第一章 旅立ちのイーステン 1-8 決闘
~前回のあらすじ~
遺跡で保護されたナナリーはギルドナイトのアモイにより拘束され、レインは
それを決闘で取り返そうとする。
アモイにより他の町へ移送されそうになるナナリーだったが、レイン達によって
阻止され、勝手な行動をしたアモイは謹慎処分となった。
そんな中、町の興業の為に決闘は予定通り開催されようとしていた。
遂に決闘の当日を迎えた。
町の酒場や宿では大きな中継用のスクリーンが用意され、決闘の開始を多くの
人が待ちわびていた。
コロシアムではカメラの設置と通信ケーブルの配置が全て完了し、中継の準備
が整っていた。
コロシアムと呼ばれているこの建物には、中央のアリーナの周辺には人が競技を
観戦するための座席も残ってはいたが、戦いに巻き込まれないよう直接または
周囲からの観戦は禁止され、決闘の当事者とサポート要員以外はコロシアムへの
接近が禁止されていた。
コロシアムの中央門前には決闘の関係者が集められていた。
決闘の当事者である、レインとアモイ。
そして決闘の原因を作ったナナリー。
その他、中継設備の管理などを行う決闘運営の為の人員達である。
その中にはギルドのトゥール支部長やレインやナナリーの付き添いで来ている
ドモンとライラの姿もあった。
支部長は一同に決闘の段取りを再度説明する。
「流れは今説明した通り変更はない。後の進行は彼女に従ってくれ」
支部長が手招きすると一人の女性が近づいて来た。
長い髪を後ろで束ね、背が高くラフな格好をしている。
「彼女はカトレア・デリー。
今回の決闘の司会を務めてもらう。
彼女もワーカーに乗ってコロシアム入りする」
紹介されたデリーは一堂にペコリと頭を下げた。
顔を上げると彼女は気さくに皆に向かってかわいく手を振った。
「ハーイ! 皆さんよろしくおねがいします!
今回の進行役を任されました。
普段はサルベージャーの同行取材とかして放送番組を撮っています。
今日の決闘の進行順もバッチリ覚えてきましたので任せて下さい!」
元気に挨拶をする彼女を横目に支部長は話を続ける。
「距離は取る様に言ってあるが、くれぐれも彼女の機体を巻き込まないように
注意してくれよ。
他のワーカーに乗る者もギガンティアの動きには注意してくれ。
ブーストが禁止されているからそこまで広範囲な戦いにはならないと思うが、
巻き込まれると思ったらすぐ逃げるように。
では、皆配置に着いてくれ」
レイン達は東側のゲートへ、アモイとギルド職員は西のゲートへ向かう。
残りは中央のゲートからコロシアムへ入っていく。
コロシアムのアリーナには数台のワーカーが止めらている。
進行役のデリーやワーカーで警備を担当する者は、それぞれの機体に乗り込み
配置場所へ向かう。
決闘の要因となっているナナリーはライラと一緒にワーカーに乗り込み、
アリーナ外の観客席の傍へ移動する。
東ゲート内の広場ではレインが自分のギガンティアに乗り込む。
黒い装甲を纏い、可もなく不可もなくいった標準的な性能を持つ機体。
その名も「ガーベラ」。
隣にはドモンの乗るワーカーが控えていた。
操縦席内でパネルを弄るレインの元にドモンからの通信が入る。
「旦那、通信状況は問題ないか。
あと、音声は外部に聞こえるようにしておいてくれ。
操縦者の声が聞こえた方が盛り上がるからって指示だ」
「了解した。大丈夫だ」
「じゃあ、しっかりな! 怪我はするなよ」
「ああ」
ドモンをゲートに残し、レインはガーベラを決闘を行うアリーナへ進める。
「さあ、皆さん! お待たせしましたっ!」
デリーのカン高い声と共に遂に中継が始まった。
イーステンのいたる所でモニターにコロシアム内の様子が映り、歓声が上がる。
アリーナでは、二機のギガンティアが向かい合っていた。
中継映像に合わせてデリーの声が響く。
「皆さま、見えるでしょうか。
これからギガンティア同士の決闘が開始されます。
事の起こりは一人の少女を巡っての争い!
ギルドに不当に拘束された少女を解放する為の決闘という事ですが、
一説によると恋愛沙汰であるという噂も流れております。
はたまた真実はいかに!」
デリーはテンション高めで話を続ける。
「噂の彼女も当事者としてコロシアムに来ております。
私の左側にいるワーカーの補助席に乗っている方です。
カメラに映ってるかな?
可愛らしい彼女は天使なのかはたまた魔性の女なのか。
彼女を巡って二人の騎士が争います!」
「…間違った情報を付け加えるな、馬鹿が」
操縦席でデリーの話を聞いていたアモイが呆れた顔でぽつりと漏らす。
そんなアモイの心境も知らず、デリーは話を続ける。
「さて、お待ちかねの決闘者の紹介です!
東のゲート側、黒いギガンティア、ガーベラに乗っているのが、若き孤高の
サルベージャー、レイン・アシュランド!
先日も遺跡に出現した大型ガーディアンを難なく仕留めたという腕前です!」
レインのガーベラが画面に映ると観客が歓声を上げる。
「対する西ゲート側、銀色に輝くギガンティアに乗っているのは、25歳という
若さでギガンティアの操縦歴はなんと10年を超えるという、ベテランギルド
ナイト、トリトマ・アモイ!
彼の乗るベルガモートはギルドの所有ではなく、なんと彼の私物です。
銀色に輝くその機体は再生品ではなく、遺跡で回収されたオリジナルの機体
なのです。
長年連れ添った愛機と共に決闘に挑みます!」
アモイのベルガモートが画面に映し出される。
レインのガーベラと違い、美術品の様な美しさを感じる機体。
観客からは羨望の入り混じった声が上がる。
「…再生品?」
ワーカーの中でライラと共に解説を聞いていたナナリーが不思議そうな顔をする。
「ライラさん、再生品って何ですか?」
話を振られたライラはナナリーの方をちらりと見ると答えた。
「再生品ってのは、大破したギガンティアのエンジンを使って新しく作られた
ギガンティアの事さ。
とは言っても一から新しく作るのは珍しくて、殆のパーツはジャンク品や
ガーティアンの部品やらで組み上げるらしいけどな。
レインの乗ってるガーベラも多分そのはずだ。
個人で所有しているのは大抵がそうだな」
「ああ、なるほど…
レインさんの機体が何となく工業製品っぽい理由が分かった気がします。
それに比べるとアモイさんのは、なんというか宝物みたいな感じがしますね」
「あいつのベルガモートって奴は、ほとんど改修もなく昔のままらしいぜ。
昔と変わらないまま現存しているギガンティア。
つまり、オリジナルってわけだ」
「そっか。戦ったらいつか壊れちゃいますもんね。
現役の騎士様なのに、よく壊れず残ってましたね」
「それはあいつが強いのか、それともまともに戦ってないのかどっちかだな」
楽しそうな二人を他所に、デリーの解説は続いていた。
「ちなみに、先ほど発売が終わりました投票券の購入比率は、5対1。
アシュランド氏が大幅にリード。
新進気鋭の黒き騎士に人気が集まっています」
投票券の話を聞いてナナリーは難しい顔をする。
「投票券…ってまさか」
「そうだよ。どっちが勝つかの賭け事をする奴だ。
あたしも買ったよ。旦那が勝つ方に10枚な。
倍率超低いけどな」
「まじめな決闘なのに…」
「そう言うなって。
こういうのがあるから町もギルドも儲かるんだよ。
利益になるからこそ、真面目に対応してもくれるのさ」
「複雑です…」
むくれるナナリーをライラは笑い飛ばす。
その間にもデリーの解説は進行する。
彼女は視聴者向けに決闘のルールの説明を始めた。
「さて、簡単にですが決闘のルールの説明をします。
一つ目、射撃、または爆発を伴う武装の使用不可。
二つ目、ブースト機能の使用不可。
これらがあると周囲への被害が甚大になるので禁止しています。
決闘中はシステムをOFFにして戦ってもらいます。
また、アリーナ部分から外に一分以上出ない事が条件になります。
今挙げた内容に違反すると敗北扱いになります」
「そして、決闘の勝利条件は、
相手を降参させる、
機体の両腕を破壊する、
機体が倒れた状態でとどめを刺せる状態にする、
のいずれかの三点です。
とどめを刺せるというのは、相手が倒れる、または動けない状態で胴体へ
武器を3秒以上突きつければOKとなります。
簡単に言えば、動いたら操縦者ごと胴体ぶっ刺すぞ! という状態にすれ
ばいいってことですね」
「ですが、故意であってもなくても相手を殺害した場合は負けになります。
その場合は通常の殺人と同じ扱いを受けます。
操縦者の殺害は厳禁、厳禁です!
決着の時までは胴への攻撃は控えた方が良いでしょう。
あくまで決闘は恨みつらみを込めず、正々堂々行う事が推奨されています」
「以上が大まかな決闘のルールとなります。
それでは決闘の見届け人である、サルベージャーギルドのイーステン支部長、
リード・トゥール氏に宣誓を行って頂きます」
コロシアムの観客席部分に仮設で作られた放送席から支部長の声がコロシアム
と中継に響き渡る。
「それでは決闘の宣誓を行う。
レイン・アシュランドが勝利した場合、対象の少女ナナリーへのこれまでに
発生した嫌疑の一切をギルドは放棄する事。
トリトマ・アモイが勝利した場合、ギルドが対象の少女ナナリーに対して
発生している嫌疑について、ギルド関係者以外が以後口出しをしない事。
以上、異議はないか」
「異議なし」
「異議なし」
二機のギガンティアからレインとアモイの言葉が響く。
支部長はその声を確認すると言葉を続ける。
「この決闘を条文を守り行い、決着後に異議申し立てを行わない事を誓うか」
「誓う」
「誓おう」
淡々と宣誓がなされた。
支部長はその言葉に頷くと叫ぶ。
「決闘の宣誓はなされた。
それではこれより条例に基づき、決闘を開始する。
双方構え!」
ガーベラとベルガモート、双方が抜刀し、構えを取った。
その様子をモニター越しに見ていた観客から再び歓声が上がる。
「始めっ!」
支部長の掛け声とともに決闘が開始された。
直後、レインのガーベラがものすごい勢いで走り出し、一瞬で間を詰める。
そして目にも止まらぬ速度で右手の剣を振り下ろした。
剣は打ち下ろされる際に光り輝き、三日月の様な閃光を描いた。
本当に一瞬だった。
まさに目にもとまらぬ一撃という表現が正しかった。
歓声に沸いていた観客の多くが言葉を失う。
特にギガンティアの戦いを初めて観た者にとっては衝撃でしかなかった。
あれほど巨大な物体が生き物すら超える速度で動く。
古代兵器の恐ろしさを、モニターの前に居た多くの人達が目の当たりにした。
目の前で起きた一瞬の出来事に、解説をするはずだったデリーでさえ反応が
遅れた。
「え… あっ、 アシュランドのガーベラが目にもとまらぬ一撃をっ!
これは…」
勝負が決まったように見えた鋭い一撃。
だが、アモイのベルガモートは左腕の盾で今の一撃を受け止めていた。
ガーベラの剣はエナジーが込められて強化されていた。
だが、ベルガモードの円形の盾も同じように強化され、難なくそれを受け
止めていたのだ。
(こいつ…)
レインは渾身の一撃をあっさりと止められた事に驚く。
「簡単に…やれると思ったかよ!」
アモイが叫ぶと同時にベルガモートが盾を押し返し、ガーベラの剣を弾く。
間髪入れずにベルガモートの剣が地面をえぐる様に振り上げられる。
ガーベラはそれを胴体を逸らして寸でで交わすと、そのまま一回転して
横薙ぎを繰り出す。
ベルガモートは素早いステップで後退し、その剣撃を躱す。
ガーベラは態勢を整えると、盾を構えジリジリと間合いを詰める。
ベルガモートは構わず駆け出し、そのまま自分の盾を相手の盾にぶつける。
金属同士がぶつかる物凄い音がコロシアム内に響き渡る。
双方一歩も引かずに力の押し合いが始まる。
つばぜり合いではなく盾による押し合い。
機体の出力勝負になった。
操縦席にいるレインは激しい押し合いの中、呟くように言った。
「お前がこれ程やる気になっていたとは。意外だった」
機体の外にレインの声が響く。
それを聞いたアモイはニヤリと笑う。
「言っただろう…
この商売、嘗められたらお終いなんだよ!」
アモイが叫ぶと同時にベルガモートの出力が上がる。
盾の押し合いはベルガモートが押していた。
レインはガーベラの盾を構える左腕の力を少し抜く。
盾の角度を変え、ベルガモートの押し込みを受け流した。
ベルガモートの体が前に押し出される。
ガーベラは相手の体勢が崩れた瞬間を狙って突きを繰り出す。
だが、ベルガモードは大きくは態勢を崩さずその動きに対応する。
ガーベラの突きを下からの切り上げて弾き、切り上げた剣をそのまま
ガーベラに向けて切り降ろす。
(読まれた!?)
レインは慌ててガーベラの盾を前に出す。
ベルガモードの振り下ろしをなんとか防ぎ、距離を取る。
剣撃は何とか防いだものの、盾には真っすぐえぐられた跡が付いた。
二機の激しい攻防に司会のデリーが興奮気味に叫ぶ。
「開始直後から、物凄い打ち合いになっています!
二機ともに見事な剣捌き!
わたくしも興奮が隠せません!
これはそう、まるで由緒正しい騎士団の剣戟を見ているようです!」
二機のギガンティアは一定の距離をとってにらみ合った。
ガーベラは突きの構えを取ると、再び突撃する。
一撃に力を込めた攻撃ではなく、けん制するように連続で突きを繰り出す。
対するベルガモートはそれを難なく盾で受け流す。
隙を見て反撃を繰り出すが、それもガーベラの盾に阻まれる。
一転して手数の応酬となったが、一進一退でどちらにとっても決定打には
ならなかった。
「双方今度は手数の応酬になっています!
戦いはまさに一進一退。互角の勝負となっています。
前評判は余り良くなかったアモイ氏ですが、さすがはギルドナイト。
その技量は本物と言わざるを得ない動き!
対するアシュランド氏も全く引けをとっていません。
これは長期戦もありうるか?」
二人は再び距離を取る。
激しい打ち合いもほぼ互角に終わり、技量は拮抗していると言えた。
それはレインにとってもアモイにとっても予想外ではあった。
二人共、自分が本気でかかれば相手をねじ伏せるのにそう時間はかからない
と思っていた。
故に彼らは最初から全力でもあったのだ。
ギガンティアは人の気力を変換したリヴァース・エナジーというもので
動いている。
それを全身に纏う事で機体を動作させると同時に、機体に使われている
特殊な金属が反応して武器をもはじき返す硬度を持つようになる。
それを打ち破る為には、武器へさらにエナジーを込める必要がある。
ギガンティアの熟練操縦者は、機体に流れるエナジーを自由に操作し、
武器や盾に多くのエナジーを集める事で、機体の攻撃力や防御力を上げ
戦いを有利に進める事が出来るのだ。
最初にレインが行ったのがそれだ。
彼は剣に全力を込め、一撃で勝負を決めるつもりだった。
だが、アモイはそれに気づき、一瞬で反応した。
盾にエナジーを込めることで渾身の一撃を防いでいた。
その反応がなければ、盾ごと腕を切り裂かれ、勝負の行方は決まっていた
かもしれない。
そんな一瞬の気の抜けない全力の戦いが続いていた。
初手の様な全力集中は無かったものの、常に攻撃か守りか気力の配分と
操作にも気を遣う一進一退の攻防が続く。
それはいわば、全速力で走る持久走のような状態であった。
二人ともに一撃ごとに気力をすり減らす、そんな戦いだった。
操縦席でアモイはガーベラの動きを見極めながら相手を分析する。
(こいつ… サルベージャーなのに剣の動きが細かすぎる。
ガードが堅い…
どこかで剣術を習った事があるのか)
対するレインもアモイの動きを見極めようと必死になっていた。
(綺麗な剣捌きだ。
ギルドナイトも剣の指南は受けると言う話だが…
師が良いのか、天性の物なのか… 厄介だ)
互いに決定打を欠きながらも剣戟は続いていた。
そんな二人をコロシアムの観客席で見ている男がいた。
ギルド支部長のトゥールである。
「稀に見る名勝負じゃないか。
最後まで見ていたいが、備えも必要だ。仕方あるまい…
頑張り給え、二人共」
トゥールは名残惜しそうに階段を下り、何処かへ消えていく。
一方、イーステンの町で中継を見ている観客達は大いに盛り上がっていた。
決闘の前、サルベージャーの間ではアモイの評判は正直良くはなかった。
普段のつまらなそうに仕事をしている彼を見た人間からすると、あいつが決闘
などした所であっという間に勝負は着くだろう、そういう意見が大半だった。
それが一転、始まってみればその戦う姿自体をけなす者などいなかった。
それは立派な騎士そのものだったからだ。
そしてその戦いを見ていた者達は、眼前で繰り広げられる攻防に皆釘付けと
なり、エールを送る。
改めてギガンティアの凄さを思い知る者。
見た事もない剣戟の応酬に見入ってしまう者。
投票券を握りしめて叫ぶ者。
意地のぶつかり合いに賛辞を送るもの。
最高の酒の肴だとグラスを掲げて笑うもの。
本人達の必死さを置き去りにしながらも、提供された娯楽としては最高の
勝負となっていた。
戦いは続いていた。
ベルガモートの強烈な横薙ぎがガーベラの盾の上部を斬り飛ばす。
だが、ガーベラもその剣撃に合わせて低い姿勢から突きを繰り出す。
素早い反撃にアモイはそれを躱しきれなかった。
ガーベラの剣がベルガモートの左側の腰アーマーを貫き、装甲の一部が
砕けて弾け飛ぶ。
戦いの中で始めて見せた剣撃の直撃にデリーも興奮する。
「おおっと、ベルガモートの装甲が一部弾け飛んだっ!
一方、ガーベラの盾も上部切り裂かれ損壊!
初めて機体に損傷が出ました。
さすがに二人共疲れが見えてきたか?」
ガーベラが後ろに飛びのき、半壊した盾を構えて態勢を整える。
一方、アモイはパネルを確認し、ベルガモートのダメージをチェックする。
駆動系に異常は見られず安堵の表情を浮かべる。
モニター越しには剣を構えるガーベラが見える。
アモイはその姿を見ると不思議と笑みが浮かんだ。
(何だ… おれは楽しんでいるのか…?
強敵と戦っているからか。
それとも命が掛かってない試合だからか。
わからねえ。だが…)
アモイは不敵に笑う。
(確かに退屈は吹き飛んだよ。支部長殿!)
アモイは肩で深く息を吸うとモニターに映るガーベラを見つめる。
そしてゆっくりと声を発した。
「…レイン・アシュランド。
正直驚いたぜ。ここまで剣の当たらねえ相手は初めてだ」
その言葉に反応する様にガーベラは剣を構え直すと、機体から声が響く。
「それはこちらも同じだ。
正直、見くびっていた。
貴様は強い。無礼は詫びよう」
「へっ、貴様に認められても嬉しくはないがな。
だが、行儀の良い戦いはそろそろ終わりだ。
ここからは我流で行かせてもらうぜ」
アモイはそう言い放つとゆっくりとベルガモートを操作する。
盾を前に構え、剣を構える右拳をゆっくりと盾に近づけていく。
それを見たレインは見慣れぬ構えに様子を伺っていた。
突然、アモイのベルガモートが右手の剣をポロリと落とす。
武器を落とすという意外な相手の動きに驚き、レインは落ちる剣を目で
追ってしまった。
その瞬間、ベルガモートは盾の裏側に右手をつっこみ、何かを引き出した。
引っ張り出された物は鎖だった。
そしてベルガモートが構えていたはずの円形の盾が回転しながらガーベラに
向かって迫って来たのだ。
意表をつかれたレインは対応が一瞬遅れてしまう。
何とか反応し、ガーベラの盾を引き上げる。
ベルガモートの放った盾がガーベラの盾に直撃する。
攻撃は何とか逸らせたものの、衝撃で盾は粉々に砕け散ってしまった。
(しまった!)
レインの額に汗が走る。
「レインさん!」
ガーベラの盾が砕け散る様子をワーカーの中から見ていたナナリーが
悲鳴のような声を上げる。
「大丈夫。盾がやられただけだ」
ライラがナナリーをなだめるように声を掛ける。
「しかし、何だあれ。 盾を武器にしてんのか…」
盾を破壊されたレインは慌てて距離を取る。
アモイのベルガモートは両手で鎖を掴み引き寄せる。
鎖につながれた盾はベルガモートの手元に戻っていく。
その盾は、まるで長い鎖でつながれたハンマーの様な武器へと変化した。
再びベルガモートはガーベラに向けて丸盾を叩きつける。
ガーベラは叩きつけられた盾を飛び退いて交わす。
戦いの様相が変わり、モニターの前では感嘆と歓声が交錯する。
司会のデリーも様相が変わった戦いに声を上げる。
「なんと、ベルガモートが武器を変え、ガーベラの盾を粉砕!
これはなんでしょう… チェーン付きシールドとでもいうのでしょうか。
鎖に付けた盾を相手に叩きつけています。
長いリーチを使ってベルガモートがガーベラが追い詰めています!」
幾度となく迫りくるシールド。
レインは攻撃を避けながら冷静に分析をする。
(慌てるな。
相手のリーチは長く、一撃も重くなった。
だが、攻撃速度は剣よりは確実に落ちている。それに…)
レインは冷静に攻撃を躱していく。
優勢に事を進めていたアモイだが、回避に専念して近づいてこないガーベラに
対し違和感を感じた。
(こいつ、この武器の欠点に気づいたのか。
戦い慣れていやがる…)
ガーベラを追い詰めながらもアモイの額に汗が滴る。
この武器の欠点はアモイも把握している。
このチェーンシールドはいわゆる隠し玉として使うものだ。
剣と盾というオーソドックなスタイルからいきなりリーチを伸ばして相手を
強襲するという戦法を取れる。
事実、不意を突くことでガーベラの盾を破壊する事は出来た。
だが、この武器は燃費が悪いという欠点がある。
遠くに攻撃できる分、鎖部分も含めた全長が長い。
込めなければならないエナジーも大きいのだ。
エナジーをケチれば鎖を切断され、盾も同時に失う事にもなりかねない。
つまり、全力で運用しないと危うい武器なのだ。
短時間で相手を制せなければ、自分の気力を大きくすり減らすことになる。
アモイはガーベラに中距離用の武器がないと判断してチェーンシールドで
攻勢を強めていた。
だが、相手の動きは回避に専念している様にも見えるが、あまりにも攻撃に
消極的過ぎるようにも見える。
アモイは思考を巡らせる。
奴は狡猾だ。
他人に興味がない振りをして、その実相手をよく観察している。
奴の動きはその場しのぎではない。
この武器の燃費の悪さも既に見抜いている可能性が高い。
アモイはそう感じた。
手出しが出来ないのではなく、この攻撃を躱しきる事が自信があり、こちらが
疲れるのを待っているのかもしれない。
(ならば…)
アモイは続けてチェーンシールドをガーベラに叩きつける。
足さばきを使い、派手に移動を始め角度を変えながら攻撃を続ける。
アリーナの土床はボロボロになっていき、土煙が上がる。
対するレインはそれらを冷静に躱していく。
明らかに一定の距離を保ち近づいてこない。
こちらの疲労と隙を伺っているのは間違いない、そうアモイは判断した。
「うぉおおりゃあっ!」
アモイが雄たけびを上げる。
それと共にベルガモートが左腕でチェーンシルードを頭上で振り回す。
遠心力の付いた盾をそのままガーベラに向かって振り下ろした。
質量が乗った一撃が地面を抉り、土ぼこりが舞い上がる。
ベルガーモートは勢いで片膝を付く。
だが、アモイはその攻撃が躱された事を感じ取るとすぐさまチェーンを
引っ張り戻す。
その時だった。
引きずられてアモイの元へ戻るシールドとほぼ同じ速度でガーベラが突撃
して来た。
渾身の一撃の後の隙。
レインはそれに合わせて攻勢をかけて来たのだ。
左腕を前に掲げ、右手の剣を引き、全速で片膝を付くベルガモードに迫る。
(かかったな!)
アモイが満面の笑みで笑う。
ベルガモードは地面に落ちていた剣を掴む。
片膝を付いたのは全力の一撃の反動でははなかったのだ。
彼は攻撃時に位置を変えることで地面に落としたベルガモートの剣への
注意を逸らし、それを拾うタイミングを見計らっていたのだ。
隙に見える動き。
それは計算されていた上で取った姿勢だったのだ。
先ほど上がった土煙の中を突撃してくるガーベラからは、恐らくこの剣は
見えていない。
(貰った!)
ベルガモートが剣を掴む。
そして地面を蹴ると、土煙の中を突撃してくるガーベラに突きを繰り出す。
その瞬間だった。
突如土煙の中から、ガーベラではない何かが飛び出して来た。
剣だった。
まるで弓矢の様に正確に投擲された剣。
カウンターを取るつもりでガーベラに突撃する体勢を取っていたベルガモート
はそれを避ける事が出来なかった。
飛んできた剣がベルガモートの顔面を貫く。
カメラアイを破壊し、アモイの操縦席の正面のモニターがブラックアウトする。
「な、なにっ!」
アモイが叫ぶ。
補助カメラでの補正機能が働き、アモイのモニターが低画像で復活する。
そこに映ったのは蹴りの姿勢を見せるガーベラの姿だった。
ガーベラは突き出された剣を躱しつつベルガモートの右腕を蹴り上げる。
衝撃で飛ばされた剣が回転しながら宙を舞う。
そのままガーベラは突っ込んで来るベルガモートに合わせ、空中で素早く
体を捩じり、胴体を素早く蹴り飛ばす。
思わぬ連続攻撃にベルガモートは地面に叩きつけられる。
起き上がる間もなく、距離を詰めたガーベラの左足がベルガモートの
右肩を踏みつけ、動きを抑える。
ガーベラは素早くベルガモートの頭部に突き刺さっている剣を引き抜き、
胴体へ突きつけた。
ベルガモートの不鮮明なカメラに映し出される剣先。
ガーベラの剣はベルガモートの操縦席を捉えていた。
「勝負あったな。俺の勝ちだ。トリトマ・アモイ」
ガーベラからレインの声が響く。
アモイは呆然とモニターを眺めていたが、ふう、と息を付くと目を閉じた。
「…最後の投擲、お前には俺の動きが読めていたのか」
「あれは突きが届かないと判断して咄嗟にやっただけだ。
躱されていたら俺は丸腰だ。詰んでいたな」
「肝が据わっていやがる… 負けたよ。完敗だ」
アモイはそうポツリと言うと、ぐったりして操縦席のシートへ倒れこむ。
心地よい疲労が彼を包む。
中継で決着の瞬間をを見ていた観客から大きな歓声が上がる。
司会のデリーが興奮気味に決闘の決着を宣言する。
「決着っ!
ガーベラの剣が遂にベルガモートを捉えました!
決闘は… アシュランド氏の勝利です!
最後は怒涛の展開でした。 そう…」
その時、イーステンの町の中継がブツっと途切れる。
モニターがいきなり真っ暗になり、観客がざわつく。
「…隊長、中継は遮断しました」
「よし、これよりコロシアムに突入しろ。最優先は例の少女だ。
サルベージャーのギガンティアは破壊して構わんが、民間人の
死傷は出来るだけ避けろ」
「了解。突入を開始します」
コロシアムに複数の機影が迫る。
その中にはギガンティアの姿もあった。
新たな戦いが彼らに迫りつつあった。




