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物乞い聖女  作者: 有郷 葉


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7 レイシア、再びボロ服を着る


 特典強化について、ここまでで分かってきたことがある。

 純粋な善意で物を貰うほど強化の上昇幅が大きくなるということ。計算や下心という意識が入ると途端に微々たるものに変わる。つまり、私の能力を知っている人から強化目的で物を貰っても大した効果は出ない。

 ……オリヴィア先生、常に物をくれる仲間を捜す作戦は駄目なようです。


 キャサリンは私に押しつけていた草を自分でむしゃむしゃと食べていた。


(確かに相当厄介な能力ね)

(じゃあ、やっぱり人の多い所で物乞いをするしかないんじゃないかしら)


 隣のデイジーがそう結論を出す。


 私もそれしか方法がない気がする……。

 ……魔獣狩りで時給百万稼げるようになっても物乞いをしなきゃならないとは。なんて嫌な特典能力だろう。これはやはり特典に頼らない生き方を模索しなければならない。


「とりあえず、町で(草じゃない)美味しい物でも食べて憂さを晴らそう」


 馬車の御者台に戻り、再び町を目指して出発した。

 国内各地について記されたガイドブックによれば、次の町はそれほど大きくはないらしい。けれど、町の至る所を小川が流れていてとても美しいのだとか。

 綺麗な小川の傍のカフェで美味しいケーキとお茶、すごく癒されそう……。さっきの戦闘では結構焦がされてひどい目に遭ったし、ちょっと町でゆっくりしよう。


 走行中のキャサリンがチラリとこちらに視線を送ってきた。


(お風呂にも入った方がいいわよ。なんか香ばしい匂いがする)

「結構焦がされたからね」


 そのまま街道沿いに走ること一時間弱、予定通り遠くに町が見えはじめる。


 ……あれ、少し町の様子がおかしい。あちこちの家々が結構焦げてない?

 間違いない、襲撃でもされたみたいに町全体に被害が出てる! まさかさっきの双頭の豹が……? あの魔獣の破壊力ならありうる!


「二頭共! ちょっと急いで!」

(任せて。本気を出すわよ、デイジー!)

(了解。レイシア様、しっかり掴まって!)


 馬達が力強く大地を蹴ると馬車は一気に加速。あっという間に町のゲートをくぐった。

 中に入ると町の被害状況がより鮮明に見て取れた。至る所で建物が破壊されており、怪我をしている人もちらほら確認できる。

 馬車は町の広場へ。そこには救護所のようなものが設置されていた。周囲は大勢の怪我人で溢れ返っていて、治療の順番を待っている。


 私も手伝わないと! いや、その前に状況を聞くのが先か!

 急いで馬車から下りると、王国の兵士らしき人に駆け寄った。


「すみません! 私は旅の聖……神官です。何かお手伝いできるかもしれません。いったいこの町に何があったのか教えてください」

「それは助かります! 実は今朝、五頭からなるニムナーダの群れが襲ってきまして」

「ニムナーダというのは?」

「体長が八メートルほどある巨大な双頭の豹で、火炎を吐く魔法も使う恐ろしい魔獣です。たとえ一頭でも人間の敵う相手ではないのに、それが五頭も……。町に駐屯している私達は何もできませんでした……」


 そう悔しさを滲ませる兵士は、よく見ると右腕を失っていた。彼は何もできなかったと言ったけれど、住民達を守るために懸命に戦ったのが伝わってきた。


 ……やっぱりあの豹の仕業か。私が遭遇したのは町を襲撃した五頭のうちの一頭だったのかな。人間の敵う相手じゃないって、道理で私が四発もパンチを打たなきゃならないわけだ。…………、ん? 何か今、おかしなことを言ったな。

 それより今は私にできることをするのが先決だよね。


「私は〈ヒール〉が使えますので皆さんを治療します。まずはあなたの右腕から」


 と兵士の男性に〈ヒール〉をかけるも、彼の腕は再生しなかった。

 あ、そうか……、私の通常魔力じゃ豹は倒せても、肉体を再生させるほどの〈ヒール〉は発動できないんだ……。

 しかし、兵士の男性は私の魔法に笑顔で応えた。


「ありがとうございます、神官様。傷の痛みがずいぶんと和らぎました」


 周囲を見回すと、彼のような重傷者が沢山いる。町の神官達が治療に当たっているものの、その〈ヒール〉も完治させるには至っていない。


 ……皆を助けるには、この魔力じゃ駄目だ。


 馬車に戻った私は衣類などを入れている箱を開ける。中から取り出したのは一着のボロ服だった。

 メリンダ様に騙されて着せられたこれを、私は捨てずに残していた。もしかしたら必要になる時が来るかもしれないと思ったから。


「取っておいてよかった。少し町の人を欺くことになるけど、命を救うためだし許してくれるよね」


 ボロ服に着替えていると、外からキャサリンの思念が。


(レイシア様、物乞いは嫌なんじゃなかったの?)

「嫌だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。私が物乞いをすることで人の命が救えるなら、全然何てことないんだよ」





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