第一章 旅立ちのイーステン 1-7 ギルドナイトの憂鬱
~前回のあらすじ~
遺跡で救助され、レイン達に保護されていたナナリー。
だがギルドナイトのアモイにより彼女は拘束されてしまう。
彼女を解放する為、レインはアモイに決闘を申し込むが、アモイは
その前に別の町へ彼女を移送しようとする。
だがそれはレイン達に阻止され、勝手に移送しようとしたアモイは
支部長より謹慎を受ける事になった。
レイン達がナナリーを奪還してから数日。
ここイーステンの町では決闘の話題で持ちきりだった。
町からは正式に決闘の開催が告知され、それは周囲の都市にも通知された。
開催は二週間後となり、開催場所となるコロシアム跡は整備が行われていた。
決闘では射撃武器の使用が不可となっているが、激しい戦いになれば周囲の観客が
巻き添えになる事が考えられるため、決闘の観戦は中継のみとされた。
その為、コロシアムとイーステンの町までの通信ケーブルの敷設作業が急ピッチ
で進められていた。
滅多にない催し物である為、娯楽に飢える町の人々は開催を楽しみに待っていた。
酒場や娯楽施設も町の行政府と契約を結び、中継を流す準備を進めていた。
町の中は、開催に便乗して商売を始める者や告知を聞いて外部から訪れた見物客
でいつもより人で賑わっていた。
いつもは客の少ない宿も見物を兼ねて訪れた人が宿泊し、町の人口が一時的に
増えつつあった。
そんな中、町の外れにあるドモンの事務所では別の理由で大騒ぎをしていた。
ナナリーが保護された遺跡への再突入が行われたからだ。
ドモン達は大掛かりな再調査ではなく、あくまでレインが倒したガーディアンの
回収を目的として遺跡調査の再申請をした。
それはすぐさま認められ、今日その回収作業が行われたのだった。
懸念されていたガーディアンの再出没もなく、深入りせず回収作業のみ行った為、
作業は何事もなく短時間で完了した。
結果、彼らは巨大サイズのガーデイアンの残骸を回収する事が出来たのだ。
レインがコントロールユニットを集中して攻撃して停止させた為、機体の損傷が
少なく回収物としては一級品であった。
「良し、上々だ。久々の大物だな」
ドモンは倉庫に回収されたガーディアンを見上げてご満悦だった。
傍にいるエレバンも忙しそうにガーティアンの細部を双眼鏡で覗きながらチェック
を行っていた。
「コントロールユニット以外はほとんど無傷ですね。
これならいい部品が取れそうですよ」
「さすがは旦那だな。いい仕事してくれるぜ。
新調した盾の代金はサービスしてやろうかな」
お宝を物色して盛り上がっている二人にギガンティアから降りて来たレインが
近づいて来た。
「お宝はどうだ。使えそうか」
「ばっちりよ! 分け前は期待してくれ。
だが、大物すぎて解体して金に換えるには少し時間がかかりそうだな」
上機嫌で笑いながら答えるドモンは、ふと入り口にライラの姿を見つける。
その後ろからひょっこりとナナリーが顔を出す。
「レインさーん!」
ナナリーはレインを見つけると傍へ駆け寄ってきた。
「お仕事お疲れ様です! おじ様達も!」
ナナリーは皆を見てにっこりと笑う。
遅れてライラが駆け寄ってくる。
「ったく、こいつ出迎えするって聞かなくってさ。
倉庫への搬入が終るまで待てって言ったら、終わった途端これさ」
「旦那、愛されてるねぇ」
「そりゃあ、二度も助けてくれた騎士殿ですからね」
ドモンとエレバンが茶化す様に笑う。
レインは反応に困り、複雑な表情を浮かべる。
それを見て、ライラがナナリーに絡み始める。
「なんだよ~ あたしだってあの晩助けに行っただろ」
ライラはふざけてナナリーに抱きつく。
ナナリーは笑いながらライラに抱き着き返す。
「ライラさんも大好き!」
ナナリーの言葉にライラは嬉しそうに彼女の頭を撫でる。
「ふふ、見たか旦那! ナナリーは貰ったぜ!」
「…俺は何と返せばいいんだ…」
レインは困惑した表情を浮かべる。
ドモンはその姿を微笑ましく眺める。
「仲が良い様で結構、結構。
…で旦那、話は変わるんだけどな。
帝国へ出発するのはいつ頃にする?
コイツを解体して換金するには少し時間が掛かる。
旦那の出番はしばらくないが、それが終わるまで待つか?」
ドモンに話を振られ、レインは少し考えた後に答える。
「決闘が終わったら出発しようと考えている。
例の事件を考えると、早めに出発した方が良いだろうな」
「そうか…」
少し寂しそうに答えるドモン。
二人のやり取りを聞いていたナナリーはこれから先の事を思い出したのか
段々と笑顔が消えていった。
「そうか、皆とはお別れしなくちゃいけないんでした…」
しょんぼりとしたナナリーの頭をライラが再び優しく撫でる。
「ほら、ナナリーさえ良ければここに居てもいいんだぜ。
急いで行かなくてもいいじゃねえか」
「そうだな。ゆっくり考えてからでもいいんじゃないか」
ライラの言葉に合わせて、ドモンもナナリーを引き留める。
ナナリーは二人の顔を見比べると、下を向いて呟いた。
「…すぐ、行きたいです」
「そうか…」
ナナリーの返答に二人共少し残念そうな表情をする。
ナナリーは二人を見ると申し訳なさそうに言った。
「…だって、早く行かないと離れられなくなりそうだから…」
その言葉を聞いたライラは嬉しそうにナナリーに抱き着くと、彼女の髪を
乱暴にくしゃくしゃと撫で回した。
「こいつ、かわいい事言いやがって!」
ナナリーは髪をもみくちゃにされながらもほほ笑む。
二人の仲良さそうな姿を見てドモンも笑顔になる。
「そうか、そうだな。
確かめなきゃいけない事はさっさと済ませた方がいいかもしれんな。
記憶が戻って、それでもまた会いたいなら戻って来ればいいさ」
「はい!」
レインはじゃれ合う二人の姿を眺めていた。
ドモンはそんなレインの横顔を眺める。
いつもと変わらない不愛想な表情だったが、その眼は少し優しく見えた。
ドモンはライラに向かって声を掛ける。
「ライラ、事務所に戻って部品のリストを作る準備をしておいてくれ。
ナナリーも手伝ってやってくれ」
「あいよ。行くぞ、ナナリー」
「はい!」
ナナリはくしゃくしゃになった髪を急いで整えると、ドモンにペコリと
お辞儀をした。
そしてレインに向かって手を振りながらライラを追いかけて行く。
少し離れて二人のやり取りを見ていたエレバンも優しそうな目で二人を
見送っていた。
「お嬢はナナリー嬢が来てから楽しそうですね」
「そうだな。サルベージャーなんて男所帯だしな。
妹が出来たみたいで嬉しいんだろう」
「そうですね…
ではおやっさん、あっしは向こうで解体の手順を話し合ってきます」
「おう、頼む」
そう言うとエレバンはガーディアンを見上げている従業員達へ集合を掛ける。
入り口にはレインとドモンが残された。
ドモンはレインの隣に立つと呟くように言った。
「…急いで行かなくてもいいんじゃないか」
レインは自分ではなく、ガーディアンの方を見て話すドモンの心情を
なんとなく感じ取った。
「ナナリーではなく、ライラの方を気にかけているんだな」
「…それもある。
だが、知らなくても良い事なら、知らないままにしておいた方が良いかも
しれないだろう」
「そうだな。
だが、本人が知りたいと望んでいるからな。それに…」
「サンディの連中か?」
「ああ」
「どうも王国と通じている奴がいるらしいな。
奴らが何か知っているなら、手を出してくる可能性もある…か」
ドモンは真面目な顔をしてレインを見る。
「嬢ちゃん、結構訳ありかもしれねえぞ。
それでも首を突っ込むか」
「契約しているからな」
「拘るねえ」
「ともかく、全ては決闘が終わってからになるがな」
「決闘か…
しかし、嬢ちゃんはこちらに返って来てるし、もう決闘する理由も
無いんだけどな。
旦那のギガンティアを上乗せる件も取り消されたしな」
「ギルドと町の行政府は興行にしたがっていたからな。
決闘自体は今更取り止めにしたくはないんだろう。
それに、元は衆目を集めるために俺の方から言い出した事だからな。
こちらから取り消しにしてくれとはさすがに言えなくてな」
「…で、旦那としてはどうなんだ。勝てそうか」
「負けるつもりはないが、
それよりも相手側のやる気がなさそうだがな」
「あ~ そうかもな。
引き渡しも妨害されて、嬢ちゃんはもう拘束解かれちまってるし。
アモイの旦那にとっても戦う意味はないのか」
「だが、奴が負ければギルドナイトの面子が潰れる。
それを保つために戦うかもしれんな」
「あいつが組織の為に動くかねえ…」
一方その頃、イーステンのギルドナイト支部では…
決闘の当事者の一人である、トリトマ・アモイ。
彼は独断で事件の容疑者を外部に引き渡そうとした件で、謹慎を言い
渡されていた。
ギガンティアに乗る事を禁止され、監視の為と称してギルド支部に軟禁
されている状態であった。
アモイとしては仕事に情熱を燃やしているわけではない。
暇なら暇で良いと、あてがわれた部屋の中でダラダラと過ごしていた。
部下が差し入れてくれた本をつまらなそうに読んでいると、部屋の扉が
ノックされた。
「空いてますよ」
アモイは気の抜けた返事を返す。
扉が開き、入って来たのはギルド支部長のリード・トゥールだった。
上司が訪ねて来たとあってはさすがにこのままでは不味いと思ったのか、
アモイは本を閉じると姿勢を正して椅子に座り直した。
「失礼。生まれが悪いもんでね」
「構わんよ」
気に留める様子もなく、支部長はアモイの向かいの椅子に座る。
「暇そうだな」
「いい骨休めになりますよ。何か御用で?」
アモイは皮肉を込めて答える。
支部長はその言葉を特に気にする様子も無く話を続けた。
「様子を見に来た。決闘をしないと騒がれても困るのでね」
「今更逃げませんよ。
しかし、何の意味もない決闘をさせられるこっちの身にもなってもらいたい
もんですよ」
「意味はあるさ。
ギガンティア同士のぶつかり合い。それは大した興業になるじゃないか。
町長とも約束しているのでね。今更取り止めには出来んのだよ」
ニヤリと笑う支部長を見てアモイは呆れた顔をする。
「…呆れ果てましたよ。結局は金ですか」
「そう言うな。
人々は娯楽を求めているのだ。
この南の大陸、サウスガーデンもやっと人々が娯楽に興じられる様に
なったという事だよ」
「…娯楽ですか」
「そうだ。重要な事だよ」
「見世物が、ですか?」
「そうだ」
見世物としての興業が重要だと支部長は言い切った。
アモイは彼はふざけている様には見えず、意外に思った。
アモイの気持ちを察したのか、支部長は話を続ける。
「以前のサウスガーデンは酷かった。
大災害の直後は、生き物が死に絶えたと言われる程に土地は荒れ果てたと聞く。
やがて北から追いやられた人々が新天地を求め住みつき始めたが、一昔前まで
は奪い奪われる野獣の国の様な有様だった。
それでも少しずつ都市が形成され、自治が整備され、都市間が協定を結ぶ事で
連合国家の様な今の形になったのだ。
近年になって、やっと人々が安心して暮らせるようになって来たのだ」
「知ってますよ。
俺だってギルドナイトになって、色々見てきましたよ。
確かに最近はだいぶマシにはなりましたね」
「そうだ。その一翼をギルドナイトも担ってきたのだよ。
都市間を越えた組織として、治安維持、災害対応、その他諸々…」
支部長は昔を思い出す様に目を閉じる。
その後、視線をアモイに向けると言った。
「そして、君もその一員だ」
真面目な顔をして見つめる支部長に対し、アモイは自虐的に笑う。
「…お説教ですか。私はそんな殊勝に働いてはいませんよ」
「そうかな。
お前に自覚はないかもしれないが、ギルドナイトとして守って来た物、
解決した事は沢山あるだろう」
アモイはその言葉を聞くと、視線を落として黙り込んだ。
確かにギルドに所属した最初はそうだったかもしれない。
あの頃は治安も酷く、自分の境遇を忘れる為にもがむしゃらに働いていた
記憶もある。
だが、だからこそ思い出したくもない。
どうしても気の抜けた今の自分の姿と比べてしまうからだ。
アモイは浮かんで来る昔の記憶を振り払うように軽く頭を振った。
「…何言ってるんですか。
俺は小金の為に情報を売りさばいていたんですよ。
そんな奴が、ギルドナイトだと胸を張れと?」
自虐的な言葉を発するアモイの目を支部長はまっすぐ見つめると言った。
「つまらない事に手を貸すのは、お前が退屈しているからだ。
今回の決闘は、その退屈を吹き飛ばすいい機会になるだろう」
「私が今更真面目に戦うとでも?」
「戦えば思い出すよ。
ギガンティアというものの恐ろしさを。
何故、我々ギルドナイトが必要なのか。
ギガンティアを持つ者がなぜ正しくある必要があるのか。
それを必ず思い出す」
「…」
「だから全力で戦え。ギルドナイトとして。
立派に戦ったら、後で美味い酒を奢ってやる」
「…勝ったら、とは言わないんですね」
「勝敗そのものではない。今のお前には戦う事自体に意味がある。
調べたが、アシュランドはなかなかの手練れらしいぞ」
「…」
「だが、私はちゃんとお前に賭けてやるぞ。
今は掛け率は5対1で殆どはアシュランドに入れてるらしいが。
お前が勝ったら町は騒然となるだろうな。
面白いと思わないか」
真面目な話として聞いていたアモイは、いきなり賭けの話を持ち出され
困惑する。
「真面目な話は何処へ行ったんですか。台無しじゃないですか」
彼は、支部長の言葉が本気なのか冗談なのかわからなくなって来ていた。
仕事上最低限の付き合いしかしないアモイにとって、支部長とこんなに
話す機会を持った事も無かった。
支部長の事を堅物の上司位にしか認識していなかった彼にとって、この
やり取りは少し新鮮だった。
支部長はアモイの心情を察したのか、笑みを浮かべて話を続ける。
「今のお前に期待する者は少ない、という事だ。
だが、それを蹴り飛ばして覆すのは面白いとは思わないか?
…お前にはそれだけの力がある」
「買い被りすぎですよ。
そんなおだてに俺が乗ると思うんですか」
「事実を言っておるよ。
10年以上ギガンティアに乗って来た男が弱いとでも?
15の時からそれに乗らなければ生きてこれなかった時代を生きて抜いて
来た人間だという事を、私は知っているからね」
「…詳しいんですね」
「自分の部下の経歴ぐらい調べるさ」
「それじゃあ、私がギガンティアを手に入れた経緯も?」
「もちろん知っている。
だが、君が発見されたギガンティアを手に入れる為、仲間を皆殺しにした
という噂は信じておらんよ」
アモイにとって、昔嫌になる程聞いた噂。
アモイはしばらく黙っていたが、支部長の目を見つめて言った。
「…どうしてそう思うんですか」
「全滅したサルベージャーのリーダーは君の父親だったそうだな。
それに君は当時15だ。
ギガンティアの力を欲したとしても若いみそらで身内まで手に掛けるか?
まともな人間はそこまで出来んよ。
もしまともでないのなら、それこそ10年以上も組織に属して働くなんて
事も出来はしない。
タガの外れた人間は、少しでも不満があればすぐ人を傷つけるからな」
「…」
「恐らく、君は被害者側だったのではないか。
仲間の中に現れたタガの外れた人間を撃ち、一人生き残った…とかな」
アモイは沈黙したまま何も答えなかった。
だがそれは、支部長の言葉があながち間違でない事を意味していた。
「まあ、過去を詮索する気はないよ。
そう考えると君が人嫌いなのも納得がいくというだけだ」
沈黙が続く。
アモイは軽くため息を付くと答えた。
「…わかりました。
美味い酒の件、覚えていて下さいよ」
「やる気になったようで結構」
「たまには高い酒も飲みたいですからね」
「美味いとは言ったが高いとは言っておらんぞ」
冗談交じりに答える支部長にアモイは再び困惑した表情を浮かべる。
「支部長、俺はあなたをもっと真面目な人間だと思っていましたよ」
支部長はその言葉を聞いて大げさに笑う。
「私はいつも大真面目だよ。仕事も人生もな。
お前も私を見習ってもっと楽しく生きろ。
自分の置かれている状況をもっと楽しめ」
「謹慎の上、決闘で負ける事を望まれているこの状況を、ですか?」
「そうだ。それが面白くなるかならないかもお前次第だ」
支部長は立ち上がった。
アモイを見つめる支部長の顔は部屋に入って来た時よりも楽しそうに
見えた。
「さて、そろそろお暇しよう。良い勝負を期待している」
「期待に沿えるよう頑張りますよ」
支部長は振り向きもせず部屋を出て行った。
アモイは再び椅子にだらしなく座り直すと支部長の言葉を思い出す。
「楽しむ…か。
忘れていたな、そんな事」




