第一章 旅立ちのイーステン 1-11 目覚める蒼き翼
~前回のあらすじ~
レインとアモイの決闘の直後、謎の部隊がコロシアムを強襲する。
仲間の援護を受け、何とかコロシアムを脱出したナナリーとライラだったが、
王国のギガンティアの強襲を受け窮地に陥る。
目の前に映る灰色の巨人。絶対絶命の状況。
ライラとナナリーはその光景に愕然とするしかなかった。
その時だった。
パトナはパネルに表示された動体反応の警告に驚き、咄嗟に盾を構える。
そこへいきなり巨大な黒い物体が突撃して来た。
パトナの機体はそれに体当たりされ吹き飛ばされる。
彼女はスラスターを上手く噴射して態勢を立て直し着地した。
目の前に現れたのは、レインの乗るガーベラだった。
「レインさん!」
その光景を見たナナリーが歓喜の声を上げる。
ライラも絶望的だったこの状態に現れた騎士の姿に安堵の息を漏らす。
レインは間髪入れずにパトナの機体に切りかかった。
だが、パトナも巧みな盾捌きで対応する。
「黒い機体!? コロシアムから出て来たのか。
ハミルトン達は何をしているの!」
レインとパトナの打ち合いが続く。
だが盾で剣を捌けるパトナに比べて、盾がないレインは苦戦を強いられる。
何度もパトナの剣がガーベラの装甲を掠める。
レインの額に汗が流れる。
彼には明らかに疲労の色が見えていた。
アモイとの死闘、そしてここへ駆けつけるため全開にしたスラスター。
ギガンティアでは機体のエネルギーを使う事は全て搭乗者の消耗に繋がる。
機体を守る盾は既になく、コロシアム内で受けた散弾のダメージもあり、
機体も悲鳴を上げ始めていた。
それでも彼は冷静にパトナの動きを観察する。
(綺麗な剣技だ。鍛錬も積んでいる。
だが… 基本に忠実すぎるな)
レインは切りかかるタイミングを少しずらし始める。
フェイントを織り交ぜ、相手の防御や剣撃の動きを乱し始める。
パトナは切りあっていた敵の動きに不快感の様な物を感じ始め、段々とペースを
乱されて行く。
互角に打ち合う二人だったが、じわじわとレインがパトナを追い込み始めた。
「こいつ…
何? 急に剣が当たらなくなって…
こんなにボロボロなのに何故!」
押され始め、焦って繰り出したパトナの剣をレインは冷静に捌き、絡め取る様に
相手の剣先を払いのけた。
剣を捌かれ、パトナに絶対的な隙が生まれる。
「…終わりだ」
レインはパトナの姿勢が崩れた所にすかさず突きを放つ。
「しまっ…」
パトナは迫る剣先に死を覚悟した。
だがその瞬間、ガーベラの背中に光弾が着弾し爆発を起こす。
ガーベラは姿勢を崩し、その剣は相手を捉えられなかった。
パトナの技量は高かった。
それ故に目の前の敵に集中を余儀なくされたレインは、いきなり背後から来た
光弾を躱す事が出来なかったのた。
背後から現れたのはケアンズの機体だった。
態勢の崩れたガーベラに素早く接近すると力を込めて剣を振り下ろす。
防御態勢を取ろうとしたガーベラだが、背後から振り下ろされた一撃を防ぐ事は
出来ず、左腕と左の腿をあっさりと切り裂かれる。
それを見たパトナもすかさず態勢を立て直し、ガーベラに向けて光弾を発射する。
光弾は頭部と右手に命中し、ガーベラは剣を落とす。
そして、左足を失ったガーベラは姿勢を保てずゆっくりと地面に倒れていく。
「旦那! 嘘だろっ…」
「レインさん… レインさん!」
倒れていくガーベラ。
ワーカーの中の二人は悲鳴のような声を上げる。
二人には彼ならなんとかしてくれる、そんな信頼感があった。
だが、現実は非情である。
どんな強者であろうとも絶対はない。
戦いとは紙一重。どのような結果にもなりうるのだ。
「隊長、助かりました」
パトナは冷や汗を拭きながらケアンズへ通信を送る。
彼女自身、死をも意識した一瞬だっただけに、駆けつけてくれた上司に心からの
謝意を送る。
「遅れてすまんな。あの田舎騎士、なかなか手強くてな」
コロシアムの入り口では、レックスの機体が倒れていた。
彼の機体も抵抗むなしく敗れ、地に伏していた。
一方、レインは倒れた機体の中でパネルを弄りながら状況の打開を探っていた。
だが、機体はとても戦えるような状態ではない。
動けた所でほぼ無傷のギガンティアを二体にこの状態でどうにか出来るものでは
なかった。
泣きそうになりながら倒れたガーベラを見ていたナナリーは、何かに気づいたかの
様にライラに向かって叫んだ。
「ライラさん、外へ! 外部音声をお願いします!」
「何を…」
「早く!」
ナナリーの剣幕にライラは訳も分からず通信モードを切り替える。
ナナリーはパネルに向かって大声で叫ぶ。
「レインさん! 指輪を、指輪を使って下さい!」
いきなりワーカーから流れた大声にパトナとケアンズはワーカーの方を見る。
機体が動き出して逃げるわけでもない。
ならこの声に何の意味があるのか、ケアンズにはわからなかった。
「指輪…!?」
レインもいきなり聞こえて来たナナリーの声に驚く。
「フリージア! あの人を助けてっ!」
ナナリーが力の限り叫ぶ。
ナナリーの声はレインに届く。
彼は内ポケットにしまっていた、ナナリーの指輪を取り出す。
(使え? どういうことだ? まさか、これは…)
彼はすぐさまその指輪をはめ、精神を集中する。
指輪がきらりと光り、宙に文字が浮かぶ。
(…!)
そう、それはアーティファクトだった。
エル・ギガンティアのコントローラーである装具。
騎士が、サルベージャーが追い求めてやまない、亜空間より機体を呼べる
という常識外れの兵器。
何故、彼女がこんな物を持っていたのか。
何故、彼女はこれを自分に渡したのか。
次々と頭に浮かぶ疑問を彼は振り払う。
(理由は後だ! 躊躇するな!)
そして彼は叫ぶ。
「来い! そして俺に力を貸せ!」
その声と共に、ガーベラの胸の装甲が吹き飛ぶ。
いきなりの爆発。
パトナとケアンズは驚き、慌てて機体を飛び退かせる。
ガーベラから離れ、距離を取った二人が見た物は、半壊した機体から立ち上る
光の柱だった。
「何が起こった? 自爆か?」
ケアンズは目の前で起こった光景に困惑する。
やがて光の柱は消え、中からは白く輝く機体が現れた。
蒼い色の綺麗な装飾の付いた装甲。
すらりとした美しいフォルム。
背中には蒼い羽の様な装甲板が付いたバックパックが付いていた。
ケアンズはいきなり出現した機体に驚く。
「ギガンティアだと! 何処から出て来た?」
機体の手のひらに乗って居たレインは操縦席に飛び込む。
あっけに取られていたパトナも出現した機体を見て驚く。
「何これ… 黒い機体の中から出て来たというの?」
ワーカーの中でその光景を見ていたライラは、訳が分からず呆然とする。
ライラはナナリーの方を見た。
一連のナナリーの意味不明な言動が何なのかを理解する。
「まさか、あれがエル・ギガンティアなのか…」
ナナリーはまるで祈る様に現れたギガンティアを見ていた。
(お願い、レインさん… 私を、皆を助けて…)
パトナは目を瞑り頭を振ると、混乱した思考を落ち着かせようとする。
そして、けん制と言わんばかりに現れた機体に標準を合わせ光弾を発射した。
レインは即座に機体を操作し、スラスターを吹かして飛び上がりそれを回避した。
彼はパネルを操作しながら叫ぶ。
「…音声補助ON。 機体概要を右モニターに表示」
レインはそう叫ぶとスラスターを操作しながら着地する。
彼の音声指示に答えるように機体の概要が画面に表示されていく。
(操縦系統は通常の規格と同じだ。音声認識もある。
機体名、フリージア。
武装はレイピア、ハンドキャノン…
形態、飛行システム試験機…?)
「飛行システムとは何だ? 左のモニターに出せ」
レインは敵に対処しながら、この機体の概要を把握しようとする。
左のモニターに文字と資料映像の様な物が表示される。
(これは… ぶっつけ本番で使えるか。
いや、今は戦える機体があるだけで十分だ!)
攻撃を躱されたパトナは、パネルを操作して見知らぬギガンティアを解析する。
機体のデータからは何も合致する情報は出てこない。
「やはり、データにもない…
隊長! あれは何ですか! 何もない所からいきなり…」
「何だろうが構わん。
あれは目標じゃないんだ。邪魔をするなら潰すだけだ。行くぞ!」
ケアンズはスラスターを吹かして白いギガンティアへ突っ込む。
パトナはそれに合わせ、機体を挟み撃ちにするために回り込むような軌道を取る。
それを見たレインはスラスターを吹かしてフリージアを再び飛び上がらせる。
「何だその回避は… 死にたいのか!」
ケアンズは急制動をかけ停止すると、上空に居るフリージアに光弾を打ち込む。
フリージアは予測していたかのように横にスラスターを吹かして躱す。
「空中戦がお好みなら、相手をしてあげましょう!」
パトラはスラスターを吹かして、空中に居るフリージアに突撃する。
エナジーを込めて剣を振りかぶるが、フリージアはバックパックの羽を広げ、
ふわりとそれを躱す。
剣を躱されたパトナは即座に振り返り、再び剣を振りかぶる。
剣にはエネルギーが込められ、光り輝いていた。
彼女はエナジーブレイドを使って離れた相手に追撃を掛けるつもりだったのだ。
「逃げられると思っているのかしら!」
だが、振り返った先に居るはずのフリージアが消えていた。
再度ブーストをかけて逃げたとしてもいきなり視界から消えるはずはない。
彼女は慌てて周囲を見回す。
「パトナ! 下だ!」
ケアンズから通信が入る。
パトナは下を見る。
敵は左下から異常な速度で接近して来ていた。
「そんな! いつの間に!」
彼女は慌てて全身のスラスターを全開にしてその場から飛び去る。
そのまま自由落下を使って前方へ着地すると振り返り、追ってくるかもしれない
フリージアを確認しようとした。
その瞬間、彼女の機体が切り裂かれる。
振り返りかけた左肩と頭部は細い頭身で一刀両断され、吹き飛ばされた。
縦席の天井が破損し、モニターのクリスタルガラスが飛び散り彼女に降り注ぐ。
「ああっ!」
パトナは意味も分からないまま機体を破壊され、悲鳴を上げる。
彼女の機体は操縦系に異常が発生し、機体は地に倒れる。
ケアンズは倒れていくパトナの機体を見て愕然とする。
あの白い機体はまるで獲物を狙う鳥の様にパトナの機体を追いかけ、切り裂いた
からだ。
「何だあれは… 自由自在に空を飛べるのか!」
通常、ロケットの様な推進で飛行するギガンティアは、空中では剣を切り結ぶ状態
にはまずならない。
光弾の打ち合いでけん制し合う位が関の山だ。
それでもパトナが空中戦を挑んだのは、二人であれば着地時などを狙って追い込む
事が出来ると踏んでいたからだろう。
だが、あの機体はパトナの一撃を躱した後、まるで木の葉が落ちるようにふわりと
下に回り込み、死角から攻撃して来たのだ。
その姿は、まるで自由に飛び回る鳥の様でもあった。
パトナが全力で離脱した後も、それを追い越すような速度で飛行し、彼女の態勢が
整う前に機体を切り裂いたのだ。
鳥の様に飛行するギガンティア。
ケアンズの常識の中にはそのような物は存在しない。
ケアンズは剣を構えて警戒する。
彼は、得体のしれない蒼と白の機体を見つめながら思考を巡らせる。
例え相手にどんな機能があろうとも、同じ土俵に上がらなければ良いだけだ。
ギガンティアの切り合いは本来は地に足を付けて行う物だ。
普通の切り合いであればこちらが特に不利になる事も無い。
ケアンズは構えを取ったまま少しずつフリージアに近づいていく。
フリージアはケアンズの方を向くとスラスターを全開にして突っ込んで来た。
背中の羽を広げて低空飛行で突っ込んで来る。
(こいつ、あくまで飛ぶというアドパンテージを使うつもりか!)
ケアンズは盾を前面に出し、それを迎え撃とうとした。
だが、フリージアは途中で軌跡を変え、ケアンズの攻撃範囲に入らず通り過ぎて
行く。
ケアンズはそれを目で追いながら構えを崩さず振り返り、その軌道を追う。
すると、フリージアはそのまま飛び上がり、コロシアムの方へ飛び去って行く。
あっけに取られるケアンズ。
だがその直後、彼は相手の真意に気づいた。
いつの間にか、半壊状態で放置されていた目標の乗っているワーカーがいない。
良く見ると飛び去るフリージアはそれを抱え込んで飛んでいた。
作戦の目標である少女は、あの機体によって連れ去られていたのだ。
「しまった! 奴の目的はそれか…」
そう、レインはそもそもケアンズと戦うつもりなど無かったのだ。
敵が減り、彼女たちの保護が可能になった時点でそれを実行したのだ。
ケアンズは慌てて追おうとする。
だが、冷静に考えを巡らせる。
同じくスラスターを吹かして空中で接近した所で、自分の不利は免れない。
そもそも自由に空中を飛べる相手など、この機体で追跡するは不可能だ。
地上から接近しても同じこと。
奴がコロシアムの上空を飛んだのは、建物を障害物にして追跡させないためだ。
一度でも見失えば追うのは難しい。
ケアンズはため息を付くと、パトナの機体へ通信を送る。
「パトナ、無事か」
「隊長、なんとか生きています。
ですが、機体はもう立ち上がれません」
「そうか…
残念だが作戦は失敗だ。撤退する。
機体は諦めて脱出しろ」
「申し訳ありません…」
「あんなイレギュラーが出てきたのなら、仕方があるまい。
引き上げるぞ」
ケアンズは機体からなんとか這い出して来たパトナを回収すると、味方全体へ
通信を送る。
「作戦を継続中の者は返答しろ。
ハミルトン、アルバニー、聞こえるか?」
一瞬の沈黙の後、一つだけ返答があった。
「隊長! 申し訳ありません、今手が離せません。
ギルドナイトの説得に失敗し、抵抗を受けています。
そちらには向かえません」
コロシアムにいるハミルトンの声だった。
「ハミルトンか? アルバニーはどうした」
「倒されました。生死は不明です」
「そうか。
作戦は失敗した。集合ポイントまで即座に撤退しろ。
動けない味方は諦めろ。自身の脱出を優先しろ」
「そんな!」
「こちらは目標を見失った。
これ以上の戦闘は無意味だ」
「…了解」
コロシアムの中で戦いを続けていたアモイとハミルトン。
激しい撃ち合いとなり、ハミルトンはアモイの猛攻になんとか耐えていた。
アモイの機体は、頭部に損傷があり視界は悪いはずだった。
しかも決闘を行って疲弊しているはずだが、それも感じさせない剣捌き。
ハミルトンはじりじりとアモイに追い詰められていたのだった。
そんな中、先ほどの作戦失敗の報。
ハミルトンは自分の力不足を痛感する。
彼は倒れているアルバニーの機体を見て呟く。
「すまない… アルバニー」
ハミルトンは肩の発射管から煙幕弾を発射する。
それはアモイのベルガモートの足元に着弾し、煙が上がる。
ハミルトンはベルガモートを睨みつけながら言った。
「この屈辱は… 忘れぬ!」
相手の機体から流れて来た言葉に、アモイは呆れながら答える。
「勝手に攻めてきて寝言ぬかすな。
こっちは疲れてんだ。とっとと失せな」
「…」
最後まで口の悪いアモイの声を聴いて、ハミルトンは唇を噛みながら煙に包まれて
行くベルガモートを睨みつけた。
機体が煙に覆われて見えなくなると、ハミルトンは機体のスラスターを吹かし、
西ゲートを通りコロシアムから脱出して行った。
動体センサーでハミルトンがコロシアムを出た事を確認したアモイはシートに
だらしなく寄りかかる。
「ああ疲れた。
全く、余計な事するんじゃねえよ。王国のクソ騎士共」
そう言って操縦席内でだらけ始めたアモイは、パネルに新たな反応の表示が出た
のを確認する。
「何だ、上から!? 敵か?」
アモイは慌てて機体を操作し、構えを取る。
直後、空から降って来た青と白色の機体。
レインの乗るフリージアだった。
アモイは見た事も無いその機体を警戒したが、両手でワーカーを抱えている
その姿を見て警戒を解いた。
それは戦おうという姿には見えなかったからだ。
フリージアから声が響く。
「聞こえるか? トリトマ・アモイ。
俺だ。レイン・アシュランドだ」
「アシュランドか? 何だその機体は。ガーベラはどうした」
「色々あってな。話は後だ。
敵は退いた。救助を手伝ってくれ」
「しゃあねえな… 支部長はどうした。
警備の連中もやられたのか」
「支部長は無事だ。既に救助を始めてくれている。
だが、他のギルドの機体はほとんどがやられた様だ」
「わかった。
状況も聞きたいし支部長と合流する。
お前も手伝え。緊急事態だからな」
「勿論だ。すぐ行く」
ベルモートは剣を収めると東ゲートへ移動していく。
レインは抱えていたライラ達のワーカーをそっとアリーナへ降ろす。
機体が地面に降ろされると、ハッチを開けてナナリーが外に飛び出して来た。
「レインさーん!」
ナナリーがフリージアを見上げて手を振る。
フリージアの胸の装甲が開き、レインが顔を出す。
「話したいことは色々あるが、先にドモン達の救助に向かうぞ。
とりあえずこっちの機体に乗ってくれ」
それを聞いてワーカーから顔を出したライラが叫ぶ。
「こっちは大丈夫だ。先におやじ達を助けてやってくれ。
あたしらもすぐ行く!」
レインはその声に頷くと、操縦席に戻りフリージアを東ゲートへ進める。
ナナリーは去っていくフリージアに向けて手を振る。
ライラは動かないワーカーを降り、彼女に近づいた。
その手にはワーカーに積まれていた救急医療用の箱があった。
「はしゃいでる場合じゃねえぞ、皆を助けに行くぞ」
「はい、急ぎましょう」
二人はアリーナを走り、ゲートに向かった。
ドモンとデリーは既に支部長により助け出されていた。
彼らは軽傷であった為、敵が撤退した時に自力で機体から脱出していた。
ワーカーの残骸の傍で休んでいる二人に、ライラとナナリーが駆け寄って来た。
「おやじ! 無事か」
「ライラ、ナナリー… 無事でよかった」
ドモンはほっとした表情で駆け寄って来た二人を見つめる。
隣で胡坐をかきながら座っているデリーも二人に手を振る。
「皆さん、ケガも無さそうでなによりですよ!」
疲れ切って座っていた二人だったが、大きな怪我は無さそうに見えた。
ナナリーとライラはその姿に胸を撫でおろす。
「デリーさん… あの時はありがとうございました」
ナナリーはデリーが命がけで彼女たちを逃がしてくれた事を思い出し、深々と
頭を下げる。
「いいって事ですよ!
人攫いなんてぶっ飛ばしてやればいいんです。
私のタックル、すごくなかったですか! ふふん」
そう言ってデリーは満足げに笑う。
ライラはそんな二人を見ていたが何も言わずに俯く。
いつもと様子の違うライラをドモンは不思議そうに覗き込む。
「どうした? ライラ」
ライラは何も言わず、そのままドモンの首筋に抱き着く。
「…心配させんな。無茶しやがって…」
驚いていたドモンだが、優しい表情になるとライラの頭をそっと撫でた。
「…大丈夫。大丈夫さ」
ライラはしばらくそのまま動かなかった。
ナナリーとデリーはその姿を見て、二人共嬉しそうに笑った。
その後レイン達によって救助活動は進み、イーステンから来た町の救助隊に
よって怪我人達は町の病院へ収容された。
重傷の者もいたが、幸いにも死者や命にかかわる者は居なかった。
ただ、サルベージャーギルド側には大きな損害が出た。
所有するワーカーは貸与していた物も含め6機が破壊され、迎撃に出たギルド
のギガンティアも大破。
搭乗していたレックスも負傷する事態となった。
アモイの乗るベルガモートも決闘で損傷した為に修理を余儀なくされ、イース
テンのサルベージャーギルドの戦力はほぼ壊滅状態にあった。
一方、襲撃してきた者達も壊滅的な被害を受けていた。
襲撃して来たギガンティアは4機、ワーカーも5台に及んだが、逃走した
ギガンティア2機を除いて全て大破した。
ちょっとした部隊壊滅レベルの損害である。
ギルドは襲撃者のギガンティア2機と複数のワーカーの残骸を回収した。
機体を破壊された襲撃者の中には、戦闘のさ中脱出して身をくらました者も
いたが、怪我をした数名は自力で逃げる事も出来ずギルドに捕らえられた。
その中にはギガンティアに乗っていたアルバニーの姿もあった。
彼も数か所を骨折する重傷ではあったが、命に別条はなかった。
その後の取り調べで、彼らは黙秘を貫き素性を明かそうとはしなかったが、
王国の内通者、アデア・ダイレンが襲撃者内に居たというアモイの証言から、
彼らが王国の関係者である事は明白だった。
こうして、決闘と王国によるイーステン襲撃事件は一応幕を閉じる事になった。
だが、軍隊による襲撃と言う事件はナナリー達に大きな波紋を残す。
何も知らず平和な日々を送る、という事はもう許されなかったのだ。




