第一章 旅立ちのイーステン 1-9 襲撃
~前回のあらすじ~
レインとアモイの決闘が行われた。
両者一歩も引かない戦いだったが、辛くもレインは勝利した。
そんな中、決闘が行われたコロシアムに接近する影があった。
レインとアモイの決闘。
その戦いの決着が今まさに着こうという時、決闘を中継する為に敷設された
通信ケーブルに近づく不審な一台のワーカーがあった。
操縦席内に通信が響く。
「決闘は終了。
ギルドナイト側の機体が小破。黒い機体は健在。
プランBで作戦を開始する。
中継の遮断を実行せよ」
「了解」
ワーカーはその手に持った巨大な斧を振り下ろし、通信ケーブルを切断した。
「…隊長、決闘の中継は遮断しました」
ここはコロシアムから少し離れた場所にある古い都市の廃墟。
数台のワーカーが身を隠す様に集まっている。
そしてその周囲にはギガンティアの姿もあった。
隊長であるケアンズがギガンティアの操縦席から部隊に指示を出す。
「よし、これよりコロシアムに突入する。目標は例の少女だ。
サルベージャーのギガンティアは破壊して構わんが、民間人の死傷は出来る
だけ避けろ」
「了解。全機突入を開始せよ」
その掛け声と共に集結していたワーカーがコロシアムへ突撃していく。
それに続きギガンティアもスラスターを吹かし、コロシアムへ向かって高速で
移動を開始する。
「警備にもそろそろ察知されるぞ。
ワーカー隊はコロシアムのゲート前を封鎖。
目標はワーカーに搭乗しているはずだ。
殺すな。生きたまま確保しろ」
コロシアムのゲート前では、ギルドナイトがワーカーで警備を行っていた。
暇そうに警備を行っていたギルドナイトは、いきなり付近に出現した多数の熱源を
確認し、辺りに警報を鳴らす。
「警報! 不審な熱源が複数接近。各自警戒を!
…ギガンティア級の反応あり! 繰り返す、ギガンティア級の反応あり!
民間人は至急イーステン方面へ退避せよ!
繰り返す、み…」
警報を鳴らしていたワーカーに銃弾が撃ち込まれ、下半身が吹き飛ぶ。
移動不能になったワーカーの横を襲撃者のワーカー達が通り過ぎていく。
それを追うように4機のギガンティアが西ゲート前に降り立った。
「ハミルトンとアルバニーはアリーナに侵入して例の黒い機体を足止めしろ。
004と005はここで逃走を監視。
パトナと001から003は私に付いて来い。東ゲート側に回る」
「了解。
ハミルトン、アルバニー両機はコロシアムへ突入します」
二機のギガンティアはスラスターを吹かし、西ゲートからコロシアム内に
突入していく。
その頃、コロシアム内は警報に騒然となっていた。
ワーカーに乗り込み観客席付近で決闘を観ていたライラとナナリーは、
いきなり通信から流れて来た警報に驚く。
「ライラさん、これって…」
「万が一に備えろとは言われてたけどな…
ギガンティアまでいるのか」
ライラは不安そうにあたりを見回すナナリーの横顔を見つめた。
(やっぱり、ナナリーが目的なのか。
でも、どうしてそこまでする必要があるんだ…)
そんな二人の隣でバタバタと動いているワーカーが一台。
「えっと、えっと、私、どうすればいいですか!」
司会をしていたデリーがあたふたしながら声を上げる。
ガーベラに乗っているレインはパネルの情報を確認すると周囲に注意を発信した。
「とにかくすぐここを離れろ。敵は西側から来ている。
東ゲートから脱出しろ。
ライラ、ナナリーを頼む!」
「わかった。旦那も気を付けろよ。
ナナリー、掴まれ。すぐここを離れるぞ」
ライラーのワーカーが全速力で東ゲートへ突入していく。
「待って! 待って下さーい!」
デリーのワーカーも慌ててその後を追う。
その直後、西のゲートから二機のギガンティアが飛び出して来た。
レインは剣を構え、侵入してきたギガンティアを冷静に分析する。
二機とも灰色の機体。
装甲が盛られていて、いかにも偽装している感があった。
そして、手には銃が握られていた。
一台は大型の盾とハンドガン。
もう一台は、盾は無く大型のライフル銃を携えている。
(射撃戦用の装備… 野盗でもギルドナイトでもない。
まさか、王国軍か…)
二機の侵入者はアリーナ中央付近にいるガーベラを確認すると、スラスターを
吹かしながら接近する。
大盾の機体に乗っているアデア・ハミルトンはライフルを構えるアルバニーの
機体に指示を送る。
「居たぞ、黒い機体だ。
こいつを沈黙させてしまえばコロシアム内に敵の戦力はない。
アルバニー、合わせろ」
彼はガーベラを中心に距離を取って移動しながら発砲する。
レインのガーベラは決闘で盾を破壊されている。
よって射撃は躱すしかなかった。
ギガンティアの射撃武器は、弾丸が機体から離れた時点でエナジーの供給が
止まる為、近接武器程の威力は出ない。
上手くやれば弾丸を装甲で弾く事も出来なくはないがリスクもある。
レインは冷静に相手を見ながら弾道を読み、射撃を躱していく。
すると、アルバニーの機体がハミルトンとは反対の方向から距離を詰めて来た。
彼の機体は大型ライフルを構え、ガーベラに標準を合わせていた。
「おらあっ! 食らいやがれ」
アルバニーは楽しそうに叫ぶと引き金を引く。
レインは構えから弾道を予測して回避態勢を取る。
しかし、銃から放たれた弾丸は放射状に広がってガーベラを捉えた。
(散弾!)
二機間の距離が近かった為、広がる弾丸をレインは避けきる事が出来なかった。
彼は咄嗟に左腕を前に出し胴体を庇う。
散らばった細かい弾丸の破片がガーベラの装甲に命中し、爆発を起こす。
(アンバー結晶製の炸裂弾か!)
機体が揺れ、カーベラのモニターには様々な警告が表示される。
爆発は比較的小さく、機体のシステムへダメージは少なかったが、それでも機体を
庇った左腕の装甲はボロボロになり、モニターに幾つもの警告が表示される。
「ははは。コイツは当てるのが楽でいい!」
アルバニーは楽しそうに武器を評価する。
その声にハミルトンは釘を差す。
「その弾頭は高いんだ。無駄撃ちするなよ」
「わかってるって」
レインは着地した二機のギガンティアに挟まれるような形になった。
どちらも銃を構えたままガーベラの動きをけん制する。
(右の機体はハンドガンに巨大な盾…
左の機体の散弾に巻き込まれてもお構いなしの装備ってわけか。
散弾一発では致命傷にはならないが、何度も食らえば…)
レインは先の決闘でかなり疲弊していた。
そして機体には盾は無く、その上二対一で相手は距離が取れる射撃兵装。
彼は不利な状況に追い込まれる事になった。
ハミルトンの機体がハンドガンをガーベラに向けて数発発砲する。
ガーベラは冷静に着弾を予想して躱した。
だが、その動きに合わせるようにアルバニーの機体が再び散弾を発射する。
レインはスラスターを全開にして、急速反転する。
殆どの弾は外れたが、右足に散弾の幾つかが着弾して爆発を起こす。
ワーカーやガーディアンの駆動エネルギーとして使われるアンバー結晶で作られた
弾頭は、通常よりは高い破壊力を持たせる事が出来る。
だが、そもそも近接武器で殴れば事足りるギガンティア同士の戦いでは、それほど
使われる事はない。
単純に無駄に金がかかるからだ。
使うのは資金のある組織、つまり正式な軍隊等であり、高い技量を持つ相手を数で
制したい時などに使われる場合が多かった。
(奴らの目的は俺の足止めか。
なら外には他のギガンティアがいるはず。
このままではナナリー達が…)
レインは機体を着地させると、二機に囲まれた状況をから抜け出そうとスラスター
を吹かして高速移動を始める。
それを見たアルバニーは即座にショットガンの標準をガーベラに合わせる。
「吹き飛べぇー! ごふっ」
アルバニーがガーベラに向かって散弾を放とうとしたその瞬間、何処からともなく
飛んできた円形の物体が彼の機体の脇腹に直撃する。
アルバニーの機体はその衝撃でくの字に曲がって吹き飛ぶ。
飛んできた物体、それはベルガモートのチェーンシールドだった。
機体にすさまじい力が掛かり、操縦席内の衝撃を緩和しきれずアルバニーはシート
から投げ出される。
腰に強烈な一撃を食らったアルバニーの機体はフレームが歪み、そのダメージは
エンジンにまで達していた。
幾つかの部品が破損し、エンジンに深刻なダメージが発生して異常停止する。
エネルギーが絶たれ、モニターに多数の警告が表示された後ブラックアウトする。
機体はそのまま機能を停止し動かなくなった。
「アルバニー! 無事か? 返事をしろ!」
慌ててハミルトンは通信を送ったが、アルバニーからは返事はない。
彼の視界の隅で、アモイのベルガモートが鎖を手にゆっくりと立ち上がった。
「…ったく、人がせっかく気持ちよく余韻に浸っていた所を…」
ベルガモートが立ち上がったのを見て、レインは即座にアモイに通信を送る。
「トリトマ・アモイ、聞こえるか?
襲撃だ。恐らく王国の…」
「わかってるよ。お前はあの女の尻でも追いかけな。
宣誓通り、俺達はもう奴には手を出さねえよ」
「…感謝する」
ガーベラはスラスターを吹かし、東ゲートに突入していく。
それに銃を向けようとしたハミルトンは、ベルガモートがゆっくりと近づいて
来るのに気づく。
ハミルトンは慌てて外部音声に切り替え、アモイへコンタクトを取ろうとした。
「待てアモイ、俺だ。サンディのアデア・ダイレンだ。
慌てるな、俺は味方だ」
「味方?」
「そうだ。特殊任務中なんだ。邪魔をしないでくれ」
「なぜ?」
「なぜって…
お前、あの娘の拘束に協力してくれたじゃないか」
「…馬鹿かお前。
俺が何時、王国の味方になった?」
「何…」
「お前は俺を利用し、俺はお前を利用してただけだろうが。
どうせ、アデア・ダイレンってのも偽名だろ。
ギルドの機体に乗ってねえ今のお前は、俺の敵だ」
アモイの予想外の反応に、ハミルトンは困惑する。
彼は、アデア・ダイレンという名でサルベージャーギルドに潜入し情報収集を
行っていた。
上層部から来ていた「遺跡で少女を発見したら報告せよ」という曖昧な指令。
その内容に合致する情報がアモイからもたらされると、急遽今回の作戦が計画
される事になったのだ。
彼も作戦への参加が命じられ、密偵と言う立場から解放される事になった。
この作戦を最後に本国へ戻れるのだ。
彼はアモイの協力に内心感謝をしていた。
今回の襲撃もアモイは見て見ぬ振りをしてくれるだろうと期待していた。
だが、実際は違った。
確かに彼は正確には王国の味方ではないかもしれない。
だが今までの彼の態度を見れば、ギルドでの立場と言うものをそれほど重視
しているとも思えない。
アモイの心境に何か変化があったのだろうか。
ハミルトンには知る由も無かった。
「さんざん情報を流しておいて、今更何を…」
「今更も何も、だってそうだろう?
俺は、元同僚のギルドナイトに情報を売ってただけだ。
売った相手が何処と通じているかなんて俺の知った事じゃない」
「貴様… そんな言い分が通るとでも!」
「言い訳が出来るようにする為にはな、最低限のラインって物があんのさ。
俺には、王国の騎士の知り合いなんていねえな」
まるでお前の素性は知りませんでしたと言わんばかりのアモイ。
その態度にハミルトンは憤りを覚える。
彼への感謝の気持ちは転じて怒りに変わる。
「そんな子供じみた言い訳を… 小悪党の分際で」
「鏡を見てから言いな。
町の興業を襲撃するお前らは悪党じゃないとでも?」
煽るようなアモイの言葉。
だが図星を差され、ハミルトンは言葉に詰まる。
「わざわざ軍隊連れて来て、何をコソコソやってやがる。
…帝国にチクったら面白そうだな。
条約違反で大問題になるぜ」
「く…」
「どうした。俺の口を塞がないとヤバイんじゃないか?
でも早く戻らねえとあの黒いのが女を確保しちまうぜ」
「…こちらの手札はまだあるんだ。
あんな手負いのサルベージャー如きに負けはせんよ」
「そうか」
ベルガモートは鎖を手元に勢いよく手繰り寄せるとシールドを左手に構える。
そして、足元に突き刺さっている剣を引き抜くとハミルトンへ向ける。
「じゃあ、俺と遊んで行け。
そこで転がってる馬鹿と一緒に支部長の前に突き出してやるよ」
「決闘で無様に負けたくせに… その言葉、後悔するなよ!」
ハミルトンはハンドガンを大盾の裏にしまうと、腰に下げてある剣を抜き放ち
アモイのベルガモートに向かって突進していった。




