11 レイシア、相棒の聖女を得る
アノーラのエピソードは全4話になりました。
彼女が旅に出るところまで書きましたので、未読の方はぜひそこまで。(この下にリンクがあります)
アノーラさんの話を聞き終えた私は、椅子ごと彼女から距離を取っていた。
……いや、この子、怖っ。
おっとり天然かと思ったら、割としっかりしてるし頭も回る。あと、ちょっと腹黒い……。
失礼な態度をとられただけで、民衆を使って伯爵家を破滅させるとかやりすぎでしょ。最後は結局自分が伯爵になっているし。
そして、どれだけかぼちゃに固執してんだ。
ニコニコと微笑みを湛えたままのアノーラさんを警戒しながら見つめていて、ふと彼女の足元で植物が茂り出しているのに気付く。やがて実がなり、あっという間に大きなかぼちゃに成長した。
アノーラさんは収穫したかぼちゃをドンとテーブルの上に。
「遅くなりましたが、ご挨拶代わりにこれを。自慢のかぼちゃです」
「……どうも。魔法で瞬時に生成しておきながら自慢って」
「私の魔力を使って地霊さん達が頑張って育てた最高の逸品です。時間は関係ありません」
「ああそう……。せっかくだから貰っておくよ」
「では、それで異世界のかぼちゃ料理を作ってください!」
瞳を輝かせてアノーラさんはそう要求してきた。
……私にくれたんじゃなかったの? まあ作ってあげてもいいんだけど。自分で最高の逸品と言うだけあって、このかぼちゃは完熟の一番美味しい状態みたいだし。
じゃあ、調理器具を取りに戻らないと。と椅子から腰を上げたその時、町のゲートをくぐって私の馬車が無人でやって来るのが見えた。
キャサリンとデイジーが不満そうに思念を送ってくる。
(いつまで経っても全然戻ってこないじゃない)
(退屈だからこっちから来ちゃったわよ)
「ごめんごめん。……待たせすぎると勝手に来る馬車って。でもちょうどよかった」
私は外のテーブルと馬車を何度か往復して、調理器具や食材を運び出した。
早速調理を開始。一口サイズに切ったかぼちゃを鶏もも肉と一緒に鍋で煮ていく。異世界の料理って要望だから味付けは和風でいいでしょ。粉末だし、醤油、砂糖、料理酒でこってり仕上げた。
さっきのお返しとばかりに、アノーラさんの目の前に鍋をドンと置く。
「かぼちゃと鶏の煮物だよ。召し上がれ」
「なんて手際のいい。レイシアさんはお料理上手ですね。では、いただきます。…………、とても美味しいです! 味付けもかぼちゃに合っていて、お肉とも引き立て合っていて、とにかく美味しいです!」
「それはよかった。あ、ちょっと人参を生成してくれない?」
「お安いご用です」
テーブルの前に小さな人参畑ができたので、早々にそこから二本引き抜く。水で土を流して、キャサリンとデイジーの口元へ。
二頭はカカカカッと凄まじい勢いで人参をたいらげた。
(これは上物だわ。滅多に市場に出回らない最高の逸品よ)
(そうね、公爵様の馬だった私達でもなかなか食べたことのないレベルだわ)
え、そんなにすごい人参なの?
野菜スティックにして私も一口齧ってみた。確かに、何もディップしなくてもそのままでめっちゃ美味しい。
キャサリンとデイジーが私にググッと顔を近付けてくる。
(レイシア様、あの子と一緒に旅をするべきよ)
(絶対にそうするべき。すぐに誘って)
……完全に人参に目が眩んでいる。
そりゃ私だって常に新鮮な極上野菜が供給されるのは有難いよ。
アノーラさんが一緒ならこの上なく心強いし。戦闘力が高いだけじゃなく、いつでも魔力を介して高い濃度の善意を貰えるんだから。
だけど、彼女の方はどう思うだろう。これまで半年も一人で旅をしてきて、今更連れなんていらないんじゃないかな。気楽な一人旅を満喫しているかもしれない。
私がちらりと視線をやると、アノーラさんはフォークにかぼちゃを刺したまま動きを止めた。それから、不意にこちらに振り返る。
「レイシアさん、私と共に旅をしませんか?」
「え、どうして急に……?」
「驚かせてすみません。ですが、私達は互いに補い合えると思うのです。私が野菜を生成し、あなたが料理をする。もっと異世界の料理を作ってください!」
あ、どうやら胃袋を掴んでしまったみたいだ……。
アノーラさんは「それに……」と途端に気落ちした表情に変わった。
「……私、一人で旅をしてきて、何度か魔獣さんにやられかけているんです」
「嘘でしょ、あんなに強いのに? 聖女の魔力強化もあるし」
「私の能力も持続時間は一時間ほど。旅をしていれば丸一日全く人に会わないのもざらです。そんな時に強い魔獣さんと遭遇したら……」
「そ、そんなに強い魔獣がいるの……?」
「はい。先ほどレイシアさんは回し蹴りで山を削っていましたが、あれと同じ威力の魔法を放つ魔獣さんと遭ったことがあります。私は助かりましたが、山が一つ消滅しました」
山が吹き飛んだのに助かっているのもすごいけど……。
つまり、私の特典強化が発動していても勝てるか分からない相手がいるってことだよね。駄目だ、世間には私の想像以上の怪物が存在した……。
そういえば、お城で暮らしていた時もよくどこかの王国が魔獣に滅ぼされたとか耳にした気が……。
……この世界はやばい!
私は全然チートの戦闘力じゃなかった! むしろ標準! 旅をしていればいつ死んでもおかしくない!
思考が結論に達してふと顔を上げると、そこにはアノーラさんが。私は彼女の手を取って強く握った。
「私達は、絶対に一緒にいるべきだ……!」
「その通りです!」
こうして、互いに(魔力を)高め合える聖女の二人旅が始まった。
ちなみに、我が家も現在かぼちゃの収穫期。
かぼちゃは頑丈で日持ちして、とても優秀な野菜です。




