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第一章 旅立ちのイーステン  1-6 星の夜を駆けて

~前回のあらすじ~

遺跡で救助され、レイン達に保護されていたナナリー。

だがギルドナイトのアモイにより彼女は拘束されてしまう。

彼女を解放する為、レインはアモイに決闘を申し込む。

ギガンティア同士の決闘が行われると聞き、人々は盛り上がっていたが…

「け、決闘!? レインさんとアモイさんが、ですか?」


ナナリーは思わず大声を上げた。


ここはギルドナイトイーステン支部の留置場の一室。

ナナリーはここ数日、ここに収容されていた。


ナナリーにとっては良く分からない罪で閉じ込められ、不安な日々を送っていた。

だが、閉じ込められているだけで厳しい取り調べはされていなかった。

それというのも、彼女の件はアモイが取り仕切っていた上に彼もサンディにいる

ダイレンからの指示を待っていたので、彼女は放置状態になっていたのだった。

今日も食事を持ってきたギルド職員のカイフォンが暇つぶしに雑談を始めた。

だが、その内容はまさかのレインが決闘をするという衝撃的な内容だったのだ。


「決闘って、命とか名誉とかを懸けて一対一で戦いをするやつですよね?

 どうしてそんなことに…」


青ざめて詰め寄るナナリーをみてカイフォンは笑う。


「そりゃ、あんたを賭けてだよ!

 無実の罪で囚われた恋人を解放するため、男は決闘を挑むってわけさ」


「え、えぇっ! 恋人! ち、違います…」


ナナリーは困惑して俯いてモジモジする。


「違うのか? 街ではそういう噂になってるぜ。この魔性の女め」


「ま、ましょう? なんですかそれ…」


必死になって否定するナナリーの姿をカイフォンは微笑ましく眺めた。


「ははは、まあ、それはさておき、アシュランドはアンタの事を俺の物だって

 言ったらしいぜ。

 あんたが相当お気に入りなのは事実なんだろう。

 あいつ、落ち着いて見えるけどあんたとそれ程年の差はないと思うぜ。

 いいんじゃないか?」


「え… それってその… どうしましょう…」


「ははは、照れちまって可愛らしいことで。

 まあ、好いた惚れたの話かどうかはわからねえけど、それでも決闘してまで

 取り返そうって言うんだから大した決意だよ」

 

「でも、決闘なんて…」


「まあ、落ち着け。それなんだがな。

 サルベージャー同士の決闘は一般的な意味と少し違うんだ。

 サルベージャーには色々な慣習が残っていてな、その一つなんだよ」


「慣習、ですか」


「そうだ。

 ただの遺跡荒らしだったサルベージャーが制度化された際に残った慣習さ。

 サルベージャーの権利やプライドなんかを守るために、ギルドが認めている

 制度みたいな物だな。

 サルベージャーの決闘は、ギガンティアやワーカーで行う試合なんだ。

 どうしても和解できない事や回収物の分配などで譲れないもの等があった時、

 その決着をつける為に行う模擬戦といった所さ」


「試合なんですか?」


「そうだ、確かに一対一で対決をする。

 だがそれは無法な殺し合いではなく、ギルド立ち合いの元で行われる試合だ。

 対決前に文章で内容をやり取りして、勝った方がその権利を得る。

 敗者は以後それに対し異議を唱えないって形なんだ」


「当人だけで勝手に決闘するというわけじゃないんですね」


「そうさ。

 そして、生身で戦わないのは出来るだけ死者が出ないようにする為さ。

 決闘で相手を殺すことはご法度。

 でないと合法的に相手を始末しようって奴が出て来るかもしれないからな。

 だから決闘中に相手を殺したらギルドから裁きを受ける事になる。

 事故であっても例外ではなく、賭けの対象や権利もギルドに没収される」


「命の危険はないんですね。少しホッとしました」


「命は取られねえだろうけどな。

 それでもギガンティア同士でやりあえば事故だって起きる可能性はある。

 怪我させてもお咎めはないし、ギガンティアも無傷って訳にはいかねえ。

 壊れちまえば修理費もかさむし、戦う本人達は必死よ」


「心配事はあるんですね…」


「もめ事は解決するかもしれないが、リスクはある。

 それがサルベージャーの決闘なんだよ。

 そしてな…」


「ギガンティア同士の戦いなんて戦場でしか見れない物だからな。

 多くの見物客が来てお祭り状態になるのさ。

 それを見越してギルドや町が介入して正式な催し物にしちまうんだよ。

 賭けなんかも行われて大盛況にやるのさ」


「見世物にされちゃうんですか?」


「そうだ。

 決闘する当人達にとってはた迷惑な話かもしれんが、これにもれっきとした

 理由があるんだ。

 公衆の面前で白黒はっきりさせ、広く知れ渡るようにする。

 皆が勝敗の結果を知ってる、これ以上蒸し返すな、と念を押す為の物なのさ」


「なるほど。良く考えられているんですね」


「そりゃあな。

 サルベージャーの歴史ももう長いからな。

 色んな奴がどうやって公平に権利を守れるかを考えて出来た慣習なんだよ。

 体を張って権利や正しさを主張する奴の話は聞いてやろうぜって事なのさ」


カイフォンはそこまで話すと立ち上がった。


「おっと、長々と話ちまって悪かったな。冷めないうちに食べちまいな。

 食器は後で下げに来るよ」


「ありがとうございます。色々教えてくれて」


「そうそう、決闘の日取りは今調整中らしい。

 決まったらまた教えに来てやるよ。アンタも無関係じゃないしな」


「ありがとうございます。

 でも、まさか決闘の原因になるなんて思いませんでしたけど…」


「まあ、少なくともアンタを気に掛けてれる人がいるってことだ。

 いい事じゃねえか。じゃあまたな」


カイフォンは扉を開けて出て行く。

ナナリーはそれを見送ると机の上の食事を眺める。


(レインさんが私を助けてくれる… また、迷惑かけちゃったのかな)


彼女は、レインやドモン、ライラと囲んだ食卓を思い出す。

彼らと会ってたった数日しか経っていない。

それでも昔から一緒だったかのような温かい食卓だった。


(また、皆で楽しくご飯を食べたいな)


未だに自分が誰なのかも良く分からない。

そんな中で自分を心配してくれる人がいる、それだけで彼女の心は温かいものに

満たされて行く。

彼女は部屋の窓から見える月を見上げると祈りを捧げた。


(あの人が怪我をしませんように…)



次の日の夜の事だった。

ナナリーがカイフォンから決闘の話を聞いてから丸一日以上が過ぎた。

彼女はつまらなそうに粗末なベットに座っていた。

相変わらずただ捕らえられたまま放置されているような状態だった。

自分が決闘の原因になっているという事は、その事が解決するまではここから

出られないのだろうと彼女は思った。

彼女は小さな窓からかすかに見える星空を眺める。

日が落ちてからだいぶ経つ。

もう深夜になっている頃だが、何となく今日はまだ眠くはなかった。


「皆、どうしてるかな…」


ナナリーはレイン達との生活を思い出す。

逆を言えば、彼女の楽しい思い出というのはドモンの事務所で働いていた

わずかな期間のものしかない。

それ以前の事は相変わらず思い出せない。

辛い事も楽しい事も何も。


彼女はふと、ドアの前に人の気配を感じた。

鍵が解除され扉が開く。

そこにはアモイとギルド職員が二人立っていた。

職員の二人はライフル銃を肩に担いでいた。

明らかに支部内をうろつく姿ではなかった。


「出ろ」


事務的な冷たい命令。

アモイに促されてナナリーは部屋から出た。

乱暴に錠を手にはめられ、銃を突き付けられ歩くよう促される。

不安になった彼女はアモイに尋ねる。


「あの、どこへ連れて行かれるんですか…」


「お前が知る必要はない」


アモイは冷たく答える。

ナナリーは歩きながら周囲を見回す。

夜ももう遅いからか、建物の中は既にあちこち消灯され静まり返っている。

暗がりの中を進み、やがて建物の裏口に到着する。

外へ出ると、小さな輸送車が止められていた。

彼女はそのコンテナへ入るように指示される。


彼女の不安が大きくなる。

こんな夜中にどこに連れて行くというのだろう。

彼女はアモイに向かって再度尋ねる。


「待って下さい。どこへ連れて行かれるんですか? 私は決闘を待って…」


そう言いかけたナナリーを見て、アモイはニヤリと笑う。


「決闘はないよ」


「え?」


「必要ない。俺が決闘を受けるメリットなんざ、何処にある?」


アモイはナナリーに拳銃を向ける。


「聞き分けのない奴は嫌いでな。早く乗り込め」


決闘はない。

それは彼女にとって残酷な言葉だった。

たとえ留置場の中であろうと、レインが助けに来てくれるならいつまでだって

耐えられると思った。

だが、このままでは何処に連れていかれるかもわからない。

直感的に、ここへはもう戻ってこれない気がした。

彼の知らない場所へ運ばれてしまえば、助けてもらう事も出来はしない。


助けは来ない。もう…


ナナリーは俯き、諦めたように輸送車のコンテナへ乗り込む。

アモイはそれを見届けると、同行しているギルド職員の一人に話しかける。


「ラサ、お前はこいつと一緒にコンテナに乗れ」


ラサと呼ばれた男はナナリーと同じコンテナ中へ乗り込むと扉を閉じた。

アモイは扉が閉まったのを確認すると輸送車の助手席に乗り込み、運転席の

男へ指示を出す。

輸送車は暗闇の道をゆっくりと走り出した。


ナナリーは席で震えていた。

思考がどんどんネガティブになっていく。

このままどこかで殺されてしまうのでは、そんな考えが頭を過る。

暗闇を走るこの車で二度と戻れない闇の世界へ連れていかれるのではないか

などと考えてしまう。

彼女はそんな考えを振り払うように頭を振り、顔を上げる。

彼女は一緒に輸送車のコンテナに乗り込んで来たギルド職員へ視線を向けた。

彼女は不安な気持ちを抑えながら彼に言葉を掛けた。


「あの、私、どうなっちゃうんですか…」


男は彼女を見ると面倒くさそうに答えた。


「余計な心配するな。隣町へ引き渡されるだけだよ」


「私、決闘で解放されるかどうか決めるって聞いたのですが」


「ああ、それか。俺も決闘見られると思ったんだよな…

 アモイさん曰く、決闘は承諾した覚えがないそうだよ」


「えっ…」


驚くナナリーを見て、ラサはちょっと困ったような顔をした。


「まあ、そういう反応になるよな。

 町でも決闘するって噂だったし、支部長も町長と開催の話してたみたいだし…

 今更覚えがないなんて言いぐさで通るのかなあって思うよな」


ラサはハァとため息をつく。


「俺はその場に居たわけじゃないけど…

 受けるかどうかはっきり答えないで、うやむやにする気だったんじゃないかな。

 だから決闘の原因のお前を別の街の担当に引き渡して白をきるつもりなんだよ。

 でなきゃこんな夜中にこっそり引き渡しなんかしないさ。

 そんなの手伝わされる身にもなってくれよって感じだよ」


ナナリーはラサの話を聞いて憤りを感じた。

本当に決闘をしないのであればはっきり断ればいい。

なのに、アモイという男は曖昧な返事をして誤魔したのだ。

でなければそもそも周りの人間が決闘などと騒ぐはずがない。


「…つまり、逃げたんですか」


ポツリと呟くナナリーを見て、ラサは困ったような表情を浮かべた。


「言いたいことは分かる。でもその言い方はやめとけ。

 決闘でリスクを負うのはお前じゃないんだ」


その時、輸送車のスピードが落ちる。

目的の場所についたらしく、停車した。


「着いちまったな。運がなかったと諦めるんだな」


静まり返ったコロシアム跡。

イーステンから少し離れた所にあるこの建物は、昔はギガンティアの

決闘に使われたという話もある巨大建造物。

ある意味これも遺跡と言えた。

今は特に使われておらずあまり人も寄り付かない場所だ。


その入り口近くに止まった輸送車からアモイは外に出た。

数メートル進み、辺りを見回す。


「まだ来てねえのか…」


アモイはこのコロシアム跡で、サンディから来る者達にナナリーを引き渡せと

連絡を受けていた。

だが、彼らの姿はどこにもない。

まだ到着していないのか、辺りは暗く静まり返っていた。


その時だった。

コロシアムの傍にある林の中から巨大な物体が飛び出してきた。


「な、何だ!」


ワーカーだった。

突然のワーカーの襲来にアモイは慌てた。

ワーカーは一直線に輸送車に突っ込んで来た。

アモイは慌てて飛びのき、輸送車から離れた。


「うわぁ!」


輸送車の運転席にいたギルド員は慌ててエンジンを再始動させ、逃げようとした。

だがその時、コロシアムの入り口からもう一機ワーカーが飛び出してきた。

そのワーカーは輸送車の運転席に横から体当たりをして来た。

運転手は慌てて頭を押さえてうずくまる。

フロントガラスが割れて飛び散る。

運転手は車が潰されるのではないかと思ったがその後の衝撃はなかった。

運転手は恐る恐る顔を上げる。

ワーカーがガッチリと輸送車の運転席を押さえつけ、動きを止めていた。

続けて林から出現したもう一機のワーカーはコンテナに体当たりする。

衝撃で車体が傾く。

二機のワーカーによって輸送車は抑えられて完全に動けなくなってしまった。


アモイはその光景を見て呆然とする。

汚いマントの様な物を羽織ったワーカーはどう見てもギルドナイトの物ではない。

つまり、サンディからの使いの者ではなかった。


(まさか野盗か。 こんな所で? ま、まずい…)


アモイは引き渡しをするだけの予定だった為、戦いの準備など何もしていない。

ワーカーに対抗出来る手段など一つも持ち合わせてはいなかった。

目の前の光景に対し何も出来ずにいたアモイだが、ふと違和感を覚える。


そもそもなぜこんな深夜に、申し合わせたように輸送車が襲撃されるのか。

こんな事、事前に情報が漏れていなければ起こりえない。

しかも、積み荷はあの女だ。

別に金目の物を輸送しているわけではない。

彼の中で何かが繋がった。


(まさか、受け渡しの話自体が嘘…)


その時、空からさらに巨大な物体が舞い降りて地面を揺らす。

ワーカーよりはるかに大きい、見上げるような巨体。

ギガンティアだった。

先ほどのワーカーと同じようにぼろ布を纏って偽装しているようだ。

ギガンティアは輸送車に近づくと、コンテナ部分の扉を軽く握り潰す。

コンテナの扉は簡単にひしゃげ、開いてしまった。

コンテナの中にはライフルを構えるラサと床に座り込んでいるナナリーがいた。

ギガンティアがゆっくりとコンテナ内を覗き込む。


「わあぁぁ!」


ラサは慌ててコンテナから逃げ出し、どこかへ走り去っていく。

コンテナ内にはナナリー一人が取り残された。

状況が分からず怯えていたナナリーだが、ふと覗き込んでいるギガンティアの

カメラアイに見覚えがある気がした。


以前に見た光景。

薄暗い遺跡の中で、確かに私を助けてくれた巨人の目だ。


「…ナナリー、聞こえるか」


機体から声が響く。


「その声…」


ナナリーは立ち上がり、ギガンティアへ近づいていく

ギガンティアは少し離れると、右手をコンテナの入口へ差し出す。

無骨な巨大な機械の手。

だが、ナナリーには覚えがあった。

遺跡の中でわけも分からず困惑していた時に差し伸べられた手。

自分を助けてくれた手だ。


「レインさんっ!」


ナナリーは走ってその大きな手に飛び乗る。

ギガンティアはナナリーを手に乗せたまま立ち上がった。


突然銃声が響く。

銃弾はギガンティアの腕に命中するが、傷一つつかない。

銃声に驚いたナナリーは恐る恐る下を覗き込む。

アモイがギガンティアに銃を向けていた。


「ふざけるな! レイン・アシュランド!」


アモイはギガンティアに向かって怒鳴り散らす。


「偽装なんてしやがって。

 わかるんだよ。お前しかいねえだろ!

 ギルドの輸送車を襲うなんて覚悟できてるんだろうな!」


アモイは輸送車を抑え込んでいるワーカーの足元に向かっても発砲する。


「貴様らもだ! どうせマサキ・ドモンとその一行だろう!

 バレバレなんだよ!」


その声に答えるようにワーカーから声が響く。


「あ~ あれ、アモイの旦那だったかぁ…

 すいませんね。ぶつかっちまってよお」


ワーカーからドモンの気の抜けた声が響く。


「ああ、おやじ、なんか知らない車にぶつかっちまったよ。

 ゴメンな、車の人」


もう一台のワーカーからライラの声が響く。

二台のワーカーの間でわざとらしいやり取りが始まった。


「まあ、しょうがねえさ、まだ操縦に慣れてないからなぁ。

 街から離れた所で訓練してたのに、たまたま、車が前に出て来たんだ。

 まあ、しょうがねえよなぁ」


ワーカーから相変わらず棒読みのようなすっとぼけた声が響く。

アモイはそれを聞いてワナワナと肩を震わせる。


「てめえら… そんな都合の良い芝居を信じるわけねえだろう!」


叫ぶアモイに向かってギガンティアが一歩前進してきた。

地面を揺らし、思わずアモイはよろめく。

目の前に立ちふさがる巨体。

怒りに任せて銃を向けたアモイだったが、ギガンティアと対峙する恐怖を

改めて身に感じた。

そう、彼はやろうと思えば一瞬で始末される状態にあるのだ。

彼は今、対峙しているこの巨人に対抗する手段など何も持ち合わせていない。

彼の背筋に冷たいものが走る。

それでも逃げ出さなかったのは、彼の意地だった。

もう少女のことなどどうでも良かった。

奴らにコケにされた、その怒りが彼をその場に留めていた。


「ふざけるな… 認めるかこんな事!」


意地を通そうとするアモイは叫ぶ。

一瞬の沈黙の後、ギガンティアから声が響いた。


「俺との決闘はどうした、トリトマ・アモイ。

 それが終わるまでは、この女は支部に収容されているはずだが」


レインの声だった。

隠すつもりはないと言わんばかりに、決闘の件を持ち出して来た。

それに対し、アモイは機体を睨みつけて答えた。


「…俺は決闘など承諾した覚えはない。

 思い出してみろ。俺が受けるといつ言った!」


アモイは冷や汗をかきながらも決闘の不成立を主張する。

確かに彼は受けるとは言ってはいないのだ。

だが、それは詭弁といえた。

衆目にさらされた問答であったからこそはっきりと断るべきだったのだ。

彼はあえてそれをしなかった。

物事を曖昧にして、責任毎投げ出すつもりだった彼の主張は説得力を欠いていた。


その主張を聞いて、ワーカーの二人組が反応を返す。


「おやぁ、おやじ、こいつ決闘から逃げるつもりだぜ。とんだ腰抜け野郎だな。

 掛け金上乗せされた時は断るなんて言わなかったのにさぁ!」


「アモイの旦那、俺は見損なったぜ。もう少し誠実な男かと思ってたけどなあ」


ドモンとライラが厭味ったらしい言葉で煽る。


(こいつら… あの場にいやがったな…)


アモイは黙ったまま何も答えなかった。

アモイの沈黙に対しレインの声が響く。


「そうか、アモイ。

 じゃあ、俺がこのまま彼女を連れ去っても何も問題はないな」


会って数日の女をそこまでして助けるのか。

アモイにとっては特に何もしない彼女が命を懸けて守られている、

その事実が少し癇に障った。


「貴様… 犯罪者の汚名を着てまでその女を助けるのか!

 何の意味がある!」


「言っただろ。こいつは俺の物だ。

 サルベージャーがお宝を横取りされて黙っていると思っているのか?

 その為に決闘を申し込んだ。

 お前が権利を主張する事すら認めない、と言うなら無理やり取り戻すだけだ」


アモイとしては、レインを止める術はない。

もし今、サンディからの応援がきたとしてもギガンティアが来るとは限らない。

彼が意地を張った所でどうにもならなかった。


その時、暗闇の向こうから自動車が二台やって来た。

ギルド支部の車だった。

それを見て、輸送車を抑えていた二台のワーカーは車から離れて距離を取った。

止まった車から数名のギルド職員が降り、アモイに近づいて行く。

その中には、サルベージャーギルドイーステン支部長、リード・トゥールの姿も

あった。

アモイは支部長が現れたのを見て焦る。


「やれやれ、本当にこっそりと引き渡しをしようとしているとはな」


支部長はアモイの慌てる様子を見てため息をつく。


「支部長… や、やつらが、輸送車の襲撃を…」


支部長に対し何か弁解をしようとした時、アモイは気づく。

支部長の言葉は、この状況が何なのか知っているという発言だった。

つまり、筒抜けだったのだ。

自分が密かに進めていたつもりだった引き渡しを支部長は知っていた。

レインやドモンも。

そして、一向に現れないサンディのギルド員。

まちがいない、嵌められたのだ。

恐らく連絡を取る為に送っていた手紙は検閲されていた上、レイン達にも

流されていたのだ。

内容も多分改ざんされていた。

そう考えなければ今の状況が説明できない。


アモイは青ざめた。

どこまで知られている?

王国への内通も知られているのか…?


沈黙したアモイに向かって支部長が語りかける。


「で、どうするつもりなのかね」


アモイにはそのどうするが何を差しているのかが判別つかない。

やっとのことで声を絞り出す。


「どうと言っても… 奴らを逮捕して…」


「逮捕? この状況でかね。

 命がいくらあっても足りんと思うがね」


支部長はレインのギガンティアを親指で指さして答えた。

アモイは何も答えられない。

それはそうだ。

力ではどうしようもない現状は何も変わっていないのだ。

支部長は話を続ける。


「そもそも何でこんな状態になっている?

 再三詳細を上げるように言ったのに、彼女を拘束する理由がサンディから

 要請があったというだけで、全くわからないままではないか。

 それどころか夜中にコソコソ引き渡すとかどうなっているのかね」


「それは…その…」


支部長の指摘にアモイはしどろもどろになり、言葉が続かない。

そんなアモイを見て支部長が言い放つ。


「受けたまえ」


「は?」


「決闘を受けたまえ」


「な、なぜ…」


「そもそも、君が決闘を受けるという話になっていただろう。

 準備も既に進めている。お前も当然知っていたはずだ。

 どういうつもりだったのかね。

 受けていない、するつもりがないなら即座に断ったと報告を上げるべき

 ではないのかね」


「そ、それは個人間の問題で…」


「違うな。君はギルドナイトなのだよ。世間はそうは見ない。

 受けた気は無かったと反故にして、ギルドの顔に泥を塗るつもりかね」


アモイは反論できなかった。

全て調べられていたのだ。

決闘について曖昧にしようとしていたこともわかっていたのだろう。

事を大事にしたくない、という彼の思惑とは逆の状態になっていた。

大人しくなったアモイの態度を見て支部長はフン、と鼻で笑う。


「分かったら付いて来たまえ。

 騒動を起こした罰として、決闘までは謹慎してもらう事になる」


支部長はレインのギガンティアを見上げて言った


「アシュランド君、決闘は行うということで構わないか。

 君としてはこのまま逃亡すれば済んでしまう話でもあるが」


「一つ条件がある」


「何だね」


「今夜の輸送車に対する事件を不問にする事が条件だ。

 後、ナナリーの身柄は決闘まではこちらで預からせてもらう」


「わかった。そうしよう。

 ただ、ナナリー嬢は決闘当日は決闘の当事者として顔見せはさせてもらうから

 必ず連れてくるように。

 そちらの二人もそれで構わないか?」


ドモンの乗るワーカーが手をあげて〇を作る。

支部長はそれを見て頷く。


「それではその手はずで進めよう。

 決闘はここ、コロシアム跡で行うとする。

 日時などの連絡は、ドモン君の事務所へ伝えよう。

 では、よろしく頼む」


それだけ伝えると、支部長は乗って来た車の方へ歩いていく。

アモイはギルド職員に促されて、それに続いていく。

輸送車の運転席で潰されかけた職員と、逃げ出していたラサも彼らの後を慌てて

追いかける。

職員を乗せると二台の車はイーステンの方向へ走り去っていった。


それを見届けると、レインのギガンティアは掌にのせていたナナリーをそっと

地面へ降ろした。

そこへ二台のワーカーが駆け寄る。

それぞれのワーカーの上部の装甲が開いて操縦席からドモンとライラが出て来た。


「ナナリー!」


ライラが一番にナナリーに駆け寄って抱き着く。


「嬢ちゃん、ケガはなかったか」


続いてドモンが小走りで駆け寄って来た。

ナナリーはライラに抱き着かれながらも笑顔で答える。


「ドモンさん、ライラさん、ありがとうございます!

 来てくれて本当に嬉しかったです!

 私… 不安で…」


安心したナナリーの目に涙が浮かぶ。


「そりゃあ、まず旦那に礼をいわなきゃな。

 旦那が本気じゃなかったら、俺らもここまでしなかったさ」


ドモンがギガンティアを見上げる。

機体の胸が開き、ワイヤーの昇降機でレインが下りてくる。


「レインさん…」


ナナリーはゆっくりと近づいてくるレインを見つめる。

何だか心が一杯になり、言葉が出なかった。

レインはそんなナナリーに向かっていつも通り素っ気なく言葉を掛ける。


「無事か?」


「はい」


「なら事務所に戻るぞ」


「はい!」


ナナリーはほほ笑みながら元気よく返事を返した。


皆それぞれの機体に乗り込み、ドモンの事務所へ向かって移動を始める。

ナナリーは再びレインの座るシートの後ろにしがみ付いてモニターに流れていく

景色を見つめる。


満月が輝き、星の綺麗な夜空をナナリーは見上げる。

先ほどまで不安だった夜の闇が、とても美しいものに思えた。

彼女は夢中で星空を見上げる。


そんな彼女の目を月光が照らし、緑色に輝かせた。

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