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第二章 ダレスと古の記憶  2-1 シャールへの旅路

~前回までのあらすじ~

ナナリーを帝国に送り届ける為、レイン達は旅立つ。

まずは破壊されたレインの機体を修理する為に工業都市シャールへ向かう。

気が付くと周囲は真っ暗だった。


息苦しい。何も見えない。


そして、遠くで誰かの絶叫が響く。


彼女は無意識に誰かの名を叫ぶ。


だがそれは声にならない。体も動かない。


ただ絶望していると、何処からかポツリと声が聞こえる。


 …仕方がない


 仕方がないじゃないか! あんたたちが悪いんだ!



「…さん、ライラさん!」


ライラはハッと目を覚ます。

気が付くとベッドの上だった。

目の前には心配そうなナナリーの顔。


「大丈夫ですか。うなされていましたよ」


寝ぼけている頭が段々とはっきりしてくる。

そう、ここは移動中のキャリアーの中だ。

少し仮眠を取ろうと備え付けのベッドで横になったのだった。

時間を見るとあれから30分も経過していない。


ライラはゆっくりと体を起こし、心配そうに見つめてくるナナリーの頭を

ゆっくりと撫でた。


「大丈夫。少し変な夢見ちゃってさ」


その言葉にナナリーは安心した様子を見せる。


「私、コーヒー淹れてきます。飲みますよね」


「ああ、お願い」


ナナリーは備え付けの小さなキッチンへ行き、準備を始める。

ライラは先ほど夢を思い出し、ため息を付く。


(あの夢、久しぶりだな。

 最近は見なくなっていたのにな)


ライラはあの暗闇の悪夢を何度も見たことがある。

そして彼女はそれが何かを理解している。


過去の体験から来ている悪夢。

彼女の母親が殺される瞬間の出来事。

暗闇の中で声だけ聞こえる恐怖。


忘れられない声…


もう12年も前の事だ。

彼女自身、もう過去の事だと割り切っているつもりだった。

辛い過去を持つ人間など、この南の大陸ではいくらでもいる。

彼女には優しい養父がいて、衣食足りた生活もしている。

今の自分を不幸などと思った事も無い。

それでも過去のトラウマを呼び覚ますか様に、あの悪夢は忘れかけた頃に

やってくるのだ。


彼女はコーヒーを入れるナナリーを眺めながら自問自答する。


(あたし、何か不満な事でもあるのかなあ…)



ナナリー達がイーステンを出発してから数日。

彼女達の乗るキャリアーは遥か南西にある町、シャールへ向けて進んでいた。


この世界のキャリアーと呼ばれる乗り物は、巨大な輸送用の車両だ。

車両と言っても車輪は無く、気流を噴射するいわゆるホバー移動をする乗り物だ。

浮遊大陸にも使われていた特殊な条件下で浮かぶ鉱石、浮遊石を使う事で車体を軽

くし、ワーカー等にも使われるアンバー結晶を使った強力なエンジンで機体を浮か

せて移動する。

ドモンが所有しているこのキャリアーも、ワーカーを二台は乗せられる程の大型の

コンテナを備え、狭いながらも居住用のスペースも付いている。

キャリアーとは言わば地上を移動する輸送船なのだ。

ナナリー達は町を経由しつつ、基本的にこのキャリアーで寝泊りしながら目的地の

シャールを目指しているのである。


南の大地には都市間をつなぐ整った道路なんてものは数えるほどしかなく、殆どは

荒地を進むことになる。

一応都市間を移動する際の正式なルートという物は存在し、危険を避ける点からも

普通はそのルートを進む事になる。

だが今ナナリー達が走行しているのは正式なルートからは外れている。

王国の追っ手を警戒し、行先を特定されないようにわざとルートを外れたのだ。

だが、正式なルートから外れれば治安の悪い箇所を通る事もある。

彼らは野盗などに注意しながら進まなければならなかった。


幸いこのキャリアーにはレインが同乗し、ギガンティアという戦力がある。

ワーカー程度であれば、接近する前に気づく事さえ出来れば取るに足らない。

逆を言えば索敵だけはしっかり行わなければ危険を回避できないという事だ。

ギガンティアで敵を蹴散らせたとしても、キャリアーが破壊されてしまえば快適に

旅を続ける事は出来なくなってしまう。


キャリアーの操縦席ではドモンが運転を、レインが索敵を行っていた。

運転と言ってもよほど状況の悪い道でなければ自動航行でも問題はない。

ドモンが暇そうに行先を眺める横でレインは双眼鏡を覗いて周囲を警戒していた。


彼らが進む前方に廃墟が見えて来た。

廃墟の建物は崩れ風化し、人が住まなくって長い年月が経っている場所だった。

その中で身をひそめる二機のワーカーがいた。


「ストックのアニキ、来たぜ。大型のキャリアーだ。護衛もいない」


ワーカーの上で嬉しそうな声を上げるこの男はレン。

彼はアニキと慕うストックと共にワーカーでキャリアーを襲撃し、荷物を強奪する

いわゆる盗賊であった。

レンの言葉を聞いて、暇そうにしていたストックは体を起こし双眼鏡を覗く。

その先にはナナリー達の乗るキャリアーが走行している。


「どれどれ… 久々にデカい獲物だな。

 あのサイズがこのルート通るのは珍しい。

 非合法のお宝でも積んでるかもしれねえ。

 レン、まだエンジンは点けるな。

 探知に引っかかる。もう少し引き付けるんだ」


ストックはそういうとワーカーの上で監視を続ける。

ナナリー達の乗るキャリアーは廃墟を迂回する様に進んでいく。


「ちっ、こっちへ来やがらねえ。ちゃんと警戒してんのか。

 護衛はケチってるくせに。

 レン、出るぞ。最速で突っ込んで制圧するんだ」


「合点!」


彼らは止めてあったワーカーのエンジンをかける。

ワーカーが起動したのを確認すると全速力でキャリアーへ向かって走る。


「おらあ! ストック団のお出まし…」


レンがそう言いかけた時だった。

キャリアーのコンテナの上からまぶしい光が立ち上る。


「!? な、何だ?」


彼らは何が起きたかわからず、機体を急停止させる。

その瞬間、光の中から白と青色の巨人が飛び出して来た。

レインの乗るフリージアだった。


「な…」


驚いたストックが言葉を発するよりも前にフリージアは急速降下し、手前に居た

ストックの乗るワーカーに飛び蹴りをお見舞いする。

ストックは咄嗟に胴体を庇おうと盾をかざしたが、まるで紙細工でも潰す様に

盾ごと簡単にグシャリと蹴り潰されてしまった。

左半身を潰され、ストックのワーカーは動かなくなった。

フリージアは着地すると、もう一台のレンのワーカーに右腕を向ける。


「ギ、ギガンティア!? や、やべえ!」


レンは慌てて逃げ出そうとするが、フリージアの手甲から光弾が発射され、

ワーカーの手足を的確に射貫く。

レンのワーカーはあっという間にダルマにされ、動けなくなった。


少し離れたキャリアーの操縦席ではナナリー達がその経緯を見ていた。


「さすが旦那。鮮やかなもんだな」


ドモンはレインの手際のよい動きを見て感心する。

隣にいたライラは、少し考えた後ドモンへ話しかける。


「なあおやじ、スクラップ集めるなら野盗狩った方が早くないかな」


「恐ろしい事言うな、お前は…」


物騒な事を言い始めるライラをドモンは呆れ顔で眺める。

それでも少し楽しそうに話す二人とは対照的に、ナナリーは複雑な表情を

浮かべていた。


「野盗って本当に出るんですね…」


彼女は噂に聞いていた野盗があっさりと出現したのを見て、この大陸の治安が

良く無いと言う現実を改めて認識させられる事になったのだ。


一方、外ではフリージアが剣を抜き、地面をこする様に剣を振る。

機体の足元に一本の溝が引かれる。

レインは動けない野盗に対して警告を発した。


「命が惜しかったら今すぐ操縦席から出ろ。

 そして機体の傍へ武器を置き、この線まで来て手を頭の後ろで組め。

 一分以内だ。

 嫌なら出て来なくてもいい。

 …時間が過ぎたら機体と一緒に火葬される事になるがな」


物騒な警告に野盗達は慌てる。


「わ、わかった。降参するから待ってくれ!」


這い出す様に機体から出る二人。

言われた通り、線の前で手を組んで正座をする。

その様子を見ていたドモンがライラとナナリーに指示を出す。


「さて、行くぞライラ。あいつらを縛り上げるんだ。

 念のためヘルメットと防弾チョッキを付けろ。

 嬢ちゃんは教えた通りここでセンサーを見張り、異常があったらすぐ外部音声

 で俺達に知らせてくれ」


「わかった」


「任せて下さい」


野盗の二人は上からギガンティアに睨まれていては何も出来ず、ドモンとライラ

にあっさりと縛り上げられた。

ドモンはキャリアーの後部の荷台を引き出すと、ライラと二人で縛り上げた野盗

二人をその荷台に放り入れた。

手足を縛られて芋虫のようになった野盗たちが声を上げる。


「ざけんなおっさん! 

 荷物じゃねえんだぞ。もう少し丁寧になあ!」


「埋められないだけでもありがたく思いな。

 ちゃんと近所のギルドナイトに届けてやるよ」


「畜生! 覚えておけよ、てめえ!」


喚き散らす野盗を気にもせずにドモンはライラを連れ運転席に戻る。

席で有事に備えていたナナリーが二人を出迎える。


「お疲れ様。大丈夫でした?」


「ギガンティアを出されてビビったんだろうな。

 大人しくしてくれて助かったよ。

 しつこく抵抗してくるなら、それ相応の対応を取らなきゃいかんからな」


機体を収納したレインも彼らの傍へ戻って来る。


「奴らのワーカーの残骸は一応コンテナに積み込んでおいた。

 そっちは問題なかったか」


「ああ、問題ない」


ライラは荷台の上でジタバタする野盗を眺めながら言う。


「で、おやじ、どうするんだよ。

 この先あいつらも連れて行くのか」


「近くの都市のギルドナイトに突き出そう。

 ここから一番近い町って何処だったかな」


「ここからだと確かダレスが一番近いな。東に迂回する事になるが」


「寄り道する事になっても、さっさと済ませておいた方がいいだろう。

 長い間連れ回すのは色々面倒だしな」


「わかった。引き続き警戒しながら進もう」


話が纏まると彼らは再びキャリアーに乗り込んだ。

キャリアーは東に進路を変え、ダレスを目指し走り始める。


ダレスは辺境の小さな町だ。

イーステンよりも町の規模はさらに小さく人口も少ないが、周りは自然が豊かで

農業が発展している。

野盗と遭遇した地点からさほど距離は無く、ナナリー達は日が暮れる前にダレス

へ到着した。


ナナリー達にとって、ダレスは本来は立ち寄る町ではなかった。

だが、偶然かそれとも運命の悪戯か。

ライラにとって予想もしない出会いが待ち受けていた。



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