような事はなさらないと思います」


「謎多き善良な市民か… わけわからんな」


「とりあえず私の感じたことは以上です」


「ああ、助かった。

 ともかく、監視した方が良さそうだという事だけは良く分かった」


「恐れ入ります」


「では悪いが、4日後に出発する。それまでに準備を整えてくれ」


「休みは2日、というお話でしたが」


「出発は4日後でいい。

 今日明日でここでの仕事は完全に終わらせてくれ。

 何もなければそのまま休みに入っていい。

 その後の2日は旅の準備と休みに当ててくれ。

 キャリアーでの長旅になるから準備をしっかりな」


「承知しました」



そんなやり取りがあった4日後、カイドウ達はイーステンを出発した。

だが、ナナリー達がメインルートを外れて旅をしている事を彼らが知るのは

少し後の事になる。


彼らを見失ってカイドウは頭を抱える事になるのだが、それはまた別のお話。

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