10 レイシア、もう一人の聖女と出会う
とりあえず、助けてもらったお礼は言わないと。どうにか立ち上がった私は女性の前へ。
「私は魔力が底を突いていたので助かりました。今のは魔法ですか?」
「はい、私は少し地霊魔法が使えまして」
「へぇー。あ、私の名前はレイシアです」
「私の名はアノーラです。ちょっといいですか」
と彼女は私に手を出すように言ってきた。
よく分からないけれど、言われるままに差し出した手をあちらはぎゅっと握る。すると、直後に手と手を通して私の中に魔力が流れこんでくるのを感じた。
「え、魔力を分けてくれたんですか……?」
驚きの声を上げる私に、アノーラさんはまず微笑みを返す。
「とてもお辛そうだったので。体調はいかがですか?」
「全然楽になりました、ありがとうございます。でもまさか、魔力は受け渡しが可能だったなんて」
「どうなんでしょう、受け渡し可能なんですかね」
「……ん? いやいや、今できたでしょ」
「あ、できましたね。では、できるんですよ」
知らずにやったのか……、やっぱりおっとりした人だね。ちょっと天然も入っているのかな。
マークスさんに尋ねたところ、相性のいい人同士ならごく稀に魔力のやり取りができたりするとのこと。本当に珍しい事例らしい。……え、私、このアノーラさんと相性がいいの?
それよりも、さらに確認しなきゃならないことがある。さっき魔力を貰った時……。
ここで軍の皆が騒いでいるのに気付く。促されて振り返ると、また双頭の豹が一頭草原に立っていた。
あれ? ニムナーダって全部で五頭じゃなかったの? 私が町に来る途中に倒したのは群れのメンバーじゃなかったのかな。
とにかく今は確認したいことがあるから邪魔しないで。
空拳を打つと発生した波動がニムナーダを直撃。一発で魔獣を塵に変えた。
そう、ワンパンだ。私の特典強化は一度効果が切れたはず。ところが、アノーラさんから魔力を貰ったら再発動した。魔力が対象に含まれているのは意外だったけど、それ以上に驚かされたのが彼女の善意の濃さだ。たぶん、物乞いで十人くらいから恵んでもらったのに匹敵する。
目をやるとアノーラさんは私にパチパチと拍手をしていた。
「レイシアさんはまるで武術家さんみたいですね。あんな治癒魔法も使えるのにすごいです」
「私が人の善意で魔力が高まるの、知っていますか?」
「はい、町の方々からそういう能力であることは伺いました」
「……おかしい、知っているのにあの善意? アノーラさん、ちょっとお話ししましょう」
またニムナーダが襲撃に来るかもしれないので、私とアノーラさんは町のゲートで待機しつつ話すことに。
幸い今日はお天気もよく、ここでお茶ができるようにマークスさんが準備を整えてくれた。兵士達と共に一度中に戻ろうとしていた彼は、何かを思い出したように振り返る。
「そうでした、聖女様」
「「はい、何でしょう?」」
私とアノーラさんは同時に返事していた。二人で顔を見合わせる。
「アノーラさんも聖女なんですか?」
「自分からは名乗ったことはないのですが、旅先ではいつも自然とそう呼ばれまして」
聞くところによれば、アノーラさんはもう半年ほど旅をしていて、行く先々で困っている人がいれば地霊魔法で助けているのだとか。彼女は現在、私と同じ十五歳。何でも十歳の頃に天啓を得たそうで、他者に善意を施すと魔力が高まっていくらしい。
え、何その能力。善意を貰わなきゃならない私とは真逆で、めちゃ使い勝手がよさそう。私もそっちがよかったよ。
と本音を口にすると、アノーラさんは無邪気に微笑んだ。
「確かにレイシアさんは大変そうですね。私でよろしければいつでも善意を差し上げますので。あ、でも今回は私が直接対処しますね」
彼女はそう言いつつ顔を草原の方に向ける。
そこには、二頭のニムナーダがこちらを威嚇しつつ並び立っていた。
「えー、また……? いったい何頭いるの……」
「まあまあ、ちょうど私達が町を訪れた時でよかったではないですか」
私をなだめながらアノーラさんはニムナーダ達に向けて手を伸ばした。
見ていると今回も二頭の豹はズブズブと地面の中に沈んでいく。しかし、首元まで土に埋まったところで沈むのが停止。
双頭なので頭は四つあり、それらが一定間隔で一列に並んでいる。
「……まるで何かの野菜みたいだ」
「はい、これは私が作った〈農作物体験〉という魔法です。以前、野菜を粗末に扱う人達がいたので、作物の気持ちを理解してもらうために開発しました」
「てっきり〈埋葬〉という名前かと」
「いえいえ、本来はこのように頭を地上に出す魔法なのです。さっきはおっとり、いえ、うっかり埋めてしまいましたが」
うっかりで殺されるのだから、やっぱり怖い魔法だと思う。(そして、いったい誰を作物として埋めたんだろう……)
だけど、今回は対象が凶悪な魔獣だし、普通に倒してしまっていいのでは? このニムナーダに関して言えば、頭が出ているのは大問題だし……。
私の不安は的中した。
豹達の四つの頭が揃ってくるりとこちらに向く。そして、一斉に火炎放射。
「そりゃこうなるよね! 魔力防壁!」
椅子から立ち上がった私は即座に魔力でシールドを構築し、押し寄せる炎を防御する。たく、魔力を分けてもらったけどもう尽きそうだよ!
アノーラさんに目をやると恥ずかしそうに頭をかいている。
「あの作物は火炎を吐くことをおっとりうっかり忘れていました」
「おっとりでもうっかりでもいいから奴らを埋めて! もう私の魔力が尽きる!」
――ニムナーダ達が魔石に変わり、よろよろと椅子に座り直した私はお茶を一口飲む。
アノーラさんは「お手間を取らせました……」と再び私に魔力を分けてくれた。
……この子、元々相当な使い手な上に、日常的に善意を施していて常に魔力が高まっている状態か。ニムナーダも簡単に倒しちゃうし、おっとり天然キャラだけどかなり強い。きっとこの世界オリジナルの聖女、つまり天然聖女だね。
なるほど、彼女はいわば天然の天然聖女だ。
「ねえ、アノーラさん、さっき天啓を得たと言っていたけど、どんな感じだったの?」
「あ、それでは私が聖女として目覚めたいきさつをお話ししましょう」
「ぜひぜひ。いったい誰を作物として埋めたのか気になっていたんだ」
「……あれはひどい人達でした」
うーん、何となくだけど、アノーラさんの方がよっぽどひどい気がする。
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この続き、アノーラの話はこちらになります。
『伯爵から婚約破棄された貧乏男爵家の令嬢、それでも健気に相手方に尽くした結果、伯爵家を破滅させる。』
次の11話はレイシアがこの話を聞いた後からです。
この下にリンクを設置しましたのでそちらからどうぞ。




