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物乞い聖女  作者: 有郷 葉


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6 レイシア、焦げる


 オリヴィア先生と別れて一人旅となった私は、王国を出るべく馬車を東へと走らせていた。

 改めて、私が転生したこの王国は相当広いということを実感させられる。国土のほぼ真ん中にあった王都から東の隣国まで、早くて四、五日は要する見通しだ。

 まあ、別に目的地があるわけでもないのでのんびり行こう。


「次の町まであと一時間くらいかな。キャサリン、デイジー、頑張って」


 と私は馬車を引いている二頭の馬に声をかけると同時に魔力で思念を送った。すると、あちらからも返答が。


(レイシア様、これくらいの速度なら私達は全く疲れないわよ)

(そうね、散歩をしているようで心地いいわ)


 何とも頼もしい馬達だね。前世世界のサラブレッドみたいにスラリとしているし、いい血統なのかも。

 朝から私は二頭と魔力で意思の疎通を図ってきた。どうやらどちらもまだ若い女の子らしく、それぞれ名前をキャサリンとデイジーという。

 こうやって話をしていると、まるで同世代の女友達と旅行している気分になって楽しかった。また、二頭は馬ながら、ずっと城に閉じこめられていた私よりよほどこの世界に詳しく、話の内容もためになる。


「だから、もっと色々と聞かせて」


 とお願いすると馬達は互いに顔を見合わせた。


(人間とお喋りできるのは面白いから構わないけど、それにしてもやけに話しかけてくるわね)

(初めての一人旅で寂しさが堪えているのよ。察して優しくしてあげなきゃ)


 ……うん、実はオリヴィア先生が帰ってちょっと心細い。優しくしてね。

 馬達との雑談で寂しさを紛らわせていたその時、私は前方に魔獣らしき魔力を感知。すぐに二頭に呼びかけた。


「止まって! 魔獣がこっちに向かって走ってくる!」


 馬車が停止すると私は御者台から下りる。キャサリンとデイジーを巻きこまないように、馬車から距離を取るべく駆け出した。


 ……この魔獣、これまでの奴とは違う気がする。伝わってくる魔力がずっと大きい。気を引き締めてかかった方がいいかも。


 全身をしっかりと魔力で覆って程なく、敵の姿が見えはじめる。

 それは体長八メートルはあろうかという巨大な豹だった。しかも一つの胴体から頭が二つ生えている。見るからに獰猛そうな魔獣は二つの顔で私を威嚇。


 ドラゴンがいる世界だからこんな怪物がいても不思議じゃないけど……、めちゃ強そうでめちゃ怖い! これ以上接近される前に撃退だ!

 魔力波動パンチ!


 私が放った遠距離攻撃は双頭の豹の胸部を捉える。その巨体を後方に弾き飛ばした。

 しかし、踏み留まった魔獣はすぐに体勢を立て直す。私に向かって飛びかかってきた。


 嘘っ、ワンパンで倒せなかった! やっぱり今までの魔獣とは違うんだ!

 ということは、防御力だけじゃなく攻撃力も高いんじゃ……、まずいまずい!


 双頭の豹はもう私の目前に。駄目だ、咬みつかれる! と思った瞬間、敵はピタリと動きを止める。それから二つの口をカパッと開いた。

 ダブルで発射されたのは燃え盛る火炎放射だった。


「ぎゃあぁぁぁぁ! あつつつつつつつつっ!」


 火達磨になった私は急いで後ろに跳び退く。体を覆っている魔力を一気に発散させてどうにか消火。


 ……焦った、火達磨になんてなったことないから普通に死ぬかと……。

 私の魔力ガード、何とか持ち堪えたけど結構熱かったな。それより今の火炎放射は何? 魔獣ってあんな必殺技も使えるの? 私のガードを貫通してきてるし何回も食らったらやばい。

 早く倒してしまわないと、魔力波動パンチ!


 二発目の攻撃も双頭の豹は耐え凌いだ。反撃であちらも再度の火炎放射。


「あつつつつっ! ちくしょう! 魔力波動パンチ! 魔力波動パンチ!」


 必死に腕を振って畳みかけるように魔力を叩きこむ。

 ようやく倒れてくれた豹は程なく魔石を残して塵に変わった。

 全身から煙を立たせつつ私は地面に膝をつく。


 ……どういうこと? オリヴィア先生が言っていた強い魔獣にもう出会ってしまっているんだけど。私の旅、全然安全じゃない……。


 力が入らない足で何とか立ち上がった私は、豹の魔石を拾って馬車へと歩き出した。

 戻ってきた私にキャサリンとデイジーが心配そうな眼差しを向けてくる。


(レイシア様、大丈夫……?)

(結構焦げてるみたいだけど……)

「……まあ、どうにか。あんなのがゴロゴロいるなんて。この先は慎重に進もう」

(いやいや、あそこまで高位の魔獣はそうそういないわよ)

(うんうん、魔法を使う魔獣は私達も初めて見たもの)

「え、そうなの? あの火炎放射は魔法だったのか……」


 じゃあ、さっきの双頭の豹はいったい? ……次の町も近いし、少し嫌な予感がするな。

 ともかく、思っていたより早い段階で特典強化が必要になりそう。この能力、一見チートだけど実はかなり発動のハードルが高い感じなんだよね……。都合よくいつでも最大の善意を込めて物をくれる人がいてくれればいいんだけど。


 ここで何かを察したキャサリンが地面に生えている草を咥えてむしり取る。それを私にぐいぐいと押しつけてきた。


(これ、私の好物の草よ。レイシア様にあげる)

「……ありがとう、すごく美味しそうな草だね」





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