8 レイシア、ボロ服と決別する
ボロ服を身に纏った私は、そこそこ人の流れがある通りに入った。道の端っこに腰を下ろすと、持ってきた空のお椀を目の前に置く。
すぐに行き交う人々の視線が私に集中。
物乞いについて、そういえば昨日オリヴィア先生とこんな話をしていた。
「公爵様の札束は別としても、わずか数分でチキンサンドが買えるほどお金が集まるなんて普通はありえないことです。レイシア様には物乞いの才能もありそうですね」
「何ですか、その全く嬉しくない才能……」
「まあつまり、容姿に恵まれているということですよ。気付いていませんでしたか? あなた、相当な美人なのです」
「…………、え? 本当ですか?」
「無頓着ですね……。エドワード様が恋に落ちるくらいなのですから。国王を虜にするその顔面で物乞いをすれば、そりゃ誰もが施しをしてくれますよ」
……いや、私ずっとお城で幽閉状態で、会う人も限られていたし。王族も大体が綺麗な顔をしているから、これがこの世界の標準なのかと。そうか、私は美人だったのか……。
オリヴィア先生が言ったことは今回の物乞いで実証されることになった。
設置したお椀に次々と小銭が入れられていく。
ただ、顔面の力だけでもないような気がする。善意を魔力の上がり幅で測定できる私には、人々の優しさがはっきりと感じられた。
皆、魔獣の襲撃で大変なのに……。あんな小さな子までおやつのクッキーを入れてくれてる……。
申し訳ない気持ちで頭を下げ続けること数分、魔力の高まりがかなりのところに。
よし、昨日と同じくらいの状態になったからもういけると思う。沢山の善意をありがとう。お礼に皆を健康にしていきます。〈ヒールワイド〉!
立ち上がった私は通り全体に広く治癒魔法を発動。直後にあちらこちらから驚きの声が聞こえ出した。
お、足が生えた人もいるね。これはもう確実だ。
急いで広場に戻った私は、先ほどの兵士の男性を見つけて駆け寄る。
「すみません、お待たせしました」
「神官様、準備はお済みになりましたか。……え、なぜそんなボロボロに?」
「事情は後で説明します。皆さんを治療しますね、〈ヒールワイド〉!」
広場に集まる人々を私の治癒の光が包んだ。重い怪我や火傷で苦しんでいた人達が次々に完治。信じられないといった面持ちで立ち上がる。誰からともなく私に視線を向けてきた。
「ありえない……、腕が……。神官様、あなたの魔法はいったい……」
兵士の男性も元通りになった右腕をまじまじと見つめながら尋ねてくる。
「実は私には特殊な能力がありまして」
特典強化について説明し、それを発動させるために少し時間が掛かっていたことを話した。
「そ、それでは、私達を助けるために物乞いを……?」
聞き返してきた兵士の男性だけじゃなく、私の周囲には傷が完治した皆が集まってきていた。全員で何やらひそひそと相談を始める。
しまった! いくら人を助けるためとはいえ皆を騙して物乞いするとはけしからん! って叱られるかも……!
「ごめんなさい! 決して悪気があってやったわけでは!」
と謝ろうとしたその時、突然人々は揃って涙を流し出した。
兵士の男性は私に向かって両手を合わせている。
「他人のために平気で物乞いができるなんて、神官様は聖女様です……!」
彼に続いて人々は「聖女様……!」と口にし、膝をついて私を拝みはじめた。
……聖女と明かしてないのに、なぜ? とりあえず、叱られなくてよかった……。
あ、ちょっと、物乞い聖女と呼ぶのはやめてください。
ひとまずこのボロ服を着替えてこよう……。
その間に町中から治療が必要な人を広場に集めておいてもらうことにした。
私の特典強化が発動しているのはせいぜい一時間ほど。持続しているうちに、病気の人も含めて治せる人は全員治してあげたい。
馬車に戻るとキャサリンとデイジーが二頭で何やら話し合っている。
「どうしたの?」
(いや、レイシア様はわざわざ物乞いしなくてもいいんじゃないかって。神官の人がたまにやっているみたいに托鉢をすればいいのよ)
(そうそう、普通の格好で『私は旅の神官です。あなたのために祈りを捧げます』とでも書いた看板を掲げておけば、皆お金を入れてくれるわよ)
え、この世界って托鉢文化があるの……? だったらもっと早く言って……。
馬車の中で服を着替えた私は、ボロ服の処分を決断した。
レイシア
「というわけで、タイトルは『托鉢聖女』に変わります」
変わりません。物乞い聖女の方が面白いので。
そして今後、托鉢をする必要もなくなります。
レイシア
「え? なんで?」
すみません、もふもふはしばらくお待ちください。
先に旅の相方を出します。
キャサリン&デイジー
(馬の私達がいるじゃない)
(毛が生え変わる時期は割ともふもふよね)




